友の声
『……よお。お前がこのメッセージを聞いているということは、俺はおそらく死んでるという事なのだろう。 このメッセージは12月31日……お前との決戦前に録音していたものだ。今から一ヶ月後に、お前のARCUSに届くように設定した。……この戦いの後に俺が生き残れば、お前へのメッセージ送信はキャンセルするつもりだが。
……さて、まずは感謝をせねばなるまいな。 ありがとうナギト。お前のおかげで俺はおれの人生を取り戻す事ができた。俺の人生は報われた。……だから、ありがとう。
お前の事だ。「なぜリヴァルが死ななければならなかったのか?」なんて考えているかもしれないな。結論から言えば、狙いはお前のやった『幻獣討伐』と同じクロウの救済だ。《閃嵐の騎士》は貴族連合の英雄……、この内戦が正規軍側の勝利に終われば、敵方の英雄を倒した者の株が上がる……ただそれだけが狙いだ。
だから《閃嵐の騎士》を打倒したのはお前ではなくⅦ組だということにしろ。………まあ、この話も全部、クロウが生きていれば……の仮定のもとに成り立っているんだがな…………ナギト、お前ならクロウを助けてやれると思ったから、俺も躊躇わずに死ににいける。
………長々と語ってしまったが、本題はここからだ。いや、むしろ蛇足かもしれないな? これから語るのは、俺が半生をかけて知り得た《鉄血宰相》ギリアス・オズボーンの謎についてだ。
ギリアス・オズボーン………すでにクロウの狙撃によって命を落としたはずの男だ。無駄になるかもしれない。無駄になればいい。無駄にならなければいけないはずの男の話だ。
俺は、ギリアス・オズボーンが死んでいない可能性を考えている。 胸に大穴を開けられた人間が死んでないなんて……はは、冗談にもほどがある。だが、それでも俺はギリアス・オズボーンが生きているのではないかと疑っている。 じゃあ、クロウに撃たれたあいつはいったい何だったのか?影武者か?違う。クロウに撃たれたギリアス・オズボーンは本人で間違いない。あの宣説にあのカリスマ……あれがギリアス・オズボーンでなく何だというのだ。 ならばなぜ、撃たれたはずのギリアス・オズボーンが生きているのか?という話になるわけだが……あれは生きていたのではなく、一度死んで生き返ったのではないかと俺は考えている。 確証もなしに、推測だけで話すのはここまでにしておこう。
だが、その代わり確証ではないが、俺がそう推測するに至っただけの理由を聞かせようと思う。 《鉄血宰相》ギリアス・オズボーン……あいつが宰相になって初めての仕事は『ハーメルの後始末』。あのハーメルの悲劇の隠蔽工作の事だ。俺の家族もそれに巻き込まれて死んだようなものだ。 俺は復讐者となってまず、俺の家族を奪ったのが誰なのか探った………そして行きついたのがあのギリアス・オズボーンだったわけだが、そこからさらに調査を進めるにつれ、おかしな事が判明した。
ギリアス・オズボーンは宰相就任の祝いとしてか、家族旅行を計画していた。行き先はハーメル村だ。時はハーメルの悲劇の直前………これだけでもう、おかしいとは思わないか? 宰相ともなれば、ハーメル襲撃の件も知っていて然るべき。だがあいつは知らずにハーメル村に旅行しようとでも思ったのだろう。宿に予約まで取っていた。………だが、直前に予約をキャンセルしたんだ。ハーメルの悲劇の直前に。まるで土壇場で悲劇が起きると知ったかのように、だ。
不自然さはこれだけに留まらない。ギリアス・オズボーンは自身も含めて三人での家族旅行を計画していた。自分と妻と子供の三人だ。しかし、ギリアス・オズボーンの妻など、どこを探しても存在していなかった。書類上は存在する。戸籍もあった。だが誰も見た事がない。 それがギリアス・オズボーンの妻……カーシャ・オズボーンだ。
ならば子は?ギリアス・オズボーンの子供の名はリィン・オズボーン。奇しくもお前の義兄の名と同じだが、その子は存在していた。リィン・オズボーンの存在を確認した者はいた。しかし、その子もハーメルの悲劇の直後に行方不明となっている。………もしかしたら、お前の義兄リィンは、ギリアス・オズボーンがどこかへ里子へ出したリィン・オズボーンなのかもしれないな。
…………話が脱線したが、おかしいのは妻だ。カーシャ・オズボーン………存在しないはずの女。ハーメルの悲劇の直前に、人々の記憶と共に姿を消した人物だ。………俺はこれに、何かを感じた。なにか人の考えも及ばぬ不可解な現象を。神秘というやつを。
………それに、不自然といえば、俺もそうだ。俺はハーメルの後始末の際に腹部に銃弾を七発撃ち込まれ、一晩を越えて近隣の村の者たちに助けられた。まだ幼い俺が銃を七発受けて一晩生き延びる?どう考えても不自然だ。……俺は、それすらギリアス・オズボーンの仕業ではないかと疑うほどになっている。
俺がギリアス・オズボーンを、どこか超常的存在だと思ったのはいつからだったか…… ナギト………お前はギリアス・オズボーンにどんな印象を受ける?辣腕?剛腕か?………だが、それにしてもギリアス・オズボーンのやることなす事すべてがうまく行きすぎているとは思わないか?………今回の内戦だってそうだ。クロスベルという防壁を盾にカルバードからの侵略を避け、貴族勢力の力を弱める狙いとするならば、それはどんぴしゃりとすら言える。あいつはクロウの狙撃のタイミングすら操っていたのではないかとすら思う。
………ありえない話だが、こうもギリアス・オズボーンがうまく立ち回っているのを鑑みると、妄想してみたくもなる。
あいつは世界を繰り返してるのではないか?やり直しているのではないか?時間を巻き戻して間違いを正しているのではないか? でないと、あいつにとって常に最良となる結果がついてくるとは考えにくい。
もう一度言う。これはありえない妄想の話だが、ギリアス・オズボーンが時を巻き戻して、常に最良の結果となるようにやり直しているのならば、これまでの快進撃のすべてに説明がつく。 それに、ハーメルの悲劇の回避もだ。ギリアス・オズボーンは悲劇が起きると知らなかった。そして、悲劇が起きた村で自分が助かるために時を巻き戻して旅行に行くのをやめた。
………ははは。ありえない、話だ。 さてと、妄想話も聞いてもらったし、そろそろ俺は行くとするよ。お前との決戦にな。 ………どうか、達者でな。さらば、我が友よ』