ー大洗女子大学の戦車道練習場
「秋山さん、よく来てくれました!」
みほ殿が、満面の笑みで迎えてくれた。
「よ、よろしくお願いします...!」
「こちらこそ! 優花里さんの知識、すごく助かります!」
みほ殿が、私の手を取る。
「うれしいな...。また一緒に、頑張ろうね」
高校から同じ大学に入った面々で戦車道を続けたのはみほ殿だけだった。
きっと少し寂しさも感じていたのかもしれない。
だが、今日からは私も彼女の力になる。そう意気込んだ。
「はい!」
練習が始まった。
私はブランクこそ少しあったが、高校の頃の戦績を買われ、すぐに戦略構想マネージャー兼選手として採用された。
(正直プレッシャーですけどね...)
周りの期待、重圧に負けぬよう、私は、今まで培ってきた知識を総動員する。
「えっと、ここで、IV号戦車を前進させればおそらく...」
「敵の側面を取れますね!」
みほ殿が、私の提案を採用してくれる。
「優花里さん、さすがです!」
「い、いえ...!」
実際に戦車に乗り込む。
砲手席に座って、照準を合わせる。
「目標、捕捉!」
「撃て!」
予想通り命中させることができた。
「やった!」
みほ殿が、喜んでくれる。
(これだ...)
経験を積み、実戦で学ぶ。
みほ殿から、教わる。
そして、まほ殿の論文や資料を読み込む。
理論と実践。
両方を、自分のものにしていく。
ー数週間後
「優花里さん、すごいですね。もうチームの主戦力ですよ!」
「そ、そうですか...? 嬉しいですが...私なんてまだまだですよ」
「そんなことないよ! 戦術眼も、操縦技術だってそう! 短期間でこんなに伸びるなんて...ねえ、もしかして優花里さん...」
みほさんが、笑顔で続ける。
「何か目標できた? 高校のころとはまた違う熱量というか...頑張ってるよね」
「...はい」
私は、頷いた。
「尊敬する人がいます。私はその人に追いつきたいんです。...いや、追い越したいんです。今はまだ知識も、経験も足りませんが、向かうべきゴールをその人が教えてくれるんです」
「素敵ですね。優花里さんをそこまで言わせるなんて...私も会ってみたいな」
みほさんが、優しく微笑む。
(目の前にいるんだけどな...)
「...負けませんから、私」
「え? なんか言った?」
みほ殿は高校のころからずっと尊敬している。でも今はそれ以上に超えたい存在として壁であり続けている。
その事実に私はなぜか高揚していた。
河野くんから、メッセージが来た。
『秋山さん、大学チームに入ったって聞きました! すごいですね!』
胸が、高鳴る。
『は、はい...! 頑張ってます!』
『応援してます! 今度、試合見に行ってもいいですか?』
『!? ぜ、ぜひ...!』
河野くんが、私の試合を見に来てくれる。
(見ててください、河野くん)
私の成長を。
ー数ヶ月後
大学チームの練習試合。
観客席に、河野くんの姿があった。
その隣には、安斎さんも。
「秋山さん! 頑張れ!」
河野くんが、手を振ってくれる。
「は、はい...!」
試合開始
「優花里さん、お願いします!」
みほさんの声。
「任せてください!」
私は、冷静に状況を分析する。
敵の配置、地形、風向き...全てを計算して最適解を考えた。
「みほさん、提案があります!」
「どうぞ!」
「ここで、囮作戦を。私が敵を引きつけます。その隙に、みほ殿が側面から」
「...なるほど、それでいきましょう!」
作戦通り、私が前進する。
敵の砲撃を避けながら、注意を引く。
「今です!」
みほ殿の戦車が敵の側面を取る
「撃て!」
ー作戦はかみ合い、油断していたフラッグ車にみほ殿の砲弾が命中した
「やった...!」
観客席から、拍手が聞こえる。
河野くんが立ち上がって拍手してくれている。
戦車から降りて河野くんが、駆け寄ってきた。
「秋山さん、すごかったです!」
「ありがとうございます!」
「戦術も、操縦も本当にかっこよかったです!」
河野くんの、笑顔。
胸が、温かくなる。
「河野くんが...応援してくれたから」
「え?」
「頑張れました...なんて」
「ほんとですか!うれしいです!」
あの時は怖くて、自分に自信がなくて言えなかった言葉たちも、今なら言えた。
河野君はなんとも思ってなさそうだけど、私の中では大きな進歩だった。
「あのデコイ作戦は即興で考えたんですか! 地形を利用してっムグッ...」
「...河野、あんまりしつこくするな。秋山はこの後インタビューやらなんやらあるんだから...ほら、いくぞ」
じわじわと距離を詰めながらマシンガンのように話す河野さんの首を安斎さんはぎゅっとつかむと、ズルズルと観客席に引っ張っていく。けん制気味にこちらを一瞥するが、少し考えた様子でため息をつき話し始める。
「はぁ...まさかお前がここまで才能を発揮するとは...厄介な奴を助けちまったなまったく!」
「え? 二人って知り合いなの?」
「そんなんじゃない! いいから! ほら行くぞ!...せいぜい頑張りな、秋山」
河野を引っ張る安斎さんは語気こそ強かったものの、表情は少し嬉しそうだった。
それから、私は戦車道に打ち込んだ。
マネージャーとして戦術を磨き、選手として技術を磨く。
まほ殿のような戦術を、みほ殿のような技術を得るために。
今思えば、河野君との出会いがすべてを変えてくれた。
河野君を起点に、まほ殿、みほ殿、安斎さんと出会え...それから大学での生活は大きく変わった。
つらいこともたくさんあったけど全てが私を成長させてくれたと今は思える。
そんなある日、河野くんが言った。
「秋山さん、最近すごく輝いてますね」
「え...?」
「前よりすっごく忙しそうなんだけど...目がキラキラしてて、楽しそうですよね」
河野くんが、優しく微笑む。
「今の秋山さん...なんというか、素敵ですね!」
「えっ...!」
顔が、熱くなる。
「あ、ありがとうございます...」
(少しは、近づけたのかな)
河野くんの理想に。
河野くんの隣に立てる存在に。
まだまだ、道のりは長い。
ライバルも、たくさんいる。
ーでも
「私、頑張ります。河野君」
諦めない、絶対に、諦めない。
今はどんな結末が待っていようと怖くない自分がいた。
私は戦車に乗り込む。
河野くんの理想に少しでも近づけるように。
戦車のエンジンが、轟音を立てる。
「秋山優花里、出撃します!」
前を向いて走り出す。
河野くんの笑顔を胸に。ライバルとの約束を胸に。
私は今日も出撃した。
次回からはこのお話でも少し登場していた「まほ編」の予定です。