デイジィとアベル(二)カザーブの休息   作:江崎栄一

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一二 残党

「助けられたのはあたしの方さ……」

 ありがとう、という言葉が人前では出てこなかった。

 やっぱりアベルはいつでもあたしを窮地から救ってくれる。今までの冒険の中でも何度もあったが、感謝を伝える機会はなかった。かつては、あくまでも冒険の仲間としての距離を保っていたから遠慮したが、今はその必要がない。宿に戻ったら、今夜はたっぷりとこの喜びを共有して感謝を伝えたかった。

「無事で良かったよ」

 アベルが強く抱きしめて、続けた。

「あの坊やも大丈夫かな……?」

 そこで思い出した。開放感のせいで忘れていたが、シバが付いてきていたんだ。

 あたしは素早くアベルから離れ、咳ばらいをした。本当はもっと抱きしめてもらいたかったが、今夜のお楽しみにしなければならない。

「あ、ああ……。問題ないよ。モンスターの攻撃は喰らっていないはずだ」

 振り返ると、シバは呆然とした顔であたしたちを見つめていた。顔が熱くなるのを感じた。子供には刺激の強いシーンを見せてしまったのかもしれない。

「おい……。大丈夫だろ?」

 声をかけると、はっとした表情をして、シバは返事をした。

「……姉ちゃんに守ってもらったから、平気だよ」

「あたしじゃない。アベルに言うんだ」

 そう言うと、シバは照れ臭そうにアベルに礼を言った。

 あたしはシバをアベルに預けて、宝石の回収に向かった。予想外にモンスターの数が多かったので、大量の収穫になった。低級モンスターだから大して高価な宝石ではないが、この方が換金しやすい。

 宝石の取引が盛んな街に行ったら、そこで換金しよう。つい顔がほころんだ。

 全部で二十四個あった。そのすべてを道具袋にしまった。

 こんなに宝石をためてどうするのかとも思う。既に一生暮らしていけるだけの金はある。ただ、染み付いた癖は直らない。それに今後の人生がどうなるか判らないから、所持金は多いに越したことはないだろう。これから遠くへ出かけるかもしれないし、大きな買い物をすることもあるかもしれない。

「アベル! もう大丈夫だ。一度周りを探索して、町に戻ろうか」

 あたしたちは湖の周辺をくまなく見て回った。まだ暴れ猿の残党がいるかもしれないと思ったからだが、あの程度の低級モンスターであれば知能が低いから、相手の強さなどお構いなしに襲い掛かって来る。たぶん、この周辺にいた奴らは全員始末してしまっただろう。

 シバを連れて、小一時間ほど歩き回った。想像した通りモンスターの気配は感じなかった。もう町へ帰ることにした。

「まずは長老に報告しよう」

 カザーブに戻った頃には、既に夕方になっていた。町の中央広場はいつも通り人でごった返している。屋台からは肉の焼けるいい香りがする。考えてみれば、今日は昼前に軽く食事を取っただけで、その後はほとんど何も食べていない。腹がすいていた。たぶん、アベルはもっと辛いだろう。

 あたしたちが町役場の門を叩くと、長老が直々に出迎えた

「もしや……。もう片付いたというのですか?」

 長老は怪訝な表情で尋ねた。

「決まってるじゃないか。約束したモンスターは退治したから、その報告に来たんだよ」

 そして報酬をもらうのが本当の目的なのだが、シバの手前、黙っていた。

「これは……。昨日の今日だというのに……」

 容易くは信じられないのだろう。驚愕の眼だった。

 あたしは得意になった。確かに、普通の人間ではとても敵わないモンスターを、今日の朝討伐に向かい、夕方に無傷で帰って来たのでは、信じられないのも当然だ。

 何か証拠となるものが必要だ。シバに仕事をしてもらうことにした。

「数えたら、暴れ猿は全部で二十四匹だった。そのほとんどをアベルに始末してもらったんだ……。なぁ、そうだろ?」

 そう言って、シバを振り返った。

「シバ、どういうことだ……?」

 長老がシバに聞いた。

「ああ、本当さ。実はオレ、内緒で姉ちゃんたちに付いて行ったんだ。湖の近くでデカくて恐ろしい猿たちに襲われたんだ……。でもこの人たちの相手じゃなかったよ。あっという間に剣で切り伏せちまったんだ」

 シバが説明した。長老は顎に手をやり、首をかしげている。

「疑うわけではありません。シバも嘘をついているとは思えない。ですが、我々も証拠を見て判断しなければならない。死体は確認できますか?」

 長老が痛いところを突いた。

「それが……。暴れ猿たちは、切り伏せられると、身体が光り出して、消えてなくなっちまったんだ。だから死体はなかった。普通の動物とは違うようだった」

 不意に、長老がシバに尋ねた。

「シバ……。古代エスターク人は宝石に魔力を吹き込むことによって邪悪なモンスターを生み出したという。奴らは宝石モンスターと呼ばれ、絶命すると身体は消滅し、あとには宝石が残る。ワシも若い頃にこの目で見たことがある」

 さすがにこの町を収める者だというだけのことはある。そういうことも知った上で、余所者にこんな依頼をしたのだろう。

 あたしはため息をついて、渋々道具袋を机の上に出し、今日の収穫である宝石を机の上に並べた。

「これさ……。同じような赤い宝石が二十四個入ってるよ」

 シバが驚愕の眼で見ている。

 失礼、と前置きして、長老は宝石をいくつか手に取って眺めた。

「これは……」

 長老は宝石の一つを手に取って眺め、驚きの声をあげた。

 低級だとはいえ、小さな村くらいなら単体で壊滅できるほどの力を持ったモンスターだ。それなりの宝石でなければ暴れ猿は作り出せない。一つでもある程度の金額にはなる。

「本当のようですね。同じ種類の宝石がこんなにたくさん……」

 あたしは長老に笑いかけた。

「それでは、明日もう一度この役場にいらっしゃってください」

 長老はあえて報酬のことを言わなかった。

 あたしはニッコリと笑い、席を立った。

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