あべこべ道! 乙女が強き世界にて   作:マロンex

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西住しほ:原作よりもすこしマイルド気味です


第39話 しほの興味

「ごちそうさまでした」

 

河野が嬉しそうに言う。

 

「...ああ」

 

私は頷いた。

久しぶりに、心から楽しいと思えた食事だった。

重荷を忘れてただ河野と一緒にいることを楽しめた。

 

「まほさん」

 

「何だ」

 

「今日は、ありがとうございました」

 

河野が笑顔で言う。

 

「楽しかったです」

 

「...そうか」

 

私も、楽しかった。

 

(...この人といると)

(私は、ただの西住まほでいられる)

 

西住流の看板でもなく。

大学選抜のリーダーでもなく。

ただ一人の女性として。

 

「また、一緒に食事に行きましょうね」

 

河野が言う。

その言葉を待っていたかのように──

 

「...ああ」

 

私は即答していた。

 

「いや、その...」

 

私は少し躊躇した。

でも、言わなければならない。

 

「今度は...私から、誘おう」

 

その言葉に、河野が驚いた顔をする。

 

「え?まほさんから?」

 

「...ダメか?」

 

「いえ!嬉しいです!」

 

河野が満面の笑みを浮かべる。

その無防備な笑顔を見て──

私の心臓が、激しく鳴った。

 

(...この人をもっと、知りたい)

 

ー駅のホーム

河野を送って、駅のホームまで来た。

 

「それじゃあ今日はここで」

 

河野が言う。

 

「...ああ」

 

私は頷いた。

でも──

手を、離したくなかった。

さっきから、ずっと河野の手を握っていた。

 

「まほさん?」

 

河野が不思議そうに見る。

 

「...すまない」

 

私は慌てて手を離した。

顔が熱い。

 

「いえ、大丈夫です」

 

河野が優しく微笑む。

 

「じゃあ、また!」

 

「...ああ」

 

河野が電車に乗り込む。

窓越しに、手を振ってくれる。

私も、小さく手を振り返した。

電車が動き出す。

河野の姿が、遠ざかっていく。

 

(...会いたい)

 

もう、そう思っている自分がいた。

たった今、別れたばかりなのに。

 

(...私は、どうかしている)

 

ー西住家

 

「ただいま戻りました」

 

実家に戻ると母が居間にいた。

 

「おかえり、まほ」

 

「はい」

 

私は母の隣に座った。

 

「まほ」

 

「何でしょうか」

 

「最近、雰囲気が少し変わったな」

 

母が私を見つめる。

 

「...何がですか?」

 

「...うまく表現できないが、表情が柔らかくなった...気がする」

 

母の言葉に、私は驚いた。

 

「そんなこと...」

 

「いや、確かに違う」

 

母が続ける。

 

「以前のお前は、いつも緊張していた」

 

「常に、完璧であろうとしていた」

 

「でも、今は...」

 

母が優しく微笑む。

 

「少しだけ、肩の力が抜けている」

 

その言葉に──

私は、何も言えなかった。

確かに、最近は少し楽になった気がする。

河野といると──

 

「河野という男性のことか」

 

母が直球で聞いてきた。

 

「っ...!」

 

私の顔が、一気に熱くなった。

 

「な、何を言っているんですか、母上」

 

「...今日もその子だろう?」

 

母が言う。

 

「風のうわさでな。お前が、河野という男性と親しくしていると」

 

「い、いえ! かわっ...彼は、研究の協力者で...」

 

「本当にそれだけか」

 

母の鋭い視線。

 

「...」

 

私は、答えられなかった。

それだけ、なのか。

本当に、それだけなのか。

違う。

河野は、もう私にとって──

 

「まほ」

 

母が優しい声で言った。

 

「...すまない。詮索する気はない。...それにお前が、誰かと親しくすることは悪いことではない」

 

「母上...」

 

「私は...みほにしてしまった過ちを、繰り返したくない」

 

母の声が少し震えていた。

 

「お前に厳しくしすぎた」

 

「完璧を求めすぎた」

 

「お前に背負わせすぎた」

 

母が私の手を握った。

 

「だから...」

 

「だから、もしお前が大切に思えるような人がいるのなら」

 

「それを、大事にしなさい」

 

その言葉に──

涙が、出そうになった。

 

「母上...」

 

「その河野という男性に、会ってみたい」

 

母が言った。

 

「え?」

 

「お前が、初めて心を許した人物だ」

 

「どんな男性か、見てみたい」

 

母が微笑む。

 

「...わかりました」

 

私は頷いた。

 

ー研究室

 

「まほさん、今日もお疲れ様でした」

 

河野が資料を片付けながら言う。

 

「...河野」

 

「はい?」

 

私は、河野の方を向いた。

 

「...今週の土曜日、予定はあるか?」

 

「え?週末ですか?」

 

河野が首を傾げる。

 

「特にないですけど...」

 

「そうか」

 

私は少し躊躇した。

心臓が、激しく鳴っている。

でも、言わなければならない。

 

「...お前がよければだが...その...西住家に、来てほしい」

 

その言葉に──

河野が固まった。

 

「に、西住家...ですか?」

 

「ああ」

 

私は頷いた。

 

表情は、完璧に平静を保っている。

でも、手が少し震えていた。

 

「母が...お前に会いたいと」

 

「お、お母様って...あの西住流家元の...? お、俺何かまほさんに粗相を...」

 

河野の顔が、一気に青ざめた。

 

「落ち着け、大丈夫だ」

 

私は慌てて言った。

 

「母は...ただ、話がしたいだけだ。私が原因でもある」

 

「で、でも...」

 

河野が震えている。

 

「僕なんかが西住家に...」

 

「お前なんか、ではない」

 

私は強く言った。

 

「お前だから、だ」

 

その言葉に──

河野が顔を上げた。

 

「まほさん...」

 

「来てくれるか?」

 

私は河野を見つめた。

内心では、ドキドキしている。

もし断られたら──

 

「...わ、わかりました。事情はよく分かりませんが...まほさんの力になれるなら」

 

河野が頷いた。

でも、その声は震えていた。

 

「本当か?」

 

「はい...でも、すごく緊張します...」

 

河野が不安そうに言う。

 

「大丈夫だ」

 

私は河野の肩に手を置いた。

 

「私が、そばにいる」

 

その言葉に──

河野が、少しだけ安心した顔をした。

 

ー西住家 まほの部屋

 

「母上、明日...河野さんをお連れします」

 

私は母に報告した。

 

「そうか」

 

母が微笑む。

 

「楽しみだ」

 

「...あの、母上」

 

「何だ?」

 

「あまり...厳しくしないでください」

 

私は珍しく、頼んだ。

 

「河野は...緊張しやすい人なので」

 

「ほう...なるほどな」

 

母が興味深そうに見る。

 

「お前が、そんなことを頼むとは...よっぽど気に入ってるなその河野とやらを」

 

「...」

 

私の顔が、少し赤くなる。

 

「...それは河野次第だ...と言いたいところだがまぁ、数少ない娘のお願いだ。善処しよう」

 

母が優しく言った。

 

「ありがとうございます」

 

私は、ホッとした。

でも、内心では──

河野が、あまりにも緊張しすぎて倒れたりしないか。

母が河野をどう思うか。

不安が次々と湧いてくる。

 

ー西住家玄関

 

「お邪魔します...」

 

河野が小さな声で言う。

手がまだ震えているようだ。相当緊張しているように見える。

 

「まほ、戻ったか」

 

母の声が聞こえ、河野が、ビクッと体を震わせる。

 

「はい、母上。...お話ししていた河野さんも、お連れしました」

 

「そうか。通しなさい」

 

母の声に──

河野の顔が、また青ざめる。

 

「だ、大丈夫ですか...僕...」

 

河野が小さく呟く。

 

「緊張しすぎて...変なこと言わないか...」

 

「大丈夫だ」

 

私は河野の肩に手を置いた。

 

「お前は、お前のままでいい」

 

「でも...」

 

「いいから」

 

私は河野を見つめた。

 

「私が、そばにいるから」

 

その言葉に──

河野が、少しだけ落ち着いた。

 

「...はい」

 

「よし、行くぞ」

 

私は河野の手を引いて、応接間に向かった。

 

ー応接間

 

母が座っていた。

河野を見て優しく微笑む。

 

「よく来てくれた、河野さん」

 

「は、はい!お招きいただき、光栄です!」

 

河野が大きな声で言う。

緊張しすぎている。

 

「...河野、落ち着け」

 

私は小さく囁いた。

 

「す、すみません...」

 

河野が小声で謝る。

 

「座りなさい」

 

河野が正座しようとして──

また、足がもつれそうになる。

 

「っ...!」

 

私は咄嗟に河野の腰を支えた。

 

「大丈夫か?」

 

「す、すみません...」

 

河野が恥ずかしそうに座る。

私も、河野の隣に座った。

いつもより近い距離で。

 

母が、その様子を見て微笑んでいる。

 

「河野さん、急に呼ばれて混乱しているんだろうが、そんなに緊張しなくていい」

 

「は、はい...で、でも...」

 

河野の声が震えている。

 

「私が君がどんな子かを見たかっただけだ。そんなかしこまらないでくれ」

 

母が優しく言った。

 

「はい...」

 

「まほから、いろいろと話は聞いている。娘が随分世話になっているわ」

 

「い、いえそんな! 好きでやってることですし...」

 

「研究の協力をしてくれているそうだな」

 

「はい! まほさんの研究は...本当に素晴らしくて」

 

河野がゆっくりと話し始めた。

 

「僕が手伝えることは少ないですが...」

 

「少しでも、まほさんの力になれればと思っています」

 

その言葉に──

母が優しく微笑んだ。

 

「そうか。噂にたがわずまっすぐな子で安心したよ。まほを支えてくれて、ありがとう」

 

「い、いえ!そんな...!」

 

「...まほは、お前の話をする時...とても、穏やかな顔をする」

 

その言葉に──

私の顔が、真っ赤になった。

 

「母上!」

 

「本当のことだ。気が付かないとでも思ったか」

 

母が微笑む。だが、少し悲しそうにこう続けた。

 

「...こんな娘の顔を見たのは久々だったものでな」

 

小さくそういうと、ちらりと私の方をみた後、まじまじと河野を見つめた。

苦笑いをしながら少し気まずそうな河野をみて、少し微笑む。

少しの沈黙ののち、思いついたようにこう話し始めた。

 

「まほ、少し席を外してくれないか」

 

「はい?」

 

その言葉に──

私は、固まった。

 

「...え?」

 

「直接会ってより興味がわいた。この子...いや、河野さんと二人で話したい」

 

母が静かに言った。

その言葉に──

私の心臓が、跳ねた。

 

「で、でも...」

 

「いいから」

 

母の声は、有無を言わさぬものだった。

 

「...わかりました」

 

私は部屋を出た。

でも──

 

(...気になる)

 

母が、河野に何を言うのか。

河野が何を答えるのか。

私は隣の廊下に隠れた。

障子越しに声が聞こえる。

 

(...聞き耳を立てるなんて)

 

西住まほらしくない。

でも──

止められなかった。

 

続く

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