閃の軌跡 〜八葉を継ぐ者〜   作:クラウンドッグ

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運命の刻

 

 

幻を見た。夢を見た。──何者かの記憶を見た。

 

 


知っている。知っている。知っている。

ここまでのすべてを、俺は知っている。
リィン・シュバルツァーとⅦ組が織り成す物語を、俺は知っている。

 

なぜ?どうして?
理由は明白。願いのせいだ。

 

 

七夕に短冊に願いを書くように、クリスマスにサンタに欲しい物を願うように、それは願われた。

 

 

 

 


俺が見たそれは、悲劇だった。

いつか見た、誰かの記憶。


対峙する灰と蒼。

裂帛の咆哮の後、交わる太刀と双刃剣。

 

 

 

 


いつか見た、誰かの記憶。

 

 

黒い靄に包まれた世界。


俺がいなかった世界。望んだ未来は訪れず。

蒼の騎士はその胸を貫かれる。

 

 

 

 


──「俺は……立ち止まっちまった………」

 

 

──「だがお前は……お前らは………まっすぐ前を向いて歩いていけ………」

 

 


──「……ただひらすらに……ひたむきに、前へ……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その意味が、今ならようやくわかる。

 

 

 

 


根源には、願いがあった。
ただ、願いがあっただけなんだ。


願いがあったから、俺は。

 

 

 

☆★

 

 

 

煌魔城最上層、《緋の玉座》へと至る回廊を抜け、昇降機で登った先に、クロウは待っていた。

 

 


「よお、来たぞクロウ」

 

 

「おう、来たかナギト……、みんなも」

 

 

交わる視線は哀愁を醸し出していた。ナギトとクロウは最早、宿縁の敵ではない。
その役目はすでにリィンに譲られている事は、二人共が熟知していた。クロウの《蒼の騎神》と渡り合える《灰の騎神》はリィンのものとなった。《起動者》たる資格はナギトも持っている。しかし、当の《灰の騎神》ヴァリマールがリィンを相棒として認めた今、その力を十全に振るえるのはリィンのみだ。


故に、クロウとの決戦はリィンのものとなった。

だから二人は、共通の友人の話をするのだ。

 


「リヴァルは、逝ったぞ」

 

 


ナギトの宣言に、クロウは目を瞑る。すでにわかっていた事だったが、言葉にされてより現実味が増す。

 


「……そうか」

 

 


短いやり取りだが、その中には言葉以上の意味が含まれていた。
リヴァルとクロウは境遇が似ている。親族が土地の管理者であり、それが鉄血宰相の手により奪われたのだ。クロウの場合は純粋に土地を、リヴァルの場合は管理する土地に起きた悲劇の真相を。
すべての真実は奪われ、闇に葬り去られた。

 

 

 

 

 

 

思いを馳せている場合ではない。

リィンはクロウに告げる。クロウをトワやジョルジュたちと一緒に卒業させると約束して来たと。
クロウは肩を竦めて「冗談だろ」と言う。

 

 


「それがあり得ない事くらい、いい加減、判ってるだろうが?」

 

 


現実を見据えたクロウの発言を、横にいるクロチルダが否定する「違うわ、クロウ」と。

 

 

「数多の困難や現実を前にただ立ち竦むのではなく……ある一つの想いを抱いて明日へ続く道を歩んでいく。──それを“夢”と言うのよ」

 

 

その通りだ。そして、その“夢”を夢物語にしないために、楔を打ち込んだ。

 

 


「そうだ、クロウ。その夢物語を現実にするために、俺がいる。………“後の楔”だよ。クロウ、お前もⅦ組の一員だろ。リヴァルだってそのために……」

 

 


ナギトに続くようにしてⅦ組の全員がクロウに言葉を浴びせていく。

クロウはそれで、困ったように笑った。
Ⅶ組に潜り込んだのは目くらましのつもりだったらしいが、このお人好したちのせいでここまで祟って来るとは。


そこで、空気を一変するように手を鳴らされた。音の発生源は、大樹のようなものに封印された緋い巨人の前に立つカイエン公だ。

 

 


「見果てぬ夢を共に追い求め、一時の情熱に酔いしれる……、これも若さゆえの特権だろう」

 

 


小馬鹿にしたようなセリフを並べるカイエン公。その横には目隠しされたまま椅子に座らされている皇太子セドリックがいた。
皆の注意は、さらにその後ろに向く。緋き巨人に。エマが言った。

 

 


「《緋の騎神》テスタ=ロッサ───永きに渡り帝都に封印され、幾度も災厄をもたらした存在」

 

 


使い魔セリーヌが続ける。

 

 


「“千の武器を持つ魔神”とも伝えられているわね。250年前、獅子心皇帝と槍の聖女に封じられたはずだけど……」

 

 


その言葉をカイエン公が肯定する。

 

 

「その通りだ。そして“起動”できるのは皇族アルノール家の血筋のみ。だからこそこうして殿下に協力して頂いている」

 

 


セドリックの顎をなでたカイエン公は笑みを浮かべる。

 

 


「私も私でささやかな“夢”があるのだよ」

 

 


高々と語るカイエン公。その夢とは、かつての祖先が追い求めたものであると言う。
オルトロス・ライゼ・アルノール。後の世に《偽帝》と称される人物。獅子戦役の時代、帝都を支配した彼の血をカイエン公爵家は継いでいるのだと。

今回の内戦を引き起こしたのは帝都ヘイムダルに眠る支配者の証である《緋の騎神》と《煌魔城》を手に入れるためのものであると。

 

 

「それこそが私の大望───公爵家の果たすべき使命なのだ!」

 

 


身勝手であると断じるのは容易い。しかしこの世はその身勝手で成り立っているのだ。
だから、カイエン公のそれを身勝手であると否定はしない。

 

 


「見果てぬ夢を追い求め、一時の情熱に酔いしれる………、これが若さゆえの特権ならば、あなたはそんな夢を見る事すら烏滸がましいのでは?」

 

 


だが、阻みはする。それが覚醒してしまえば、変えられなくなるからだ。


リィンがナギトに続き「クロウとのケリをつけるついでにあなたの野望も阻止させてもらう」と言った。

 

 


「小癪な……」

 

 


歯ぎしりをするカイエン公だが、戦えない者にはそれが限界だ。
そこで黙って見ているがいい。

 

 

「すぐに乗り込んでもいいが、それじゃ芸がないだろう」

 

 

クロウは剣を抜いた。騎神vs騎神の前に生身でやり合うのも一興と。

それはナギトとリィンがクロチルダとアリアンロードに連れられて行った精霊窟での出来事と似た、ある種の儀式のようにも思えた。

 

 

クロウとクロチルダ間に戦術リンクが形成される。すでにARCUSでの戦術リンクはⅦ組だけの専売特許ではないのだ。

 

 


交わされる言葉も少なく、戦闘は開始する。

 

 

 

「魔剣よ、踊りなさい」

 

 

玲瓏な声と共に宙空に剣が出現する。それらは舞うようにしてⅦ組に襲いかかった。魔女クロチルダによる“魔剣舞踏”───さすがに成長したエマを上回る練度を《蒼の深淵》は誇る。

 

 

「グリアノス」

 

 

Ⅶ組が魔剣を相手にしている間にクロチルダは次手に移っている。自身の使い魔グリアノスの名前を呼んで、その姿が巨大化したと思うと、それはブレスを吐き出した。

精霊窟でグリアノスと対峙したⅦ組は知っている。このブレスが奔流を思わせる破壊の吐息である事を。

 

 

皆が防御を固める一瞬で、その内に潜り込んだのはクロウだ。

 

 

「喰らいやがれ!」

 

 

“クリミナルエッジ”──勢い良く叩きつける双刃剣の回転斬りはⅦ組メンバーの大半を弾き飛ばした。

防御を崩されたところに吹きかけられたのはグリアノスのブレス。魔力の奔流が弾き飛ばされたメンバーを襲う───。

 

 

クロウとクロチルダの連携を見破っていたナギトは跳躍してそのコンボを避けていた。構えた太刀を地面に打ち付けるようにして振るう。

 

 

「裂甲断──!」

 

 

それをクロウは跳び退いて避け、グリアノスはブレスを中断して回避した。

 

グリアノスのブレスに灼かれたⅦ組メンバーも軽傷だったがしかし───、いかに人数で勝ろうと油断は禁物である事を再認識した。

 

 

「お前らが内戦で磨いてきた力…こんなもんじゃねえだろう!?」

 

 

「さあ、まだまだいくわよ……!」

 

 

 

 

 

 

 

 

頭は冴えていた。声が聞こえる。

 

 

 


───────運命を変えろ───────

 

 

 

 

 

戦いながら、その考察を形にする事を止められない。


この声はどのタイミングで聞こえていた?
《C》を前にした時だ。夏至祭の帝都地下で。《剣鬼》としての最後の戦いの場で。《C》と対峙した瞬間のみに聞こえていた。

 

《C》の正体はクロウだ。ではなぜ、クロウの前で声は聞こえなかったのか?

 

それは“時”ではなかったからだ。

 

“時”とは何か?


それは《C》の正体がクロウだと暴く瞬間の事だ。

《C》は仮面で正体を隠していた。だから仮面を割れば、必然その正体も割れるわけだ。
《C》の正体がクロウだとその時点でバレればどうなる?

 

声の言う通りになる(運命が変わる)

 


では、何故今も声が聞こえるのか?
それは運命を変える事ができる機会だからだ。クロウを救える最後のチャンスだからだ。

 


俺は知っているのだ。
このままでは、クロウが死んでしまう事を。

 

俺は見ていたのだ。あれの覚醒のせいで、クロウが死んでしまった瞬間を。

 


ただしそれは、今の、ナギト・シュバルツァーの目線からではない。
それはそう、俺の目線であったり、お前の目線であったりするわけだ。

 

 


ではまず、根本的な疑問を呈そう。

 

 

 

 

 

───────運命を変えろ───────

 

 

 

 


今も聞こえるこの声の主は?

 


──────────答えは、俺たち(〇〇〇〇〇)だ。

 

 

 

 

 

 

「終ノ太刀────暁!」

 

 

 

リィンの太刀がクロウの双刃剣を弾き飛ばす。パンタグリュエルの再現だ。しかし、今度はリィンとクロウの一騎打ちではない、Ⅶ組と蒼の異名を持つ二人の総力戦だ。

 

 


この場では、Ⅶ組が勝ったと表現するのが相応しいと言えた。
ただ、Ⅶ組のメンバーも満身創痍であり、辛勝というのが正直なところだ。

 

 

 

そして、前哨戦は終わり────

 

 

 

 

「さあ──終幕だ。ケリをつけるとしようぜ?」

 

 

「──ああ」

 

 

クロウの声に応えたのはリィンだ。それ以外には、その声に応える資格がなかった。


リィンは手を掲げ、彼を呼ぶ。

 


「来い───」

 


その時、ナギトとリィンの視線が交わった。

 

 

「《灰の騎神》ヴァリマール」

 

 

ヴァリマールは「応」と返事をする。その声が聞こえたのは《灰の騎神》の《起動者》たるリィンとナギトのみだ。
煌魔城の第一層の始点からここまで飛翔して来る。その間の、短いやり取り。

 

 

 

 


「頼むぞ」

 

 


「ああ、任せろ!」

 

 


義兄弟の会話。

程なくしてヴァリマールは到着し、リィンはセリーヌを引き連れて《灰の騎神》に乗り込む。
クロウも《蒼の騎神》に乗り込み、ここに最終決戦は始まった。

 

 

オルディーネ(クロウ)の双刃剣が、ヴァリマール(リィン)の太刀が交わっては離れ、交わっては離れる。剣撃の撃ち合いはワルツの調べの如く。

不思議とリィンと共に戦っている気になる。それは他のⅦ組メンバーも同じようだった。

 


クロウは奥の手を出し、それに合わせてヴァリマールも太刀から金色のオーラを放つ。
五分五分の勝負だ。リィンとヴァリマールは内戦が始まってからクロウとオルディーネに比肩する程に強くなったのだ。

 


やがて、決着はついた。
オルディーネは双刃剣を弾き飛ばされ跪き、ヴァリマールも力尽きたのか剣を杖に地に膝をつく。

 

 


「これ、は……」

 


「勝った、の?」

 

 

それは相討ちのようでありながら、しかしリィンとヴァリマールの勝利である。

 

 


「ええ、勝負あったわ」

 

 


サラがその事実を口にしようとして、

 

 

「リィンの勝ちだ!」

 

 


ナギトがそのセリフをかっさらう。いつかのお返しだ。

 

すると、Ⅶ組はリィンに喝采を送る。
ヴァリマールからリィンにⅦ組は駆け寄り、賛辞を浴びせる。

 

 

「ありがとう。信じて見守ってくれて」

 

 


その言葉に、ナギトは返す言葉を一つしか持ってなかった。

 

 


「ヴァリマールの《起動者》が、お前で良かったよ。俺じゃこうはならなかった」

 

 


知っている。ここまでは最高のエンディングへの道だ。だからこそ、ここからの悲劇が際立つのだ。

クロウもリィンに賛辞を送る。「騎神でのARCUSの戦術リンク……完璧に使いこなしてたじゃねえか」と。それが共に戦っていた感覚の正体なのだと納得する。


リィンはそれをこう説明した。

 

 

「それでも無心だった。多分、みんなの想いも含めて俺の一部になっていたんだと思う。ヴァリマールや……ひょっとしたらクロウまで含めて」

 

 


それは色即是空、彼我一体の境地だ。サラはそれを“剣の至境”と表現した。
リィンはそれを夢でも見ていたようで、もう一度は難しいと言う。締まらないオチだとみんなは笑う。

 

ナギトも「《剣聖》の域までは遠いようだな」と肩を竦めた。

 


そうしたらクロウは笑い出した。そして、敗北を認める。

 

 

「俺の負けだ───完璧に、完膚なきまでにな」

 

 


その落着を見て激昂した人物がいた。カイエン公である。ふざけるなと。これで終わりにするつもりか?と。
それにクロチルダは結社は今回の舞台を作り出す事が目的で蒼と灰の勝敗以外は興味がないと言っていたはずだと言う。


カイエン公は「こちらも手段を選ばぬまでだ」と言うとクロウやクロチルダの制止も聞かずにセドリックの目隠しを取ったかと思うと《緋の騎神》に押し付けた。

 

 


「殿下、覇道のお時間ですぞ。古のアルノールの血……存分に滾らせるがよろしい!」

 

 

 

セドリックと《緋の騎神》の接触地点に紋章が発生する。《緋の騎神》を起動できるというアルノールの血に反応しているのだ。

 

 

ダメだ。あれを目覚めさせてはいけない。あれが覚醒してしまったら、運命は変えられない。
ナギト・シュバルツァーが存在した意味がなくなってしまう。

 

 

だから、跳んだ。
風よりも疾く雷のように、ナギトは跳んだ。

 

こうなるとわかっていたのに、どうして自分は動かなかったんだ!?


リィンとクロウの戦いに見惚れてたからだ。それを見届けたいという衝動に駆られたからだ。

あの戦いを見届けた事に後悔はない。俺ならセドリックが《緋の騎神》に吸い込まれる前に助け出せると思ったからだ。

 

実際に間に合った。
カイエン公を突き飛ばし、セドリックの手をナギトは掴んだ。だがセドリックはすでに《緋の騎神》に吸い込まれ始めていた。

どんな力で引っ張ってもセドリックの体は《緋の騎神》に沈むのみ。《緋の騎神》はついにナギトの体まで吸収し始めた。

 

 


「ちょ、マジか……!」

 

 

すでにナギトの半身も飲み込まれてしまい、セドリックを見放したとしても逃れられそうにない。


飲み込まれる寸前、ナギトは叫んだ。

 

 

 

「くッ───ソがよおおおおお!」

 

 

 

 

 

ナギトはこうして《緋の騎神》に飲み込まれていった。

 

 

 

☆★

 

 

 

 

『馬鹿弟子へ

 

ヴァンダイク殿やおぬしの友人から話を聞くに、良い学院生活を過ごしているようで安心した。

やはり記憶喪失は良い機になったようだな。

 

おぬしが儂のもとを去ってから二年近くが経つ。大切な事は掴めたか?力だけではない強さを得る事はできたか?


もし、本物の強さを得る事ができたならば、こう名乗るが良い。

 

二代目 八葉一刀流とな。

 

それでは達者で。生きてさえいれば、またどこかで会えるだろう。また会える日を楽しみにしているぞ、我が息子よ。
                               ユン・カーファイより』

 

 

 

 

 

 


思い出されたのは、理事長室で呼んだ老師(じじい)からの手紙だった。あのじいさんにしてはまともな文面だな、と思ったことを覚えている。
それがどうしてこの瞬間に思い出されたのか。それは拠り所となっているからだと思う。剣の師にして父親たるユン・カーファイからの手紙だったんだ。無理はないと自分でも思う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ナギトは目を覚ました。周囲は緋い靄に包まれていて、自分の足すらぼやけて見えるほどだ。

 


気づくと、目の前には窓ができていた。丸い窓だ、そこからは映像が垂れ流されている。
魔法で形成した窓に酷似した窓の映像は、ヴァリマールとオルディーネが協力して、これに立ち向かっている姿だ。

 

 

これはなんだ?

これは《緋の騎神》が神の領域まで押し上げられた姿……《緋き終焉の魔王(エンド・オブ・ヴァーミリオン)》だ。

 


そこまで考えると、やるべき事がわかってきた。
このままではクロウは死ぬ。それは確定事項だ。何回も何千回も何億回だって同じエンディングしか流れていない。私は貴方を忘れない(I'll remember you)それしかない終わり方。それを変えるために自分は存在しているのだ。

 

だから、変えなければいけない。この運命を。クロウが死ぬという運命を、変えなければ。

 

 


と、力を入れても《緋き終焉の魔王》はピクリともしない。いくら《灰の騎神》の《起動者》と言えども動かせはしない。その時、足元で「う……」と声がした。


見てみると、そこにはセドリックが倒れ込んでいた。

 

 


クロウが死ぬという時にこいつは何を呑気に寝てんだ?
正統性のない怒りがこみ上げてくる。悪いのは身に余る大望を抱いたカイエン公だ。セドリックを《緋の騎神》に取り込まれる前に助け出せなかった自分だ。

 

 


「殿下……起きて下さい、殿下!」

 


声をかけてみるが、起きる気配はない。

 


「殿下、皇太子殿下!」

 


声を荒げるもまだ起きない。

 


「起きて下さい、セドリック王太子殿下!」

 


肩を揺すっても起きはしない。そろそろ焦る。

 


「起きろ!セドリック・ライゼ・アルノール!」

 

 

名を叫び、平手打ちまでしてようやくセドリックは目を覚ました。

 

 


「………あなたは……………」

 

 

「俺はナギト・シュバルツァー。Ⅶ組の一員だ。カイエン公の蛮行を止めるためにここに来た。ついでにお前さんも助けにな」

 

 

「え、あ、はい」

 

 

「んで、下手うって今ここだ。お前さんを助け損なった。だけどチャンスはまだある。おわかり?」

 

 

「え……っと。わかり、ます」

 

 

「いいか、《緋の騎神》を起動するためにアルノールの血……、つまりお前さんの血がいるんだ。その条件はクリア──今こうして騎神は魔神にまで変化して暴れまわっているわけだ。それで俺は灰の、とは言えども騎神の《起動者》だ。これで何のバグかはわからんが、緋のテスタ=ロッサ内部には《起動者》の資格が揃ったわけだ」

 

 

「えっと……つまり、僕たちがこれを動かすと?」

 

 

「その通り。寝ぼけてるとは思えないね」

 

 

「これでも帝国を治める皇族ですから」

 

 


軽妙とも取れるやり取りを終えた二人は立ち上がり、窓を見据える。あそこから見える景色……仲間と並び立つクロウを守る事だ。

 

 


「いくぞ。民草を守る覚悟はできてるか?」

 

 


「ええ、何としても。皇太子としてのつとめを果たします」

 

 


皇太子の肩に手を置き、意思を束ねてなんとか《緋き終焉の魔王》を動かそうと試みるが、状況は芳しくない。

 

 

それでも、刻一刻とシーンは進んでいく。いつも通りに。それを見て焦るべきなのだろう。しかし、ナギトの顔に浮かんだのは笑みだ。

 

 


「……ったく、妬けるなぁ………」

 

 


完璧な連携とはこの事だ。自分でさえ八葉一刀流という繋がりと一年の期間があってあそこまでリィンとの連携ができたのに。

クロウは今の今まで敵対していたのに。
クロウの隣にいた可能性が自分にもあったかもしれないのに。

 

 

 

 

「なにか言いましたか?」

 

 

「いや、なんでもないですよ」

 

 

その呟きをなかった事にして、また窓に向き直る。

 

 


「道は俺が拓く──行け、リィン!」

 

 

「判った──クロウ!」

 

 

《緋き終焉の魔王》の防御はすでに剥がれかけていた。敵意を向けてくる二機に向けて、千の武器を持つ魔神と言われる本領を発揮した。

 

《緋き終焉の魔王》の周囲に浮かんだ波紋からいくつもの武器が射出される。


クロウは裂帛の気合いでもって双刃剣を振り回し、射出される武器を弾いていく。

射出される武器だけでは迎撃できないと思ったのか《緋き終焉の魔王》の尾がピクリと動いた。槍のように尖った先端は武器としても使えるものだ。

 

 

知っている。これでクロウの心臓が貫かれると知っている。

 

 


止めろ。止めろ。止めろ。止めろ。


考えろ。考えろ。考えろ。考えろ。

 

 

 

これまでは漠然と全身を操ろうとしてダメだった。なら、一つの部位に絞って操作を試みればどうだ?


チャンスは一度きり。失敗すればクロウには死が、ナギトには存在意義の消失が待っている。

 

 

それでも、その可能性にかけた。

 

 

 


「尻尾だああああああああああああ!!!!」

 

 


「うああああああああああああ!!!!!」

 

 


ナギトの声にセドリックが応える。
クロウの心臓を貫くはずだった《緋き終焉の魔王》の尾は、動きが止まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


──────────道は拓かれた。

 

 

 

 


「八葉一刀流、七の型──」

 

 

ヴァリマール(リィン)が太刀を構えた。

 

 

「────無想覇斬!」

 

 

太刀は縦横無尽に振るわれ、ついに《緋き終焉の魔王》から核が取り出される。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

───────運命は変わった───────

 

 

 

 

 

 

 

 

溢れてきたのは安心感と充足感だ。それでもまだ足りないとばかりにナギトは遠くなる意識をなんとか繋ぎ止め、セドリックに話を持ちかける。

 

 

 

 

「殿下、この後、クロウはいい奴だって言ってくれると助かる」

 

 


「……わかりました。僕を殺人者の汚名から守ってくれたあなたの仲間です。悪し様には言いません」

 

 

セドリックも意識が遠ざかっているのか、返事は遅かった。しかし、それでも返事をくれた事に感謝する。

 

 

 

「………ああ、安心した」

 

 

 

 


意識が闇に落ちる最中、ナギトはそう口にしたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

蝶の羽ばたき、荒野の嵐(ナギトの存在、クロウの生存)

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