申し訳ない。
「うーん...困ったなぁ...」
まほさんとの買い物を間近に控え、私、河野は非常に切羽詰まっていた。
ことの発端は1週間前、自分の携帯にまほさんから連絡がきたのが始まりだった。
内容はみほさんの入学祝いを選んで欲しいというものだった。
『もちろん私も選んだんだ...。だがその...どうも私のだけでは不安で...』
『...あー...それで、俺にも良さそうな祝いの品を選んで欲しいと...』
『ああ、君のセンスで構わん。...私はどうもこう言った贈り物に疎くてな』
『でもそういうのはやっぱり本人に直接何が欲しいか聞いた方がいいんじゃないですかね?』
『そうしたいのは山々なんだが...。実はみほには内緒にしていて...。さりげなく聞こうにもボロを出してしまうのもいやでな...』
『あー、なるほど、それで...ってなんで俺なんですか!? 俺だってみほさんが欲しがってるものなんてわからないですよ!』
『...そこは問題ない。とにかくお前がみほに買ってあげたいって商品を選んでくれればそれで十分なんだ。お前からって言えばきっと喜ぶだろうし..。頼む...みほが喜ぶ顔が見たいんだ。一つ力を貸してくれ...』
『うーん...なんか釈然としませんけど...わかりました』
『本当か! ありがとう! じゃあ日程だが来週の...』
結局、勢いに押しきられ、来週の日曜にまほさんと大洗のショッピングモールで買い物をすることとなった。
(...まあ、みほさんには前に世話になったしな。お礼も兼ねて選んであげようかな)
...と、ここまでは良かった。問題はこの後だった。
ー翌日 大学構内 教室
「おはよう! 河野くん! 今日授業一緒だね!」
大学の教室で一限目の授業を待っていた自分の前に颯爽と現れたみほさん。
「よしっ」っと小声で言ってから、なぜか心底嬉しそうに自分の隣の座ってきた。
「あれ? みほさん、この授業取ってましたっけ? 前回はいなかったような...」
「あーそれは教師に行って無理やりねじこ....じゃなくて、部活で忙しくて出られないコマが何回かあってね。多分前回の授業はそれが重なっちゃたんだと思うな。....河野君はこの授業、一人で取ってたんだ」
「そうですね。他の方はこの授業取ってないらしくて、みほさんがいるって知って安心しました。あっ...でも今後も部活でお休みする時ありますよね多分...」
「大丈夫! 河野君がいるなら死んでもこの授業だけは出席するから! こんな絶好の機会...じゃなかったこんな楽しい授業受けないともったいなさそうだしね!」
「は、はあ...」
(楽しいって...このコマ『戦車道入門 ルール編①』って授業なんだけど....。むしろなんで取ったんだこの人...)
戦車道家元の娘がこんな授業取ってるのをお母さんやまほさんが知ったら...と内心かなり困惑していたが、
「共に頑張ろう!」と目をキラキラさせながらバックから教科書やノートを取り出したみほさんには口が裂けても言えなかった。
『では、授業を始めます。まず戦車道の歴史についてです。起源は西ヨーロッパの...』
スクリーンに移す形の授業らしく、教室全体が暗くなり、モニターに映像が映し出された。ことはここで起こった。
ピロリン
まほ『おはよう、来週の買い物の件、昼飯もあっちで食べるから...』
携帯の通知音と共にまほさんからのラインの連絡がきた。
教室が暗いせいかやけに目立つその光を慌てて切り、携帯を隠す。
(ちょっ! あの人俺がみほさんと大学一緒って知ってるのに! タイミング考えてよ!)
教室が暗いせいかやけに目立つ携帯を慌ててサッと携帯を手に隠し、恐る恐るみほさんの方をみる。
カリカリと真剣にノートを取っており、こちらには気がついていないようだった。
(ふーっ、良かった。バレてはいないかな...。またまほさんから連絡来てもやだし通知きっとこ...)
ほっと胸を撫で下ろし、コソッとラインの通知欄に手を伸ばそうとした時、再び通知音が鳴った。
(もー! まほさん!だからタイミング考え....えっ?)
みほ『ずいぶんお姉ちゃんと仲良くなったね?』
静かに光るみほさんからのラインの連絡。
その後の授業は全く頭に入ってこなかった。
ー食堂
「...ほんとすみません...。別に隠そうとかそういうつもりはなくて....」
「....別に怒ってないし。...どのみち、その日は練習あって行けないから関係ないもん...」
「あー...あっはは」
授業終わり、無言で食堂に連れて行かれ、アイスを奢らされた。
終始不機嫌そうに頬杖をつきながらそっぽを向くみほさんは気怠そうにアイスを頬張っていた。
「...あのー...そろそろ機嫌直してくれませんかね?」
結局、このままじゃ埒が明かないと思い、まほさんに事情を説明した。
思いの外落ち着いていたまほさんはみほさんに電話。
日を改め、3人で買い物に行くということでみほさんも納得し、事態は収束した。
「...でもさー。やっぱり一言くらい誘ってくれても良かったんじゃない? 私ちょっと傷付いたなー」
「うっ...それを言われると...すみません。いつか買い物とは別に埋め合わせしますから...」
「ふーん。埋め合わせねぇ...。あっ...じゃあさ、今度の買い物の時にお姉ちゃんから聞き出して欲しいことあるんだけど...。それが分かったら今回の件はチャラでいいよ」
「聞き出して欲しいこと...? 直接聞くんじゃだめなんですか?」
「それがねー...お姉ちゃん優しいから私が聞いてもなんでも嬉しいとしか答えてくれなくて...。だからさ! さりげなーく、今欲しいものとか、趣味とか、好きなもの聞き出して欲しいなぁって」
「え、えー...それは...」
「埋め合わせ」
「わかりました! ぜひ! 任せてください!」
かくして俺は妹にバレないように妹の入学祝いの買い物をしつつ、姉にバレないように姉の欲しいものを聞き出さなければいけないというなんとも複雑な状況下に置かれてしまった。
この状況を打破するため、俺はある行動に出た。
ーーーーー
(どうしてこうなった...)
大洗女子高校3年、澤は困惑でいっぱいの思いを胸に秘めながら駅前の噴水で待ち合わせ時間を待つ。
またまた遡ること3日前、私の携帯に河野さんから連絡があった。
ー澤家自宅
『おはよう。もう起きてるかな?』既読
「かっ河野さんから!?」
休日の朝、ラインの通知を見た私はガバッとベットから起き上がる。
この前連絡先を交換した河野さんからの連絡、まさかあちらから来るとは...。
寝起きだったこともあり、寝ぼけて既読をつけてしまった私は無難に返信をする
『起きてますよー! どうしました?』
『あーよかった! 実は、ちょっと相談したいことがあって...今日って時間ある? できたらでいいんだけど、カフェかなんかでお話ししたいんだけど...時間なかったら全然!』
「休日...相談...カフェでお話...これって...」
携帯を持つ手が震え、心臓がバクバクと鼓動する。比喩表現なしでまさに私の胸は大きく高鳴っている。
『今日は1日空いてます! 是非!』
『やった! じゃあ、駅前のタ●ーズに13時で!』
期待していいんだろうか、いや期待しちゃうよこれは。休日に二人きりでカフェ! これってデートってことでいいんだよね!
携帯を胸に引き込み小さくガッツポーズ。私は急いで出来るだけオシャレな服に着替えた。
ー13時 タ●ーズ
「....えっ? みほさん...ですか?...まあ、高校の先輩ですし知り合いですけど...」
「ほんと!? よかったー! ラインのトプ画にみほさんっぽい子うつってたからもしかしてって思ったんだけど! いやぁすごい偶然だねぇ!」
昂った私の気持ちに冷水をぶちまけるがごとく、会って早々、河野さんの口からは別の女の人の名前が飛び出してきた。
良かった、と嬉しそうにする河野さんに、嫌な予感が全身を走る。
「あの...もしかして相談って...」
「そう! ちょっとみほさんのこと知りたくて...協力してくれると嬉しいなって」
その言葉を聞いた瞬間、私のリア充ロードがガラスのように割れて崩れていくのを感じた。
話が長めになりそうなので、キリのいいところで今回は切りました。
次回(このエピソードに関しては)完結すると思います。