閃の軌跡 〜八葉を継ぐ者〜   作:クラウンドッグ

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バリアハート寄港日

 

ラウラの目覚めは疾くカレイジャス乗艦メンバーに周知された。

人徳ゆえか、わらわらと医務室に人がやってきてナギトはその人海に押し流されるようにして部屋を出た。

が、その顔に不満はない。実はラウラが目を覚ましてからたっぷり1時間は2人きりを堪能したのだ。ラウラ覚醒からの時間をちょろまかして報告した。

 

ナギトは医務室を出た足でそのままカレイジャスを降りてバリアハートの街区に出た。

 

 

 

☆★

 

 

ナギトとリィンが《身喰らう蛇》の実験に協力した後、オーロックス砦に戻るとすでに作戦は完了していた。オーロックス砦は制圧され、アルバレア公爵は逮捕され牢にぶち込まれた。

 

作戦終了の後、カレイジャスは解放されたバリアハートに着陸したという流れだ。

 

 

束の間の休暇。ナギトは変わらずラウラに寄り添ったが、およそ3時間もしない内に目を覚ました。そこから1時間お喋りタイムと洒落込み───、イマココというわけだ。

 

 

「さて………」

 

 

どうしたものかと考える。牢屋に入っているアルバレア公を嬲りに行こうかとも考えたが、顔を見たら殺したい欲求に駆られそうなため自重する。

 

 

作戦終了後に共有された情報によると《帝国解放戦線》の《S》──スカーレットが拘束されたらしい。ゴライアスに続く新たな機甲兵ケストレルに搭乗してオーロックス砦でヴァリマール──リィンと対峙した彼女だったがあえなく敗北。爆散する機体からコックピットを引き抜かれ、生きながらえたという。今は公爵家城館で療養中という話だった。

 

そんな事を思い出してナギトはスカーレットに会いに行こうかと考える。言わずもがな友リヴァルについて聞くためだ。

 

と、公爵家城館に足を向けた所でARCUSが通信を受け取る。出てみると相手はリィンで「今から話せないか?」という事だった。ナギトは了承し、すぐに待ち合わせ場所に向かう。

 

 

 

待ち合わせ場所は街道近くのベンチで、どうやら直前までトワが休んでいたらしく仄かに暖かい。

 

 

「話ってなんぞ?」

 

 

そんな風に話を切り出すナギトのいつも通りに、リィンは少し驚いたあと笑った。

 

 

「ラウラが目覚めたって聞いたけど…その様子だと、もう話はしたみたいだな?」

 

 

「まあな。ちょっと目ぇ覚ました時間を誤魔化してだな……みんなには内緒だぞ?」

 

 

「それは別に構わないが……、ラウラが目を覚ましたにしても精密検査とか必要だろうし、あんまり無茶はしてないよな?」

 

 

「少し話しただけだよ。お前はいいのか、ラウラと話さなくて」

 

 

「今は先客が多そうだしやめておくよ」

 

 

「それが賢い」とナギトは返して、2人の間にしばしの沈黙が蔓延った。

2人の視線が互いから正面に向けられる。草花が風に揺れて、その一拍あとにリィンは告げた。

 

 

「ナギト、わかっていると思うが…ラウラが目覚めた以上……」

 

「みなまで言うな、わかってるよ。もう…その時だ」

 

 

リィンが言っているのは、ナギトの真実について語る時が近づいているという事実だ。

覚悟がどうの真実がどうのと言って、幻獣討伐作戦やラウラの昏睡でずいぶんと先延ばしにして来たその時がもう間近に迫っているのだと。

 

 

「ならいいんだ。…俺たちも少しずつだけどヒントを得てきている。そうしてナギト、君がやった事の輪郭もすでに見えている。……絶対に君の真実を掴んでみせる。Ⅶ組のみんなと一緒に」

 

 

「…………そうか」

 

 

 

リィンの言葉にナギトはそうとしか返せない。

ナギト自身、やばい事をやった自覚はあり、しかしそれでⅦ組が自分を追い出すなんて事はないだろうとたかをくくっていた。万が一に追放されたとしても、その時は独自で動くと決意していた。──はずなのに。

どうしても怖い。Ⅶ組のみんなに、リィンに、ラウラに。拒否される事がどうしても。今までぼんやりとあった恐怖が実感を伴ってナギトを苛む。

 

 

また風が吹いた事を契機にリィンは雰囲気を変えて「そういえば」と言った。

 

 

「正規軍の人たちがナギトに礼を言っといてくれって」

 

 

「正規軍が?なんでまた?」

 

 

首を傾げるナギト。正規軍も今回の作戦には参加していて、オーロックス砦を正面から攻めていたのは彼らだ。カレイジャスは砦の守備隊が正規軍に引き付けられている間に砦を急襲してアルバレア公を拘束したのだ。

 

しかしその作戦にナギトは一切関知していない。アリアンロードに連れ去られるまでカレイジャスでお留守番していたのだ。リィンは砦を守っていたスカーレット──ケストレルを制圧してからヴィータに拉致られたらしいが、ナギトは本当に何もしていない。

 

 

「どうも双龍橋で領邦軍の戦力を捕獲できたのが大きかったらしい。おかげでオーロックス砦を守る戦力が激減……今回の作戦で正規軍には軽微な被害しかでなかったそうだ」

 


ナギトは「ああ、そうだったのか」と納得する。
確かに対正規軍のために戦力を集中していた双龍橋の部隊がオーロックス砦の防衛に戻れなかったのなら、それは領邦軍にとって大打撃だろう。
本拠地とも言えるオーロックス砦には精鋭を集めていたのだろうが、いかんせん数が足りなかったようだ。

続けるリィンの話によると、ケルディックを焼き討ちした分隊も全滅していたので、いくらかはマシになったとの事。

 

 

「そりゃ良かった」とナギトは感謝を受け入れる。

リィンももう話題はないらしく、解散といった空気感にナギトは立ち上がる。次の目的地はアルバレア公爵家城館だ。

 

 

「じゃあまた」と言って去っていくナギトの背中を呼び止めるリィン。

振り返ったナギトに少しの間を置いて言った。

 

 

「ナギト…その、少し変わったか?」

 

 

ナギトは目を丸くして「ふっ」と柔らかく笑んだ。

 

 

「目を覚ましたラウラにも言われたよ、それ。良く見てんな…お前ら、俺のこと大好きかよ」

 

 

そんな軽口は間違いなく肯定の意味で。

 

 

 

☆★

 

 

「あら、ナギトじゃない」

 

 

アルバレア邸の一室に軟禁されているというスカーレットを訪ねる。
《灰の騎神》ヴァリマールとの戦闘で体力を削られたスカーレットはベッドに身を預け、庭の風景を見ていた。

その様子はまさしく、深窓の令嬢と呼ぶにふさわしい光景であった。物々しい雰囲気を醸し出す眼帯さえなければ、だが。

 


入室した人物を確認してスカーレットは気さくな雰囲気でもって話しかける。
ナギトにはそれが逆に痛々しく思えて、しかしそれと同じテンションで接する事にした。

 

 

「やあやあスカーレットさん。パンタグリュエル以来かな?お久しぶりですね」

 

 

「ええ、お久しぶり。わざわざ会いに来てくれるなんて嬉しいわね。見舞いの品はどこかしら?」

 

 

ナギトはポケットを探って、それを取り出すとスカーレットに向けて投げた。ぽとりとベッドの上に落ちてはっきりと形がわかるようになった。

 

 

「……なにかしら、これ」

 

 

 

スカーレットは頬を引きつらせながら、それを摘みあげる。冗談のように求めた見舞いの品は、ハートの形をした眼帯だった。

 

 

「ハート型の眼帯(ピンク)です。キュートでしょう?」

 

 

「ええ、とってもキュート!……じゃなくて、冗談でしょう?こっちは疲れてるのに…こんなコントの相手をさせるなんて」

 

 

「もちろん冗談ですとも。捕虜に見舞いの品なんてもんはないです。それはまあ…ジョークグッズなんでOKでしょうけども」

 

 

冗談に冗談を重ねられ、ついには立場をはっきりと示されてスカーレットは敗北を認めた。

「私の負けね」と肩をすくめたスカーレットに、ナギトもまた三枚目の顔を終わらせて、ベッドの側にあった椅子に腰掛けた。

 

 

「……でもちょうど良かったわ。あなたにリヴァルからの伝言があるの」

 

 

「伝言?」

 

 

「ええ。まあちょっとした言伝だけど……俺と同じ思惑とは恐れ入った。だがまだ足りない。英雄を討ちⅦ組の名声をさらに高めよ。……ですって」

 

 

「……なるほど、そうですか。わかりました、ありがとうございます」

 

 

 

スカーレットに託されたリヴァルの言葉を何度も反芻して、意味を理解する。どうやらリヴァルもナギトと同じ思惑を持っていたようで、しかしナギトの成した事実ではまだ不足しているとダメ出しされていた。

 

 

 

「私もその“思惑”とやら……一枚噛みたいところだけれど…この体じゃあね…………」

 

 

目を伏せるスカーレットは、リヴァルから預かった伝言でナギトの思惑までもを見抜いているようだった。それも当然と言える、幻獣討伐作戦は大々的にやったのだから。

 

 

「大丈夫ですよ。俺に──俺とリヴァルに任せておいてください。死ぬのは《G》と《V》だけで十分でしょう……事が終わっていくらかしたら、また集まって酒でも飲めばよろしい。もちろんリヴァルも含めて」

 

 

「ええ。それができれば何も文句はないわ。……頼むわね、ナギト」

 

 

 

スカーレットの願いに「はい」と静かに返事をして。しばしの静寂が訪れた。スカーレットは再び庭の風景に目をやり、ナギトもつられてそちらを見やる。

さすがはアルバレア公爵家城館というべきか、客室から見える庭の風景も大したもので、何とも心を落ち着ける雰囲気だった。

 

 

「それで、わざわざ私に会いに来た理由は?まさかハートの眼帯を渡すためだけじゃないでしょう」

 

 

「いえその眼帯をプレゼントするために来ました──というのも面白そうですが……、はい。本題はリヴァルについて。あいつの過去、現在…知ってる事を教えてもらえませんか?」

 

 

「リヴァルについて、か……。私もあまり詳しくはないわよ?」

 

 

そう前置きしてスカーレットは驚くほどあっさりリヴァルについて語った。

その過去については、ほぼヴァルカンから聞いた通りの内容だった。曰くリヴァルの実家──アルヴァンス男爵家は地方南部を治める領主で、1192年頃に領内で起きた異変の真相を探る両親が不審死した後、調査を続行したリヴァル自身もまた死にかけたと。

 

 

1192年──地方南部──異変──それで決意する《鉄血宰相》への復讐。

 

 

「─────」

 

 

つながった、気がした。

 

 

 

「そして現在だけど……もう知ってると思うけどリヴァルは《閃嵐の騎士》として、主に西部で活動してるわ」

 

 

「どうして西部なんです?」

 

 

「そりゃあ東部には本物がいるからよ。英雄というのは生きてこそ価値があるからね」

 

 

つまり貴族連合は《第三の風》カレイジャス組が東部でしか活動しない事を把握していて、そこに合流したナギト──本物の《閃嵐の騎士》をリヴァルと会敵させないようにしているわけだ。

 

 

「死んで祀りあげられる英雄もいますが……無貌では…という事ですね」

 

 

「ええ。《閃嵐の騎士》は不死の英雄。たとえリヴァルが死んだとしても、貴族連合は新たなパイロットを据えるでしょうね……《閃嵐の騎士》として」

 

 

まったくくだらない手法だが、兵士に幻想を抱かせるにはうってつけのやり方だった。

 

 

そこまで話したスカーレットが目眩を覚えたらしく、頭を押さえた。

 

 

「少し…喋り過ぎたみたいね」

 

 

苦笑しつつ、スカーレットはナギトを見た。

 

 

「ええ、口が軽くてたいへん結構でした」

 

 

「……まったく、口が軽いのはどっちやら…」

 

 

ナギトはベッドに倒れ込んだスカーレットに布団をかけてやって、今にも意識が途絶えそうな事を察する。

 

 

「……頼むわよ、ナギト………」

 

 

失う意識を何とか繋ぎ止めて、スカーレットは再び言う。そこには“これだけ情報を吐き出したのだから”という意味も含まれていて。とてもハート型の眼帯ひとつでは見舞いの品として不足していた。

 

 

「ええ、わかりました。今度はそれ……両目分持ってきますよ」

 

 

ナギトはニヤリとした顔でベッドの脇に無造作に転がるハート型の眼帯を指差す。

 

 

「いらない…わよ……」

 

 

ツッコミを入れる力すらなく、スカーレットは眠りについた。それなりに無理をして話をしてくれていたらしい。

 

その誠意に応える意味でも、ナギトは願いを成就させようとより一層決意するのだった。

 

 

 

☆★

 

 

 

「アルヴァンス男爵家………まさか君から、その名を聞く事になるとはね」

 

 

カレイジャスに戻ったナギトは通信端末を拝借して1人である人物と連絡を取っていた。

 

流れる金髪。紫紺の瞳。2.5枚目具合ではナギトの一歩先を行くその人物は《放蕩皇子》の異名をとる《第三の風》西部担当オリヴァルト・ライゼ・アルノールだ。

 

ナギトはオリヴァルトに対してリヴァルの家名──すなわち“アルヴァンス”の名を出した。

 

 

「…ご存知なんですね」

 

 

「……ああ。少し前、ちょっと調べる機会があってね」

 

 

と言うオリヴァルトの表情は優れない。当然の話だ。アルヴァンス家の悲劇は決して明るい話題ではなく、さらにその悲劇が起きた原因についてもオリヴァルトは知っているのだ。

 

 

「……事ここに至り、腹芸はしません」

 

 

ナギトのそれは宣言のようであり、真剣な眼差しで画面の先のオリヴァルトに問うた。

 

 

「アルヴァンス男爵家は───、ハーメルを治めていた貴族ですね?」

 

 

「ああ、正確にはハーメル村を含む地域一帯の領主だが」と注釈と共に目を逸らすオリヴァルト。彼の持つハーメルの悲劇の真相については、ナギトも知っているが、それを何故知っているか聞かれても答えられない。

だがもう腹芸はなしでいくと決めた。

 

 

「そしてアルヴァンス男爵とその夫人が殺されたのは、ハーメルの悲劇について調査を行ったから……違いますか?」

 

 

「────、君はまさか…あの悲劇の真実を知っているのかい?」

 

 

ナギトの語り口に、オリヴァルトは直ぐに理解した。まったく関係のないはずの事象にまで、ナギトが通じているという事に。

 

 

「はい。情報源は明かせませんが、間違いなく殿下の持っている情報と内容は同じはずです」

 

 

 

「ふむ………いや、今はとやかく言うまい。アルヴァンス男爵家についてだが、おおむね君の語った通りだ。ハーメルの悲劇の真相を知られるわけにはいかない政府…代表ギリアス・オズボーンは、その調査をしていたアルヴァンス男爵家を処理した。まず男爵と夫人が消され、次に一人息子が消えた。跡継ぎがいなくなったアルヴァンス男爵家はお家取り潰しとなった……かいつまんだが、これが僕の調査結果だ」

 

 

「…………これもまたハーメルの後始末の一環ですか」

 

 

「そう言えるだろうね。ただ何度かアルヴァンス男爵には勧告があったそうだ。ハーメルについての調査をやめろ、とね」

 

 

 

それで引き下がるほど、領民への愛が薄い領主ではなかったという事なのだろう、アルヴァンス男爵家は。リヴァルについても、監視対象であるはずのナギトと必要以上に馴れ合っていた。

 

 

「そうですか。………ありがとうございます」

 

 

ナギトは情報の提供に頭を下げる。画面越しのオリヴァルトは「ふう」と思案げな声を出した。

 

 

「本来、ハーメル村の跡地に立ち入るには特別な許可が必要だが……今は内戦中という状況下だ、かの村が荒らされていないか君に調査してもらいたい……という名目でどうだね?」

 

 

「はは……、お気遣い痛み入ります。見咎められたら殿下の名前を出す事にします」

 

 

オリヴァルトは皇子という立場で、ナギトのハーメル村への進入を許した。いざという時はオリヴァルト皇子の名を出せば良いという事だ。この内戦下で廃村にかまけている暇は両軍共になさそうではあるが。

 

 

こうしてまた、ナギトは友リヴァルの真実に一歩近づく。その全貌が明らかになる日は遠くない。

 

 

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