世界一辛いといわれている唐辛子の一種
唐辛子の辛さの単位・スコヴィル値(SHU)で辛さを表すと、日本一辛い唐辛子である鷹の爪が4~5万SHUなのに対し、キャロライナ・リーパーはなんと220万といわれている
「腰が抜けてしまったので、愛里寿さんが口に運んでくれませんか!!」
「....はい?」
辛さで限界の自分が出した突拍子もない提案にあっけにとられる様子の愛里寿さん。
無理もない状況だが、正直これ以上は手が進む気がしない。
「えっと..その全部もらうわけにはいかないですがどれも魅力的でして..できたらあなたのおすすめを食べさせてほしいなーって..」
「えっ..ああ、なるほど..? わ、わかりました」
明らかに困惑した様子ではあるが、俺の意味不明な熱量に押されて、躊躇しながらもゆっくりとお弁当のおかずに箸を伸ばした。
「えっと、じゃあこれを..あ、あーん」
「あーん、ムグっ..うぐっ」
当たり前だが、自分で食べようと人から食べさせてもらおうと辛いことは変わらない。
先ほどのチキンライス同様、明らかに人外量の香辛料が入ったハンバーグが口の中をえらいことにする。
「えへ..えへへ。 なんかこれまるで新婚さんみたいですね」
「あ、あの水もちょっと..」
しかし、そんな状況を尻目に、食べさせることになぜか快感を覚えた様子の愛里寿さんがまるでふれあいコーナーの動物にエサを与えるように、次々と口の中に劇物を投入する。
そうしてしばらく涙目になりながらも、必死に耐え続け、ようやく弁当の中身がなくなったと思ったさなか、なぜか愛里寿さんは小さな容器を取り出した。
「あ、あの..まさかこんなにおいしそうに食べてくれるなんて思ってなくて..出そうと思って悩んでたんだけど、じ、実はデザートも作ってきたんだ」
「で、デザートでひゅか? 是非食べたいです!」
(助かった! デザートならこの痛みを緩和できる! 助かっ..)
「特製ハバネロ・キャロライナ・リーパー※・イチゴ大福です! 私が発明した甘辛スイーツです! 一口サイズなので一気にどうぞ! はい、あーん!」
「え、まって? ハバネロなんだって? てか、甘の比率少なすぎっムグっ..!?!?」
間髪入れずに口に入った大福?を噛んだ瞬間、口の中に炎がほとばしる。
先ほどの戦いで限界を迎えていた俺はゆっくりと意識を失っていくのだった。
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どれくらいたったんだろうか、気が付くと俺は知らない白い天井が目に入った。
「ここは...病院?」
むくりと起き上がると、どうやら大きな病棟の一室のようだった。
しばらくして病院の医師が俺の様子を見に来る。
「おー、目を覚ましましたか。お体は大丈夫ですか?」
「え、ええ..。特には。すみませんご迷惑かけて」
「いやいや、愛里寿様の大切な方です。普段からお世話になってますから、恩返しができてこちらもうれしい限りです。治療代等はすでに愛里寿様から頂いておりますので」
「そ、そうだったんですね」
「うんうん、お気になさらず。お薬とか、治療代の明細等ははこちらに置いておきますので、必ず目を通しておいてください..少しやけどの症状もみられますので。それと..」
「?」
「あなたは素敵な男性ですね。あの子..いや、愛里寿様をよろしく頼みます。少し人見知りですが、あなたでしたら彼女の心の傷もきっと癒せるはずです」
少し意味深な言葉を残した後、医者は少し微笑んで、あとは若いお二人で、と席を外した。
きっと男性恐怖症の愛里寿さんを気遣ったのだろう、病室のドア越しにずっと眺めていた彼女に一瞥を加えると、静かに反対のドアから去っていった。
「っ!! 河野さん! よかった!! 目を覚ましたんですね!..ごめんなさい私なんてことを..」
医者が出ていくと同時にガラッとドアを開けて愛里寿さんが駆け寄る。
ぎゅっと手を握りながらしばらく俺の横で顔をぐしゃぐしゃにして泣きじゃくるのだった。
―--数十分後
「落ち着きました?」
「..はい、こちらが加害者なのにごめんなさい。取り乱しちゃいまして。重ねて謝罪します」
「ははっ..全然大丈夫ですよ。それにこちらこそごめんなさい、料理を食べている最中に気絶なんて..最低ですよね」
「...我慢してたんですよね。私のことを気遣って」
「あ...いや..それは..」
「いいんですよ、お医者さんから説明がありましたから。体に拒絶反応が出ていて、ショック性の症状が強いって。あと少し量が多くなっていたら命だって危なかったって...きっと相当無理してたんですよね」
「...すみません」
「い、いやいや! 怒っているとかじゃなくて!...ただ、河野さんはすごいなって」
そういってバックから小さなぬいぐるみを取り出した。
縫い目が入ったかわいい熊?のようだが、包帯やギプスをしていてなんとも不思議なキャラクターだった。
「この子、ボコっていうんです。私の大好きなアニメのキャラクターなんですけど」
「ボコ..ですか、ずいぶんお怪我されてるみたいですが」
「そう! それがボコなの! どんなに強い相手でも勇敢に立ち向かって戦うの!弱いからいっつもボコボコにされちゃうんだけど、何度やられても立ち上がる姿が..」
急に饒舌にしゃべり始めたが、はっとした表情で我に返った愛里寿さんはこほんと咳ばらいをすると続けて話し始めた。
「ま、まあボコの魅力はおいておいて...。とにかく私が言いたいのはあなたが私の好きなボコみたいだなって思ったんです」
「...お、俺がですか?」
「私だってこの味付けが普通じゃないことくらいわかります。どんなにきつくても何度でも私の料理にそれこそ命を賭して挑み続ける。そんなところがすごく似ているなって...。そんな河野さんをみて私本当に感動しちゃったんです。..だから、その」
すこし言い淀むと、先ほどのバックを少し躊躇した手つきで開いて、先ほどのボコの小さなぬいぐるみをもう一つ出すして、俺に差し出した。
同じようだが、先ほどのものとは違い、片腕にだけ指輪のようなアクセサリーがついている
「...これは?」
「これは戦車道連盟が作ったボコの限定モデルです。私が大会で優勝した際に記念して作られた世界で一つしかないものです。...河野さんこれをどうか受け取ってもらえませんか?」
「えっ、でも一つしかないんですよね? こんな貴重なものをなんで俺に」
「...実は次の大会、優勝の副賞にこのボコと同じ限定モデルがもう一度配布されることになっているんです。でも最近はなんだかうまくいかないことばかりで..正直諦めかけてました」
そういえば、ミカも言っていた。ここ数年名門島田流、西住流が揃って優勝旗を奪えずにいるらしい。
もちろん常に上位には食い込むが、西住みほを筆頭とした新勢力が猛威を振るい、優勝にはこぎつけない現状は常勝を平時としている彼女たちにとってはさぞつらい時期だろう。
「...でも、私決めたんです。次の大会、必ず優勝して見せます。優勝してもう一つこのボコを手に入れてみせます...だから、その決意の証、受け取ってくれませんか?」
何か吹っ切れたような、そんなすがすがしい表情をした彼女は、練習場で会った時よりも、きらきらと輝いて見れた。
「...わかりました。では、これはお預かります。必ず優勝してね」
「!! はい! 絶対見に来てくださいね!」
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「Aチーム! もっと展開早くして!」
「Cチームもフラッグを守るのが遅い! そんなんじゃすぐ撃破されちゃうよ!」
「なんか最近、隊長いい感じだね」
「そうそう! 闘気満々だけど、冷静沈着というか! めっちゃかっこいいよね!」
「...当初の予定とは違ったけどとりあえず作戦は成功かね、メグミ」
「そうねぇ、にしてもやるわね、あの子。あの男性嫌いをここまでやる気にさせる異性がでるとはね、お姉ちゃんちょっと感動よ、ねえルミ?」
「まっ、隊長が隊長らしくなってくれてよかったわ。...あとは次期島田流候補を陥落させるだけね」
(待っててね! 河野さん! 優勝して必ず...迎えに行くから!)
自信に満ちた彼女の声が、今日も練習場に響き渡る。
島田流当主の目にはもう、優勝旗しか眼中にないのであった。
これにて愛里寿編、いったん終了です。ちょっと長くなっちゃいました。
次回作のキャラを誰にするかは考え中です。
リクエストありましたらどしどしお願いします。