あべこべ道! 乙女が強き世界にて   作:マロンex

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過去編終了。次回からまたほのぼのに戻ります。(多分)


第11話 別れ(過去編)

「どうして離れるってわかってて...私と仲良くなろうと思ったの...?」

 

「あっはは! どーしたんだよ急に!そんなしおらしいなんてちーちゃんらしく...」

 

最初こそおどけて半笑いだった河野だったが、私の切迫した声にこの質問が冗談ではないことを悟ったらしく、持ってきたジュースのお盆をスッと置いて静かに謝った。

 

「....ごめん、ちーちゃんの言いたいことはわかるよ。別れるときの辛さは俺もよくわかってるから」

 

その時の河野の表情は今まで見たことがないくらい真剣で、真面目で、そして...心の底から悲しそうだった。

 

「余計にわからん。結末はわかってる、なのにどうしてお前はそこまで人と関わろうとするんだ?」

 

「『別涙喜会』って言葉知ってる?」

 

「べつるいきえ...? すまん聞いたことないな。四字熟語なんだろうが...どういう意味だ?」

 

「別れるときの涙は次に再会するときの喜びにつながる...って意味の言葉だよ。ちーちゃんがさ、俺に一番最初に話しかけたきっかけの本、覚えてる?」

 

「ああ、乙女の戦車道...だっけか。そういや好きって言ってたな」

 

「そうそう、実はさ、その小説好きになったのって作中に出てきたこの言葉がきっかけなんだよね。...各地を転々とする主人公が友と別れる際に必ずかける言葉なんだけど、何だか自分の境遇に似てる気がしてさ。今じゃすっかりこの作品の大ファンだよ」

 

「なるほどな...で、それに感化されて友達を作るようになったってわけか...」

 

「そう!だからね!俺は...」「くだらないな」

 

「え?」

 

「くだらないって言ってんだよ!適当な小説の造語なんかがきっかけで私と仲良くなろうと思ったのか!? ふざけんなよ、そんな綺麗事で私に話しかけたわけ!?」

 

河野に出会った日が、今まで遊んだ思い出がフラッシュバックする。

楽しかった分だけ、別れるときの反動は恐ろしい、わかっていたはずなのに。

 

「ちーちゃん」

 

「そんなおままごとみたいな茶番に私を巻き込まないでよ! そんなの私じゃなくたって....よかったじゃん!...お前なんかと...出会わなければこんな...」

 

言葉の意味はわかる。それがきっと人生において大切なことも。

 

きっと私は耐えられない。

 

こいつがいない世界が訪れる未来に、こいつと別れる日が来る事実に。

 

きっと私は耐えられないのだ。

 

あのとき河野が声をかけてくれなければ、友達なんかになっていなければ..。

 

「...ちーちゃん、泣いてるよ、気付いてる?」

 

「へ?...あれ、本当だ... 何だこれ...」

 

はっと我にかえり、部屋の鏡で自分を見ると、確かに私は泣いていた。それとは反対に河野はなぜか少し嬉しそうにハンカチを渡してくれた。

 

「...確かに別れるのは悲しいし、辛いよ。俺もこんな目に合うなら最初から友達なんて作らないほうがって思ってた時期もあった。...でも自分から友達を作るようになってその考えは変わった」

 

「どうして...」

 

「ちーちゃんやこのブレスレットをくれた子を見て思ったんだ。友達になってよかったなって。そう思った瞬間気がついたんだ。本当に悲しいのは『別れること』じゃない、『出会いを放棄すること』なんだなって。俺はちーちゃんと友達になれて嬉しい。離れてしまうとしても、その事実だけで俺は出会えてよかったなって思うんだ。だからさ...」

 

少し照れ臭そうに私の手をぎゅっと掴んだ河野は力強くこう話した。

 

「ちーちゃんも友達を作って良かったなって思えるように俺最高の友達目指すから!」

 

プツンと何か悪い糸が切れたような衝撃。そして握られた手の暖かさにその日私はまた泣いてしまった。

 

ー半年後

 

「千代美〜。今朝のニュース見た? 乙女の戦車道の映画、続編やるって!マジちょー楽しみなんですけど!」

 

「千代美! すまん! プリント写させて! 締め切り今日なのすっかり忘れててさー! プリン奢るから!」

 

「千代美ねーさん、相変わらず大人気っすね」

 

「お、おいお前ら! 一気に話すな!! ....あ、聡子、戦車道の続編はもうチェック済みだ。後で原作見せてやるよ、私の予想だとキャスティングは...ふふっ」

 

「...相変わらずその話題だとキモいっすね、ねーさん」

 

「ちょ! 無視しないで千代美ー!」

 

あの日から、私自身、あいつの影響で3つほど大きく変わった。

1つは友達を作ることに恐怖心がなくなり、積極的に周りとコミュニケーションをとるようになったことだ。

最初は不安だったが、元々私に声をかけようと思ってくれていた子が多かったらしく、自然と友達が周りに増えていった。

 

2つめ...これはいい影響かはわからんが、あいつに借りた『乙女の戦車道』にどハマりしてしまったことだ。

河野に薦められた最初の『乙女の戦車道』を皮切りに、今や小説だけにとどまらず、映画、コミック、聖地巡礼など、あいつを付き合わせていくまでに...まあいわゆるオタクになってしまったこと。

 

そして...

 

「よーし、今度続編の映画このメンツで観に行こうぜ。チケットの手配は私がするから!」

 

「えー、でもいいの?」

 

「大丈夫だ、チケットの件なら気にするな。ファンクラブ入ってる私なら安くなるしそのほうが...」

 

「そうじゃなくて! あの可愛い彼氏さんといかなくていいの?」

 

「ばっ! 馬鹿! 河野とはそういうのじゃなくて...ただの趣味仲間というか何というか...」

 

「いいっすねー、青春してて。私も彼氏欲しいなあー」

 

「だから違うって!」

 

「お、噂をすれば...」

 

「ちーちゃーん! おはよー! あ、皆さんもおはようございます!」

 

「うんうん、朝から元気いいね君は!」

 

「いやあ、やっぱかわいいっすね...羨ましい」

 

「それなぁ」

 

「あれ、ちーちゃん、大丈夫? なんか顔赤くない?体調悪いの?」

 

「わっ! 馬鹿! おでこをくっつけるな! 恥ずかしいだろ!」

 

「えーでも、熱あるかもしれないし...心配だよ」

 

「大丈夫! 大丈夫だから!」

 

3つ目は、こいつが私の中でただの友達じゃなくなったことだ。

2ヶ月前のあの日以降、どんどん河野に惹かれていった。

...だが、恋愛小説をあんなに読んでいるのに関わらず、こいつの鈍感さは筋金入りのようだった。

最近は私から積極的にデート紛いの遊びに誘うようになったのだが、全く気にしていない素振りで毎日が一進一退の繰り返しって感じだ。

だが、今はそれでもいい、そう思えるくらい今は充実していた。

 

「じゃ、私たちはこの辺で〜。部活の準備あるから〜」

 

「え? そんなのありましたっけ? 大体今ってテスト期か..」

 

「バカっ!空気読め!...あ、気にしないでそちらさん二人は仲良く登校してね!ではでは〜!」

 

「行っちゃったね。じゃあお言葉に甘えて、仲良く登校しよっか、ちーちゃん」

 

「...ったくあいつら、余計な気を回しやがって...私も同じ部活なんだから無理あるだろそれ...」

 

たくさんの友達がいて、河野がいて、私がいる。今はそれだけでいい、そう思えるくらい幸せな時間だった。

 

「...部活入ったんだ、なんか意外」

 

「え?あ、ああ、戦車道の部活にな。お前と同じように小説の影響で興味持ってな、私も人のこと言えんな、ははっ」

 

「ちーちゃん変わったよね、いい意味で。友達もたくさんできたみたいだし、表情も明るくなった気がする。...俺、なんか嬉しいな」

 

「...ま、まあな。おまえのおかげで友達を作る恐怖心もなくなったんだ。感謝してるよ」

 

「そっか...なら、俺も安心かな!」

 

河野の表情が一瞬暗くなり、長い沈黙が包む。

そのとき、私は全てを察した。

 

「河野...転校するのか...?」

 

「...あっはは! そうなんだよ、急に引っ越し決まっちゃってさ、いつ言おうかって迷ってたんだよね ! いやあ、流石ちーちゃん、俺のことならお見通しだね」

 

精一杯に明るく振る舞おうとしている河野だが、その笑顔はいつもと違いぎこちなかった。

 

「河野」

 

「親も急だよなぁ、先週急に、引っ越すぞって言われてさ......こころの準備も...できてなくて...ほんと...こまっちゃう...」

 

尻すぼみになる言葉とは反比例して、河野の目には涙が溢れていた。その瞬間、私は気がついたら河野のことを思い切り抱きしめていた。

 

「いいんだよ、今は。『別涙喜会』だろ。今は辛かったら思いっきり泣けばいい」

 

「ごめん...ね...。ちーちゃんが不安がっちゃうって...思って...泣かない... つもりだったのに...」

 

しばらく抱きしめたまま落ち着くのを待つと、河野から消え入るような声が上がった。

 

「...俺、ちーちゃんの...最高の友達に...なれたかな」

 

「ああ、間違いなくお前は最高の友達だ。お前のおかげで人生が変わった、生き方が変わった。どんなに離れてても私はお前のことは忘れないよ」

 

「...そっ..か。なら...きっとまた会えるよね」

 

「ああ、会える。私さ、小説の影響で入った部活だけど、今はすっごいそれが楽しいんだ。高校も大学もきっと戦車道を続けると思う。...私決めたんだ。河野に見つけてもらえるくらい戦車道で有名になるって!」

 

「ふふっ。じゃあ次会うときはきっと有名人だね」

 

「おうよ、バリバリサイン書いてやるから、色紙の準備しとけよー!」

 

「うん! 楽しみにしてるよ!」

 

これが、中学時代の私と、河野の最後の会話だった。

 

----------6年後

 

あいつが引っ越した後、宣言通り私は戦車道の道へまっすぐに進んだ。高校では中学の経験を生かしアンツィオ高校に推薦で入り3年で隊長を任せられるまで成長した。

そして、今、私は大学2年生にして実力を買われアンツィオ大学の戦車道チームのチーム長を任せてもらっている。

 

「...あいつ今頃どこで何してんだろうな。いや、いかんいかん、今日は大事な練習試合だった...安齋、邪念は捨てろ!」

 

頬をペチペチと叩き、会場へ急いだ。

 

「えっと...今日の練習試合は大洗大学とか...会場はええと...」

 

「...ここから大学までは歩いて15分くらいなんだ! 着いたら寒いだろうから部室に案内するね!」

 

「いやいや! 悪いですよ!部外者ですし...」

 

「いーよいーよ! 河野さんには特等席用意してあげるね!」

 

「ちっ...カップルが朝からイチャイチャして...。朝玄関から一緒に登校とか少女漫画かっての...ってお前っ! か、河野か!?」

 

思わず大声を出してしまい、驚いて二人が振り向く。

 

「...もしかして...ちーちゃん?」

 

安齋千代美は中学の幼馴染と再会を果たすのであった

 

 




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