Lobotomy Corporation~Unbekannt Unterabteilung~ 作:御鏡
次に桔梗が目を覚ました時、彼女は医務室の白いベッドの上で横たわっていた。ゆっくりと身体を起こせば、すぐそこに見えるのは巨大なメス。ビクリと肩を跳ねさせるも、その持ち主らしき人物は何処にもいない。
「お、やっと起きたか。調子はどうだ?」
ゆっくりと扉を開きながら入室してきたのは、桔梗をここまで運んできた張本人であるロンドンだ。煙草を片手に煙を吐き出す彼女は、何処か儚げな雰囲気を放っている。
「ここまで運んでくださったのは、あなたですよね?有難う御座いました…先程は何が起こっているのか、理解出来ませんでしたが……しかし、ここで働くと言う事は即ち、先刻のような事象に慣れなければならないと言う事でしょう。それが俗世の役に立つと言うならば、私は喜んで受け入れます。」
「…へぇ。案外気丈なんだな。まあ、パニックにならないよう気を付けろよ……あ、その前に管理人室か。お前、まだ何も支給されてないだろ?案内してやるからさ。」
そう言って、ロンドンは桔梗を立ち上がらせる。そして、未だ緊張している様子の彼女に、紫色の缶ジュースを手渡した。
「これ飲めよ。少しは気が楽になるだろうしな。」
暫く桔梗は呆けた様子だったが、ロンドンが医務室から出て行った事を知ると、慌てて後を追って廊下へ出た。
缶ジュースの蓋を開けて中の液体を一口飲むと、爽やかなソーダの味と、甘い葡萄の味が口の中に広がる。
「美味しい…有難う御座います!」
「礼は俺じゃなくて満に言えよ。ヘルパーの鎮圧後、お前を心配して持って来たのはアイツだからな。」
「満さん、ですか。」
満の名を復唱した桔梗の耳に、不意に音楽が聞こえた。オルゴールのような音色だ。それは、彼女から見てすぐ右隣の部屋から聞こえるようだった。何の音なのか、と尋ねる桔梗にロンドンは舌打ちを零す。
「その音は30秒以上聞くと精神に異常を来たす。今使ってんのは……どうせ自己犠牲精神の半端ないアイツだろうな。」
「誰が自己犠牲精神の半端ない奴ですか、ロンドンさん?」
桔梗が音の原因となっている部屋を通り過ぎて数秒、後ろから声が聞こえた。オルゴールの音色はすっかり止まっていて、桔梗はその声の持ち主が鳴らしていた事を理解する。
ロンドンは後ろを振り返り、
「何だ、もう止めたのかルーカス。お前にしちゃ珍しいな?」
と尋ねた。ルーカスと呼ばれた男は酷く顔を顰めて答える。
「あのですねぇ…ルークスと呼んでくださいよ。確かに紛らわしいですけども…そう言えば、そちらの御方は新人さんのようですが…管理人室へ?」
「悪かったって…ま、そんなところだわな。」
「左様ですか…おや、これはこれは…私も作業の指示が入りましたので、これで失礼しますね。新人さん、早々に"退社"しないよう、お気を付けください。」
ルークスと名乗った男はくるりと踵を返し、その場を立ち去った。彼の後ろ姿に、桔梗は手を振る。しかし、ロンドンは険しい表情で彼が去って行った先に続く廊下を見詰めて続けていた。
「あーあ…やっぱり気付かれちゃったよねェ…駄目だなァ。ロンドンが相手じゃ、ウチの特技も意味無いし…ツマンネェなァ…」
男はクツクツと笑うと、命じられた作業をするため、あるアブノーマリティの収容室へと向かった。【O-06-20:Nothing There】の収容室へと。
・各職員の担当アブノーマリティについて
一人につき一体のアブノーマリティと言う訳でも、一体のアブノーマリティにつき一人と言う訳でもない。複数体のアブノーマリティへ作業を行う職員や、数人の職員に交代で作業されるアブノーマリティもいる。
また、アブノーマリティの担当を割り振られた後でも管理人の指示によっては別のアブノーマリティに作業をする事もある。
・ルークス=ルーカス=シンフォニカ[ルークス] AGE:27 GEN:Man TEAM:Welfare
とある収容室から姿を現したエージェント。ドイツ人。身長は175cm程で、白い髪と真黒な瞳を持つ。
自ら管理人に文句を付けて、音楽関連のアブノーマリティを全て担当する程に音楽を愛し、音楽に魂を捧げ、音楽に包まれて"退社"する事を夢見る男。
音楽関連のアブノーマリティに魅了されても、言動が普段通りに見えるためあまり管理人には気付かれない。一部の職員からは密かに、"静かなオーケストラの人間版"と呼ばれている。
他の職員が少しでも精神面で変化を見せるのに対し、入社当時から何一つ変わらない。
しかし、入社直後に見せた態度からエージェントロンドンは彼の事を、ルーカスと呼んでいる。
・収容違反中のアブノーマリティ
・【Nothing】
・職員:今日の一言
・ルークス「嗚呼、今日もまた音楽が施設全体に響き渡っています…美しい。」