あべこべ道! 乙女が強き世界にて   作:マロンex

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副隊長:篠田
隊員の一人:近藤

※逸見エリカについて:現在海外留学中。もうじき帰国予定。
今後の話で重要人物として出す予定です。



第41話 チーム覚醒

翌週の練習。

 

「...篠田副隊長」

 

「はい、隊長」

 

「第三陣の配置なんだが」

 

私は少し躊躇した。

篠田が、私の様子に気づいて首を傾げる。

 

「...一人では判断しかねる。お前はどう思う」

 

篠田が、固まった。

 

「...た、隊長」

 

「聞こえていたか」

 

「聞こえましたが」

 

篠田が目を瞬かせる。

 

「もう一度、お願いできますか」

 

「...どう思うか、と聞いている」

 

「...」

 

篠田の目が、じわりと赤くなった。

 

「し、篠田?」

 

「な、何でもありません!」

 

篠田が勢いよく地図を広げた。

 

「第三陣ですね!意見を言わせていただきます!」

 

声が、少し上ずっていた。

 

練習後。

 

他のメンバーが走り寄ってきた。

 

「まほさん!さっき篠田が泣いてましたよ!」

 

「...えっ...そ、そうか」

 

「何があったんですか?」

 

「何って...少し、頼み事をした、だけなんだが...」

 

「え、それだけで?」

 

「...それだけだ」

 

隊員が首を傾げながら去っていく。

私は少し考えた。

 

(...私から頼むのはそんなに珍しいのか...?)

 

ー数日後の作戦会議

 

「意見を聞かせてくれ」と言い始めてから、チームの空気が変わった。

みんなが、発言するようになった。

それはいいことだった。

 

ただ──

 

「まほさん」

 

練習終わりに、監督が私を呼び止めた。

 

「...少し、いいか」

 

「はい」

 

監督が、少し深刻な顔をしていた。

 

「みんなにも割り振ろうと、おまえのデータを改めて見直していたんだが...」

 

「...はい」

 

「一日の練習量と、指示出しの量と、それとおまえ...大学院でも研究しているな。...全部足したら」

 

監督が、数字を見せてきた。

 

「...これは、おかしい」

 

「何がですか」

 

「普通に考えたら、人間がこなせる量じゃない」

 

「...」

 

「おまえ...ちゃんと寝ていたか?」

 

「...まあ、それなりには」

 

「食事は?」

 

「...練習に支障が出ない程度には」

 

監督が、深くため息をついた。

 

「そうか...」

 

「...それだけでしょう...では」

 

「すまなかった...」

 

「え?」

 

私が立ち去ろうとすると、監督は深々と頭を下げた。

真剣な目で私を見た。

 

「おまえが全部やってくれるから」

 

「おまえが全部できるから」

 

「任せ続けた...ようやく間違いに気が付いた」

 

「...」

 

監督が続ける。

 

「全部やっていたんじゃない...全部やらざるを得なかったんだ。我々はそれに甘んじていた」

 

「監督...」

 

「改めて、すまなかった...。私は指導者としても、年長者としても失格だ」

 

監督が、頭を下げた。

 

「それに気づくのが...遅すぎた」

 

私は驚きで何も言えなかった。

 

ーその翌日

 

作戦室に入ると──

副隊長が待っていた。

後ろに、チームメイト全員が並んでいた。

 

「...何だこれは」

 

「隊長!」

 

篠田が、真剣な顔で一歩前に出た。

 

「私たちにも、言わせてください」

 

「...」

 

「今まで、隊長に頼りすぎていました」

 

篠田が頭を下げた。

後ろのメンバーも、全員頭を下げた。

 

「作戦も、判断も、全部隊長任せで」

 

「私たちが自分で考えることを、怠っていました」

 

「ごめんなさい、隊長」

 

篠田の声が、わずかに震えた。

 

「隊長が無理しているのに、気づかないふりをしていました」

 

「...そ、そんなことは」

 

「していました」

 

篠田が顔を上げた。

目が赤かった。

 

「薄々わかっていて、でも頼る方が楽だから、見ないようにしていました」

 

「...」

 

「だから...これからは」

 

篠田が、きっぱりと言った。

 

「私たちも、考えます」

 

「隊長一人に背負わせません!」

 

チームメイトが、一斉に頷いた。

 

私は──

しばらく、黙っていた。

 

(...みんな)

 

「...顔を上げろ」

 

私は言った。

 

「お前たちが謝ることじゃない」

 

「でも...」

 

「私が、言わなかっただけだ」

 

私は一度目を閉じた。

 

「...これからは、私も言う」

 

「困ったら言う」

 

「わからなければ聞く」

 

「だから」

 

私はチームを見渡した。

 

「お前たちも、ついてきてくれるか」

 

篠田が、鼻をすすった。

 

「...当然です」

 

全員が、頷いた。

 

数日後、恒例の練習試合があった。

相手は格上のチーム

ー過去に一度も勝てていない。

 

「...隊長、どうしますか」

 

篠田が聞いてきた。

以前の私なら、一人で考えて、一人で決めていた。

でも今は──

 

「お前たちはどう思う」

 

私は聞いた。

 

「第一陣をあえて囮に使う...というのはどうでしょう」

 

篠田が言う。

 

「相手の射線を私たちの部隊で塞いで、隊長が側面から」

 

別のメンバーが続ける。

 

「補給ルートをここで断てば、長期戦に持ち込める」

 

また別のメンバーが地図を指す。

意見が、次々と出てきた。

私は聞きながら、考えた。

 

(...一人で考えるより、ずっと速い)

 

(...そして精度が高い)

 

「よし」

 

私は決断した。

 

「篠田、第一陣を頼む」

 

「任せてください」

 

「近藤、補給ルートの封鎖を」

 

「了解です!」

 

「篠田の部隊は篠田の指示に従え、失敗しても構わん。自由に動いてみろ」

 

私は言った。

 

「迷ったら聞け。私もそうする」

 

「...はい!」

 

全員の声が揃った。

 

試合が始まった。

相手は強かった。

序盤、押される場面もあった。

 

「隊長、第二陣が...!」

 

「わかった、下がれ。篠田、そちらに回れるか」

 

「行けます!」

 

「隊長! 左からも来ています!こちらで対処するのがいいかと!」

 

「...ああ、そうだな」

 

指示が、双方向になった。

 

私が出すだけでなく、メンバーから情報が上がってくる。

 

私はそれを判断して、返す。

チームが、生き物のように動いた。

 

終盤。

相手の本陣が見えた。

 

「...隊長!」

 

篠田が通信してきた。

 

「行けますか」

 

「...ああ」

 

私は前を見た。

 

(一人じゃない)

 

(後ろにみんながいる)

 

「行く」

 

西住流の砲撃が──

真っ直ぐに、決まった。

 

試合終了。

静寂の後、チームが沸いた。

 

「勝った...!」

 

「隊長...!!」

 

篠田が、珍しく声を上げて喜んだ。

私は──

素直に、笑っていた。

 

 

初勝利後すぐ、母から連絡が来た。

珍しいことだった。

 

「試合、見ていた」

 

「...そうですか」

 

「変わったな」

 

母が言った。

 

「...少し」

 

「指示の出し方が、変わった」

 

「...はい」

 

「一人で抱えなくなった」

 

「...」

 

「チームが、生きていた」

 

母が続ける。

 

「今日の試合、よかったぞ」

 

「...母上」

 

「褒めているんだ、受け取れ」

 

「...はい」

 

「まほ」

 

母の声が、少し柔らかくなった。

 

「お前が求めていたものは...強さじゃなかっただろう」

 

「...え」

 

「認められること、だったんじゃないか」

 

「...」

 

「頑張ったことを、見ていてほしかっただけじゃないか」

 

私は、答えられなかった。

 

「...そうかもしれません」

 

しばらくして、私はそう言った。

 

「そうだろう」

 

母が静かに言った。

 

「今日は見ていたぞ、ずっと」

 

「...」

 

「いや、違うな...今日も、見ていた...だな」

 

「...ありがとうございます、母上」

 

「ああ」

 

短い沈黙。

 

「...また、連絡しろ」

 

「はい」

 

「試合があれば、教えろ」

 

「わかりました」

 

「以上だ」

 

通話が、切れた。

私はしばらく、スマホを見つめていた。

 

(...母上も、変わった)

 

(いや)

 

(変わろうとしてくれている)

 

胸が、温かかった。

 

「はーい! ありがとうございました! 西住さん!ご協力ありがとうございました!」

 

「...いえ」

 

試合後のインタビューが終わった。

カメラマンが機材を片付け始め、スタッフが撤収していく。

インタビュアーが去っていく。

周囲がざわざわと動き始めた。

 

(...終わったか)

 

私は小さく息をついた。

 

そこに──

 

「まほさん、お疲れ様でした」

 

河野が歩いてきた。

 

資料を抱えたまま、いつも通りの顔で。

 

「...お前、来ていたのか」

 

「試合は全部見てました」

 

「そうか」

 

「すごかったです」

 

河野が言う。

 

「特に終盤の判断、今までのまほさんとは全然違って」

 

「...そうか」

 

「なんというか...チームがまほさんを信頼して、まほさんもチームを信頼してるのが、外から見ててもわかって」

 

河野が続ける。

 

「見ていて、気持ちよかったです」

 

「...お前は相変わらず、そういうことをさらっと言うな」

 

「そうですか?」

 

「そうだ」

 

私は少し目を逸らした。

 

「...まあ」

 

「はい」

 

「...変われた気がする」

 

「変わりましたよ、まほさん」

 

河野が穏やかに言った。

 

「良い方向に」

 

「...お前のおかげだ」

 

「え?」

 

「きっかけをくれたのは、お前だ」

 

私は河野を見た。

 

「母上に背中を押してくれたのも、私がこうして周りに助けを求められるようになったのも...みんなお前のおかげだ。」

 

「そんな、大げさな」

 

「大げさではない」

 

私はまっすぐ言った。

 

「だから...ありがとう」

 

河野が、少し驚いた顔をした。

 

「...まほさんに、ちゃんとお礼を言われたのは初めてな気がします」

 

「うるさい」

 

「いえ、嬉しくて」

 

「...」

 

私は少し躊躇した後、口を開いた。

 

「笑うのが、昔から苦手だった」

 

「...はい」

 

「うまく笑えなくて、笑う必要もないと思っていた」

 

「...」

 

「でも、お前といると」

 

私は、自然に口元が緩むのを感じた。

 

「...自然と笑える」

 

それは作ったものじゃなかった。

ただこぼれた、笑顔だった。

 

「...」

 

河野が、何も言わずに立っていた。

 

「どうした」

 

「いえ」

 

河野が小さく言った。

 

「...何でもないです」

 

耳が、少し赤かった。

 

その時。

背後から声がした。

 

「...あの」

 

振り返ると──

インタビュアーが、申し訳なさそうに立っていた。

 

「すみません、西住選手」

 

「...何だ」

 

「その...カメラ、まだ回っていまして」

 

「...」

 

「機材トラブルで切れていなくて」

 

「...は?」

 

「今のやり取り、全部...」

 

私は、ゆっくりカメラを見た。

赤いランプが、しっかり点灯していた。

 

「...」

 

「...えっと、西住さん...」

 

「...カットしてくれないか」

 

「あの...申し上げにくいのですが...生放送で」

 

「...」

 

しばらくの沈黙。

 

「...河野」

 

「...は、はい!」

 

「お前は今すぐ帰っていい」

 

「...はい...その、が、頑張ってください...」

 

河野が、足早に去っていった。

 

スポーツニュースのコメント欄が、埋まっていた。

 

『西住まほ選手に笑顔があったことに驚いた』

 

『きれいすぎる』

 

『後ろにいた男性は何者!?』

 

『普段のクールな立ち振る舞いからのあの笑顔はずるい』

 

『西住まほファンクラブ創設しました!入りたい方DM下さい!』

 

『放送してくれてありがとう運営さん!』

 

ー研究室

 

河野がスマホを見て、静かに画面を伏せた。

 

「...まほさん」

 

「...見ていない」

 

「コメント欄が」

 

「...気にするな」

 

「SNSにも大量に...」

 

「...見ていない」

 

私は資料に目を落とした。

 

「...まほさん」

 

「何だ」

 

「怒ってますか」

 

「...」

 

私は少し考えた。

 

「怒っていない」

 

「そ、そうですか」

 

「...ただ」

 

「はい」

 

「しばらく、インタビューは断る」

 

「...ふふっ、それは賢明だと思います」

 

河野が、こっそり笑うのが見えた。

 

「...笑うな」

 

「あっ...すみません」

 

「...まったく」

 

私は深くため息をついた。

 

でも──

口元が、また緩んでいた。

 

(...お前のせいで)

 

(妙なことになっている)

 

それでも不思議と──

悪い気は、しなかった。

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