Lobotomy Corporation~Unbekannt Unterabteilung~   作:御鏡

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何も無い

何も無い、何も無い。私は何も持っていない。

私が私であるという自信さえ、とうの昔に失くしてしまった。

唯一あると、胸を張って言えるのは……一体、何なのだろうか。

それすらも分からなくなってしまったようだ。

 

 

矢田目宗次郎。瞼を縫われた男は、そう名乗った。趣味や身長、好きな物については何なりと答えるのに、何故瞼が縫われているのかを聞いても、無言を貫き通すだけで、何も答えようとはしなかった。

話は不意に、桔梗は一体何者なのか、と言った内容の話題に変わる。

 

「な、何者だって聞かれても……本当にただの新人ですよっ…?」

「ただの新人が罪善の作業で普通を出せる訳がなかろう、本当の事を言え。」

「そうですよ、同じ職場で働く仲間なんですから、本当の事を言ってくださいっ!!」

「えぇ…?そんな事言われても……あ、唯一普通と違う事をあげるなら……」

 

桔梗が、唯一『他者と違う特別な点』について語ろうとしたその時、施設内に警報が鳴り響いた。

 

【Warning,warning.Little Helper has escaped.Suppress immediately,please.】

 

「えっと…これは、アブノーマリティさんが脱走したって事で、良いんですよね?」

「うむ…まぁ、そうじゃな……」

「じゃあじゃあっ、私先に行ってますねっ!多分説明するより見せた方が早いですしっ!!」

「ちょっ、桔梗さんっ!?」

 

ルークスと宗次郎の制止の声を聞く間もなく、桔梗はその場を走り去ってしまった。自分の武器を抱えて、大層嬉しそうに笑みを浮かべながら。

 

 

「…Shot.」

 

その男は、オールアラウンドヘルパーの後を追い掛けては、与えられた武器から弾を発射していた。【Magic Bullet】と呼ばれるそれは、男が使うには最適の武器だった。

入社してから、ハンドガンやクロスボウを支給されてばかりだった男が初めてそれを手にした時、男の表情は誰よりも輝いており、それからと言うもの、男は鎮圧作業において過去の成績を覆すかの如く貢献した。

あのロンドン・シュレディンガーでさえ、一目置く程であった。

 

「待たぬか馬鹿者、死に急ぐ必要は無かろう!!」

「鬼ごっこなんかしてる暇ないから!早くボスぶっ倒してセーブしたいしさ!!」

「待ってくださいよ桔梗さ~んっ!!」

 

嗚呼、騒がしいな。声からして三人、内二人はルークスさんと宗次郎さんですか。女の声も名前も聞いた事がないが、新人か……嗚呼、面倒で仕方ない。早々に鎮圧して早く業務を終わらせよう……

 

バロウズ侯爵家の長男に生まれた男は、プライベートにおいて女性と一切の関わりを持たないようにしている。何故なら、幾度となく裏切られたからだ。もっとも、極めつけは最後に付き合った女性を、男が裏切ってしまった事にあるが。

とにかく、男は女性と関わりを持たないようにしている。仕事では仕方なく接しているが、その時の彼は淡々としており、用件が済めば早々にその場を去る。

 

近付かないで…最低よ、ずっと騙してたなんて……だから、こんな別れ方になるのよ……ごめん、なさい……永遠に、さようなら。

 

嗚呼、死んじゃいマシたね。アナタが不甲斐ない所為で。

 

記憶の中の女性と良く似た女の声に、男の脳裏を、憎くて堪らない人物の言葉が過ぎった。男がずっと欲していたものを、やっと手に入れたそれを、いとも容易く、卑劣な手段を使って奪ったその人物に、バロウズ侯爵家の長男、エーミールは殺意さえ覚えていた。

 

「っ……私だって、私だって、そんなつもりは無かったと言うのに……!!」

 

エーミールが感情任せに撃った弾は、オールアラウンドヘルパーの装甲を貫く。桔梗がそこに到着したのとほぼ同時に、オールアラウンドヘルパーの姿は消えた。

 

「は?ボス何処?いないじゃん…すみません、何か知りませんか?」

「………貴方が探しているボスとやらと同じ存在かは知らないが、脱走していたアブノーマリティは私が倒した。それだけだ。では、私は次の業務があるので失礼する。」

「……?」

 

苦虫を噛み潰したような表情をしてその場を立ち去ったエーミールに、桔梗は首を傾げるばかりであった。

 

 

「成程ねぇ……ハスターが引き入れたがる理由が良く分かりましたよ。一見すればそこら中にいる普通の女と変わりはしないが、アレもまた確かに狂気に満ちている……では、ワタクシもご挨拶と行きましょうか。」

 

ニヤニヤと笑っているであろうその人物の顔は、奇妙な仮面に包まれ、見る事は叶わない。それどころか、誰も許されない。

桔梗はこれから起こる、この人物との最悪の出会いを知らなければ、久々に就いた職場と、そこで働く者達の唯一の共通点も知らないのである。




・蝶之燈 榮海/エーミール=バロウズ[チョウノビカリ エイミ] AGE:33 GEN:Man TEAM:Extraction
英国侯爵の父と非常に淑やかな日本人の母を持ち、裕福な家系に産まれたエージェント。女性不信である。本来であれば爵位を継ぎ、侯爵となる筈であった。そんな彼が、ここに居る理由を知っているのは、一部の者だけだ。

・収容違反中のアブノーマリティ
 ・【Nothing】

・職員:今日の一言
 ・エーミール「……女は嫌いだ。あの人を思い出させるさっきの女は、特に憎たらしくて仕方がない。」
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