ー翌週の金曜日。
放課後、私は図書館で戦車の資料を読んでいた。
(もっと知識をつけなきゃ…)
河野くんと戦車の話ができるように。
まほ殿のように、対等に語り合えるように。
必死に勉強していた。
でも、集中できない。
頭に入ってこない。
文字を追っても、意味が理解できない。
「はぁ...戦車の知識なら簡単に覚えられるのに...」
ため息をついて、顔を上げた。
その時。
「おい、河野!」
図書館の入り口で、声が聞こえた。
振り向くと、河野くんがいた。
そして、その隣に。
背の高い、綺麗な女性。
特徴的なツインテールを揺らして、河野くんの隣を歩いている。
「ちーちゃん、静かに」
「あ、すまん、だが...図書館なんて久々で...」
(...あ、あれって確か...元アンツィオ高校の...)
二人は、親しげに話しながら奥の席へ向かった。
私は、本で顔を隠しながら二人を見つめる。
彼女は高校時代に何回かあっている。
確か、元アンツィオ高校で隊長をやっていた人だ。
二人は、席に座って資料を広げ始めた。
時々、笑い声が漏れる。
河野くんが、楽しそうに話している。
(あんなに...楽しそう)
胸が、痛い。
私は、資料を閉じて図書館を出た。
廊下を歩きながら、トボトボと部室に戻ろうとすると何人かが河野さんの話をしていた。
「さっき図書館にいたのってアンチョビさんだよね、なんでうちの大学に?」
「河野さんと仲良さそうだったけど...まさか」
「あー、なんか河野さんの幼馴染らしいよ」
「アンチョビさんって、あの有名大学の隊長やってるんだろ...はぁ、やっぱかわいい子にはそういう漫画みたいな異性が都合よくいるもんだな」
「ほんとほんと! あんなの勝てないわ」
幼馴染...。
いつからのなんだろう。
高校...は女子高だからないだろうから...もっと前だろうか
わからないし、聞く勇気はない。
だが、一つだけわかることは私よりずっと前から河野さんと一緒だったということだ。
「幼馴染...か」
私は、河野くんと出会ってまだ数ヶ月。
でも、安斎さんは何年も、何年も、ずっと河野くんの隣にいた。
勝てるわけがない。
知識ならまだ後からでも挽回可能だが思い出は絶対に無理だ。
部室に戻った。
誰もいない部室。
机に突っ伏して、目を閉じる。
みほさんには、経験で負けている。
まほ殿には、知識で負けている。
安斎さんには、時間で負けている。
何もかも、負けている。
「...ほんとですよ、勝てるわけない」
声が、震える。
「河野くんの...隣に」
立ちたかった。
対等に、語り合いたかった。
でも
「無理...なのかな」
涙が、溢れてきた。
止まらない。
「うぅ...」
声を殺して泣いた。誰にも聞かれないように。
でも、涙は止まらない。
「っ...う、ぅ...」
どれくらい泣いていただろう。
ふと、ドアが開く音がした。
「ん? 河野はいないのか?」
女性の声。
顔を上げると安斎さんが、立っていた。
「あ...」
「えっと...あー確かお前は...元大洗の...秋山だっけか。...すまんな取り込み中だったな」
涙で濡れた顔を、慌てて袖で拭く。
「お、おい...お前...」
「だ、大丈夫です!」
立ち上がろうとして、椅子が倒れる。
慌てて起こそうとして、また転ぶ。
「おい、いいから落ち着け」
安斎さんが、椅子を起こしてくれる。
「あ、ありがとうございます...」
「いや、別に...なんかすまんな。タイミング悪かったな」
「...」
沈黙。
安斎さんが、私を見つめている。
「...お前、河野のこと、好きなのか?」
「!?」
「お前、図書館で見てただろ、明らかに挙動不審で警戒してたんだよ」
「あ...えっと...ばれてたんですね...」
「バレバレだわ。というか下手したら警戒心強い男なら通報案件だぞ。気をつけろよ」
「うっ...すみません。じゃあ河野君にも...」
「いや、あいつは気づいてないよ。昔からそういうのに慣れてるはずなのに鈍いんだよ」
「そ、そうですか...よかった」
安斎さんが、隣に座った。
「河野と同じサークルなんだってな」
「は、はい。でも河野君が入ったのはまだ数か月目ですが...」
「...あいつ、モテるだろ。しかもかなり」
「そうですね...まあ、でも彼、魅力的ですから...外面も内面も。なのに私にすごいやさしくて健気で...。ずっと一緒にいてくれるんじゃないかって勘違いしちゃってました」
安斎さんが、遠い目をする。
「...同じだな」
「同じ...で、でも安斎さんは昔からの幼馴染で...」
「逆にそれが驕りだったのかもな、私だけ特別だと思ってた時期もあった。だが、河野は違う。誰にでもやさしい。...だから今はこの幼馴染という関係が足かせになってる気がして仕方がない」
「安斎さん...」
「あいつはいつだって変わらない。...だからこそほっとかないやつらがたくさんいた。私より優良で、将来性があるようなやつらが山のように」
安斎さんが、苦笑いする。
「勝てない、きっと私より幸せにしてくれるやつだ。そう思って何度もあきらめようとした」
「...」
「...でもあいつがいなくなることを想像するだけで悔しくて、悲しくて。...結局、諦められなくて、秋山、おまえもそうなんじゃないか」
図星だった。
何も言えない。
「なぁ、秋山」
安斎さんが、私を見る。
「そんな簡単に、諦めていいのか」
「え...」
「確かに、ライバルは多い。お前の周りだけでも西住みほ、西住まほ、まぁ、私もか。みんな、河野のこと大好き」
「...はい」
「で、それがどうした」
「えっ」
安斎さんの声が、少し厳しくなる。
「河野に見合う女になろうと思わないか?」
「っ...私だってそう思って...いろいろ考えて...」
「考えてなんだ? 結局勝てませんでしたで終わるのか?」
安斎さんが、立ち上がる。
「私は、負けたくない。だからずっと努力してる。河野の隣に立てるように。河野のためにできることをしているつもりだ」
「でも...私は...全部もう負けてて...取り返しつかないですよ...」
「経験、知識、思い出、当然負けてる要素はあるだろう。当たり前だ。それぞれがそれぞれの人生を歩んでる。当然ステータスにばらつきはでる」
「...はい」
「だが」
安斎さんが、私の肩を掴む。
「逆にお前にしかない要素だってある」
「え...」
「西住姉妹の経験にも知識にも負けない、お前にしかない魅力があるはずだろ」
「そんな簡単に言えたら苦労なんて...」
安斎さんが、少し笑う。
「でも、不可能じゃない。少なくとも現段階ではな」
「...」
「河野はな、頑張ってる人が好きなんだよ。努力してる人を、応援したくなる。そんな純粋な衝動で生きてるやつだ」
安斎さんが、私の目を見る。
「そんな河野の魅力に気が付いたお前だから言ってるんだ。周りのライバルとして、負けないくらいに努力しろ、もちろん私にも勝つつもりでな」
「ライバル...」
「そう。これからお前はライバルだ。容赦はしないがな」
安斎さんが、手を差し出す。
「よろしくな、秋山。失望させるなよ」
「...」
私は、その手を握った。
「よろしく...お願いします」
「ふっ...いい顔になったな」
安斎さんが、満足そうに笑う。
「さて...河野はまだ図書館にいると思うから、戻るわ。頑張れよ、秋山」
「はい...!」
安斎さんが、部室を出ていく。
一人になった部室で。
私は、拳を握りしめた。
(そうだ...諦めちゃ、いけない)
経験が足りないなら、積めばいい。
知識が足りないなら、学べばいい。
(みほさんと、同じチームで)
みほさんが所属する、戦車道大学チーム。
ずっと、避けてきた。
みほさんと比べられるのが、怖かったから。
-でも
(今の私じゃ、河野くんの隣には立てない)
変わらなきゃいけない。
成長しなきゃいけない。
携帯を取り出して、私は急いでみほさんにメッセージを送った。
『みほさん。急ですみません。どこでもいいです。私を戦車道大学チームに入れてもらえませんか?』
すぐに、返信が来た。
『優花里さん!? もちろんです! いつでも歓迎しますよ!』
メッセージが返ってくると私は急いで部室を飛び出すのだった。
最終回の予定でしたが少し長くなってしまったので、ここで切ります。
次回のお話で優花里編が最終回です。
短めにはなりますが、お楽しみください。
感想、ご意見気軽にください。励みにします。
〇〇出して欲しい、〇〇はこう言う設定がいい等も嬉しいです。
参考にさせていただきます。
基本的にガルパンのキャラは全部okです。