Lobotomy Corporation~Unbekannt Unterabteilung~ 作:御鏡
身体が熱い。未だに施設でのあれが響いているようだ。
嗚呼、明日は休もう。矢張り私の居場所は此処しかない。此処でなければならない。此処以外では、認めて貰えない。他の企業では、こんなに休みを貰える事は無いのだろうから。危険な作業は多いが、休みの代償と思えば気も楽になる。
だからこそ、今日は久し振りに演奏会を開こう。新人の歓迎会も兼ねて…ピアノ、ヴァイオリン、フルート、チェロ、クラリネット、トロンボーン、それからチェレスタ…まだまだ足りないが、きっと皆様なら取り合ってくれるでしょう。
嗚呼…… 楽 し み だ 。
「うふ……ロンドンさん、私は少し用事がありますので、新人の……ええ…何と言いましたか。」
「え、えっと、桔梗、です…ルークスさん、よろしく、お願いします。」
「桔梗さん、ですか。はい、よろしくお願いしますね。ではロンドンさん、彼女の案内は任せましたよ!」
ルークスは、一瞬だけ不敵な笑みを浮かべる。パンプキングもロンドンも気が付いた。もしもの話だが、累がここに居たとしても気付いただろう。しかし、桔梗だけは気付かない。ルークスは、桔梗の案内をロンドンに押し付けると、颯爽と寮の中に入ってしまった。
「……彼奴は無名の指揮者。僕の頭はがらんどう。狂気に呑まれていた僕等二人は………ケケケケッ、半分くれぇアブノマに近ぇ存在だなぁ……」
「……じや、俺が案内する。行くぞ。」
パンプキングは首を擦り、ボソリと呟きながら、ロンドンは桔梗の手を引いて、中に入った。
それからは早かった。寮の中を案内して貰って、夕食を取って、自室に案内されて……ベッドの上で寛いでいた桔梗は、不意に扉の下に何かが挟まっているのに気が付いた。
「何だろ…?」
ベッドから降り、扉の下のそれを手に取る。どうやらそれは、手紙のようだった。
拝啓 小日向桔梗 様
本日20時ヨリ、1階大ホールニテトアルイベントヲ行イマス。
新入社員デアル貴女様ノ歓迎会ヲモ兼ネテ行イマスノデ、是非トモオ越シクダサイマセ。
敬具 Lux Lucas Symphonica
淡々とした綺麗な字で。しかし、何かしらの想いが籠っているのだろう、震える字体で書かれたそれ。
自身の歓迎会をも兼ねて貰えるのかと、桔梗は心躍らせた。しかし、今はまだ18時であり、もう少し休んでいようかと思った彼女は、テーブルの上に手紙を置くと再びベッドの上に寝転がった。
そして、彼女の意識はそのままフェードアウトして行った。
気が付いた時、桔梗は薄暗い路地裏を只管に走っていた。否、正確には、自分ではない誰かの記憶を、夢の中で体験していた。頬を撫でる風、荒んだ呼吸、痛みに悲鳴をあげる身体……何もかもがリアリティに富んでいて、一瞬間は夢現の境が解らなくなる程だ。
「あっ」
足が縺れて、記憶の持ち主は転倒した。どさりと、地面に叩き付けられた衝撃が身体中を駆け巡り、次いでじわじわと痛み出す。咄嗟に口から漏れ出た声は中性的で、女にしては些か低く、男にしては高かった。しかし、桔梗はその声を何処かで、つい最近聞いた事があった。
「あんま逃げんなよ、××××サン。逃げたってアンタが苦しくなるだけだろ?」
背後から声がして、振り向いた瞬間に私は押し倒される。押し倒した張本人であろう男が、腹の上に乗る。その後ろでは男の友人らしき連中が、下卑た笑みを浮かべていた。
「嗚呼、嫌だ、嫌だ…っ…やめてくれ…」
私は必死に身を捩り抵抗するが、元来華奢な身体でまるで女のようだと言われ続けて来た私が、身体付きの良い男の力に適う筈もない。怖い、怖い。どうしようもなく怖い……!!
無骨な手が服の中に入り込んだその瞬間に、桔梗の意識は遠くに引きずられた。ずるずると意識が遠のき始めた夢現の狭間で、桔梗は声を聞く。
苦しい助けて助けて逃げたい嫌だ気持ち悪い怖い死にたい痛い気持ち良い殺してもっと欲しい悲しい寂しい苦しい怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ!!
…逃げたくても、逃げられない。直にあなたも理解出来ますよ、桔梗さん。
そこで、目が覚めた。
記憶の持ち主=登場済の誰か、とだけ言ってみる。そして私は言い逃げする。
・収容違反中のアブノーマリティ
・【Nothing】
・職員:今日の一言
・満「おい、儂の部屋の扉の下にこの手紙を入れたのは誰だ?
……否、奴であろうな。つかぬ事を聞いた…では、儂はこれにて。」