Lobotomy Corporation~Unbekannt Unterabteilung~ 作:御鏡
「おはようございます、桔梗さん。仕事の時間ですよ、一緒に行きましょう?」
泥のように眠っていた桔梗を起こしたのは、ルークスのそんな声だった。
(…マニュアル読むの、忘れちゃったな…あれ、そう言えば、)
「おはようございます、ルークスさん。ロンドンさんはどうしたんですか?」
「…体調不良でお休みだそうです。ですから、今日は私がお世話しますね、…それと、着替えのスーツ、です…へ、部屋の外で待ってますからっ!」
少し恥ずかしそうに部屋を出たルークスを見て、桔梗は首を傾げた。彼の本性を理解出来そうになかったからだ。
「えっと、作業は四種類あるんですけど…アナタが担当する事になったアブノーマリティさんは、とても好みが分かれますので、まずはここで練習しましょう!」
あまり新人の教育係を任せられる事は無いのか、ルークスは些か緊張した様子を見せながら、一つの部屋の前で立ち止まった。
金属プレートには、【O-03-03:One Sin and Hundreds of Good Deeds】と書かれている。
「こ、怖いアブノーマリティさんですか…?」
「いえいえ、外見には驚くかも知れませんけど、とっても優しいですよ。名前はたった一つの罪と何百もの善、大抵の人は罪善さんと呼んでいますね。
では、実際に作業をしてみましょう。そうですね…最初は"愛着"にしましょうか。罪善さんとお話してきてください。」
「は、はい…」
桔梗はそろりそろりと、収容室に入る。入ってすぐに、出たくなった。
たった一つの罪と何百もの善の、頭蓋骨に似たその姿は、ホラーやグロテスクなものが苦手な彼女には、少し刺激が強かったのだ。
「えっと…罪善さん、って、呼んでも良いですか…?」
『汝がそれを求めるならば。』
「わわ、喋るんですね…!でもテレパシー、なのかな…?私、桔梗って、言います。罪善さんと、お話しをしに来ました。初めまして、なので。」
『桔梗。汝の罪を、此処に。』
それからの事を、桔梗は記憶できないだろう。作業が終わった後も、頭の中に霧が掛かったように、何も思い出せないのだろう。
漸く桔梗の意識が戻った時には、既にたった一つの罪と何百もの善の収容室から出ていて、「良く出来ましたね。」と、ルークスに頭を撫でられているのだ。
「少し休んだら、次は"洞察"です。収容室内の掃除ですね。」
あまり桔梗を心配するような素振りを見せないルークスだが、心の底では何を考えているのだろう。彼女はぼんやりとそんな事を考えていた。
5分程度の休憩を挟み、再び彼女はたった一つの罪と何百もの善の収容室に入った。今度は、掃除用具を片手に。
「こ、こんにちは、罪善さん。お部屋、お掃除しに来ました。」
『汝の其は、罪を重ねるためか。それとも贖うためか。』
「…?よ、良く解りませんけど、私は、自分に出来る事がしたいです。誰かの、役に立てたら、とっても嬉しいです…!!」
桔梗のその言葉を聞くと、たった一つの罪と何百もの善は口を閉ざした。桔梗からも、それに話し掛ける事は無かった。
彼女が黙々と作業をしている最中、部屋の外では。
「な、何故こんな事が…!?新人さんの筈ですよね、なのに…何故、罪善さんは普通の反応を示すんですか?有り得ない…既に仕上がっているなんて、普通じゃない…」
ルークスが脳内で様々な考察をしながら慌てていた。新人か否か、他の支部からの派遣職員か、しかし、管理人曰く彼女は紛うことなき新人。たった一つの罪と何百もの善が、洞察作業で普通の反応を示す事は有り得ない。
「何じゃ響の。どうかしたか。」
「ひゃいっ!?」
悶々と考えていた彼は、背後から忍び寄る足音に気付かない。
故に、肩を叩かれて思わず上擦った声を出した。
「っあ、嗚呼、宗次郎さんでしたか…いや、新人さんが…ランクⅠとかⅡとかの新人さんが、罪善さんの作業で…」
「あの、作業終わりまし……ぴえっ…」
幸か不幸か、作業を丁度終えて出て来た桔梗は、あまりの恐怖に後ずさる。
何故ならば、ルークスが宗次郎と呼んだその男の瞼は、幾重にも糸で縫い付けられていたのだから。
矢田目 宗次郎[ヤタメ ソウジロウ] AGE:26 GEN:Man TEAM:Training
瞼を縫われているエージェント。日本人。白藤満の従兄弟であるが、陰陽術の扱いはあまり上手くはない。加えて盲目である。しかし、ある程度であれば音や匂いを頼りに周囲の状況を察知する事は出来る。
二人の弟を大切にする傍ら、父親を非常に憎んでいる。
・収容違反中のアブノーマリティ
・【Nothing】
・職員:今日の一言
・宗次郎「誰か、父上を見とらんかのう?何か知っていたら教えて頂きたいものじゃが…」