五十鈴華。
今の私には、やりたいことがある。
器の美学。茶道の研究。
大洗女子大学で生徒会長をやっていた頃は、誰かが困っていればすぐに動いた。
トラブルがあれば首を突っ込んだ。
他人のことで時間を使い続けた。
戦車道という道も親の反対を押し切って3年間続けさせてくれた。
だから、大学に上がったら、こんな娘のわがままを聞いてくれた両親に恩返しすると決めていた。
戦車道は一旦お休みだ。
そのはずだった。
「ねえ、この後時間ない?」
「美代ー何してって...うわっかわいいー! 何この子ー!」
「ちょっと、私が先声かけてたんだけど! ね、君、こんな奴らほっといて一緒にお茶しようよ」
「なっ! お前抜け駆けすんなよ!」
廊下の角を曲がったところで、声が聞こえた。
女子学生が数人、一人の男性を囲んでいた。
男性が困った顔で「授業があるので」と言っている。
女子学生たちが「少しだけだから」と食い下がっている。
(...関わらない)
(私には関係ない)
「すみません」
気づいたら、私は輪の中に入っていた。
(...また、やってしまった)
「この方、今から私と約束があるんですが、いいでしょうか」
女子学生たちが顔を見合わせた。
「...そうなの? でも授業って...」
「約束していますので」
「お、おう...そうかよ」
かつての生徒会長としての貫禄は無駄にはならなかったようで、しぶしぶそうではあるが、
納得してもらえそうだ。
「あ、あの」
「行きますよ」
若干こちらを睨んでいる女性たちの間で男性の手を引いて颯爽と抜け出した。
女子学生たちがばつが悪そうに後ろで頭を搔いていた。
「すみません...助かりました」
男性が小さく言った。
「いえ、お気になさらず。では私はこれで...」
(...余計なことをしました。見ず知らずの男性なんてほっとけば)
踵を返しかけた時。
「あの!」
男性が言った。
「すみません! ご迷惑おかけしちゃいました...」
振り返ると、男性が少し申し訳なさそうな顔をしていた。
眉が、ほんの少し下がっていた。
「別に構いませんって、私が勝手に割り込んだだけなので」
「...あの、お礼に何か」
「結構です」
「そうですか...」
男性が、また困り顔をした。
先ほど女性陣に囲まれていた時とはまた別の表情だった。
(...この子)
その顔が、思いのほかかわいくて。
私は少し、目を止めた。
すっきりした輪郭。
涼しげな目元。
困った時に眉が下がって、ふわっと柔らかくなる顔。
かわいい、という言葉が一番似合う顔立ちだが、それでいてどこかシュッとしていて。
「あの、もしかして...五十鈴さんですか?」
「え? そ、そうですが...私のことをどうして」
「やっぱり!お友達の西住みほさんと接点がありまして...聞いていたお話の方とそっくりだと思いまして!」
河野さんが、ふわっと笑った。
さっきまでの困り顔が、一気に柔らかくなった。
(...)
眠気が飛ぶような笑顔だった。
「話は聞いてますよ! 高校では生徒会長をやられていたとかで...すごいですね」
「...成り行きですがね。ありがとうございます」
「あ、いけない! こんな時間! すみません!ありがとうございました! お礼いつでもします!」
腕時計をちらりと見たかと思うと、そそくさと小走りでその場を去った。
嵐の去ったような静けさになり、ふと我に返る。
(...まったく、余計なことをしました)
でも。
口元が、緩んでいた。
(...悪くなかったですね、今日は)
ー授業前の教室(沙織視点)
私は華とみぽりんの三人で、たわいもない話をしていた。
「最近ね、新しい曲作ってて」
「どんな曲?」
「失恋ソング! 経験はないんだけど想像で」
「沙織ちゃんらしいですね。そういうの作っちゃうのも含めて」
「でしょ! みほちゃんはどう思う?」
「えっと、すごいと思います...色々と」
三人で笑った。
その時だった。
「みほさん、少しいいですか」
声がした。
廊下側の扉から、男性が顔を出した。
みほちゃんに用があるらしく、こちらを見ていない。
でも。
ふわりといい匂いがした。
柑橘系の、爽やかな香りで。
思わず顔を向けた。
かわいい顔をしていた。
すっきりした輪郭。
涼しげな目元。
笑うと、ふわっと柔らかくなりそうな顔。
胸の中で、何かが走った。
稲妻みたいなものが。
「あ、河野さん。どうしたの──」
みほちゃんが立ち上がりかけた。
その前に、私が立っていた。
「あの!! はじめまして!!」
河野さんが、きょとんとした。
「みぽり...西住さんの友達の、武部沙織っていいます!」
「へっ? は、初めまして...。河野と申します...」
「河野さんっていうんだね!! かわいい名前!!」
教室が、また一瞬静かになった気がした。
河野さんが少し目を丸くした。
「えっと...ありがとうございます」
さらっと言った。
普通の顔で。
(...慣れてる!?)
「え、あの、普段何してるんですか!?」
「研究です」
「どんな研究ですか!?」
「戦術の分析で──」
「趣味は!?」
「読書と...えっと」
「好きな食べ物は!?」
「た、食べ物は...」
「休日は何してますか!?」
「...あの」
河野さんが、少し眉を下げた。
困り顔だった。
でも、かわいかった。
(かわいい!!!)
「あの、質問は一個ずつだと助かるんですが...」
「ごめんなさい!! じゃあまず連絡先交換しましょ!!」
「え? あっ──」
「沙織ちゃん」
「えっ?」
「河野さん困ってるから」
みほちゃんの手が、私の腕を掴んだ。
「河野さん、ごめんね。ちょっと廊下行こうか沙織さん」
「あ、はい...でも」
「ちょっとみぽりん!?」
「ごめんね河野さん。ちょっと大切なお話あるから」
「まだ話が──」
「沙織さん」
みほちゃんが、にこにこしながら有無を言わさず私を引っ張った。
あの顔は、本気の顔だった。
「あ、連絡先だけでも──」
「ん、はい」
みほちゃんが河野さんのスマホをさっと取って、私のスマホと交換した。
手際がよかった。
慣れすぎていた。
「それじゃ河野さん、また後で」
「あ、はい...失礼しました」
河野さんが頭を下げて、廊下に出た。
扉が閉まった。
「ちょ!ちょっと!みぽりん! なんで引きはがすの!?」
「河野さんが困ってたから」
「まだ話したかったのにぃ!」
「だめだよ、男の子にあんなにぐいぐい言っちゃ...」
みほちゃんが苦笑した。
五十鈴さんが静かに立ち上がった。
「華?どこ行くの」
「廊下に忘れ物を」
「してないでしょ!?」
「ふふっ...しました」
五十鈴さんが扉を開けた。
廊下に出た。
一分後、戻ってきた。
「....忘れ物ありました♪」
「忘れ物ってなに」
「河野さんの連絡先♪」
「ちょっとぉ!!」
「...沙織さんが余計なことしないか心配なので、まあ建前ですが」
「建前って言っちゃだめだよ」
五十鈴さんがすました顔で席に戻った。
みほちゃんが遠い目をしていた。
「みぽりんもなんか言ってよ!」
「...ご愁傷様です」
「誰に言ってるの!?」
河野さんの連絡先を見た。
交換できた。
それだけで、心臓がうるさかった。
(...何をLINEしようかなぁ)
「沙織ちゃん」
みぽりんが目を細めて言った。
「なに」
「最初のメッセージで質問攻めはやめてあげてね」
「え!? なんで分かったの!?」
「わかるよ」
みほちゃんが、また遠い目をした。
(...みぽりんのこんな顔、初めて見た)
「あれ? そういえば麻子さんは?」
「あーいつものベンチに寝てるんじゃない? 今日ずっと眠がってたし」
「あら、そういえば先ほど河野さんも随分お疲れでしたよ」
「...嫌な予感が」
ー???
私は大洗大学に入って一番の発見をした。
大学近くのベンチ。
日当たりもよく、人もめったに来ない私の特等席だ。
正直布団には勝てないが、春の日差しを受けながらとる睡眠もまた乙なものだ。
(ふふっ...今日は半日は寝られるぞ...ってあれ)
眠たい体を引きずりながらいつもの特等席につくと、知らない男性がすやすやと寝ていた。
続く
※
このキャラ出して欲しい、この子はこう言う設定がいい等があれば気軽に感想ください。
参考にさせていただきます。
基本的にガルパンのキャラは全部okです!