あべこべ道! 乙女が強き世界にて   作:マロンex

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今回はキリがいいところで切ったので短め。
※後半のみほさんの口が少し悪いです。ご了承ください。


第12話 盤外戦術

「うわぁ! ちーちゃんだ! 久しぶり! ずいぶん雰囲気変わっ...」ガシッ

 

「説明しろ..」

 

茫然とこちらを眺めていると思うと、急に近づいてきて肩を掴んだちーちゃんもとい安斎千代美は目をぐるぐるとさせながら俺を激しく揺さぶってきた。

 

「いいからこの状況を説明しろ! なんでお前が西住の家から出てきたんだ!? あああ、あいつとまさか付き合ってるとかいうんじゃないだろうな!?」

 

「ちょ! やめ!に、西住さん!ごめん!ちーちゃんに状況の説明を...」ガシッ

 

「ちーちゃんって何!? アンチョビさんどういう関係なの!? ねえ! 後敬語やめて!」

 

「ちょっと! 西住さんまでどうしたの!? やめて!吐く! 朝食全部吐いちゃうから!!」

 

今にも襲いかかってきそうな目をしていた二人をなんとか振り解き、近くの公園で西住さんにちーちゃんとの過去のこと、ちーちゃんにこの状況の説明を軽くした。

それを聞いてひとまずは納得したのか、落ち着きを取り戻したのだが...

 

「...幼馴染だったんだ...しかも名前呼び...」

 

「...襲われている西住を助けて一晩を共に...同じ屋根の下...」

 

と、ずっとこんな様子で、ブツブツとうわ言を言いながら考え事をしていた。

何をいってるのかは正直よくわからないが、なんとなく気まずい空気が流れる。

しばらくして、どこからか携帯の着信音が鳴った。

 

「あ、に、西住さん。携帯なってるよ!」

 

「へ? あ、やば! 先輩だ!...もしもし!...え? 今会場向かってる途中ですけど...え!? 車長会議って今日やるんでしたっけ!? ごめんなさい!...はい!すぐ向かいます!」ピッ

 

「お、おい西住、今の電話って」

 

「ごめんなさい! ちょっと先行きます! あ!河野君! 今日は活躍見ててね! かっこいいとこ見せちゃうから! あ、アンチョビさん、すみませんが河野君に道案内お願いします! じゃ!」

 

「あ、おい!...ってもういないし...忙しいやつだなまったく...」

 

ーーーーー

 

「...大丈夫かな、西住さん。間に合うといいけど」

 

「まあ、ここから会場まではそこまで距離はないし、なんとかなるだろ。あいつ意外と足も速いしな」

 

「そかそか、じゃあ心配いらなそうだね」

 

嵐のように過ぎ去っていった西住を横目に、わたくし安斎千代美は内心めちゃくちゃに焦っていた。

 

(西住がいない...ということは二人きり!? これってもしかしてチャンスなのか? 幼馴染のアドバンテージを活かすなら今しか...!)

 

「いやー、それにしても久しぶりだね。...あれ、よく見たらちーちゃん随分雰囲気変わったね! メガネじゃないし、髪型もさっぱりしたね」

 

「そ、そうか? メガネは戦車道やる時に邪魔だったから...。お前こそ、久々に会ったら随分と...」

 

話題につられて、自分も河野の体に視線が移った。なんというか目のやり場に困るとはこのことで、中学の頃とは比べものにならないほど河野は全体的に成長していた。

よく見るとそのようなプロポーションにも関わらず服装は信じられないくらいラフで余計に視線が外せない。

 

「....ちーちゃん? どしたの、急に黙って」ヒョイ

 

「えっ!? いや! みてない! 何も見てないからほんと!」

 

「え? な、何の話?...見てないって何?」

 

おそらく何も考えてないであろう河野が唐突に私の顔に近づく。

ほのかに香るシャンプーの匂いに思わず反射的に後退りしてしまった。

 

「あ、いやその、なんでもない! 久々に会えて嬉しすぎて混乱しちゃってな! 」

(やば、こいつからめっちゃいい匂いする。だめだ思考が回らん...)

 

「........」

 

黙り込む河野。神妙な顔をしてなにか悩んでる様子だった。

そんな姿もまた可愛らし...じゃない、とにかく弁明を...。

そう思った最中、河野が嬉しそうに話し始めた。

 

「そっか!! いやぁ照れちゃうなぁ。再会にそんなに喜んでもらえるなんてこっちまで嬉しくなっちゃうよー」

 

そうだった。こいつはそういう奴だった。

 

ーーーーー試合会場

 

「ついたぞ、ここが入り口だ。河野は一般客だろうからこの先の観客席で待ってるといい。飲み物とか食べ物は試合前でも屋台がそこら中で出てるからそこで買え」

 

「へー、屋台なんて出てるんだ!...え、というか試合ってそんなに長いの?」

 

「長いぞ、今日は練習試合だからそこまでだが、大きな大会になると半日以上なんてザラだ。...というかお前、さては戦車道の大会見たことないな?」

 

「えへへ...実はそうなんだ。ちーちゃんとか西住さんいなかったら会場すら怪しいレベルでして...」

 

「ったく...しょーがないな。ほれ、携帯かせ」

 

「え?...うん」

 

「友達登録して...っとこれでよし。ほれ、返すからこれ。新しいメッセージ来てるだろ」

 

「TIYOMI ってやつ? きてるきてる!」

 

「戦車道についてわからないこととか相談あったら気軽に連絡していいぞ。...これでも選手の端くれだからな」

 

「わあ、ありがとう! 心強いよ!」

 

(ふふっ...連絡先も交換しつつ、次の接点も作っていく...我ながら完璧な作戦。これで西住から一歩リードを...)ピロリン

 

「...あ、西住さんからも連絡きた」

 

「なっ! お前、西住といつの間に連絡先交換したんだ! 一昨日の飲み会で初めて会ったって言ってなかったか!?」

 

「え?...あー、今日の朝に交換したんだ。試合中はひとりになっちゃうかもだからって...あ、『今夜暇だったら、夕食一緒に食べない?』って来てる! ちーちゃんも...ってなんで携帯とるの?」

 

「...私が返信する!」

 

「え、あ、うんいいけど...。変なこと言わないでね」

 

ーーーー大洗選手控え室

 

ピロリン

「あ、河野さんから連絡きた!」

 

『悪いが今日は私と夕飯食べる予定だから』ピロリン

 

『写真』

 

送られてきた写真は満面の笑みを浮かべたアンチョビさんに抱き寄せられる形でフレームに収まる困惑した河野君とのツーショットの写真だった。

 

「なっ...何して...! アンチョビさんめー!」カチカチ

 

『何してるんですか!? 河野君に変わってください!』

 

『それはできないな! 我々は敵同士、河野と飯を食いたくば、今日の試合勝ってから誘え。私が勝ったら予定通り夕食は私と「二人きりで」食べる。これは決定事項な』

 

『なんですか急に! そんな要求飲めるわけないじゃないですか! 大体、私が最初にお誘いしたんですよ!』

 

『お? 怖いのか? へーい、西住流がびびってるー!』

 

「ぐぬ... ぐぅー!」カチカチカチッ

 

「さっきから車長、携帯睨みつけて何やってるんだろう...あんな怖い顔見たことないよ...」

 

「すごい勢いで誰かと連絡とってるみたいだけど...」

 

「あ、あの車長...そろそろ準備の方を...」

 

バンッ

 

「みんな! 今日は絶対勝つよ!! アンチョビさん!...じゃなかった、アンツィオ大学! 完膚なきまでに叩き潰す!!」

 

「「「はいぃ!」」」

(なんか今日の車長、しほコーチみたいだよぉ!)

 

ーーーー会場近く

 

クシュン

「...風邪でも引いたかしら」

 

つづく




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