デイジィ: 女剣士
アベル: 青き珠の勇者
シバ: カザーブの道具屋で働く少年
荒くれ者: シバに暴行する三人組
長老: カザーブの町を収める
暴れ猿: カザーブ周辺に現れた巨大モンスター
かつての仲間:
モコモコ: 力持ち。デイジィやアベルと共に冒険をした
ヤナック: 魔法使い。デイジィやアベルと共に冒険をした
ティアラ: 赤き珠の聖女。アベルの幼馴染
バハラタ: 海賊
オルテガ: アベルの父。ジキドからアリアハンを守って散る
ザナック: ヤナックの師匠。バラモスからアベルを守って散る
トビー: デイジィの弟。ジキドからデイジィを守って散る
ドドンガ: モンスター。ジキドからティアラを守って散る
かつての敵:
ジキド: バラモス親衛隊長。デイジィとアベルの前に倒れる
バラモス: 魔王。真の勇者となったアベルの前に倒れる
涼しくなり始めた夕暮れどき、その人は颯爽と現れた。
明るいブラウンのロングヘアー。整った顔立ちに、鋭い眼つき。引き締まった首。青いドレスに包まれた身体は、女性らしく細い流線形をしているが、露出している肩や腕は筋肉質で、よく鍛えこまれている。スカート部のスリットからは太腿の白い肌が覗いていた。
一見すると気が強そうなだけの、綺麗な若い女性だ。でも、その人は只者ではなかった。オレを恫喝していた三人の屈強な荒くれ者たちを、あっという間に蹴散らしてしまったのだ。
それは、オレが一人で道具屋の店番をしていたときのことだった。
「シバ。俺は腹ごしらえしてくるから、しばらくの間一人で店番を頼むぞ」
店主のおじさんは、そうオレに言って店を出て行った。おじさんから見たらオレはまだ半人前なので、商品の発注や金勘定なんかはやらせてもらえない。ほとんどの仕事は、倉庫からの品出しや窓口業務だ。客の相手など慣れたものだが、おじさんがいないと心細い。客によっては、オレが子供だという理由で高圧的な態度を取ってくることもあるからだ。
多くの人が行き交う町の中央広場に構えた店。ここでは薬などの日用品の他に、武器や防具など旅人向けの商品を扱っている。そんなに多くの旅人が来るわけではないので、基本的に客は顔見知りの住民ばかりだ。だからオレのような子供が一人で店番をしていても困るようなことはないはずだった。
この平和なカザーブの町は、幸いにもまだ魔王バラモスの襲撃を受けていない。バラモスがこの世に現れた一年前と変わらず平和な日々が続いていたが、それにも徐々に変化が現れていた。
魔王たちが生み出した凶暴なモンスターたちに故郷を破壊されて、行き場を求めてカザーブにやって来る人たちが増えた。それは仕方のないことなのだが、温和な人ばかりが暮らしていたこの町にも、眼つきの悪い連中がたむろしているのをたびたび見るようになった。故郷を失ったのは、善良な人々だけではないのだ。
ここのところ強盗や窃盗などの被害が増えた。町の自警団が犯人を捜索してみると、大半は外部からやってきた人間の仕業だった。このカザーブのようにお人良しばかりが住む町など、泥棒から見たらいいカモなのだろう。お蔵入りした事件は山ほどあるはずだ。
そういったこともあり、旅人相手の商売となると客層が様々になってきた。時には外部から来た荒くれ者の相手もしなければならない。ここにもそういう連中が来て、無理な値切り交渉を仕掛けてきたり、使い物にならない武器や道具を押し売りしてきたこともあった。でも、店主のおじさんはそういう輩のあしらい方を心得ているので問題なく追い払っていた。
タイミング悪く、そういう連中がおじさんの留守中に来なければいい。たったの二十分程度の間だし、オレにも大抵の連中は追い払うことができる。
オレは道路に面したカウンターに座り、人びとの往来を漫然と眺めていた。そう頻繁に客も来ない。オレは行ったことはないけど、カザーブの近くにはアッサラームという大きな都があるらしい。そういうところでは、人々の出入りも多く、羽振りのいい人だってたくさんいて、色んな人が頻繁に道具屋を訪れるのだろう。
「おい、坊主」
低い声がした。ぼけっと考え事をしていて気が付かなかった。顔を上げると、背が高くて筋骨隆々の男がカウンターの向かいに立っていた。
「あ、いらっしゃいませ」
慌てて挨拶をした。男は取り巻き二人を後ろに、にやにやと嫌な笑顔で僕を見下ろした。
「こいつを金に換えてもらいたいんだ。高値で頼むぞ」
そう言って、剣や鎧をカウンターの上に放り投げた。
「わっ……!」
金属の塊にぶつかりそうになり、オレは慌てて手を引っ込めた。その姿が面白かったのか、男たちはバカにするように笑い出した。
むっとしたが、しぶしぶ一個ずつ見ていった。錆びた銅の剣や青銅の鎧。たとえ錆びていなくても、こんなものでは鉄の剣を持った相手には太刀打ちできないし、モンスターの強靭な肉体を切り裂くことはできないと聞いている。武器としては役に立たないものだ。魔王に立ち向かっていかなければならないこの世界情勢の中では、欲しがる人なんてほとんどいないだろう。
装飾品としても使えないし、売り物になるようなものじゃない。
「これは、物が悪くて買い取れませんね」
きっぱりと言うと、大男は即座に反論した。
「おいおい……。俺たちは苦労して、これを手に入れてわざわざこんな山の上まで運んでやったんだ、それ相応の値段で買うのが筋じゃないのか?」
緊張が走った。
こいつらはこの粗悪品を押し売りするつもりだ。世界の混乱に乗じて流れて来たならず者だろう。この剣や鎧も、廃墟となったどこかの町から盗んできたものかもしれない。バラモスの侵略も恐ろしいが、こういった連中のせいでも人間社会に混乱が生じてしまっている。
「しかし、そもそも銅や青銅なんて、モンスターとの闘いに使える材料じゃないんです。魔王の侵略に怯える人たちが、使えない武器や防具を買うわけがありませんよ」
「坊主、おとなしく言うこと聞いた方がいいぞ。俺たちも金が必要なんだよ。そうだな、五〇〇ゴールドでいい。それで買い取ってくれるなら、すぐに話は終わりだ」
取り巻きの小柄な男が、剣の柄に手をかけた。脅すつもりだ。
「……お引き取りください」
「調子に乗るんじゃねぇぞ……」
小男が剣を抜こうと構えると、大男が右手で制した。
「小僧、歳はいくつだ?」
「十二歳です」
「俺たちの半分も生きてねぇじゃねぇか。だったら大人の言うことは聞くもんだ。痛い目を見る前にな」
大男がそう言うと、小男も続いた。
「俺たちは忙しいんだ。いつまでも優しくおしゃべりしているだけだと思うなよ」
小男は今にも激昂しそうだったが、こういう傲慢な連中に屈するのは我慢ならなかった。
「大人でも、言うことを聞くかどうかは相手を見て決めるね」
その直後、小男がカウンターに身を乗り出し、オレの胸ぐらを掴んだ。
「てめえ! 大人しくしてれば付け上がりやがって!」
両手で引っ張られ、カウンターから引きずり出された。そのまま店の前に放り投げられ、地面に背中から落ち、俯せに転がった。今度は上着の襟を掴まれて無理やり立たされると、横っ面を一発ぶん殴られた。
吹っ飛ばされ、店のカウンターに背中からぶち当たった。意識が朦朧とし、呼吸もままならなかった。
「おいおい。ガキ相手にやり過ぎじゃねぇのか?」
もうひとりの取り巻き、やせた男が笑った。
「さあ、五〇〇ゴールドだ」
徐々にはっきりしてきた意識の中に、大男の低い声が響いた。
何度か咳き込み、やっとの思いで立ち上がった。この喧騒を聞き、周りには人が集まっていた。皆怯えた顔で見守っている。この温和な町には、武器を持った荒くれ者に対処できる人間などいない。きっと誰かが自警団を呼びに行ってくれたと思うが、ここに到着する前にこの連中は立ち去ってしまうだろう。これじゃ殴られ損だ。
「ダメだ……」
オレが再び拒絶すると、小男の顔が紅潮した。
もっと時間をかけて、うまく対処するべきだった。もう少し丁寧に対応すれば、時間をかせげたかもしれない。おじさんが帰ってくるまで、まだ時間がかかりそうだ。
「このクソガキ……」
男が拳を振り上げた。
その振り上げた拳がオレに向かって動き出そうとしたとき、飛んできた何かがその拳に突き刺さった。
「ぐあっ!」