閃の軌跡 〜八葉を継ぐ者〜   作:クラウンドッグ

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ナギトという人格

 

カレイジャスの医務室、ベッドで横たわるラウラは未だ目を覚ます気配はない。

 

 

「……ラウラ…………」

 

 

ぽつり、その手を握るナギトは少女の名前を呼んだ。起きない。起床しない。「寝坊し過ぎだ」と軽口を叩いても、自分の心はちっとも軽くはならなくて、今にも泣いてしまいそうだ。

 

そんな時、ユーシスが医務室に入ってきた。

 

 

「……ナギト、もうすぐに作戦が始まるが…」

 

 

「不参加」

 

 

と短くナギトは作戦の不参加を表明した。しかしそれはユーシス──他のⅦ組メンバーも承知していて、これは確認に過ぎなかった。

 

作戦とは、オーロックス砦に立て篭もるアルバレア公爵を捕縛するための作戦だ。ケルディック焼き討ちという暴挙を行ったアルバレア公を貴族連合は見限り、戦力的に孤立したオーロックス砦を急襲するのが本作戦となる。

 

 

振り返りもしないナギトに、ユーシスは言葉が喉に詰まる。しかしそれも一瞬で、意を決して低頭した。

 

「…すまな──」

 

 

「お前が謝るなよ」

 

 

機先を制するように、ナギトは言った。

 

 

「ラウラが怪我したのはお前のせいじゃない。ましてやケルディックの焼き討ちだって……全部ヘルムート・アルバレアの独断だろ。ユーシス・アルバレアが謝る理由も、その必要性もない」

 

 

その言葉には有無を言わせぬ迫力があった。“血縁者だから”という理由で謝罪する事を許さないものが。

きっとナギトは己の怒りの矛先をアルバレア公にのみ向けたいのだ。だから、代わりに謝るなんてされたら、その怒り(熱量)が分散してしまう。

 

 

「だけど」

 

 

ナギトは立ち上がって、ユーシスと向き合った。

その瞳には怒りの炎が煮え滾っている。

 

 

「あいつがアルバレア公爵だから…なんて理由で逮捕されなければ、俺があいつを殺す」

 

 

「いいな」とナギトは疑問符を付けずに言った。それは許可を得るためでもなく、確認のためでもない宣言だ。ユーシスは「確約しよう」と頷く。

もし事後に城館に引き篭もりワインでも飲んでいる姿があったなら、それだけでナギトはきっと容赦のない殺人者になっていた。

 

ユーシスの返事を受け取ったナギトは、数瞬間視線をぶつけ合うが、「ふっ」と自嘲するように笑って目を逸らした。

 

 

「……なんて言っても、俺にラウラを心配する資格なんかないのにな」

 

 

ナギトの逸らした目には先程までの怒りはなく、むしろ空虚で埋め尽くされていた。ユーシスには発言の意味が本当にわからず、

 

 

「何を言っている?……俺には貴様らの関係性など興味もないが…、少なくとも友人ではあるだろう」

 

その言葉は“友人なのだから心配する権利はあるだろう”と受け取れる。

「友人……」とナギトはそのワードを呟いていた。友人。確かに、そうだ。ラウラとナギトは友人だ。友人なのだから心配する資格くらいはある。当然の話で、それはとても腑に落ちた。

 

 

「ああ……そうだったな。…悪い、変な事言ったな」

 

「気にするな。貴様が変なのはいつもの事だ」

 

「お前な」

 

 

ナギトとユーシスの軽快なやり取りはそれこそ友人の距離感で、先程の言葉をより良くナギトに実感させる。

 

 

「そばにいてやるといい」

 

 

「ああ」

 

 

苦笑のあと、2人はそうやり取りをして別れる。ユーシスは作戦開始を待つカレイジャスのブリッジに、ナギトは再びラウラの目覚めを待つ。

 

 

 

☆★

 

 

 

外が騒がしくなった。

 

作戦が開始されたのだろうと理解する。オーロックス砦に待ち受けるのは《神速》と《却炎》だが、今のⅦ組なら大丈夫だ。この作戦はうまくいく。

 

そんな“確信”も今や当てにはならない。

何故ならラウラが撃たれたから。何故ならオットーが助かったから。何故ならナギトが存在するから。

 

 

「こんな事、なかった」

 

 

俺の知る限り。俺たちの知る限り。こんな展開はなかった。何百、何千、何万、何億。観測された世界には何一つゆらぎはなく。だから今が異常なのだ。

 

 

 

「──失礼します」

 

 

 

静かに、しかし確かに医務室に足を踏み入れた。

ナギトは思考の海から顔を出して、目を剥いた。

 

 

 

「どうして……あなたがここに?《鋼の聖女》」

 

 

大仰な鎧を身に着けていて尚損なわれぬ気品。優美な印象。しかしてこの場には絶対にいないはずの女性がそこには立っていた。

 

《鋼の聖女》アリアンロード。

結社《身喰らう蛇》の幹部であるその女は、今はクロスベルにいるはずだった。

 

 

「……………アルゼイドの娘は未だに目を覚ましませんか」

 

 

アリアンロードはナギトの質問に答える事なく、ラウラを見やる。そしてベッドで眠るラウラに向けて手を翳した。

 

 

「なにを…!?」

 

 

そうするアリアンロードに害意は感じないナギトだったが、ナーバスになっているためか声を荒げて制止にかかる。

 

 

「…シオン……今、恩を返しましょう」

 

 

しかしアリアンロードの表情は慈愛に満ちていてナギトは自ら身を引いてしまう。翳した手に光が宿り、それはゆっくりとラウラに移っていった。

 

 

アリアンロードは手を下ろすとナギトに向き直る。視線はやや厳しいナギトに「気休めですが、いずれ目を覚ますでしょう」と告げた。

 

鋼、と冠は着いても“聖女”だ。アリアンロードは善なる者なのだろう。それにシオンというのは……とナギトの考察が進む前に、アリアンロードは微かに笑みを浮かべた。

 

 

「ようやく瞳に熱が宿ったようですね…ナギト・シュバルツァー」

 

 

どこかで似たような事を言われた気がするナギト。その時はむしろ逆の意味合いで“目に温度がない”だったが。

 

 

「……“特異点”。あなたは今まで自分をこの世界の異物だと認識していたようですね。あくまで他人事だと」

 

 

「…そんな、ことは………」

 

 

ない、と言い切れるだろうか。

ナギトはⅦ組のみんなが大切で、この世界が楽しくて。

しかしそれは傍観者 / 観測者の視点ではなかろうか。俺は「浮かれている」とたびたび言う。それはどうしてか。観測者が当事者になれたからではなかろうか。

 

 

「しかしそれが崩れた………。アルゼイドの娘──ラウラが倒れたからですか?」

 

 

きっとそうだ。あの時叫んだのは、あの瞬間に怒りに狂ったのは間違いなくナギト()だった。俺の感情がようやくナギトのそれに追いついた。

 

瞑目して黙りこくったナギトに肯定を見出したアリアンロードは続けた。

 

 

「それで良いでしょう。あなたは間違いなく…ここにいるナギト・シュバルツァーなのですから」

 

 

そんな言葉に胸が熱くなるのをナギトは感じた。あまり関係のないアリアンロードだが、ずっとナギトの求めていた答えを導いてくれたようにも思えた。

 

 

「……ようやく人間になれた気分です」

 

 

人と人の間にあってこその人間。

俺は今まで人間じゃなかった。人間ナギトのふりをしていただけ。無自覚に、無遠慮に、無慈悲に。俺という個人を蔑ろにしていただけだった。

 

だけど、俺はナギトなんだ。

 

そういう理解と納得があって。それを誰かに許された。それだけでもう、充分だ。

 

 

 

 

 

数呼吸分の間があった。ナギトは実感を噛み締め、そして思考を切り替えた。

 

 

「それで何の用ですか? まさかラウラの見舞いに来ただけじゃないでしょう」

 

 

アリアンロードもまた表情から慈愛を消し去り《鋼》としての役目を果たす。

 

 

「ナギト、あなたに少し協力してほしい事案があります」

 

 

「…協力?」

 

 

鸚鵡返しに聞く。確かにナギトとアリアンロードは馴れ合った間柄ではあるが、あくまで結社は貴族連合側───それを裏切ったナギトは敵であるはずだ。

 

 

「そう、協力です。……この窮まりつつある内戦で、とある事象が発生し得るのか……その実験の」

 

 

「実験」と呟くナギトの肩にアリアンロードの手が置かれる。何気ない仕草、意識の隙間を突いて、相手に気にさせないそれは超一流の技術で。

 

 

「でも俺はここを──」

 

 

離れたくない。ラウラの側にいたい。

そんな事を言うつもりはなかったが、本心だ。ナギトの中にアリアンロードは気持ちを汲んでくれるだろうという甘い期待──思い込みはあった。

 

 

「ええ、そうでしょう。なので多少乱暴な手を使わせてもらいます」

 

 

言われて、不穏な雰囲気に立ちあがろうとしたナギトは、そこでようやく気づく。

 

 

「ッ…!」

 

 

立てない。肩に置かれた手で、ナギトを立たせないようにアリアンロードはコントロールしていた。

多少の力を入れればすぐに振り解けるだろうそれにナギトは驚愕した。それを何気なく、ナギトの意識の隙間を縫ってやった事実に対してだ。

 

アリアンロードを中心に魔法陣が広がり、ナギトが目を剥いた一瞬でそれは発動した。

 

 

周囲の景観を切り替える転移。ナギトはいつの間にか見知らぬ場所に来ていた。

 

 

「ナギト……!」

 

 

「リィン…」

 

 

横を見るとそこにはリィンがいた。傍らにはヴァリマールも控えていて、ナギトの背後にはジークフリートもあって。

 

 

「………」

 

 

さらにこの場───遺跡の祭壇の如き台座には騎神よりもさらに大きな機体が鎮座していた。

 

 

「さて、まずは手荒な歓迎になった事を謝罪しようかしら」

 

 

祭壇の傍でアリアンロードと共にナギトたちを見下ろすのは蒼いドレスに身を包む妖艶な魔女ヴィータ・クロチルダ。結社《身喰らう蛇》使徒第二柱だ。

つまり結社の幹部が2人、この場に揃っている事になる。

 

 

「……こんな仄暗い場所にいたいけな青少年を連れ込んで、いったい何をしようってんです?」

 

 

ナギトはあえてそう振る舞うが、ヴィータはアリアンロードに視線をやると、彼女が肩を竦めたのを見てくすりと笑う。

 

ナギトの強がりが微笑ましいとでも思ったのだろうか、腹立たしい。

 

 

「先に伝えた通り……あなたたちには実験に協力してもらいたいのよ」

 

 

ヴィータの言葉に、ナギトがアリアンロードと会話中にリィンもまた実験の協力を要請されていたものだと推測できた。

 

 

「具体的には……この神機アイオーンTYPEα'と戦っていただきたいのです」

 

 

ヴィータの言葉をアリアンロードが継ぐ。その視線の先には台座の上で沈黙している機体を指していた。

 

 

「神機アイオーン……」

 

 

「ええ。今、クロスベルで運用されているゴルディアス級の最終型……あちらで特務支援課と戦ったTYPEαと違い、こちらのTYPEα'は《零》の支援がないため超常的な力は振るえませんが」

 

 

リィンの呟きに答える形でアリアンロードがアイオーンについて説明を始める。

 

 

「その代わり、純粋な戦闘能力ならこちらのα'の方が上よ。騎神相手でも互角以上に戦えるスペックがあるわ」

 

 

ガレリア要塞を消滅せしめたのは、奇蹟の力を得たアイオーンTYPEαだ。空間に干渉する権能は恐ろしいものがあったが、それらの力が搭載される代わりに戦闘能力を向上させたのだとヴィータは語る。

 

 

「黙って聞いていればつらつらと……!」

 

 

と、そこでリィンは視線をきつくしてヴィータとアリアンロードを睨みつけた。

 

 

「あなたたちの組織がどんな目的で動いてるのかは知らないが、そんな話に乗れるわけがないだろう! 貴族連合に必要以上に肩入れしているわけでもないし、あなたたち自身が悪辣でない事もわかる……。それでもあなたたちは内戦を引き起こした側だ!大勢の人に、帝国に…クロスベルにだってそうだ、加害者が被害者に協力しろだなんて、ふざけるのも大概にしろ!」

 

 

リィンの意見に「そーだそーだ!」と合いの手を入れるナギト。

 

 

「どんな意図があってナギトまで巻き込んだのか…俺じゃなくちゃいけないのか……、そんな事はどうだっていい。俺たちを元の場所へ帰してくれ!」

 

 

「そうだ!帰らせろ!」と再び声を上げるナギトに、リィンが微妙な顔で振り返る。

 

「あの、こっちは真面目なんだ。ナギト…少し黙っててくれないか?」

 

 

小市民らしく同意していたナギトにリィンは厳しい言葉を与える。いつもなら引き下がるナギトだったが「俺だって言いたい事があらあ!」と名乗りをあげた。

リィンを押し退けて前に出る。祭壇に立つ格上2人を見やって言った。

 

 

「こっちにはヴァリマールだっている。“精霊の道”を使えば元の場所に戻る事もできるでしょう。そういう選択肢を残したのはあなた方のせめてもの慈悲とも取れる。しかし…“獅子戦役の再現”とされるこの内戦で、騎神を用いて戦わせるのは何らかの意図が見える気もする。答えてください……この舞台には何の意味があるのか。何の意図があってこんな事をしているのか」

 

 

それはリィンとは違い、あくまで対話をする姿勢だ。アリアンロードには先の一件での借りがあるし、ヴィータには貴族連合にいた時に色々と便宜を図ってもらった恩がある。

 

 

 

「未来のため。帝国のため、世界のためよ」

 

 

ナギトの問いにはヴィータが答えた。その答えは抽象的ではあったが、リィンとナギトに思考を強制させるだけの魔力がある。

 

 

「あなたも……そうなんじゃないかしら?──特異点ナギト・シュバルツァー」

 

 

ヴィータはそこで風向きを変えた。矛先を向けられたのはナギト──特異点という存在だ。

 

 

「少し考えてみたの。特異点──それはいったい何なのか」

 

 

ナギトが“特異点”と呼ばれる事は知っているリィン。自然と耳を傾けていた。

 

 

「あなたのその年齢にそぐわぬ武力、知力、意志力……とても才能なんて言葉だけじゃ足りない“力”──まるでデザインされたみたいじゃない?」

 

 

その言葉にナギトはヴィータを睨みつける──否、苦虫を噛んだ表情になる。

 

 

「世界で唯一自由な存在……それが特異点なのだとしたら、あなたが戦っているのは運命───」

 

 

ヴィータは一旦言葉を切る。渋面を作っているのは聞き手のナギトとリィンだ。

 

 

「運命と戦うために、あなたは世界に産み落とされた存在。故に、あなたは尋常ならざる力をその身に宿している。もしそうだとしたら──」

 

 

ヴィータはナギトに向かって手を伸ばした。

 

 

「あなたはむしろ《身喰らう蛇(こちら)》側──私も一緒に戦ってあげられるかもしれないわ」

 

 

それは勧誘のように思えた。事実それは勧誘で、その手を取ればナギトは結社の執行者になれよう。しかし───

 

 

「うるさい」

 

 

とナギトは切って捨てた。

 

 

「それは俺の問題で、俺の使命で、俺たちの願いだ。必要なら力も借りるが、俺のそれはそんな…世界がどうたらという話じゃない」

 

 

運命と戦うという点においてヴィータの言葉は正鵠を射ていたが。それにむしろ世界は敵側だ。

 

 

「……そう。フラれちゃったみたいね」

 

 

ヴィータは差し出した手を引っ込めた。そんな彼女の様子を見てリィンが「話は終わったみたいだな」と切り出したが、それをナギトは制した。

 

 

「……どういうつもりだ?」

 

「考えてもみろ。この2人に貸しをつくれるんだぞ」

 

 

ヴィータとアリアンロードは協力と言った。だからそれに乗ってやれば貸しがつくれるはずだ。結社の使徒2人に貸しがつくれるのは大きいと考えたナギト。

 

 

「だが……、それにナギト…君だって」

 

 

リィンはオーロックス砦に先行したメンバーの事を気にしているのだろう。確かに離脱しているナギト、リィン、ラウラはⅦ組でも火力を出せる3トップだが。

 

「あいつらなら大丈夫だろ。教官だっているし」

 

幻獣を倒した実績もある。憂慮すべき事態は起こり得ないはずだ。

 

 

「それに…まあ……俺だけ仕事しないのも気が引けてたしな」

 

 

笑ってみせるナギト。意識不明のラウラの側にいたいがためにオーロックス砦襲撃は不参加を表明した。

今も本当はラウラの手を握っていたいが、そんな我儘を貫く場面でもない。

 

 

「……そうか」

 

 

そんな強がりを、リィンは見抜けなかったふりをする。

 

 

「なら決まりだ。……クロチルダさん、その協力要請、受諾します」

 

 

続けてリィンはヴィータにそう宣言する。ヴィータは微笑んで「よかった」と言った。

 

 

☆★

 

 

「アイオーンTYPEα'との戦いを開始する前に、場を暖める必要がある」とヴィータは語る。

 

 

「場を暖める……?」

 

 

それにはナギトとリィンも揃って首を傾げ──、

 

 

「だから、それもお願いするわね。お相手はこちら……《鋼の聖女》様がつとめてくださるから」

 

 

「────!」

 

 

続く言葉に緊張した。

場を暖めるのに人同士でも戦う必要があり、その相手がアリアンロード。

特別実習中のローエングリン城で戦って以来になるが、あの時は軽くあしらわれ、ナギトに至っては死にかけた。

 

 

「相手をさせてもらいましょう。……成長を見せてみなさい」

 

 

アリアンロードの言葉に圧を感じるナギトとリィンの2人。あの時の敗戦の記憶が重くのしかかる。

 

 

「その前にひとつ聞かせてください。ここは……精霊窟ですね?」

 

 

リィンはアリアンロードとの戦闘が始まる前に聞くべき事を問うた。

精霊窟とは各地に点在し、霊脈が活性化した際に姿を現す霊窟の事だ。リィンはヴァリマールの武器──ゼムリアストーン製の太刀を造るため、帝国東部各地の精霊窟を訪れていたが、この場の雰囲気もそれらに似ているように思えたのだ。

 

 

「ええ、よく分かったものね。確かにここは精霊窟……実験をするのにも、それに応じた“場”というものが必要になる。精霊窟はそれにうってつけってわけなのよ」

 

 

リィンの問いにヴィータもまた窮する事なく答えてみせる。どうやら実習の場にここを選んだのにも理由があったようだ。

 

そんな理由にリィンは苦い顔をする。リィンは点在する精霊窟を巡っている間に奇妙な幻視を見ているのだ。霊脈が活性化している時にしか出現しない事もしかり、精霊窟は普通ではない。

 

 

「ナギト……本気でまずい状況になったらヴァリマールを使って逃げる。かなり危ない儀式が始まるのかもしれない」

 

 

リィンは危惧を耳打ちし、ナギトは「わかった」と返す。

 

 

トン、と祭壇からアリアンロードが飛び降り、着地した。重厚な鎧を着ながら、身軽そのものの振る舞いに、アリアンロードの隔絶した実力を垣間見る。

 

 

「では始めましょう」

 

 

言って、烈火の如き闘気が炸裂した。どこからともなく騎槍を取り出したアリアンロードの、可視化するほど濃密で、在るだけで空気を、大地を揺らがせる圧倒的なオーラ。

 

それに息を飲んで、2人は笑う。

 

 

「───神気合一!」

 

 

まずリィンが鬼の力を解放した。髪は白銀に染まり、瞳は赤く燃える。

畏怖より好奇心が勝る武者震い。武芸者としての一面が高みに手が届くかを試したがっているのだ。

 

 

「鬼気解放」

 

 

そしてナギトも闘気を解き放つ。《剣鬼》として名を馳せた、緋色のオーラ。アリアンロードと比較し得る闘気総量はすでに世界で有数のもの。

 

 

 

 

「───真気統一」

 

 

それが、集束する。

 

「ほう」とアリアンロードは息を漏らした。

大気を震わせるほどの闘気のすべてがナギトの内側に閉じ込められた。

 

溢れ出す闘気。身体に収まらぬほど強大な闘気。可視化するほど濃密なそれを。すべて闘気のロスだと断言するナギトの、絶招。

漏れ出る闘気、拡散するそれを自身の内側に留める暴挙。実現できればこれ以上ない力になるが、その状態を維持するのは難しいなんてものじゃなく。

 

 

表情を歪めるナギトは、闘気の集束状態を維持するのに意識を割かれて戦闘なんて段ではなかった。

 

 

「……まだ、無理か」

 

 

ぽつりとこぼすと、ナギトの内側に閉じ込められていた闘気は、その周囲数リジュほどに拡散された。

 

 

「ナギト」と心配して声をかけるリィンに、ナギトはにやりと笑ってみせた。

 

 

「大丈夫。絶好調だぜ俺は」

 

 

そんな強がりを──────、強がりでは、ない?

 

「ナギト、まさか」

 

 

「おうよ、感覚は取り戻した」

 

 

 

あっけらかんと言うナギト。

感覚の喪失は長らくナギトを悩ませてきた事象だ。5度目の特別実習で負った大怪我に端を発するナギトの不調は内戦が始まってなお続いていた。

術理の言語化、《剣鬼》の記憶復元、闘気解放など、失った感覚を補うようにナギトは強くなっていったが、その才能の根幹たる感覚は未だ取り戻せないでいた────はずだった。

 

 

それを取り戻したのがいつか。リィンはすぐに思い至る。ケルディックの地で、機甲兵の残骸を見てから、あの場に張りつめていた鬼気を感じてから。ナギトはかつての感覚を取り戻していたのだと理解した。

 

 

 

「……頼もしいよ」

 

 

己もまた過大な力を持ちながら、それでもなお力不足を体感しているリィンに、ナギトは快活に笑んで見せた。

 

 

「まっ、言わばこれは復帰戦だ。綺麗に飾りたいわけよ」

 

 

ケルディックで領邦軍や猟兵を鏖殺したのはあくまで《剣鬼》だと決めたナギト。あの凶気の果てには八葉の精髄はなかった。

 

 

「義弟の大舞台……力ぁ奮ってくれよ、お兄ちゃん!」

 

「──任された!」

 

 

 

2人は笑みを交換し────駆けた。

 

 

戦闘開始。

 

 

 

アリアンロードを挟み込むように駆け出した2人は、一定距離に入ると同じタイミングで、

 

 

 

「「疾風!」」

 

 

二の型疾風を見舞う。2人同時のそれを当然のように見切ったアリアンロードは槍を盾に2つの斬撃を受け止めた。

 

槍を薙ぎ払い2人を遠ざける。着地と同時にナギトが再び仕掛ける。

 

 

「──迅」

 

 

迅雷。最短最速の斬撃。しかしそれは先の戦いでアリアンロードに見切られた戦技だ。あの頃より精度は上がっているが、未だ彼女の目をくらませる速度はなく。

 

 

「小賢しい」

 

 

アリアンロードの槍が飛び込んだナギトを貫く。その一瞬後に、そのナギトは雷鳴となって弾けた。

 

分け身。雷光が視界を灼く刹那で、リィンはタメを終えていた。

 

 

「蒼き焔よ…我が太刀を焦がせ……!」

 

 

すでにリィンの奥義はナギトの補助なくして2人のコンビクラフト“灰焔の太刀”に迫る火力を有している。

 

放たれる蒼焔の太刀に、アリアンロードも力ある技を振るう。構えた槍を一突きすると共に自身も突き進むシュトルムランツァー。その槍撃でリィンは弾き飛ばされた。技の威力も何もかもを無に帰する聖女の戦技。岩壁に背を打ちつけ「がはっ」と苦悶を漏らすリィン。その様子を確認する余裕もなく。

 

槍の連撃がナギトを襲う。

 

 

 

「────ッ!」

 

 

これは堪らんと跳躍して退いたナギトに、アリアンロードは追撃する。

引き絞った槍を突き出す。それだけで放たれる力の奔流は人間なぞ殺してしてしまうだけの熱量が込められている。

 

 

「神威残月!」

 

 

その闘気の奔流を2つに分かち、回避する。分たれた力の奔流はナギトの背後の岩壁を崩して消えた。

神威残月、神速の剣閃はアリアンロードの槍でしっかりと防御されている。あわよくば、それでダメージをと考えていたが、そんな都合のいい偶然は起きない。

 

 

リィンがダメージから復帰する。再び2人でアリアンロードと対峙した。

 

 

 

「ふむ……やはり2人とも成長していますね。始めから兜面なしでしたが……これならデュバリィも納得するでしょう」

 

 

そう言えばデュバリィは「マスターの素顔を拝見できるのは強者の特権」なんて言っていた。今回は最初から兜面を外していていたが、本来なら自らの手で兜面を砕く事で証を立てなければならないのだろう。

 

 

 

「リィン、5秒稼げ」

 

 

言って、ナギトは太刀の闘気を解放した。“超過式”だ。そんな要求にリィンは「無茶言うな」と文句を言いつつアリアンロードに吶喊していく。

 

 

「八卦、四象、」

 

 

しかし数合も打ち合わぬ内にリィンは弾き飛ばされ、アリアンロードは槍を天に掲げる。

 

 

「両儀、───ッ」

 

 

「荒ぶる神の雷よ、我が槍に宿れ」

 

 

それは戦場そのものを蹂躙する雷撃を一撃で放つ合図。雷がランスに宿り、それは放たれる。

 

未だ闘気の集約は最終段階にまで進んでいなかったナギトだが、これにはもったいつけていられず、押し固められた闘気は2本の槍となった。

 

 

「両儀葬槍──!」

 

 

「──大神雷槍(グングニル)!」

 

 

一本のランスとなって放たれる雷撃。受ければ即死、骨まで炭化してしまう。それを打ち消すべくナギトは2本の槍のうち1本を投擲した。

 

 

戦場を蹂躙する雷撃を押し固めたアリアンロードの戦技。その彼女に比肩する《剣鬼》の闘気を集約した槍。

一瞬の拮抗で押し負けている事実を見てとったナギトは2本目の槍も投げこんだ。

 

 

それでやっと、相殺。ナギトの“両儀葬槍”とアリアンロードの“大神雷槍”…2つの戦技は消滅し、精霊窟全体を震わせた力の名残が完全に消え去る───

 

 

「リィンっ!」

 

 

──より前に、ナギトとリィンは動き出している。

名前を呼ぶが早いか、リィンは太刀を構えて再び吶喊していた。

 

すでに互いの最大火力が通じない事は2人の共通認識だった。ならば2人の力をかけ合わせなければ話にならない。

 

 

アリアンロードが縦横無尽の槍撃を放つ。闘気を伴ったそれは一撃必倒。アリアンロードの技量で百発百中の絶技だ。

 

 

「突っ込め!」

 

 

しかしリィンはナギトの言葉に背中を押され、臆せず足を止めない。迫る槍撃は全て───

 

 

「神威残月───!」

 

 

神速の斬撃が、後出しで対処している。

槍撃は剣圧の前に霧散し、リィンの太刀が届くまであと僅か──

 

 

「荒ぶる神の雷よ…戦場に──」

 

 

ランスを掲げたアリアンロードが発動するのは戦場全体を焼き払うアングリアハンマー。

しかしそれを放つより前に視界の端を蠢く影に目がいった。

 

 

雷光を引き連れるそれはナギトの分け身。「いつの間に」とアリアンロードは目を細めるが、込められた闘気が己の防御を破れないと判断すると、再び戦技発動に取り掛かる。

 

一瞬の後に放たれる雷撃は戦技そのものを蹂躙する───が、吶喊するリィンはナギトの分け身が庇い被弾していなかった。

 

 

「うおおおおッ!」

 

 

振り上げたリィンの太刀には蒼焔が宿り、

 

 

「それは───」

 

 

もう見た、と続けられないアリアンロード。周囲にうじゃうじゃと湧いているナギトの分け身のせいだ。目測だけで十数体。そのすべてがアリアンロードに殺到して、その闘気防護を焼き剥がした。そして分け身たちは雷に形を変える。

 

 

「絶佳臨界突破───」

 

 

リィンの蒼焔は龍を象り、それはナギトの雷を纏った。

 

リィンの蒼焔の太刀とナギトの雷神烈破の合わせ技。

 

 

「───纏の太刀、青龍!」

 

 

雷の鎧を纏う蒼焔の龍──すなわち“青龍”。それは振り抜かれ、アリアンロードに直撃した。その勢いは留まる事を知らず、《鋼》の防御を食い破らんとする。

押し負けてアリアンロードは岩壁まで退がるが、ランスを引き絞って放つ一撃、大神雷槍で“青龍”を打ち消した。

 

 

アリアンロードは膝を地面につけて呼吸を整える。ナギトとリィンもまた肩で息をしていて、これ以上はない。

 

2人してアリアンロードの動向を見守るが、ややあってアリアンロードは事もなげに立ち上がった。

 

 

「……やりますね。これなら本気を出せると言うもの」

 

 

そう言って、聖女のさらなる本領を見せようとしていた。

 

 

 

☆★

 

 

 

セイントアウラ。《鋼の聖女》アリアンロードの絶招。

《銀の騎神》の起動者……不死者として、より強く騎神と結び付いたアリアンロードが、騎神の力を引き出すための絶技だ。それによりアリアンロードは《槍の聖女》と呼ばれた生前以上の力を発揮する。

それこそ、“人の身では絶対に勝てない事が決まっている”と言わしめるほどの。

 

 

当然だ。その身に騎神の力を宿しているのだから。

 

 

 

その身に纏う闘気。その総身から放たれる烈気は先程と比較してなお膨大、巨大、莫大。清廉にして凄絶。壮麗にして荘厳。

 

どれだけ形容しても足りない。無限とすら思えるほどの闘気がアリアンロードを中心に渦巻いていた。

 

 

ごくりと息を飲んだナギト。それは致命的な隙──でもない。いずれそうなる事が、少し早まっただけだ。

 

アリアンロードが手を翳すと、凄まじい闘気が奔流となってリィンとナギトを包み込んだ。

それはまるで嵐のようで、殺傷力こそないものの、身動きは取れそうにない。

 

 

「──耐えてみなさい」

 

 

アリアンロードはそれだけ言うと、ランスに嵐の如き闘気の全てを集中させた。

 

 

「聖技───」

 

 

リィンとナギトは闘気の嵐で身動きが取れない中で、アリアンロードのランスに破滅的な力が注ぎ込まれるのを黙って見ているしかない。

一瞬の後に訪れるであろう死。あれを受ければ塵すら残らない。そう確信するだけの力量が2人にあったのは幸か不幸か。

 

 

こうなれば、アレしかない。

ナギトは頭の中で考える。闘気の嵐に阻まれては不可能かもしれないが、聖女のSクラフトに対抗するためには、ローエングリン城でアリアンロードの戦技を打ち消したあの一刀しかないと。

脳裏を過ぎる、あの瞬間。頼りたい面々──リヴァル──Ⅶ組のみんな──クロウ──ラウラ──、考えるな。この場にはいない者たちだ。

 

 

 

ナギトは嵐に動きを阻害されながらも太刀を大上段に構え、アリアンロードは槍を引き絞る。

 

 

「グランド───」

 

 

聖技グランドクロス───すべてを無に帰す《鋼の聖女》アリアンロードの超抜戦技。

 

 

「───そこまでよ」

 

 

しかしそれは放たれず、戦闘は終わりを迎えた。

 

止めたのは誰あろうヴィータ・クロチルダその人だ。杖の石突でカンと床を打ち、煮え滾った戦闘狂たちの熱を冷ます。

 

 

「やりすぎよ聖女様。精霊窟を壊すつもりかしら?」

 

 

「……少々、興が乗りすぎたようですね。これが礎たらんとする若者の成長ですか」

 

 

アリアンロードが笑むとナギトたちを閉じ込めていた闘気の嵐は霧散し、長大なランスも消え失せていた。

戦闘終了の合図に、ナギトは太刀を手放して崩れ落ちた。

 

 

「…………死ぬかと思ったぁ……マぁジで…」

 

 

絶死の局面から逃れて気が抜けた。尻もちまでついて、口から魂が出ていると言われても信じられるほどに、九死一生………気が抜けるもの仕方ないというものだ。

 

 

「これは……!?」

 

 

リィンは周囲を見上げて驚きを露わにしていた。ナギトも確認すると、この精霊窟という空間を闘気が満たしているとでも言うべき状態になっていた。

 

 

「ひとまず実験の第一段階は成功……続いて第二段階に移行するわ。ナギトくん、腰を抜かしている暇はないわよ?次はこのアイオーンTYPEα'と戦ってもらわなくちゃいけないんだから」

 

 

 

そんなナギトをヴィータは詰り、リィンは「ほら」と手を差し伸べた。その手を取って立ち上がるのと、鎮座していたアイオーンが立ち上がるのは同時だった。

 

 

 

「……でけーな」

 

「ああ、騎神より…さらに」

 

 

立ち上がったナギトは太刀を納刀すると、祭壇の上に聳え立ったアイオーンを見て感想を述べる。

 

そのアイオーンに手を翳したアリアンロードから白銀のオーラが注ぎ込まれる。

 

 

「おいおいおい…」

 

「これは……ッ」

 

 

ナギトとリィンは絶句した。笑うしかない、という絶望的な感覚。アイオーンに注がれたアリアンロードの闘気は先程不発だった聖技にも匹敵しよう規模だ。

人の身では蒸発、騎神でも一度受ければ戦闘不能は必至の、読んで字の如く“必殺”だ。

 

 

「あくまで一撃で放てば……の話です」

 

 

2人の懸念を察してかアリアンロードはフォローを入れる。確かにアイオーンには“聖技”と比肩するだけの闘気が注入されたが、それはあくまでエネルギーの充填に近く、それを一息で放つだけの胆力を機械が有しているとも限らない。おそらく戦闘中はエネルギー波として小出しするやり方になるはずだ。

 

 

「私からは……これね」

 

 

続いてヴィータが魔杖を掲げる。中空に闇色が渦巻いたかと思うと、アイオーンはそこに手を突っ込んで、魔剣を引き抜いた。アイオーンの大きさに見劣りしないサイズの魔力で編まれた剣。エマのクラフト“イセリアルエッジ”の発展系により形造られたものだろう。漆黒の魔剣が鈍銀の機体に良く映えていた。

 

 

「さて、こちらは準備完了よ。リィンくん、ナギトくん……騎神の起動者としての全力…見せてちょうだいね」

 

 

アイオーンの威容を前に、正直帰りたい気持ちでいっぱいだったが、そんな感情を飲み込んでナギトはジークフリートに乗り込んだ。リィンも同じくヴァリマールに搭乗し、機甲兵用ブレードを構える。

 

 

「いっちょ気張るかねぇ……!」

 

 

ジークフリートも機甲兵用太刀を取り出して構える。

 

 

「やるぞナギト…!」

 

 

リィンの激に「応!」と返事をして。

実験の第二段階──VS神機アイオーンTYPEα'戦、開幕。

 

 

 

「まずはっ…!」

 

 

ジークフリートの左手に小刀が顕現する。闘気で物質を編む“幻造”。それを投げ放つ。

 

アイオーンは魔剣で小刀を弾いてダメージを回避した。

 

 

「反応速度はなかなか。だが」

 

 

次の瞬間、魔剣に斬撃が迸る。“衝刀練”──小刀が接触した箇所に遅れて斬撃を発生させる戦技だ。以前は遅れて衝撃が発生するだけだったが、感覚を取り戻したナギトは戦技を進化させていた。

 

衝撃に魔剣を取りこぼしかけたアイオーンにヴァリマールが肉薄する。刹那で叩き込む二連撃は“閃光斬”。しかしアイオーンは構わず魔剣を振るった。

 

 

「──甘い!」

 

 

攻撃を仕掛けた直後、最も防御意識の薄れるはずの瞬間にしかし、リィンは完璧に対応する。大振りの魔剣を躱すと返礼の“残月”を刻みつけた。

 

 

「やるぅ!」

 

 

これにはナギトも喝采を送る。軽口のようになりながらも、やはり動きは鋭く。たたらを踏んだアイオーンに追撃する。

 

 

剣妙斂(けんみょうれん)──!」

 

 

振るう太刀でアイオーンの胴体を斬りつける。斬りつけた箇所から斬撃を発生させるこの戦技は“衝刀練”の類似技。

 

連続で発生する斬撃にアイオーンの装甲がひび割れた。

さらに追撃しようとしたナギトは、アイオーンの翳した左手から白銀の波動が放たれるのを見た。

 

 

「うお!?ぶわわわわ」

 

 

辛うじて左腕の盾でガードしつつ退がったが。

 

 

「聖女の闘気……使って来たか……!」

 

 

リィンが見立て通り、アイオーンから放たれたエネルギー波はアリアンロードが充填した闘気だった。

アイオーンは魔剣を掲げると、そこに白銀の闘気を帯させた。そして放つ縦一閃の斬撃。白銀のオーラが飛来する斬撃となってナギトとリィンを襲う。

 

 

左右に分かれる形で斬撃を交わしたジークフリートとヴァリマール。その連携の隙間をアイオーンは見逃さない。

アイオーンは瞬時に距離を詰めると、ジークフリートに魔剣を振り下ろした。

 

 

「ぬっ!」

 

 

それは左手の盾で滑らせながら受け、同時に太刀で斬りつけようとするが、それより早くアイオーンの右拳がジークフリートの腹部を打った。

 

 

「うげぇ!」

 

 

反撃を潰されて殴られるままに飛んだジークフリートは岩壁に叩きつけられる。見るとアイオーンの左拳には白銀のオーラが集中していた。

 

 

「…学習してる?」

 

 

ナギトがそうこぼす間にヴァリマールは攻撃を仕掛けていた。

蒼焔で龍が形作られる。“龍炎撃”を蒼焔でつくっているのだ。それを直接アイオーンに叩きつけるヴァリマール。

 

リィンはここで全てを出し切るつもりだ。オーロックス砦を仲間に任せると決めたからには、後でぶっ倒れてもいい、ここで体力全部注ぎ込んで勝ちを取りに行く。なるほどどうして覚悟ガン決まりだ。

 

ならば兄弟分としてナギトも奮起しないわけにはいかない。

 

 

続いてヴァリマールはアイオーンと数合打ち合ったが、すぐに力負けして退いた。

 

「連携するぞ、ナギト!」

 

「おうさ!」

 

 

いや、力負けしたわけではなかった。リィンはナギト──ジークフリートが体勢を立て直す時間稼ぎをしていたのだ。

 

連携しなければアイオーンには勝てない。というのはナギトとリィンの共通見解のようで、これまで以上に連携を意識する。

 

 

アイオーンが魔剣に闘気を注ぎ込む。次の瞬間に放たれるのは飛ぶ斬撃だ。それはやはりジークフリートとヴァリマールの中間を狙った攻撃で。

 

 

「同じ手を…っ!」

 

 

再び2人の分断を狙ったのだろう。しかしそんな手に易々と乗ってやるわけもない。神威残月で迫る斬撃を打ち消す──だけに留まらず、神速の抜刀で生じた剣閃はそのままアイオーンを直撃した。

ダメージを受けてアイオーンの動きが止まる一瞬。2人の疾風がアイオーンの反応速度を超えて斬撃を刻み込む。

 

 

すれ違い様に斬りつけ、振り返ってそのダメージの具合を押し測ろうとして、

 

 

「───オオォォオオオンンンン!!」

 

 

アイオーンが吼えた。

実際に咆哮をあげているわけではないのだろう。なにせ口がない。ならばこれはきっと、ただ部品同士が軋みあっている音なのだろう。

 

しかし、その啼き声はアイオーンもまた最後の力を振り絞っているように思えて、自然と戦いの終わりを連想させた。

 

 

「リィン、お前の蒼焔を俺の剣圧に乗せる」

 

「……わかった。信じるぞナギト」

 

 

アイオーンの最後の一撃に、こちらも同じく最高の一撃で応える。この儀式に求められているのは、そんな正面きっての闘争だ。

 

アイオーンは魔剣を掲げ、そこに白銀の闘気のすべてを集約させた。全身を薄く防護していたそれすら注ぎ込んで、最強の一撃を放とうとしている。

 

対するナギトとリィンも力を高めていく。各々武器に自分の持てる限りの、それ以上の闘気を注ぎ込んで。

 

 

 

構えは、同時。

 

 

「──オオォォンン!!」

 

 

再びの咆哮と共にアイオーンは魔剣を振り抜いた。放たれるエネルギーはアリアンロードの聖技にも劣らぬ。

 

 

「「──絶佳臨界超越」」

 

 

しかしナギトとリィン、2人の闘気が融合した新たな戦技もまた互いの臨界点を超越したもので。

 

 

「「────蒼焔閃花 / 火生三昧(クロスブリンガー)!」」

 

 

振り抜かれた斬撃はX字の斬撃として飛び、アイオーンの一撃とぶつかった。

蒼焔の十字斬撃は白銀の斬撃と比較して規模が小さい。いくらか放出したとは言え、アリアンロードの奥義と同等の闘気が込められた一撃だ。たかだか20年程度しか生きていない若造2人が超えられるものではない。

 

 

しかし───

 

 

「リィンの焔は、あらゆるを燃やす」

 

 

未だ本人さえ気づいているかわからない特異性───リィンの焔はありとあらゆるものを燃やし尽くす。それはマクバーンの焔にも似て。

 

押し負けていた蒼焔の斬撃が徐々に白銀を焼失させていく。やがて拮抗は崩れて、白銀のエネルギーが消え失せると2人の斬撃はそのままアイオーンを飲み込んだ。

 

 

X字の斬撃はアイオーンを直撃して岩壁に叩きつけて消えた。アイオーンTYPEα'の駆体は大きくX字に焼き裂かれていて、もうすでに中破以上──戦闘不能だ。

 

 

そう見て取ったナギトとリィンの2人。一息吐こうとして、

 

 

「──ギ、…ギギ………オオオォォォンンンンン!!」

 

 

終わったはずのアイオーンが再び立ち上がった。未だ手から離さなかった魔剣をヴァリマールに投げ放ち、そのまま肉薄。右拳の一撃でヴァリマールを吹き飛ばす。

 

 

「リィンっ!」

 

「ぐっ、速い!」

 

 

岩壁に埋まったヴァリマール──リィンだがダメージは大きくはないようで、ほっと安心する暇もなく今度はジークフリートに接近したアイオーン。やはりその装甲は大きく斬り裂かれていて、もはや駆動系すら焼け付いているはずなのに、それでも動く神機。

 

振り下ろされる右拳を、ジークフリートは左腕に装備した盾で受け弾く。それで大きく体勢を崩したアイオーンに蹴りを入れて距離を離す。

 

 

「お前、ちょっと調子乗りすぎ」

 

 

ナギトは言いつつジークフリートを跳躍させる。遺跡内部のため余り飛べないが、背部のユニットを点火して宙空に浮いた。

 

 

「大刀錬、衝刀練、剣妙斂───」

 

 

ジークフリートの周囲に三振りの刀が展開したかと思うと、それは太刀に収束した。

 

 

「───三明一結」

 

 

ジークフリートはその太刀を振り抜き、放たれた斬撃はアイオーンにヒットし───。

次いで“三明一結”接撃面から断続的に生じる無数の斬撃がアイオーンの全身を粉砕する。

 

 

 

VS神機アイオーンTYPEα'戦は今度こそ終わりを迎えた。

 

 

☆★

 

 

その後、ナギトとリィンには労いと感謝の言葉が述べられ───そのままオーロックス砦へと転移で帰された。

 

結局、この実験が何だったのか、成果は得られたのか、そもそもどこの精霊窟で行われたものなのかすら教えられず───。

 

 

それが、この軌跡にどんな影響を与えるか知れず───。

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