<まもなく、選手入場です。ルールは戦車道公式大会に基づいた殲滅戦、制限時間は...
「あ! 始まりましたね! うわー! 楽しみー!」
「ふむ...今日は殲滅戦...? 練習試合にしては珍しいな...」
「せんめつせん...ってどんな試合ですか?」
「殲滅戦は敵戦車の全撃破が勝利条件の試合だな。練習試合では通常、フラッグ戦と呼ばれる別のルールがって...河野...もしかして試合は初めてか?」
「...すみません。実は試合どころか戦車道の知識もあんまりなくて...勉強してからくるべきでしたね」
「...そうか。だが、最初はみんなそんなもんだ、気にすることもない。...それに今日は私が横にいる。試合中わからないことはなんでも気軽にきけ。実戦で得る知識に勝るものはないからな」ポンポンッ
「はい! ありがとうございます!」
ジーッ
「ちょっ! あの二人本当にどういう関係!? 頭ポンポンしちゃって! ひろさんも満更じゃなさそうですし...。おのれ西住流めぇ...」バキィッ
「ダージリン様、スコーン握り潰さないでくれますか? 床が汚れます。...その望遠鏡も覗き見用じゃないんですけど」
「あー! 飲み物の交換っこしてますわー! 不潔! 不潔ですわ!」
「はぁ...」
『さー! はじまりました!! 今回私、戦車道連盟所属! 角谷杏が司会を務めさせていただきまーす! 会場のみんなー! 盛り上がってるかーい!』
「「「いええええい!!」」」
爆音と共に流れる軽快な音楽と共に現れたツインテールの女の子がバラエティー番組顔負けのマイクパフォーマンスを繰り広げている。司会者の掛け声と共に、周りの観客は歓声をあげ、大盛り上がりだった。
「あ、あれなんですか?」
「ああ...正直私もよくわかってない。戦車道連盟の若い衆が盛り上げるためにやってる催し...らしい。選手だけでなく、来てもらった観客にも盛り上がってもらうのが目的らしいが...」
『さーて始まる前に! 本日のスペシャルゲストのごしょうかーい! 一人目はこの人でーす!』デンッ
「あ、あれ、まほさん。あれ俺たち写ってませんか?」
「角谷め...。今日の試合をやけに押してくると思ったらこういうことか...」
観客席に複数ある大きなモニターは俺たちの姿をはっきりと映し出し、会場がどよめく。その横では頭に手をついてため息を溢すまほさんの姿が見えた。
「お、お姉ちゃん!?」
「西住ぃ! 貴様! 抜け駆けかー!!」
『西住家当主! 西住まほ!!その横には可愛らしい彼氏らしき姿も!これは西住流の大スキャンダルといったところかぁ!? 現場の柚子さん! マイク渡しちゃって!』
選手サイドから飛ぶ野次の中、ポニーテールの女性がこちらに近づきまほさんにマイクを渡す。
「はーい! では! 西住まほさん! 対戦相手に何か一言お願いします!」
「対戦相手...? 私は今日は観客として... 」
『はーい! と言うことで! 本日の試合内容を発表しまーす!』
『プロ候補チーム VS 大学チーム』
大きな電子掲示板に映し出されたタイトルとともに、プロ候補と銘打たれた選手の名前がずらりと並んでいる。その中には『西住まほ』の名がデカデカと赤文字で書かれている。
『はーい! と言うわけで本日は大洗VSアンツィオ戦を急遽変更しまして! 西住まほ率いるプロ候補選手VS大洗・アンツィオ大学の試合をお送りしまーす! じゃあルールを説明するよー』
先ほどの掲示板に詳しいルールが映し出される。
①ルール 殲滅戦。プロ候補側は制限時間内、砲撃することはできない。通常選手側と同等の戦車を使う。
②勝利条件 大洗・アンツィオ側は制限時間以内にすべてのプロ候補を倒し切る。プロ候補側は1両でも生き残れば勝利となる
③スペシャルポイント 現状、最も実力の高い選手である『西住まほ』を倒した車両に関しては、個人賞として景品を贈呈
尚、それ以外のルールに関しては戦車道連盟の公式ルールに則り...
「プロ候補の選手と戦えるのか! すっげえ!」
「要は鬼ごっこってこと? それなら私たちも勝てるかも!」
唐突に変えられた試合内容だが、練習試合ということもあり、選手たちもかなり乗り気の声が聞こえる。
「待て、そんな話は聞いていないし、私は参加するなんて言ってない。...私も暇じゃないんだ。通常の試合をしないなら私は帰らせて...」
『へえー...なーんだ。天下の西住流も結局そんなもんなんだねぇ』
「...なんだと?」
『そんなカッコつけたって結局は負けるのが怖いんでしょ。...あーあ、特別扱いまでして持ち上げてあげたのに飛んだ期待外れだなぁ』
「....」
角谷さんがあからさまにまほさんを挑発する。
(まあ、でもこんな見え見えの挑発にあの冷静沈着なまほさんが乗るわけ...)
「いいだろう、西住流の力見せてやる。60分だろうと、6時間だろうと、西住流に敗北の文字はない!」
「「「わぁああああああああ!!」」」
『はーい! と言うことで本人も了承したと言うことで! 本日の試合スタートでーす! みんな頑張ってねぇ!』
「「「うぉおおおおおお!!」」」
そんなこんなでまほさんは手際良く用意された選手に乗り、あっという間に特殊殲滅戦がスタートした。しかし、流石はプロ候補選手ということもあり、一方的な鬼ごっこ形式のこの試合でもほとんどの選手がかすり傷すらつけずに逃げ回っている。
「ぐぅ... あいつにいいとこ見せたいのに...まほのやつ、流石に手強いな...」
「お姉ちゃん...やっぱり強いなぁ..作戦全部看破されちゃってるよ...」
プロ候補側側の圧倒的有利な状況のまま、残り10分となったところで、なぜか俺の携帯に不在番号から着信が入る。
「はい、もしもし、河野ですけど...」
『あー、ごめん! まほの彼氏くん? 実況の角谷でーす。言い忘れてたんだけどさぁ、さっきのルールにあったスペシャルポイントの景品、特別食事会のペア参加チケットなんだー。デートの邪魔しちゃったお詫びと言ってはなんだけど、君もこれ参加してよ!」
「食事会? え、えっとでも今日は先約が...」
マイクの音声をつけっぱなしなのか、大音量で実況席から声が流れる。その様子に気づく様子もなく話し続ける様子に、会場だけでなく選手サイドもざわつく。
『そこをなんとか頼むよー、とびっきり豪華な料亭予約するからさ! こんな機会ないと思うよー?』
『ちょ、会長! マイク切り忘れてますよ!』
『え? あっやべ! じゃ、じゃあ! さっきの件よろしくねー! もう予約しちゃから! じゃね!』
「あ、ちょっと!....うーん、どーしよ。今日はちーちゃんかみほさんと食事の予定が...」
携帯を見つめながら再度電話をかけようと悩んでいると、会場から爆音が響き渡った。
『こちら審判員!プロ候補車両が1両撃破されました! 繰り返します!プロ候補車両一両撃破! その他車両も複数台砲弾が命中!』
モニターにプロ候補の車両が煙を上げる映像が広がる。その後も、かすりもしてなかった砲弾が的確に車両を撃ち抜いていく。先ほどまで余裕の動きだったプロ候補車両の隊列が大きく乱れていた。
「なんだ! 何事だ!」
「こちらAチーム! すみません! 大洗の単体で乗り込んできた車両にやられました!」
「こちらDチーム! 同じく単体で乗り込んできたアンツィオにやられました! こちらの動きを完全に読まれています!」
「...まさか...あいつらか?」
『さー! なんだかよくわかりませんが!今入った情報ですと、この数分でプロ候補車両は西住まほを除き全滅とのことです! これはまさかの大学チームが勝ってしまうのか!? それとも、西住まほがプロ候補の意地を見せてくれるのかー!?』
「とにかく一旦ジャングルへ向かうぞ! 数的不利の解消を...」
「西住まほぉぉぉ!」
「見つけたよ! お姉ちゃん!」
轟音とともに現れた2車両は、西住まほの車両を挟み込む形で停車し、退路を塞いだ。
「くっ...ここまでか...」
「「砲撃!!」」
ピィー!!
『試合終了!! 勝者! プロ候補選手チーム!!』
「なぁー!?」
「そんな...あとちょっとだったのに...」
あと一歩でというタイミングで、無情にも制限時間終了のホイッスルがなり、審判員がジャッジを下した。ギリギリまで追い詰めたみほさんの車両、ちーちゃんの車両から悔しそうな大きなため息が溢れた。
『はーい! と言うことで! 勝者!プロ候補...』
「まった!! この試合、私たちの負けだ。...車両をよく見てみろ」
そう言って映し出された映像には、白旗をあげるまほさんの車両が見えた。おそらくホイッスルと同時に砲弾が命中、大破したのだろう。
「戦車道公式ルールでは、制限時間終了と同時に車両撃破をした場合、車両撃破を優先して勝敗が決定する。...審判、再度ジャッジを」
「しっ...失礼しました! 勝者! 大学チーム!!」
「わぁぁぁぁー!!」
こうして、特殊ルールではあるものの、プロ候補相手に『大学生チーム』が大金星を上げる形で終了したため、のちにマスコミやメディアにも大きく取り上げられることとなった。
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「...あ、そう言えば会長。今日の個人賞のペアチケット、あれどうしたんですか?」
「あーそれねー。なんか映像残ってなかったらしくてさぁ、めんどいから彼氏くんに全部あげてきちゃった。元々あの子にあげるのは確定だったし、あの子に決めて貰えばいいでしょ」
「流石、会長。今日も冴えてますね」
「まぁねー。...それに、その方が面白そうだしねぇ...にしし」
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「ま、まほさん、どうしてあの二人、異様にテンション低いんでしょうか...皆目見当が...」
「...自分の胸に手を当ててよく考えてみることだな」
「二人とも食事会に行きたいって言うから、両方にチケットあげたのに...あの場を丸く収める最善の...って痛い! ちょ!叩かないでよ!ちーちゃん! みほさんも! まほさん助けて!」
「...これは先が思いやられるな、まったく...」
結局その後も1週間ほど、二人は口を聞いてくれなかった。
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次回からまた新キャラが登場します。よかったら見てってください。