トールズ士官学院解放後、第三の風はなにをするのか。
それについては、すでに決まっていた。
カレル離宮の解放───そこに囚われている皇帝の解放だ。
ナギトが第三の風に合流した際に伝えた情報に、皇族の軟禁場所について、というものがあった。 場所はカレル離宮。今回、正規軍から得られた情報と同じだ。ナギトが貴族連合を離脱してからも皇族の軟禁場所に変更はなかったようだ。
なにせ、カレル離宮は守り易く攻め難い立地にある。陸路は鉄道のみで、そこには当然のように貴族連合の兵が詰めている。 攻略は難航を極めるだろう。陸路からならば。カレイジャスならば、がら空きの空から攻める事ができる。
それが正規軍が第三の風に協力を願った理由であり、第三の風がそれに応じた理由であった。
カレル離宮には皇帝、皇族の他にエリゼやレーグニッツ帝都知事が囚われているという話だ。 第三の風の身内。カレル離宮を解放する名分はたったというわけだ。
☆★
「行け。ここから先は誰も通さん。ここから前にも誰も出さんがな」
カレル離宮より飛び出した機甲兵ジークフリート──ナギトは、地上に降り立ち、そう決意を言葉にした。
その言葉があったから、Ⅶ組の全員はその場をナギトに任せる事ができた。
カレル離宮への奇襲。 空からの急襲を予期していなかった貴族連合は後手に回った。
カレイジャスから飛び出したのはⅦ組を筆頭とした士官学院の生徒たちだ。 Ⅶ組という少数精鋭でカレル離宮の解放を行う。それ以外はカレイジャス外部の敵の排除だ。
「デケェのは任せろ!みんなは歩兵を頼む!」
ナギトはジークフリートの内部からそう叫んで、機甲兵用太刀を構えた。
戦車や機甲兵は俺がやる。だから歩兵は任せたぞ。
そう言われた学院生たちは奮い立つ。 ここにいるのは他ならぬナギト・シュバルツァーだ。トールズ士官学院において最強と囁かれる男。 そんな男に、背中は任せると言われたのだ。それは士気もあがるというもの。
カレル離宮に攻めるなら鉄道から来る。なぜならそこからしかカレル離宮にはアクセスできないから。
その前提はカレイジャスの存在が覆した。
結果、駅付近に展開されていた貴族連合兵はカレル離宮に急ぎ移動する事になった。
カレル離宮の解放。それは貴族連合の兵力が集中していない今でしかできない作戦だ。
兵力が集い、学院生たちが突破されればカレル離宮の解放は至難となる。 故に、Ⅶ組によるカレル離宮解放には速さが求められる。Ⅶ組によるカレル離宮の解放は、この作戦でもっとも重要なことだ。
しかしその重要度と難易度はイコールではない。
ナギトを筆頭とするカレル離宮防衛貴族連合兵足止め隊の瓦解は、作戦そのものの失敗に直結するわけではない。しかし、その難易度はⅦ組による人質奪還より遥かに高かった。
たった1部隊でも通せばアウト。それくらいの気概でやらなければ、すぐにでも数多くの部隊をカレル離宮に踏み込ませてしまうだろう。
故に、1部隊も、1人たりとも通してはならぬ。
学院生たちの気迫には鬼気迫るものがあった。
いかに経験で劣ると言っても気迫で勝る相手には呑まれてしまうものだ。 これまで群で戦ってきた貴族連合の兵は、数を頼みに戦ってきた貴族連合の兵は、恐怖した。
皇帝の解放という大義名分を果たすために学院生たちは命すらかけるだろう。 対する自分たちは何だ?皇帝を軟禁し、それを外に出すまいと足掻いているだけ。
貴族連合の兵は気迫で負けていたのだ。
しかし、それでも一筋縄ではいかないのが大人だ。
「怯むな!押し返せえ!」
隊長の声で隊の気力が復活する。さらなる気力を得て学院生に銃を向け、刃を振るう。
それを、
「おおオラァ!」
たった一太刀が霧散させる。
誰もが、その音に耳を傾けた。戦いすら一時中断するほどに、洗練された剣の一振り。 まるで素振りするように、鉄を両断するジークフリートの一太刀を。
貴族連合の兵は再び気迫を失する。 そうさせたのは、まぎれもなくナギトの強さだ。 “戦闘”という行為をする以上は頭にチラつく、憧れる。それは強さという指標だ。 誰もが夢見る称号“最強”。それに近いものを、ナギトに見出したのだ。
脳裏をかすめる、敗北の二文字。それは気迫を失わせるには十分だった。
一刀両断された機甲兵が爆発し、巻き上がった砂埃が晴れた向こうに、また新しい影。
それは、オルディーネと同じ形をした影だ。
「来たか」
一も二もなく理解したナギトは、短く呟く。
《蒼の騎神》と同じ形をしているそれは、コピーだ。オルディーネの偽物。色の塗られていないそれは、オルディーネ・イミテーション。
「待たせたな」
白と黒が入り乱れる闘気を纏うそれは、すでに本気である証なのだろうか。
「リヴァル、お前のゼンブを受け止めた。お前との因縁に、ここで終止符を打つ。それが終わったら……そうだな、今度は剣を向け合わない友達になろう」
ナギトの言葉に、リヴァルは何も返さない。
無言のまま剣を構えるオルディーネ・イミテーションにジークフリートも剣を構えた。
「いくぜリヴァル」
誰もが見惚れる戦いの幕があけた。
中空に描かれては消える、白と黒、そして緋の軌跡。 弧状にぶつかり合うそれが剣撃のものであると、わかっていながら理解していなかった。
まるで、美術館に来ているような錯覚すら覚えている。 それほどに、この二機の舞は芸術的だった。
まるで示し合わせたように弾かれる斬撃の軌跡と鳴る剣撃の音。 二機の戦いは、見る者にとって舞踊に感じられた事だろう。 それだけ、その二機の実力は拮抗していた。
機体そのものの性能はほぼ同等。操縦技術はリヴァルが上。 ではなぜ拮抗しているのか?生身の実力において、ナギトがリヴァルを大きく上回っているからだ。
今やナギトの実力は、内戦という状況下で強者溢れる帝国においても指折りのものだ。 もともとの戦闘力もさる事ながら、ナギトは『強さ』を手に入れた。
その強さは、最後の最後で最も重要になるちからだ。 言わば《剣帝》の修羅のような強さだ。ナギトの強さは《剣帝》の強さとは真逆に位置するものだが。
ナギトは半ば確信していた。自分が今《理》にかなり近しい所にいると。あと一歩だと。
しかし、その一線を画していない以上は、未だ到達者たちに届き得ぬとも理解していた。
拮抗したままでは埒が明かない、とジークフリートは一旦距離を取った。
太刀を構え直すジークフリートに、オルディーネ・イミテーションの中からリヴァルが声をかけた。
「さすがに強いな、ナギト」
その言葉に、ナギトは疑問を覚える。 さっきまで無口だったリヴァルがこの段になって口を開く?まさか時間稼ぎか?
考えてそれが正解だったと知る。
「クロウの真似じゃないが、奥の手を使うしかないじゃないか」
オルディーネ・イミテーションの、装甲が外れた。オルディーネの偽物だったそれが、別の機甲兵に変貌する。 それはもうオルディーネ・イミテーションではない。まったく新しいリヴァル専用機だ。 無色の装甲が剥がれ落ちたそこから現れたのは、オルディーネとは真逆の緋色だ。
「装甲を外すことで機甲兵にかかる負担を減らし、スピードも上昇する。防御力は当然ダウンするがな。赫く染められたこの機体は、古の暴竜の名を戴く。オルディーネの偽物から脱皮したこいつは騎神から竜へと変貌した……こいつの名は“ファフニール”。行くぞ、“ジークフリート”!」
緋の機甲兵“ファフニール”と銀の機甲兵“ジークフリート”。
ナギトは、理解した。
「ふざっ──けるなあぁぁぁああああ!!!」
故に、激怒した。
ふざけるな。お前は、俺の誓いを破らせるつもりか。
もしこれが単なる挑発でも、ナギトはリヴァルの決意を否定しなければならない。
ジークフリートは太刀を手にファフニールに斬りかかる。鋭い二連撃は“閃光斬”だ。
ナギトの激昂を読んでいたリヴァルは、素早くファフニールを後退させて一撃は躱した。
リヴァルにとって予想外だったのは、怒りに任せて放たれた斬撃が、二つだった事だ。 ナギトは確かに激昂していた。振り下ろす剣には冷静さはなく、戦技など使うべくもない。
しかし《剣鬼》としての力を取り戻したナギトにとって“閃光斬”は、戦技とは呼べぬ通常攻撃だった。
だから、リヴァルに予測できなかったのは“閃光斬”二撃目だった。 一撃目の斬撃を躱し、追撃が来る前にカウンターを合わせようとしたファフニールに“閃光斬”の二撃目が襲いかかる。
しかし、その二撃目の速き事はまさしく閃きの如く、ファフニールが踏み込む前に剣は振られてしまう。 しかし、太刀の鋒は間違いなくファフニールの装甲を切り裂いた。たとえ薄くであったとしても、リヴァルの受けた衝撃は大きいものだった。
驚いたリヴァルはファフニールを後退させ、提げていた機甲兵用ライフルを手にとって、迷いなく引き金を引いた。
戦車を一時的にクラッシュさせるほどの威力をもつ銃弾……とは最早呼べぬミサイルが、ジークフリートに迫る。
が、ジークフリートは太刀を振るいミサイルを両断した。そして、そのワンアクション分の遅れが発生する。
ファフニールは撃ったライフルをそのまま手放し、ブレードでジークフリートに切りかかった。
ジークフリート内部で、ナギトは確かにその挙動を見切っていた。しかし、見切っていたとしても対応できるかどうかは別の話だ。
機甲兵の性能の問題である。リヴァルのミサイル→ブレードの連撃は見事だ。初めのミサイルを迎撃される事を見越した上での攻撃。 言わば、ミサイルに対処させる事で次の攻撃であるブレードに対応させる時間を与えない、という戦術だ。
「やるな」とナギトは呟く。単純な戦闘なら自分が一枚上手と見ていたが、機甲兵が絡むだけでこんなに変わるか。
その思考には、まだ余裕があった。 対応できないのは“完璧には”というだけだ。 完璧なノーダメージでの回避、防御は無理なら。どこかを犠牲にして生き残れ。
ジークフリートは、左腕を差し出して難を逃れた。
ガシャン、と大仰な音を立ててジークフリートの左腕が地面と激突した。 肩口からバッサリいかれたそれは、当然ながらもう使用不可だ。
しかし、意に介さず。
リベンジの狙いでは敵機を切り裂くはずだった一撃はその左腕を断つのみに留まった。それは予想外。体勢を整える時間は───
「やるかよ!」
その心中を察したようにジークフリートの中からナギトが叫ぶ。今度は俺の番だと。さあ、どう対応する?
回転した。ファフニールはジークフリートの太刀筋に合わせるように回転したのだ。
「“螺旋”────、こいつっ!」
斬撃と同じ方向に回転する事で、その威力を逃す様は八葉一刀流、はじまりの極点と同じ発想だ。 最も、八葉一刀流の“螺旋”は攻撃にも応用される、正直わけのわからないくらいのスグレモノなのだが、リヴァルのこれは明らかにナギトがやっていたのを、見て習得したのだろう。
しかし、やはり完璧ではない。 生身であるならその完成度は推して測るべしものなのだが、機甲兵なのが災いしたのだろう。 ファフニールは一太刀の威力を逃しながら、しかし背面に大きな傷をつけられてしまった。
「ちっ………」
漏らしたのは苦悶の声ではなく舌打ち。リヴァルにとって、この傷は予想していたものなのだろうか?と思いながらナギトは追撃する。
回転で威力を殺したファフニールは、完全には体勢を整えておらず、ジークフリートの追撃に後手に回る。
ジークフリートの左腕は損壊し、太刀を握る右腕だけでは、両腕でブレードを握るファフニールには力負けするのが道理だ。 しかし、その道理をわきまえぬが如き一撃一撃を、ファフニールに叩き込む。
ジークフリートの全身を包む緋き闘気のためだ。 機甲兵という人間のサイズを大きく越したそれの全身に闘気を纏わせる事は至難である。しかし、それが大きな意味を持つかと問われれば、その解は否。気を鎧のように着込む技術も存在するが、機甲兵の全身を包もうとすれば、その気力は一瞬にして枯渇してしまう。 故にナギトは気を纏うだけに留めているのだ。しかし、気を纏うだけでは大きな意味がないと言うなら、何が一撃を重くするのか?
それは闘気溢れるが故である。 闘気と言えば、戦闘においてあらゆる性質を変化させて戦技発動を助するものだと武術的には解が出ている。 しかし、元を辿れば闘気とは字の如く闘う気持ちだ。この闘気をナギトは出そうとして出しているわけではない。憎い相手を前に殺気が漏れるのと同様に、リヴァルと闘いたい気持ちが、自然と闘気を噴出させるに至ったのだ。 それが理屈を超えた力を生み出している。
それが、リヴァルの計画通りと知りもせずに。
「ぜあっ!」
攻撃を受け続けるリヴァルではない。 連撃の狭間に隙を見つけた瞬間、剣に闘気を集中させて次撃を弾く。
ファフニールはブレードを構える。ゆったりとしていながらも隙のない構えは宮廷剣術のもの。大量生産のはずの機甲兵用ブレードすら名剣に見せるのは、やはり洗練されているからだろう。
「ゆくぞ」
ゆらり、と白と黒の闘気が陽炎のように踊る。ナギトには次に何が来るかわかった。
この前、生身で戦った時はこれを受けて敗北した。 いや、あれは試合に負けて勝負に勝ったとナギトは思っているが、今回ばかりはマジでやばい。
前回は受けて負けたわけだが、そこには受けないという選択肢があった。戦技発動の前に倒す、戦技を回避する。“貴き復讐”は一度剣を受ければ回避不可の絶技と化すが、発動前から行動すれば回避は可能だ。 しかし、今回は互いにオルディーネ・イミテーションという機体の性能は同じであり、発動前にどうにかする、という選択肢はない。つまり受けるしかないのだ。生身でない故に完成度は落ちるだろうが、それでも脅威である事には変わりはない。
気づけば、すでにブレードは目の前だった。
リヴァルの計画に、自らの勝利は組み込まれていない。
ナギトの誤算と言えば、そこからになる。 否、ナギトはそれに感づきはした。感づきはしたが、そんなわけあるかと断じた。心の奥底ではそれに納得していながらも。
「ふざけるな」それがナギトの感想だ。 それはリヴァルのオルディーネ・イミテーションの名を聞いた故の言葉。 “ファフニール”緋に染まった機体の名は、かつて伝説で英雄“ジークフリート”に敗れた竜から取られている。
リヴァルの狙いは伝説の再現だ。ジークフリートがファフニールを討つ。
ナギトが許せなかったのは、そこだ。
ふざけるな。お前のゼンブを受け止めると決めた俺に、その誓いを破らせるつもりか。 リヴァル、ハナっから死ぬつもりで戦いに臨んでんじゃねえ!
対するリヴァルはファフニールを操縦をしながら、その表情は微笑みを湛えていた。 まるで子供のじゃれ合いを見ているかのような、柔らかな笑み。
リヴァルは、満足していたのだ。
アルヴァンスの誇りが許さぬ復讐のために姓を捨てた。しかし《R》では、鉄血宰相に恨みのないただのリヴァルでは、復讐はできない。
それでも憎悪の感情を捻り出し、怒りの鉄槌を下した。
復讐を果たしたのは《帝国解放戦線》の“リヴァル”で、鉄血宰相に家族を奪われた“リヴァル・アルヴァンス”の復讐への念は宙ぶらりんになってしまった。 二重人格というわけではない。誇り高いアルヴァンス男爵家の人間として復讐は相応しくないと思ったリヴァルはアルヴァンスの名を捨てたのだ。しかし、復讐の権利を持つのは“リヴァル・アルヴァンス”で姓なき“リヴァル”ではない。リヴァルはアルヴァンスの姓と決別したが故に復讐の権利を失った。 復讐の権利を失ったまま復讐を果たしたために、本来の復讐者であるリヴァル・アルヴァンスの復讐は不可能になってしまった。
はじまりからちぐはぐだったのだ。 復讐したいと立ち上がったのはリヴァル・アルヴァンスだった。だが、アルヴァンスに復讐は相応しくないと姓を捨てたせいで復讐願望まで一緒に捨ててしまった。
本当ならば“貴き復讐”はギリアス・オズボーンに叩き込むはずだった技だ。 なのに、貴族ではないリヴァルではそれが許されない。リヴァル・アルヴァンスだけが許される技だった。そしてそれは、ギリアス・オズボーンが斃れたために、振るわれるはずがなかった技。
───“「俺はお前を受け止たい。──お前の、友達でありたいと……俺自身が思ってるからだ」”
その言葉で、何かが変わったわけではない。ただ気づいただけだ。 自分の、リヴァル・アルヴァンスという男のすべてが何なのか。
“貴き復讐” ──それは帝国貴族リヴァル・アルヴァンスの復讐という物語そのものである。
それをナギトは受け切った。リヴァル・アルヴァンスの人生を。 受け切られてしまったリヴァルはそれで満足してしまったのだ。
自分の願望はすでに叶った。
自分の人生は満ち足りたものだと実感した。
だから、あとは命をどう使うかだ。
その答えが、これだった。
復讐を成した今、リヴァルには何もない。 生きる理由が、幸せを享受する権利が、誇りを取り戻す資格が。
ならばせめて、この命を捨てて、連鎖を断ち切ろう。
ナギトには悪い事をする。
俺を友と呼んでくれたお前に、俺の命を奪わせるなんて、とんだ悲劇だ。 だが、それしか手はないんだ。復讐の連鎖を止める手段は。 正規軍でも貴族連合でもない、第三勢力のお前だからこそ、それができる。
復讐の連鎖の終焉。 それが、俺の死ぬ大義名分だ。
実のところ、他の目的もある。 鉄血宰相を討ち果たした今、《帝国解放戦線》の幹部である事にいかほどの意味があるか、考えた事はあるか? ………結果から言えば、印象操作のためだ。 ナギトの《幻獣討伐作戦》と狙いは同じさ。貴族連合の英雄である《閃嵐の騎士》を、Ⅶ組が斃す事で、帝国民にⅦ組は正義の味方であるという印象を植え付ける。
クロウの救済だ。
故郷を奪われ、復讐のためだけに生きてきたあいつは、幸せにならなきゃいけない。 そのために俺の命を使えるのなら、容赦なく使い潰すまでだ。 ………お前らさ、あんまり気づいてなかっただろうけど俺の方が結構年上なんだぞ。だからここは少しばかり、兄貴面させてもらう。
ナギト、お前はⅦ組の仲間たちと一緒にクロウを取り戻せ。そのための道は拓いてやるから。
すまないな、ナギト。詫びの品は一ヶ月後くらいに届けるから、それで勘弁してくれ。
繰り返される斬撃の雨嵐。一つを防御したと思えば、もう一つが装甲を削る。 発動したが最後、無欠の戦技“貴き復讐”。
逃げ場のない斬撃を受けるジークフリートの中で、ナギトは隙を見つけた。 ファフニールがオーバーヒートしたのだか知らないが、動きが鈍ったのだ。
逆転の芽はここしかない。 守勢を解いて攻撃に移るジークフリートだったが。瞬間、ナギトは気づく。 そのあからさまに作られた隙間は、リヴァルの命脈を絶つ所に位置していると。 このまま剣を振るえば、友の命を絶つ事になる。 しかし、ナギトが手に込める力を緩める事はなかった。
ここまで、全部思い通りかよ!
機甲兵の名をファフニールにしたのはナギトの怒りを誘い、攻撃を単調にするため。 ファフニールの装甲を外したのは『貴き復讐』を発動するためのスピードを得、且つ隙を突かせる事で一撃で自分を殺させるため。
「くッ───そ、がぁあああ!!!」
その狙いは、果たされた。
戦闘開始から終了まですべてがリヴァルの掌の上の出来事であり、その勝負を制した男は、死ぬ事で次代に希望を繋げたのだ。
目の前には、赫き機甲兵の残骸が転がっている。 暴竜ファフニールは英雄ジークフリートによって討ち滅ぼされる。この戦いは書き手──リヴァルの思い通りとなったわけだ。
「くそったれ」
ナギトはもう一度悪態を吐く。
気配を探ってみるも、当然のように残骸の中にそれは感じない。 当たり前だ。なにせ自分が剣を振り抜いたのだから、それで生きていられたら八葉の名折れというものだ。
全部が、リヴァルの思惑通りに進んだのだと理解していた。 ナギトが突いたファフニールの隙は、リヴァルが意図して作り出したものだった。リヴァルは死ぬために自ら隙を作り出したのだ。 そして、その隙を突かなければナギトの方が殺されていた。“貴き復讐”の次撃にはそれだけの力が込められてた。
友をその手にかけたナギトの胸中は、悔恨の念でいっぱいだった。 こうするしかなかった。そうしろと言われたような気がした。 それでも、何か他に救う手立てはなかったのか? 自分が腹立たしい。リヴァルを殺すのがその時の最善手であると確信した自分が。迷いなく剣を振り抜いた自分が。
「……………くそったれ」
悪態を吐くナギトの声に力はなかった。
そんなナギトの耳朶を打つ歌声。
その発生源を見つめるナギトは目を細める。
「これは………」
この歌声は、まさしく《深淵》の魔女のもの───
そのメロディは美しいと呼ぶ他ない。 しかし、どこか恐怖を煽るような、どこか昏いものを感じる。
歌声に合わせるように地響きが始まる。偶然でない事は火を見るよりも明らかだ。
尋常ではない魔が帝都に集中していくのがわかる。
空が暗黒に染まる。
地響きが最高潮に達するのと同時に、帝都の中心が魔のすべてを顕在化した。
「バルフレイム宮が……!チッ………ったく、感傷に浸る暇もねぇなぁ………」
バルフレイム宮の威容が変化した。 変化という表現が可愛く感じるほどの変貌だ。
黒く染まった外見に禍々しく緋いオーラを纏っているそれは、フィクションを愛する自分だからこそ、こんな表現ができるのだろう。
「ハッ、まるで魔王城か」
呟くナギトは、久しく聞いていた。 自身の存在意義を。誕生理由を。人々の願いを。
───────運命を、変えろ───────