短期で定期的に投稿できるように頑張ります。
―時間は数日前に遡る
「...つまり母親のために、娘である自分がミスサンダースになって親孝行したい...ってことか?」
「そう! サンダースの附属高校に入ったのもそれが目的よ!」
ちーちゃんの言葉に覚悟を決めたのか、ゆっくりと事の発端を話し始めたケイさん。
明るい表情ではあるが、少し悲しげで、それでいて強い意志を感じるような表情だった。
「あれ?...私の記憶だとお前の母親ってすでにミスサンダースじゃなかったか?」
「...うーん、まあ事実上はそうなるんだけど..正確にはそうじゃないって言い方がいいのかしら。母の最終的な肩書はミスサンダース候補生、つまり今の私と同じポジションよ」
「あれ、そうなのか、てっきり...」
「いや、勘違いするのも無理ないわ。...だってその年の唯一のミスサンダース候補生だもの。事実上はその認識であっているわ」
「え、えっと、すみません。あんまり詳しくはないんですが、一人しかいないならミスサンダースになれるもんじゃないんですか?」
「もちろん、大学側も母にミスサンダースの称号を与えると提示したわ。...でも母はそれを辞退した」
「じ、辞退!? あんな名誉ある賞を...にわかには信じられんな」
「...ミスサンダースってね、なって終わりじゃなくて、なってからが本番なの。なんせ大学側の顔だからね。行事の式辞、司会、イベントのアナウンスや運営...数えられないくらいやることがあるのよ」
「そ、そうだったんですね。想像より激務なんですね」
「そう、その激務こそ辞退した理由よ。...昔から母は病弱な人だった。大学にも行けないくらい寝込んだり、突発的に入院したりしたことも多かったって聞いたわ。...だから彼女は大学に迷惑をかけるからって断ったそうよ」
「そうだったのか...」
「...大学から付き合ってた父から話をきいたんだけど、母さんは当時辞退の件も、周りにはなんともない様子で気丈に振る舞ってはいたんだけど、本当は裏で瞼が腫れるくらい泣きじゃくってたんだって。...きっと本心ではミスサンダースになりたかったんだと思うわ」
ミスサンダースは文字通り大学の象徴だ。なかなか大学にも行けずアピールする機会も少ない中でのノミネートということは、相当な影響力や学力を持っていたことは想像に難くない。
「母は病弱ではあったけど、同時に負けず嫌いだった。誰よりも勉強して、誰よりも周りを引っ張って、そして誰よりも自分も率先して動いた。...そうして努力した先に得た世間から認められた証を眼前に提示されてなお、彼女は自分の体が原因で手放さざるを得なかった。...悔しいって言葉が生ぬるいくらいの絶望を味わったと思う」
「...なるほど、それで娘であるお前が」
「そう、私がミスサンダースになって、病室にいる母さんに15年前の夢をかなえてあげたいんだ。...まあ負けず嫌いだから嫉妬されちゃうかもしれないけどね!」
少し暗くなった雰囲気を和ますように少しジョークを挟みつつ、今一度話し出す。
「これが私がミスサンダースになりたい理由。...どうか協力してくれないかしら」
静まり返った喫茶店で響くケイさんの声。きっというのもつらかっただろう話を正直に伝えてくれた彼女に対する返事は決まっていた。
「...もちろんです。協力させてください! ちーちゃんも、ね!」
顎に手を当てて沈黙していたちーちゃんも、俺の呼びかけにはぁ、と深くため息をついてじっと考え込んでいたが、何かを決意したのか、しぶしぶではあるが了承した。
「二人ともありがとう!...ごめんね、変なことに巻き込んじゃって」
「...ったく、あんな話聞かされて、断れるわけないだろ」
「ふふっ、ほんと、いい友達をもったわ!...じゃあ、さっそくで申し訳ないけど作戦内容は...」
「...まて! 了承はしたが、無条件じゃない。作戦をやるにあたって一つそちら側にも協力してほしいことがある」
「...もちろんよ。こちらからのお願いだもの。何かしら?」
「偽名、偽の身分、偽の人物像をでっちあげることに協力してくれ。これには当然髪型をいじったり服を用意したりする必要がある。その分の費用や手間をかぶってくれること」
「...それって俺が河野ってばれないようにするってこと? なんで?」
「ほんっとお前は...。いいか、考えてもみろ、こいつはテレビにも何回か出てる超が付くほどの有名人だ。そいつの恋人として大学内はもちろん、世間からもよく思わないやつもでるかもしれん。リスクヘッジってやつだ」
「ふむ、なるほどね。別れた後のトラブル回避ってことね。...まあ、こちら側としても変なところからほころびが出て嘘ってばれるのも嫌だしね。全力で協力させてもらうわ」
「...よし、じゃあ一応、作戦の前日にはいったん集まって段取りとかを...」
(まあ、確かに別れた後面倒ごとに巻き込まれるのもごめんだしな)
しかし、この時気が付くべきだった。この追加条件が最もこの作戦を苛酷にしていることを。
―時は戻り部室倉庫前
(...くっ...舐めていた、金持ちの力...)
あの後、ケイさんと事情をしる執事は信じられないくらい惜しみなく俺に対して投資をした。VIP御用達の高級美容院での髪型変更や、専属アシスタントによる人生初のメイク、毎日必ず行われるエステに、風呂だって決められたシャンプーを使わせる徹底ぶり。
その結果、俺は自分でもありえないくらい、気品あふれるお坊ちゃまになってしまった。まさに別人。
「...いま弟に見つかっても、きっとばれないだろうな...へへっ...」
乾いた笑いが取り残された一人しかいない部室で響くのだった。
「はーいそこ!! 詰めが甘い! そんなんじゃ黒森峰には到底勝てないわよ!」
「そこも連携がなってないわね! そんなんで各個撃破されたら目も当てられないわよ!」
ケイさんやほかのチームリーダーの大声が飛び交う練習では、事前に渡されたリストでは思いのほかマネージャーといえどやることは多かった。飲み物の補充、買い出し、道具の準備、整理、後片づけなど...こんなの一人でできるのかと不安になっていたのだが...
「え、えっと...道具を運ばないと...」
「河野原様! 任せてください! 私が運びますよ!」
「あ、ありがとう...ございます」
「あっ、てめえ! 抜け駆けすんな!」
「よ、よし! 練習で使う水の買い出しに...」
「河野原様! 俺車出しますよ! 窓から見える海がきれいなところ知ってるんですよ私!」
「えっ、いや歩いて5分のコンビニ行くだけですし...後半は何の話ですか?」
御曹司ということを聞いてか、全員が様付けして呼び出したり、やることなすことすべてに専属アシスタントのようにチームメンバーはお手伝い??をしてくれるため、まったくと言っていいほど仕事がなかった。
挙句の果ては...
パサッ
「...河野原様。お暑くないですか? 本日は私が担当させていただきます お飲み物は?」
「ちょっ...だから、俺用の係なんていらないですって! 戻って! 練習して!練習!」
頼んでもいない身の回りのお世話係が担当制で勝手に作られていたようで、夜ナイター前の夕食の準備を寮でしているとき、裏で狂喜乱舞しているメンバーの声がよく聞こえた。
―夕食時
「...あの、ケイさん? ちょっといいですか?」
「む? なはに?」
「メンバーがくじびきで俺の担当とかいう謎の係を作っているんですが...止めなくていいんですか?」
「あっはは! その件ね! まあ、いいんじゃないかしら? きっとあなたが御曹司だからあいつらなりに気を遣ってるのよ」
おいしそうに夕食のハンバーグをほおばるケイさん。やはりまったく気にしていない様子だった。
「で、でも練習に影響が出ては...」
「それがねぇ! あなたが来てからうちのチーム、負けなしなんだよね! 前よりも練習全体に活気がある気がするし、モチベーションになってるなら止めるのも野暮かなって」
「は、はぁ...でも一応俺あなたの恋人ですよね、そんな態度で大丈...むぐっ」
「そうねえ、確かに変にドライなのもよくないし、少しけん制しとこうかしら? はい、ひーくん、もう一つ」
「ちょ、それケイさんが嫌いなニンジン食べさせてるだけ...むぐっ」
あれこれ言う自分が少し口うるさかったのか、唐突にニンジンを口に入れられた。ちーちゃんが言っていたように、確かに恋愛については全くと言っていいほど関心が薄い人のようだ。
楽しそうに俺をからかうケイさんは、まるで同姓か、子供を相手にしているような感じだった。
「あっはは! さて! 、ナイター練習頑張ろー! じゃっ!」
「ちょっ!! まだ話は!!」
「続きは練習後にねー!!」
(...これは思った以上に大変そうだな...)
ひょんなことから始まったケイさんとの疑似彼女生活。
まったく恋愛に興味のない彼女に振り回されっぱなしの河野であったが、ある日をきっかけにその関係性は大きく変化するのだった。
つづく
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参考にさせていただきます。
基本的にガルパンのキャラは全部okです。
ちょっとシリアスになっちゃいました。