あべこべ道! 乙女が強き世界にて   作:マロンex

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※注意※
今回は作中では描写のない、二次創作の設定が含まれます。


第19話 男性恐怖症

「...相談がある?」

 

島田愛里寿という少女と出会ってから数日だろうか、島田家の家元であるという女性から連絡がきた。

俺に折り入って相談がある、とのことらしい。

人目を憚る話なのか、島田家の本家の豪華な屋敷に呼ばれた俺は、男子禁制と大きく書かれた居間に通された。

 

「えっと...それで、島田家の家元様が俺になんの相談ですか...?」

 

「数日前にあった娘を覚えているかしら。あなたと接触したと聞いているのだけど」

 

「接触って...愛里寿さんのことですよね?」

 

「そう、相談は愛里寿...もとい私の娘の件です」

 

そう言って、彼女はゆっくりと話し出した。

 

「愛里寿はその...男性恐怖症というものを患っております。一種の対人恐怖症ですね」

 

「...男性恐怖症?」

 

「まあ、簡単に言ってしまえば、男性に対して異常なまでに恐怖を感じてしまう病気ですね」

 

島田さんが話すに、娘のその異常性に気がついたのつい半年前ほど。

大学に飛び級しプロ候補として闘う中で、何度か男性と接点を持つ機会があったらしいのだが...

男性に話しかけられる、もしくは接触する(握手やアイコンタクト)だけで、動悸、めまい、吐き気、貧血etc...

ひどい時にはその場で失神してしまほど、体に異常が現れた。

初めは体調不良などを疑ったが、男性から離れ、しばらくすると容態は安定する様子をみて、確信したらしい。

 

「...原因を考えればキリがありません。元々人見知りが激しい子でしたから。同性ならともかく、年齢の離れた異性の存在はきっと彼女にとっては恐怖の対象だったのかもしれません。...しかしそんな悩みを持っていたある日、その例に漏れる、特異な存在を見つけました。それがあなたです」

 

「お、俺が?」

 

「ええ、理由はわかりませんが、娘はあなたのことを男性であるのにも関わらず、恐怖の対象と認識していないようです。あなたも先ほどの話を聴いて違和感を感じたでしょ?」

 

「...確かにそんな感じはしませんでしたね。至って普通...というかなんというか」

 

そう言われて思い返すと、確かに最初の方は少し顔が硬っていたような気もしたが...。知り合いのように気さくに話しかけてくる彼女にはそんな異常性、ひと時も感じなかった。

 

「そこでご相談、というかお願いがあるのですが...」

 

「は、はい! なんでしょう」

 

「なんでもいいです。娘の男性恐怖症の原因...もしくは解決方法を見つけるために、積極的に娘とコミュニケーションをとって欲しいんです」

 

「え、えっとそれはつまり...仲良くなれと?」

 

「...まあ、大枠で噛み砕けばそうですね。島田家はもちろん、大学チームや関係者にも話を通しておきます。解決はともかくとして、とにかく娘との接点を多く作って欲しいのです。お願いできますか?」

 

「...うーん...目的はわかりましたけど...。そんな大役こなせるかどうか...」

 

「まあ、そんな深刻に考えないでください。男性に免疫がつくだけでもこちらでは願ったり叶ったりですので」

 

「...わかりました! 頑張ってみます!」

 

こうして、島田家の未来を背負った一大プロジェクトが幕をあげた。

 

(とは言ったものの...俺だってそこまで女の子と接するの上手くないんだよな...。...あんまり気乗りしないけど、とりあえずあいつに電話してみるか...)

 

ー某所 キャンプ場近く

 

とあるキャンプ場。深いチューリップハットをかぶった女性が、一人カンテレを弾きながら海に沈んでゆく太陽を眺めていた。

 

「ちょっとミカー! またサボってー! 片付け手伝ってよー!」

 

「そうだそうだ!」

 

「...ふふっ。今日も平和だね...っておや? この着信...はい、ミカだよ、どうしたの?」

 

『もしもし? 河野だけど...今大丈夫?』

 

「...おやおや、これはお久しぶり。昔の女が恋しくなっちゃったかな?」

 

『語弊のある言い方はやめろ』

 

「ふふっ語弊なんてひどいな、一夜を共にした仲だろ?...で、どうしたの急に」

 

『はぁ...相変わらずだなお前は....。お前確か、大学で心理学専攻だったよな。ちょっと相談があって』

 

「ええ、まあ。気まぐれで行ったりいかなかったりだけど一応ね。それで相談って?」

 

『実はさ、ちょっと訳あって島田家の娘さん...愛里寿さんっていうんだけどさ、その子の男性恐怖症を治すのに協力しててさ、心理学専攻のお前ならなんかいいアドバイスをくれないかなって』

 

「愛里寿...」

 

『もしもし? 聞こえてる?』

 

「...ああ、ごめんよ。ちょっと因果を感じていてね。...しかし相変わらず人助けかい? 君も変わらないようで安心したよ」

 

『...頼む。なんでもいいんだ。そういう精神状態の子の心を開くようなこう...いい方法ってないか?』

 

「別に私は心理学専攻なだけで専門家ではないんだけど...まあ、手助けになるようなアドバイスをひとつするとしたら、そういった子に一番有効なコミュニケーションはシンプル。『相手を理解しようとする』こと。気持ちを汲み取る姿勢を見せることだね」

 

『気持ちを...汲み取るねぇ...』

 

「まぁ、こんな曖昧なこと言ってもしょうがないだろうから、具体的な行動をいくつか教えてあげるよ」

 

「頼む!」

---------------

 

「....とまぁ、とりあえずはこの3つくらいかな? これを意識するだけでもだいぶ変わると思うよ」

 

『....なるほど。わかった! ありがとう!』

 

「礼には及ばないよ。まあ、お礼は期待してるけどね」

 

『相変わらず減らず口を...と言いたいところだが今回は本当に助かったからな。まあ、こっち遊びにきたら飯でも奢ってやるよ』

 

「ふふっ、相変わらず女性の誘い方が上手だね。感心しちゃうよ」

 

『は? 何いって...』

 

「ミカー!! いい加減降りてこい!! 皿洗いぐらいしろ!!」

 

「おっと、長話しすぎたよ。ごめんね、そろそろ切るよ」

 

「おう、じゃあまたな!」

 

「うん。...じゃあ頑張って.......妹をよろしく頼むよ」

 

「へ? 最後の方が聞こえ...」ピッ

 

「はぁ...。やれやれ...。本当に不思議な子だ」

 

風に当たりながら一人、ミカは複雑な心境だった。

たった一人の大事な妹の写ったその画面を、しばらくじっと見つめて物思いにふけるのだった。

 


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