あべこべ道! 乙女が強き世界にて   作:マロンex

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お久しぶりです。


第20.5話 味音痴のお嬢様 裏

ー時は少し遡り、河野が見学にくる日の朝

 

(おかしい...みんないつもよりも動きが鈍い...メグミとアズミもなぜか休憩に行ったまま帰ってこないし...)

 

愛里寿は今朝方から他の隊員の動きが気になっていた。

練習こそ集中している様子だが、休憩中になると皆が自分の顔をチラリと見てはヒソヒソと話をしているからだ。

 

(寝癖...? それとも服装が...。いやおかしなところな何も...)

 

練習の指揮を取りながら、練習場のガラスをミラーがわりに自分の姿を凝視するが特に変な部分はないように見えるのだが...。

こんな違和感、このチームで隊長をやり始めてから初めての事だったので顔には出さずとも朝から終始困惑していた。

 

(初めてだこんな事...)

 

出会ったことのない違和感。その考えが浮かんだ時無意識に連想したのは「あの人」の存在だった。

 

「河野ヒロ...」

 

男性という存在を避けていた私が初めて自分から話したいと思った不思議な生物。

握った手は間違いなく男性のもの。声だって、顔だって...。

だが自分でも怖いくらいにすんなりと彼を受け入れることができた。

 

(変な気持ち...病気...なのかな...それとも...)

 

「...いちょう! 隊長!!」

 

「へ!? な、何?」

 

「何じゃなくて! 基礎練習終わりましたので、次の指示をお願いしますよ!」

 

「ご、ごめん! えっと...次は展開訓練! A,Bチームは所定の位置に!」

 

「「「はい!」」」

 

(ダメダメ! 隊長としてチームを引っ張らないと!)

 

パンッと頬を叩き、ゆっくりと指揮用のパイプ椅子に腰掛け、私は集中モードに切り替えるのだった。

 

ーーーーー昼前

 

気が付くと昼休憩前の最後の練習に入っていた。

 

「B! 周りをよく見なさい!! 後ろがガラ空きだよ!」

 

「D! カバーに入るタイミングが甘い! そんなんじゃあっという間に走行不能だよ!」

 

「「はい! すみません!!」」

 

(みんな、着実に連携も取れてきてるね。...これならあの西住流にも...)

 

真剣な眼差しで練習を眺めていると、ピコンッと一件、ラインで連絡がきた。

 

「...ん? メグミから...? そういえば休憩いったまま帰って...ってええっ!?」

 

『隊長! お目当ての河野くんって男性が来ましたよ! ほら! マネージャー候補の!』

 

集中モードが一気に崩れ、思わずスマホを凝視する。

 

(か、河野くんってあの...? ええっ!? 何でここに...?)

 

初めて会った日の夜、確かに家元にマネージャーの打診をしたが、性別はもちろん、何も彼のことは話していない。

偶然だろうか....それにしてはできすぎている気が....。

動揺して震える指を必死に抑え、メグミに返信する。

 

『ちょと! あなた練習は? というかマネージャー候補って』

 

『もー! 細かい話はいいですから! とにかく昼休憩にして、ミーティングルーム来てください! 客人待たせちゃダメでしょー!』

 

「メ、メグミめ...。後で説教ね....。....全員集合!! これより昼休憩に入る! ルミ、後は任せたわよ」

 

「了解です♪ お気をつけてー」

 

隊員達に休憩を告げると、怪しまれないように急ぎ足でミーティングルームに向かう。

そこにつくと何故かお弁当箱を持ったアズミの姿があった。

 

「隊長! 遅いですよー! 早くしないと河野さん来ちゃいますよ? あ、あとこれはい、お弁当!」

 

ドアを開くと矢継ぎ早に弁当箱を手渡してきた。

唐突に渡されたことに戸惑いつつも、コトリと手に持っていたボコの人形を置くと、冷静に対応する。

 

「遅いって...私はメグミに呼ばれてきただけなんだけど...。...というかなにこのお弁当。どう見ても二人分あるんだけど...」

 

「何って...ふふっ」

 

質問責めする私にニヤニヤと嬉しそうに近付くと、耳元で呟く。

 

「...河野さんの分に決まってるじゃないですか」

 

「かわ...ってへえ!? そんな急に渡されても困るんじゃ!」

 

「あー、中身ですか? 大丈夫ですよ! 隊長の味音痴も考慮して、今回は少し甘めに作ったとの事ですし!」

 

「そ、そうじゃなくて!」

 

「...さっ! 客人がお見えです! 隊長としてしっかりマネージャたりうる存在か見極めてきてくださいねー!それじゃ!」パタンッ

 

嵐のように現れたアズミがいなくなった部屋にはポツンと取り残される。

だが、静かな部屋の空気とは裏腹に私の心拍数は今日一番に昂っていた。

 

(河野くんが来る...河野くんが来る...? どどどーしよ! と、とりあえず冷静になれ私!)

 

そうこうしている内に、入れ替わるようにアズミの声が近づいてきた。

 

「さっ! 隊長は... 食事してるから!」

 

「あ、ありがとうございます。あれ、他の方は...」

 

(ほんとにきた! ほんとに河野くんだ!!)

 

ドアが開き入ってきたメグミの後ろに申し訳なさそうに入ってきたのは間違いなく河野くんだった。

だが、そうとわかっていても顔がどうしてもあげられない。妙な心理的圧迫が私を襲うのだった。

 

(またいつもの恐怖症...? いやでも全然嫌な気分じゃないし...むしろ...)

 

普段も男性を前にすると似たような状態にはなる。

だが、今回のは明らかに違う...というより気分的にはむしろ逆に高揚しているのを感じる。

嬉しい気持ちが半分と何故か恥ずかしい気持ちが半分...。

とにかく今まで経験したことのない複雑な感情が押し寄せてくる。

 

「あ、え、えーと、じゃあ俺も座ろうかなー。 隣いいですか?」

 

「は! ひゃい! 大丈夫!...ど、どどどうぞ!」

 

「あ、ありがとうございますー...」

 

頭の中がグチャグチャにかき回されている最中、唐突な彼の声に思わず動揺が言葉に出る。

ロボットのような動きで椅子をゆっくりと引く私に、明らかに引き気味に彼の苦笑いが胸に刺さる。

 

(今絶対変な人って思われた! 変な人って思われたよぉ...)

 

たった一言ですら呂律が回らず羞恥心に打ちひしがれている今の私に、隊長としての威厳は皆無だった。

しかし、そんなことで挫けてはいけない。齢14歳にして若干涙目になりながら、彼と目線を合わせる努力を始めた。

 

チラリと見ては目が合うと目線を外す。

またチラリと見ては見られたら目線を外す...。

 

(いや無理! どーしよ! 私ってこんなコミュ障だったっけ!?...と、とにかくこのもらったお弁当を渡さないと...)

 

お弁当を渡して、一緒に食事にさそう。

簡単な事だ。

なのに何故か体が動かない。

 

この前のように自然に動きたいのは山々なのだが、何故か自身の外見や彼の言動に異常に敏感になってしまう私がいるのがわかった。

髪型は変じゃないか、服装は? 汗臭くない?

この人に変だと思われたくない、その思いが強く出てしまうのが逆効果をうみ、余計挙動不審になる悪循環。

そんな私を気遣ったのか、彼から一言、静かに声が上がる。

 

「え、えっと...愛里寿さん?ごめんなさい、気になりますよね。俺は今日はこの辺で...」

 

(だめっ! それだけは...!)

 

咄嗟に袖を引っ張り、彼を引き止める。自分でも驚きの反射神経で一気に距離が近づいた。

逃げられない状況になったことが幸いしたのか、私は初めて彼の顔を直視することができた。

 

「あの!...お弁当。多めに作っちゃったからあなたさえ良ければ...」

 

「えっ...いいんですか?」

 

「...ど、どうぞ。あなたさえ良ければ...」

 

(言えた...!  言えた!)

 

ニコッと笑顔を見せた彼は嬉しそうに私のお弁当を受け取る。

気持ち悪いくらいにじわじわと口角が上がっていくのがわかった。

 

「じゃ、じゃあお言葉に甘えて...いただきまーす!」

 

しかし、渡せた余韻に浸っていたのも束の間、私のお弁当を食べた彼の顔色が変わっていく。

口に入れたスプーンがピクッと動いたかと思うと、そこから動きが固まる。

 

(あ、あれ...甘口にしたって聞いたのに...もしかしていつのも私の味付けなんじゃ....)

 

昔から戦車道をはじめとする多くの習い事に触れてきた私は知らぬ内に卓越した動体視力や美的感覚、絶対音感などを身に付けていた。

だがそんな私にも唯一、人よりも劣っている感覚が存在する。それが...

 

ー味覚

 

そう、私はどうしようもないほどの味音痴、そして馬鹿舌の持ち主なのだ。

特に好きな食べ物は顕著で、幼い頃から辛いものに目がなく、ほとんどの食べ物に香辛料や辛味を入れたものを好んで食していた。

最初こそ栄養バランスや健康面で周りや母上から止められはしたが、健康上なんの問題もないままそんな食事を恒常的に食していたせいか、感覚が麻痺したのだろう。誰にも止められる事はなくなった。

 

(そうだ、私のお弁当! これとあれはきっと同じく母上が作ったものに違いない、なら...)

 

パクリと一口自身の弁当を口に運ぶ。すると普段の数段は辛さを感じないほど、味付けが薄かった。

きっと人に渡すようだと理解してくれた母上が予め普通の辛さにしたのだろう。

ひとまずはほっと安堵し、言葉が漏れた。

 

「....ど、どうかな? 私が辛党だから普段は辛口なんだけど...口に合わないといけないと思って今回は少し甘めにしたって...」

 

「へ、へえー...そうなんだぁ...ちょ、ちょっと待ってね水を...」グッ

 

しかし、安堵したのも束の間、彼の表情は曇ったままだ。

いや待て、冷静に考えたらこの状況不味くないか?

あんなゲテモノみたいな見た目の弁当、味云々以前にそもそも男の人に渡すものじゃない.....。

ヤバイ、そう考えると異様に恥ずかしくなっていた

 

「...あの、口に合わなかった...ですよね。...ごめんなさい」

 

「い、いや! そんなことは...」

 

「ううん、いいんですよ。勝手に作っちゃっただけですから..あ、食堂行きましょうか...」

 

とにかく自分の味音痴を公言しているようなこの弁当を河野さんから遠ざけたかった私は無理やりにでも食堂に行く流れを作ろうとした。

しかし、そういってグッと弁当箱を引っ張ろうとした際、河野くんは異常なほどに私の手に目線がいっていた。

 

(手につけた絆創膏を見てる...? ってまさか... )グッ

 

「ち、違います! めっちゃ美味しくて味わっていたと言うか...是非残りも食べたいんですが!」

 

間違いない。彼はこの弁当を自分が前日に一生懸命に作ったと思っている。

 

「え、で、でも全然箸が進んでないし...無理しなくても」

 

(違うの!これは昨日戦車整備で怪我してつけたやつだから! こんなゲテモノ作った私じゃないの! 変な気使わないで!!)

 

「いえ! 本当です!...ただ...食べる前にひとつお願いがあって!! いいですか!!」

 

「へ!? は、はい! なんでしょう!!」

 

「腰が抜けてしまったので、愛里寿さんが口に運んでくれませんか!!」

 

「....はい?」

 

ーこの選択肢、神の一手となりうるのか。それとも...

 

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