閃の軌跡 〜八葉を継ぐ者〜   作:クラウンドッグ

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《灰色の騎士》リィン・シュバルツァー


《蒼の騎士》クロウ・アームブラスト

 

 


この二人は内戦の終結に尽力した若き英雄として前線に身を置き、敵の排除と味方の鼓舞という役目を担っていた。
それだけでなく、政府からの極秘の要請も遂行していた。

 

『英雄』という役目は権限こそないものの、その肩にのしかかるものは重責と言って過言ではなかった。


そんな英雄二人が、トリスタに帰還する。駅から降りた二人を迎えたのはⅦ組のメンバーだった。仲間であり友人でもあるⅦ組のみんなを見れば、なくした元気もいくらか取り戻せる。

 


皆から背を押される形でナギトが一歩前に出た。二人を迎える最初の言葉はお前がこそ言うべきだ、と。

 

 


「よう。…言いたい事、聞きたい事はたくさんある。だけど、とりあえずお疲れさま。それと………おかえり」

 

 


いつものニヤニヤとした笑みではなく、柔らか微笑みに、リィンとクロウもまた笑みを浮かべて応える。

 

 


「ただいま、ナギト」

 


「出迎えご苦労!……ってな雰囲気でもねえな。ああ、ただいま」

 

 

 

 

そのやり取りを皮切りに、皆が二人に声をかける。サラは(実はナギトも)このままお疲れさま会に洒落込もうと考えていたのだが、それを他ならぬⅦ組メンバーが許さなかった。
リィンを除くⅦ組のメンバーは、全員が今年で卒業するつもりだ。そのため、今のⅦ組は授業をハイペースで行なってもらっている。故に一度サボればもうついていけない、というのが実であり、そのためこのままお疲れさま会に洒落込むわけにはいかないのだ。

 

 


Ⅶ組のメンバー全員で学院への坂を登っていく。
雲一つない空はしかし、近づいてくる別れを予感させていた。

 

 

☆★

 

 

ライノの花が咲く頃に出会った、この仲間たち。これからどんな事があっても。例え敵になったとしても、友人と呼べるような……そんな得難いものを得た。


夏には共に星空を見上げた、この仲間たち。これからどんな事があろうとも、お前たちと星空を見上げた記憶は色褪せないだろう。


深くなる秋。もうその頃には俺たちはかけがえのない仲間として、一致団結していた。

最初は互いの距離に戸惑っていた。貴族と平民。相容れない身分の差に。しかし、それも時が経つにつれ問題ではなくなった。打ち明けた夢、生い立ち……、赤の他人だった俺たちが絆を深める様は、誰かからは不思議に思えた事だろう。

 

愛している。信じている。言葉じゃなく、感じている。響き合う鼓動が一つになった感覚を今でも覚えている。

今、別れのとき。手を振る君の涙を胸に焼きつけておくよ。たとえもう二度と会えないとしても。

 

 


I"ll remember you──私はあなたを忘れない。

 

 

 

 

☆★

 

 

 

 

 

「クロウが帰ってきて、またこの部屋が狭くなるな」

 

 


ニヤリと、いつもらしく笑ってそう言うナギトに、クロウもまた笑って言い返す。

 

 

「なんだ、俺がいない方が良かったのか?」

 

 

「まさか。もうお前がいないとなんか物足りなくなっちまってな」

 

 

「そいつは嬉しいセリフだな。…だが、聞く奴が聞けば、けっこうヤバめのセリフだぞ、それ。委員長ちゃ……エマとか」

 

 

「あー、そっち系か。……俺のセリフは健全な意味で言ったんだからな?」

 

 

「わかってるよ、まったく………。俺としても、お前とこうやってバカ話できるのは嬉しいんだぜ。ナギト」

 

 

肩を竦めるクロウに、ナギトは「ならいいんだが」と返し、表情を一変させ声のトーンを落とす。

 


「どうだった?」

 

 

要領を得ない質問はしかし、クロウにとってはそれで十分だったようだ。

 

 

「……やっぱ鉄血にいいように使われるのは癪だな。……しかしまあ、今はただ生き残れてる事に感謝だ。あの野郎を叩きのめす……次は正面からだ──と、心機一転できたのもあるがな」

 

 

 

ナギトが聞いたのは、クロウの心境だった。親の仇とも言える鉄血宰相ギリアス・オズボーンに従うという事は、クロウにとってひどく屈辱的な事なのではないかとナギトは考えていたのだ。
クロウの吐き出した言葉が、真実のすべてであるとは言えるまい。しかしそれでも、真実の一端である事は確かだ。

 

クロウは「ふ」と柔らかく微笑んだ。それは、その一助となったナギトへの礼でもあって。

 

 


「そいつは重畳……。クロウ、お前が生きてて良かった…………本当に」

 

 

「なんだよ、大袈裟だな。まあ確かに死ぬかも、とは思ったけどさ。あと、変なもんも幻視したし」

 

 


クロウのつぶやくような声にナギトは反応し復唱する。

 

「幻視?」

 

 

「ああ、《緋き終焉の魔王》に胸を貫かれるイメージだ。まあ、実際はそうならなかったんだから、単なる幻なんだろうけどな」

 


目を細めたのはナギトだ。だってそのイメージは、ナギトがいない場合の世界に起きていた真実だからだ。
もう、そんな事はありえないはずなのに、ナギトは少しだけ嫌な予感がした。

 

不思議に思っている事がある。
それは“クロウが生き残った”という事だ。もちろん、そう仕向けたのは自分なのだが、こんなに簡単だとは思わなかったのだ。


クロウの死は、言わば神により定められた物語。予定調和のはずの物語が狂ったというのに、何のテコ入れもしてこない。
ナギトというバグを発見し、その記憶を奪ったように、クロウの生存というバグを処理しようとしていない。バグを消すための修正力が働いていないのだ。

 

ナギトの本質──願いの化身が、あの異界の緋の玉座でそう暗示してからそういう不安が渦巻いている。

ナギトはそれを、クロウの生存という決定的バグによって、世界の修正力が働かなくなったためと納得しているが、油断は大敵だろう。

 

 

 


ナギトは妄想を振り払い、いつもの顔でクロウを見た。

 


「正夢にならないように気をつけろよ。特に夜道に注意だ。お前の敵は鉄血宰相……油断、慢心は厳禁だぞ」

 


クロウは「わかってらぁ」と返事をしてベッドに寝転がった。もう夜も更けている。明日の、最後の自由行動日に向けて今日は早めに眠るとしよう。
ナギトはそう思考し、クロウに倣ってベッドの上で目を閉じた。

 

 

 

☆★

 

 

 

 


3/13 自由行動日

 

 

 


今日は、今年でトールズ士官学院を卒業する者にとっては、最後の自由行動日だ。

 

この日、ナギトは存分に笑った。
リィンとアンゼリカのバイクでのレースを見物し、再びのブレードマスター選手権で優勝し、学院最強決定戦に参加する。

 

 

ナギトは言わずもがな、学院最強は自分だと考えている。《剣鬼》としての鬼気を取り戻し、ウィルとしての記憶を取り戻し、この学院で友らと笑い合った思い出が、ナギトを《理》に至らしめた。

 

 

今のナギトは誇張なく世界でも有数の武人、剣士だ。それは紛れもない事実で───、だからこの最強決定戦(笑)には参加しない事にしていた。

 

 

が。

 

 

「どれ、ナギトくん。君も来なさい。ユン殿の後継……八葉一刀流を継ぐ者よ。この儂がその剣力……測ってくれようぞ」

 

 

そう言ったのはリィンらと戦い惜敗──したかと思えば消耗もなく戦後すくっと立ち上がった学院長ヴァンダイクだった。

 

未だ名誉元帥として正規軍に籍を置く生きる伝説ヴァンダイク。装甲車を袈裟斬りにしたとか、機甲兵を相手に生身で渡り合ったとか逸話に事欠かない古兵だ。

他にもナギトやリィンの師匠であるユン・カーファイの知己でもあるとか。世間は意外と狭いと感じる。

 

 

「それはそれは。光栄な事です。しかし老骨に鞭打つ恩師をあまり見たくは───」

 

 

“ない”と続けようとして、発されたヴァンダイクの覇気にナギトは目を剥いた。

 

 

「御託はいい。かかって来なさい」

 

 

口調は穏やか。雰囲気は剣呑。恐ろしいほどに練磨された闘気はただでさえ巨躯のヴァンダイクを巨人の如く錯覚させる。

 

 

「はは」

 

 

思わず笑みが溢れる。ビリビリを大気を震わせるヴァンダイクの覇気はまさに達人クラス。軍人としてはおよそ最高峰の武力を誇るだろう。

 

 

「それじゃあお言葉に甘えて。行きます───」

 

 

踏み込む。最速の一刀は雷鳴を纏って。

 

 

「───よっ!」

 

 

剣鬼七式、外ノ太刀 雷の型 迅雷。

 

 

雷速の踏み込みはしかし、慢心の自覚のないナギトの慢心の証。スピードに特化した迅雷は直線を駆ける。それは達人にとって読むに容易い一撃だ。

 

 

案の定そのスピードを見切られたナギトを待ち受けていたのはカウンターの一閃。業風を引き連れたヴァンダイクの長大な斬馬刀が太刀ごとナギトを押し潰さんと待ち構えている。

 

それを見てとったナギトは直前で迅雷を取りやめ、斬馬刀を紙一重で躱す。刃は避けたが斬馬刀が纏った業風がナギトの頬を切り裂いていった。

 

 

しかしそれを気にする事ができるほど余裕のある状況ではなく。むしろ武器を振り切ったヴァンダイクは死に体というやつで、これはナギトにとってのチャンスだった。

 

地面に打ち付けられた斬馬刀を踏みつけて跳躍。そのままヴァンダイクの顔を足蹴にした。あまりにも硬い感触。

 

 

「岩かよ!?」

 

 

「もっと力を込めてよいぞ」

 

 

驚愕したナギトの脚を掴んで乱暴に投げるヴァンダイク。空中で体勢を取って危なげなく着地したナギトにヴァンダイクは追撃している。

 

 

「う、お、わ」

 

 

剛力で振られる斬馬刀を太刀でいなしていく。次の強引に振られた一撃を受けて距離を取り、ナギトは笑ってみせた。

 

 

 

「首がもげても知りませんからね!」

 

 

それはさっきのやり取りの続きだ。ナギトが本気で蹴れば普通に鍛えた軍人くらいなら首が飛ぶ(物理)。いかに鍛え上げられた肉体をもつヴァンダイクでも最悪の場合があるかもしれない。

 

しかし、それを押しても全力を出せる悦びをナギトは受け入れる事にした。

 

 

 

「剣鬼七式」

 

 

太刀に闘気を装填する。解き放つ一撃は方向を限定して威力を底上げした三ノ太刀。

 

 

「破空 : 突!」

 

 

迫る暴威を前にヴァンダイクもまた薄く笑んで斬馬刀を振るった。老練な一撃はしかし若さを思わせるほど荒れ狂った闘気の奔流で、ナギトの破空を相殺するのみならず、そのままナギトを蹂躙すべく猛っている。

 

 

「二ノ太刀改メ、螺旋流壁」

 

 

しかしそれは剣鬼七式、二ノ太刀“絶刃壁”を改良した防壁で防ぐ。“螺旋流壁”は迫る攻撃を螺旋によって受け流し拡散するナギトの新たな戦技だ。

 

 

「むうん!」

 

 

ナギトが螺旋流壁を解除すると同時にヴァンダイクの猪突猛進が襲う。察知していたナギトは十全の体勢で防御するが───

 

 

「ぐぅっ!?」

 

 

そのあまりにもあまりなパワーに押し負けて吹き飛ばされてしまう。

 

 

闘気の総量も出力もナギトはヴァンダイクを上回っているし、なんなら剣技においてもナギトが上だ。それなのに圧倒できないのは経験値の差か、あるいは───

 

 

校庭の端にまで飛ばされて着地。顔を前に上げるとヴァンダイクの投げ放った斬馬刀が目と鼻の先にまで迫っている。ローリングして回避。危うく死ぬ所だ。

 

 

地面に突き刺さった斬馬刀を引き抜いて、お返しの投擲。かなりの力を込めたつもりだがヴァンダイクは苦も無くキャッチした。

 

 

「返してくれてありがとう」

 

 

挑発も忘れずにセットされている。「ははは」とナギトはイラつきを噛み殺してヴァンダイクとの距離を詰めた。

 

 

「疾風──」

 

 

風のように鋭く、風のように軽やかに。刻む斬撃は疾風の如く────

 

 

「───孤影燎原」

 

 

着地の衝撃を跳躍に利用したナギトは無数の孤影斬でヴァンダイクを狙う。この戦技の連続も以前とは比較にならないほど練磨されていて。疾風の速度、孤影斬の雨あられは規模と威力を増していた。

 

 

「──喝!」

 

 

しかしそれを喝破だけで霧散させる老練の名誉元帥。

 

 

着地したナギトはヴァンダイクを見据えた。筋骨隆々な巨躯。さすがに最強格の軍人は違うものだ。

 

 

「こんなものかね?」

 

 

ヴァンダイクもまたナギトと同じようにその姿を見据えていた。自身とは比較にならぬ矮躯が、自身を圧倒するほどの心技体を持っている。それが自分の教え子ともなれば魂に火が着くのも当然だった。

 

 

「……さっきから…やけに挑発しますね、学院長」

 

 

「挑発?…ふむ、確かにそうかもしれなんだな。そんなつもりはなかったが」

 

 

つまりは本心だと。そう言うヴァンダイクにナギトは“徹底してるな”と感じた。

 

 

「わかりました。見せましょう……俺の八葉を」

 

 

ヴァンダイクはナギトの養父にして剣師たるユンの知己でもあるらしい。

この手合わせは“学院最強を決める”という以外にも八葉一刀流の後継者を試すという側面もありそうだった。

 

 

「八葉一刀流、始の太刀」

 

 

す、とナギトは太刀を大上段に振り上げた。攻撃に全振りしたその構えは誰から見ても隙だらけだ。これまでの目を見張るスピードや周囲を巻き込むほどの力もなく。波濤のようだった闘気の奔流はすっかりなりを潜めている。

 

 

ヴァンダイクは武の者ではない。軍に生きた戦人。軍に生きる上で武を納めたに過ぎず、その本質はどこまで行っても軍の者だ。しかし、その道の頂点に立った一握りの人間でもある。

 

だから、感じ取る事ができたのだ。

 

 

 

 

───────静謐。

 

 

 

至境の領域に踏み込んだ者のみが発する / 感知できるその雰囲気を。

 

 

 

「これがユン殿の………、面白い。……征くぞ!」

 

 

 

ヴァンダイクは久しく軍人としての血が沸き立つのを感じて、斬馬刀を力いっぱい握り締めてナギトに肉薄した。

 

胴を薙ぐ一閃。ヴァンダイクの全霊を乗せた渾身の、会心の一撃─────

 

 

 

 

 

「─────八葉一閃」

 

 

 

 

 

振り下ろされた太刀には尋常ならざる力はなく、見紛うほどの速度もなく。

 

それはまさしく素振りのようで。

 

 

 

両者、得物を振り切った。

 

それは本来あり得ない出来事だ。太刀と斬馬刀はどこかで打ち合うはずだ。鉄と鉄のぶつかる音が聞こえなければおかしい。

 

ナギトの矮躯とヴァンダイクの巨躯で武器のぶつけ合いで拮抗するほうがまだ自然だ。

 

 

 

「───────ッ」

 

 

 

息を飲んだのは誰だったか。少なくともナギトではない。ナギトにはこの結果がわかっていたから。当然の事が当然のように起きて息を飲む必要はない。

 

 

「───末恐ろしいのぅ」

 

 

ヴァンダイクの一言に場の空気が弛緩する。互いに得物を振り切った体勢から立ち直り、ナギトは太刀を鞘に納めて、ヴァンダイクはすっかり軽くなった斬馬刀を見て微笑んだ。

 

 

ヴァンダイクの斬馬刀は半ばから断ち切られていた。ナギトの太刀との拮抗はなく、一切の抵抗もなく、まるで空を切るように斬馬刀は斬られた。

 

 

「……自慢の得物だったのじゃがな」

 

 

「それは……すみません………?」

 

 

謝るべきなのか、少し疑問に感じたナギトは語尾に疑問符をつけてみる。

 

 

「いいや、謝罪の必要はない。………いいものを見せてもらった。ユン殿の後継……八葉を継ぐ者の技を体験できたのは万の軍を動かすよりも価値がある」

 

 

「恐悦です」

 

 

 

そうしたやり取りを経て試合は終わりを迎えた。結局学院最強は有耶無耶になったが、そんな称号よりも輝くものを得たとその場に集った者皆が一様に感じていた。

 

 

グラウンドから去るヴァンダイクは生徒たちの視界から外れたところで膝を折った。

 

 

 

「ク……、ははは………老体には堪えるのう」

 

 

脂汗が全身から噴き出す。あと一歩でも踏み込んでいたら命はなかったという確信がヴァンダイクにはあった。

 

 

「まったく……もう若くないのですから、無理はなさらない事です」

 

 

《死人返し》のベアトリクスでさえナギトの一刀には怖気を感じていた。ヴァンダイクの業物を豆腐のように斬った事もそうだが、人に死を確信させるほどの何かがあるのだと。

 

 

「ふ……手厳しい」

 

 

言葉少なに呼吸を整えたヴァンダイクが立ち上がる。

 

 

「でも、生徒たちの前で無様を晒さなかった事は褒めてあげます」

 

 

やんわりと微笑んだベアトリクスにヴァンダイクもつられて笑う。

 

 

「そりゃ嬉しいのう。これだけであと10年は生きられるわい」

 

 

「…ご冗談を」

 

 

そんな軽口を交わす老体2人は、本当にまだまだ現役を続けそうであった。

 

 

☆★

 

 

 

「ナギトは……《剣聖》なのか?」

 

 

夕食後、第三学生寮の自室でクロウと談笑していた所に訪問してきたリィンが神妙な顔をして切り出した第一声がそれだった。

 

 

《剣聖》────それは八葉に連なる者にとって特別な意味を持っていた。

 

例えば《痩せ狼》。例えば《黒旋風》、《漆黒の牙》、《不動》。

世界には数多の強者がいて数多くの異名がある。どれも大層な呼び名だが、それそのものに大した意味はない。

 

しかし《剣聖》だけは話が別だ。それは八葉一刀流において奥伝を認められた者だけが名乗る事を許される称号で、それは武術における極致《理》に身を置くほんの一握の人間である事の証左でもあった。

 

 

聞かれて薄くニヤリと笑んだナギト。一拍置いた彼にクロウはお膳立てをするように情報を並べたてる。

 

 

「少なくとも、かつてのナギト───《剣鬼》ウィル・カーファイは名乗っていなかったはずだぜ。強さだけは本物で、そいつは俺も太鼓判を押すが……」

 

 

クロウはかつてウィルと戦った記憶を掘り起こして苦い顔をした。騎神を持ち出してやっと勝てた相手だ。

 

 

「俺も老師から少しだけ話を聞いた事がある。俺と同じくらいの歳で、すべての型を皆伝し……しかし至らぬ弟子がいると」

 

 

語るリィンにナギトは「かっ」と大仰に笑った。

 

 

「そりゃ俺だな。確かに至らぬ弟子、至らぬ子だったよ」

 

 

ナギト──もといウィルは才に溢れようとも決して良い弟子ではなかったはずだ。すべての型を皆伝しても《理》には至れず、あまつさえ《剣鬼》とさえ呼ばれるほどの悪行三昧。

 

 

「でも今…そう言えるって事は………ナギト、君は“至った”という事なんじゃないか?」

 

 

「なんでそう思った?」

 

 

「ヴァンダイク学院長との立ち合いを見て。ナギトは強い──それは元から知っている。だけどそれだけじゃない気がしたんだ」

 

 

リィンの言葉はどこか朧げで。しかし確信を孕んでもいた。今はそれを言語化できていないだけなのだろう。

 

 

「特に…あの最後の一閃。八葉一刀流の“始の太刀”だったか?煌魔城でもルーファスさんと対峙した時に使った技だよな。あれが特に印象に残ってて………」

 

 

リィンもそれがわかるという事は、やはり一度でもその領域に踏み込んだ事実の証明になるだろう。ナギトは少し嬉しい気持ちになった。

 

 

「そうか、それを感じ取れたのは成長だな。……“始の太刀”はその名の如く八葉一刀流の始まりの技。すべての極意をただ一刀に乗せて放つだけの──素振り」

 

 

「おいおい」

 

 

「ただの…素振り……!?」

 

 

ナギトの言い草にクロウもリィンも目を見開いた。されども両人ともナギトがヴァンダイクと手合わせしたその場に立ち会った事から、それが嘘とも思えなかった。

 

 

「いや…でも……そうか、素振り……」

 

 

「リィン、わかるのか?」

 

 

クロウの問いかけにリィンは顎に手を当てながら考えるようにして呟いた。

 

 

「素振り……っていうのは結果……? 結果ありきで太刀を振ってるのか……?…………ダメだ、上手く表現できない」

 

 

リィンはお手上げという様子で、そんなリィンをナギトは「ははは」と笑う。

 

 

「まだまだ精進あるのみだな、リィン。…んで、さっきの質問の答えは──“否”だ」

 

 

ナギトが答える最初の質問へのアンサー。“《剣聖》なのか?”という問いへの答えは“否”であった。

 

リィンが何かを問いただす前にナギトは先手を打って答えておく。

 

 

「とは言っても《剣聖》級なのは間違いない。謙遜なしに言って………そうだな、《剣聖》として代表的なカシウス・ブライトとも今は遜色ない…以上の実力があると自負してる」

 

 

 

「そりゃ大きく出たな」と笑うクロウも、ヴァンダイクと互角に打ち合い、果てにはその得物を両断した光景を目の当たりにしては認めるしかなかった。

 

 

 

「老師からの手紙にあったよ。俺が“本物の強さ”を得たのなら二代目八葉一刀流を名乗れ、とな。俺がもう八葉を継ぐ者である以上は自ら《剣聖》を名乗る事も許されようが………、まだ実際に老師から認められたわけじゃないからな。それに認められたとしても《剣聖》を名乗るつもりはないし」

 

 

 

「《剣聖》は名乗らない……か。八葉一刀流の二代目伝承者なら老師の《剣仙》を継ぐつもりか?」

 

 

 

「それはなんかジジ臭いからやだ」

 

 

わざとらしく渋面を作ったナギトにリィンとクロウは笑い、つられてナギトも笑う。

 

 

 

 

それは紛れもなく内戦以前の関係と同じで。

 

 

こんな当たり前の日々が、何よりも美しいと。こんな日々を取り戻すために、自分は戦ったのだと確認した。

 

 

 

☆★

 

 

 

 

 

不意に、世界が反転した。

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