あべこべ道! 乙女が強き世界にて   作:マロンex

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第32話 遭遇(vs西住みほ 後編)

その日の放課後。

部室で、私は一人、河野くんを待っていた。

いつもなら、もう来る時間なのに。

スマホを見る。メッセージはない。

 

(...どこにいるんだろう)

 

不安になって、窓から外を見る。

そこに。

河野くんとみほ殿が、ベンチで話している姿が見えた。

 

(...ああ)

 

胸が、ぎゅっと締め付けられる。

二人は楽しそうに話していた。

みほ殿が何か言うと、河野くんが笑う。

河野くんが何か言うと、みほ殿が微笑む。

完璧なコンビネーション。

まるで、昔からの友達みたいに。

 

(私と河野くんは...)

 

出会ってから、まだ一ヶ月も経っていない。

河野くんのこと、まだまだ知らないことだらけ。

でも、みほ殿は。

もう、河野くんのことを、理解してるみたいに見える。

 

「...もう帰ろうかな」

 

呟いた時、部室のドアが開いた。

 

「秋山さん、ごめんなさい!遅くなって!」

 

河野くんだった。

少し息を切らして。

頬が、紅潮して。

 

(...可愛い)

 

反射的に、そう思ってしまう。

 

「い、いえ...大丈夫です...」

 

「すみません、ちょっとみほさんと話してて...」

 

ああ、やっぱり。

みほ殿と話してた。

 

「そう...なんですか...」

 

声が、震えそうになるのを必死でこらえる。

 

「あの、秋山さん?」

 

河野くんが、心配そうに顔を覗き込んでくる。

 

その優しい目。

その、私を心配してくれる表情。

 

(ああ...ずるい)

 

そんな顔されたら、怒れない。

責められない。

 

「...大丈夫です。それより、今日の作業、始めましょう」

 

無理やり笑顔を作る。

河野くんは、まだ心配そうだったけど。

 

「...はい」

 

椅子に座った。

 

その夜。

 

「...河野くん」

名前を呼んでみる。

 

誰もいない部屋で、一人。

 

「河野くん...」

 

もう一度、呼んでみる。

その名前を呼ぶだけで、胸が温かくなる。

でも、同時に、苦しくもなる。

布団に潜り込んで、枕を抱きしめた。

 

(河野くんは...誰が好きなんだろう)

(もしかして...もう、好きな人がいるのかな)

(それは...みほ殿...?)

 

考えたくないことが、頭をぐるぐる回る。

でも、止められない。

そして、河野くんの笑顔を思い出す。

照れた時の、耳まで赤くなる表情。

困った時の、袖を握る仕草。

真剣な時の、少し眉を寄せる顔。

全部、全部、可愛くて。

愛おしくて。

 

(...好きだ)

 

布団の中で、小さく呟いた。

 

(河野くんのこと...好きだ)

 

認めてしまった。

もう、誤魔化せない。

私は、河野くんのことが。

好きだ。

でも、その想いを伝える勇気は。

まだ、ない。

 

ー別の日

 

「秋山さん、河野くんいるかな?」

 

放課後、みほ殿が訪ねてきた。

ドア前でひょいと顔を出し、部室を一瞥すると残念そうにため息をついた。

 

「あ...河野くんなら、まだ来てないですね」

 

「うーん、そっかぁ」

 

私一人の部室に、みほ殿。

 

(...気まずい)

 

というか、私の中で勝手にライバル視してるから、余計に。

 

「困ったなぁ、もう時間ないんだよねぇ。...ゆかりさん、悪いんだけど、伝言お願いしてもいいかな?」

 

みほ殿が笑顔で言う。

その笑顔に、悪意は微塵もない。

 

(...やっぱり、いい人なんだな)

 

だから、余計に複雑だった。

 

「はい...」

 

「この前話してた戦車の資料、見つかったから、いつでも取りに来てって、ほらこれ」

 

みほが本を取り出す。

それを見た瞬間、私の目が見開いた。

 

「こ、これは...!」

 

『パンツァー・タクティク 第3版 改訂増補版』

 

幻の戦術書。

市場にはほとんど出回っていない、貴重な一冊。

 

「すごい...本物ですか...?」

 

「うん! 実家の方にあったんだよね」

 

さすが西住流。

 

「河野くん、この本のこと話してたんだよね」

 

「え...」

 

河野くんが、この本のことを。

 

「読んでみたいっていうから、一応実家の書庫探してみたら...探せばあるもんだね」

 

(...優しい)

 

河野くんの願いを、ちゃんと覚えてて。

しかも、わざわざ探してきてくれた。

私は、河野くんがこの本のことを話していたのすら、知らなかった。

 

「りょ、了解です...河野くん、きたら伝えますよ」

 

言葉が、うまく出てこない。

みほ殿の優しさが、まぶしすぎて。

 

「ありがとう! 河野くん、喜んでくれるかな」

 

「きっと喜びますよ」

 

「そっか、えへへ」

 

みほの表情が、少し照れたように見えた。

 

(...ああ)

 

この表情。

これは。

 

「...優しいよね、河野くん」

 

みほ殿が、ぽつりと言った。

 

「この前も、荷物運ぶの手伝ってくれて」

 

「...そうなんですか」

 

「うん、重いから一人で運ぶの大変だなって思ってたら、すぐに気づいて」

 

みほ殿が、楽しそうに話す。

 

「『手伝いますよ』って、自然に声かけてくれて、いい子だよね。彼のためならなんでもしたいって思っちゃうもん」

 

一つ一つ語られる、河野くんとの思い出。

私の知らない、二人だけの時間。

 

(私も...)

 

私も、河野くんと荷物運んだことある。

模型を運ぶ時、重い資料を運ぶ時。

河野くんは、いつも手伝ってくれた。

 

「大丈夫ですか?持ちますよ」

 

優しく声をかけて。

でも。

 

(それは...私だけじゃなかったんだ)

 

河野くんの優しさは、誰に対しても同じ。

私が特別じゃない。

 

「あの...ゆかりさん?」

 

みほが、心配そうに声をかけてきた。

 

「え?あ、すみません!ぼーっとしてて...」

 

「大丈夫?」

 

「はい!大丈夫です!」

 

笑顔を作る。

作り笑いだけど、みほ殿には気づかれないようにしないと。

 

「あの...ゆかりさんと河野くん、仲良いよね」

 

みほが、唐突に言った。

 

「え...?」

 

「いつも一緒にいるから」

 

「あ...まあ、同好会の仲間ですから...」

 

「そうなんだぁ...いいなぁ」

 

みほが、少し寂しそうに笑った。

その表情を見て、私は気づいてしまった。

 

(...みほ殿も)

(河野くんのことを...)

 

「私も、河野くんともっとお話したいなぁ」

 

みほが、頬を染めて言った。

 

「戦車のこと、すごく詳しいし、話してて楽しいし」

 

(ああ...やっぱり)

 

「それに...なんだか、一緒にいると安心するんです」

 

その言葉が、私の心に刺さった。

 

(私も...同じだ)

 

河野くんといると、安心する。

自然体でいられる。

でも、みほ殿も、同じことを感じてる。

 

「ゆかりさんが羨ましいよ」

 

「え...?」

 

「河野くんと、いつも一緒にいられてさー。いいなぁ」

 

みほが、純粋な表情で言った。

その言葉に、私は何も返せなかった。

 

羨ましい?

私が?

でも、一緒にいても。

河野くんの心は、私に向いているかわからない。

むしろ、みほ殿に向いているようにもみえる。

 

「そ、そうですかね...ハハッ」

 

とりあえず、そう返すしかできなかった。

みほは笑顔で、部室を出て行った。

一人になって、私は椅子に座り込んだ。

 

「...どうしよう」

 

みほ殿は、いい人だ。

優しくて、可愛くて、強くて。

河野くんにふさわしい。

私なんかより、ずっと。

 

「...でも」

 

それでも。

諦めたくない。

河野くんのことが。

好きだから。

 

ー翌日

 

「秋山さん、おはようございます」

 

河野くんが、笑顔で部室に入ってきた。

 

その手には、コンビニの袋。

 

「これ、コンビニよったらあったので!」

 

「え...?」

 

袋の中には、私の好きなお菓子が入っていた。

 

「河野くん...これ...」

 

「秋山さん、これ好きだって言ってたから」

 

(覚えてて、くれたんだ)

 

胸が、温かくなった。

 

「ありがとう...ございます」

 

「いえいえ! いつもいろいろお世話になっていますし」

 

河野くんが、申し訳なさそうに言う。

 

(私...河野くんといると、楽しい)

 

この、今この瞬間も。

二人で、部室で。

お菓子を食べながら、戦車の話をする時間。

これは、私だけの特権だ。

みほ殿にはない、私と河野くんだけの時間。

 

「秋山さん?」

 

「...はい」

 

「元気ないですね」

 

河野くんが、心配そうに顔を覗き込んでくる。

 

「大丈夫です」

 

笑顔を見せる。

今度は、作り笑いじゃなく。

本当の笑顔で。

 

「そうですか...。でも、無理しないでくださいね」

 

河野くんが、優しく微笑む。

その笑顔を、私は守りたい。

たとえ、河野くんの心が私に向いていなくても。

側にいたい。

笑顔を見ていたい。

 

(それだけで...いいから)

まだ、諦めたくない。

まだ、戦える。

河野くんとの時間を、大切にしよう。

少しずつでいい。

近づいていこう。

 

「じゃあ、今日も頑張りましょう!」

「はい!」

河野くんの笑顔。

それを見られるだけで、私は幸せだった。

 

 

しかし私はまだ知らなかった。みほ殿よりさらに強敵がこの後待ち構えているなんて

ー数日後

 

???「失礼する、河野という男はいるか」

 

凛とした立ち振る舞い、そして圧倒的な存在感。

彼女の襲来は突然だった。

 

次回 まほ編




みほ編、完結です。
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