Lobotomy Corporation~Unbekannt Unterabteilung~ 作:御鏡
嗚呼、またあの夢だ。管理人さんと初めて会った日の夢。見る度に嗚咽が漏れる。吐き気がする。
出来る事なら、あの時の男の腕を引き千切り、脚を捥ぎ、耳鼻を削ぎ喉を焼き眼を潰し臓物の全てを使い物でなくし、そして積み上げて来た全てを踏み躙ってやりたい。私の矜恃を蹂躙した罪は重いのだから。
目覚めてすぐ、ルークス・ルーカス・シンフォニカは指揮棒を手に取った。彼がそのまま腕を振るうと、それはヒュッと空を切る。その音に、ルークスは感嘆の息を漏らした。"音"や"音楽"を愛する彼は、その音だけでも興奮しそうなのだ。
しかし、壁に掛けた時計の短針は今にも8を指そうとしている。
「…心惜しいですが、そろそろ行かなければ。折角声を掛けたのに、私が行かなくて何になる…」
唇を噛み締め、脳裏を過ぎる悪夢を払拭すべく緩く頭を振ると、ルークスは部屋を後にした。
「あの、累先輩、ロンドン先輩は…」
「ん……嗚呼、ロンドンはんは主催側やってん。許したってや?」
「…薄暗いな。灯りは儂の陰陽術で十分だろうか。」
「待って満。それ使い方間違ってる。」
「首が痛い。捥げそうだ……」
「Zzz…狂研究者君は今日も研究に身を打ち込Zzz……」
1階大ホールの座席には、数人が集まっていた。本来なら、より多くの職員がいるのだろうが、皆作業に疲れているのかあまり人数が集まらなかったらしい。
「…にしても、あのカーテンの向こうには何があるんでしょうか…?」
「それはやな―――」
カーテンに覆われた舞台に目を向け、ポツリと零した桔梗の呟きに答えようと累が口を開いた刹那、照明が完全に消えた。満が灯していた陰陽術の灯りも消え、会場が闇に包まれる。
「Ich widme diese Musik einem neuen Mitarbeiter,Kohinata Kikyo.」
舞台上、スポットライトの灯りの下。音楽記号の配われた、白い燕尾服を着た男の姿が浮かび上がる。男は流暢にドイツ語-だったのだが、桔梗は最後に自分の名前を呼ばれた事以外解らなかった-で喋ると、少し会場を見渡し、桔梗に向けて恭しく礼をした。そこで、彼女は舞台に立っている男がルークスである事を初めて理解した。
スポットが消え、シーリングライトの灯りが点る。桔梗は眩しさに一瞬眼を閉じたが、ゆっくりと眼を開け、思わず息を呑んだ。
舞台上の管弦楽団は、美しかった。彼女の心を奪った。そんな桔梗の横顔を見ながら、累は頭の片隅で思う。
(……ルークスはんの過去聞いたらどないな顔すんねやろか。ちょっと試しとうなるな…)
ヴァイオリンの弦を弾く音がして、累は舞台に目を向ける。既に演奏は始まっているらしい…成程、あの会社に入社する職員には相応しい曲だ。累は微笑を零した。
一曲目の、"金平糖の精の踊り"が終わると、聴衆は拍手で奏者を讃えた。しかし、管弦楽団は客席に向けて軽く一礼すると、自身の楽器と椅子を持って、颯爽と舞台袖に消えて行った。桔梗が首を傾げていると、入れ替わりにピアノが運ばれて来る。
二脚並べられた椅子に、ロンドンとルークスが座った。
「お、今回もあるんやな…桔梗はん、良う見とき?あの二人の連弾はごっつええねんから。」
「は、はい…!」
桔梗が食い入るように二人を見つめる。ルークスが最初の一音を奏でると、ロンドンの指も動き出す。滑らかで優雅な指の動きに、桔梗は何時しか魅入っていた。
演奏が終わり、ルークスとロンドンは恭しく礼をする。桔梗が誰よりも大きく拍手を送る中、ルークスはロンドンを振り向かせ、そして徐ろに―――――手の甲へ口付けた。ロンドンは一瞬間動きを止めると、小走りで舞台袖へ消えて行く。
「ぶっははははははははは!草生えるんやけどんふふふふふふっ!!」
「Ist es so humorvoll,denen,denen Sie vertrauen,Respekt zu zollen?Herr Depression.」
ルークスが舞台から降り、桔梗と累の前まで歩いて来る。燕尾服の裾を翻しながら歩く彼は、研究施設で見た人物とは全くの別人に見えた。
「いや、ちゃいますやん?ホンマあんさんあれやな思てもうてえっへへへへへいったぁ!?」
「Kühlen Sie Ihren Kopf.Ich respektiere sie wirklich.」
ルークスに小突かれ、累は頭を抑えた。ルークスが桔梗の前に立つ。彼は桔梗の前に跪くとその手を取り、甲に口付けた。
「…職員一同、アナタを歓迎しておりますよ。桔梗様…」
クスクスと笑うと、ルークスは踵を返して舞台上へ戻って行った。再び客席の方を向いた彼は、妖しい微笑を浮かべ口を開く。
「皆々様、本日は疲弊しているにも拘わらず誠に有難う御座いました。ご協力してくださった皆様も、有難う御座います。皆様に幸多からん事を。」
神父のような言葉を残すと、彼は再び礼をして舞台袖へと消えて行った。大ホールから人が退いて行き、桔梗と累の他には誰も居なくなる。累が桔梗の手を取り、彼女を立ち上がらせた。
「桔梗はん。明日からは本格的な仕事やし、僕等も休みましょや?」
「ほな、僕の部屋ここやから。あんま距離遠くあらへんから、大丈夫やろ?」
「はい、大丈夫です。累先輩、ありがとうございました!」
累の部屋の中からは、煙の匂いが漂っていた。その匂いが遮断され、途端に桔梗は目眩に襲われる。嗚呼、独りは寂しく恐ろしい。長く続く廊下に、以前の職場を思い出してしまった。思わず倒れそうになった桔梗の手が、強く引かれる。
「…新人、噂に聞いたが、静かなおーけすとらを鎮圧したらしいではないか。そんな貴様がこのような場所で卒倒し掛けるとは何事だ。気を付けぬか愚か者。」
顔を隠した背の小さな男は、それだけ言うと足早に去ってしまった。
何だったのかと桔梗が首を傾げていると、既に自室の眼の前で、暖かな布団の上に倒れると、彼女の意識はすぐに遠のいた。
ドイツ語のところはGoogle翻訳に押し付けたのでとんでもなくガバガバだと思います許してください()
・収容違反中のアブノーマリティ
・【Nothing】
・職員:今日の一言
・ルークス「Herr,vergib mir.Ich habe wieder gesündigt.」