翌日。
大学の食堂で、五人が集まっていた。
昨日の騒ぎの後、自然とそうなった。
「...ねえ」
「なに?」
「昨日さ、みんなで動いてて」
「うん」
「なんか...私、楽しかった!」
「沙織さん...」
「怖かったけど! でもなんか、みんなで一緒に動いてると」
沙織が、少し照れた顔をした。
「高校の戦車道みたいだなって思って」
「...そうだな、お前の騒がしさを思い出したよ」
「もー! 今はそういう空気じゃないじゃん!」
「...そうですね。懐かしい感覚でした」
華が、テーブルを見た。
「なんだが、砲手だった頃の感覚が、戻ってきた気がして」
「だよねぇ、華すごかったもん」
華が、少し間を置いた。
「あの感覚...悪くなかったです」
みほは三人を見た。
「三人とも」
「なに?」
「いまさらなのはわかってるんだ。...でももしよかったら...戦車道、また一緒にやらない?」
沈黙があった。
「...いまさらだと思ってたのはこちらこそだよ...みぽりんを一人にしちゃった」
「ううん。でも...来てくれたらもっと嬉しいかな」
「もちろんだよ!」
「...私も」
華が、静かに言った。
「私も、昨日の夜のこと、お母さまにお話しして気が付きました。私がやりたかったことはこれなんだって」
「それって...」
「ええ、みほさんさえよければ、是非お力になりたいです」
「華さん...」
「...で、麻子は?」
沙織が麻子のほっぺをつつきながら聞いた。
麻子が、少し間を置いた。
「...正直めんどくさいが」
「えっ! なんでよ!」
「...こいつのような馬鹿を止める奴は必要だろう」
「ふふっ...素直じゃないですね」
「ちょ、ちょっと! 私をだしに使わないでよ! 怒るよ!!」
「冗談だ」
麻子が、小さくため息をついた。
「まあ、でも」
「うん」
「そうだな...昨日、久しぶりに本気で動いた」
「そうだね」
「...悪くなかった。それが入る理由だ」
みほは、三人を見た。
それぞれ、違う顔をしていた。
でも、同じ色をしていた。
「ありがとう、三人とも」
「べ、別にみほちゃんのためじゃ」
「わかってるよ」
「...」
三人が、また同時にそっぽを向いた。
優花里ちゃんが、小声で言った。
「みほさん、河野くんが練習よく見に来るって言ってあるんですか?」
「いえ...ちょっと言いづらくて」
「ですよね」
二人で、こっそり笑った。
その夕方。
練習場の前に、河野さんが立っていた。
河野さんが、少し間を置いた。
「河野君、お疲れ様! どうしたの?」
「えっと...昨日のこと、謝りたくて...ごめんなさい」
「え? なんで?」
「...みなさんを、危ない目に遭わせてしまいました」
河野さんの声が、少し固かった。
「みほさん、まほさん、皆さんにご迷惑をおかけしてしまいました」
「...河野さん」
「一歩間違えればどうなっていたわかりません。それなのに、俺なんかのために...不甲斐ないです」
みほは、河野さんを見た。
(...この人は)
(ずっと、そこを気にしていたんだ)
「河野さん」
「はい」
「迷惑だなんて、思ってない」
「私、昨日をきっかけに思い出したんだよ。みんなのこと。...高校からずっと知ってたはずなのに」
みほは、少し間を置いた。
「みんながどれだけすごいか」
「...みほさん」
「河野さんがいたから、みんなが本気になった」
「そんな」
「迷惑じゃなかったです。むしろ、ありがとうって思ってる。だから...そんなに謝らないで。それに一番危ない目にあったのは河野君じゃない。怖くなかったですか?」
河野さんが、しばらく黙った。
「...怖かった...です」
小さな声だった。
「正直、ずっと怖かった」
「...そう、だよね」
「でも...迷惑かけたのに怖かったって言ったら...おかしいと...思って」
「おかしくないです」
「...」
「怖くて当然です。我慢しなくていいですよ」
「ごめん...なさい。まだ、震えが止まらなくて」
河野さんが、顔を上げた。
目が、少し赤かった。
「ご、ごめんね。こっちこそ、嫌なこと思い出させちゃったね」
「い、いえ...すみません」
「まあ、でもとりあえずさ、河野さん」
みほが、静かに言った。
「助かってよかった。無事でいてくれてありがとう」
その言葉が何かを壊したのか、河野さんが泣きだした。
声を出さずに、静かに。
でも、ちゃんと泣いた。
みほは何も言わなかった。
ただ、やさしく抱きしめていた。
(...こんな顔、初めて見たな)
(いつも明るく元気にふるまってるから忘れちゃうけど...やっぱりか弱い男の子なんだな)
みほの胸の中に、小さな何かがあった。
優越感、と呼ぶには照れくさいけれど。
でも確かに、そういうものだった。
(...って、こんな時に私は何を...)
みほは静かに自分を叱った。
河野さんは今、泣いているのに。
それでも。
その小さな何かは、消えなかった。
そこに、足音がした。
河野さんが、はっと身を引いた。
袖で目元を拭った。
それから、みほの少し後ろにすっと移動した。
「...河野さん?」
小声で聞いた。
「...少し、待ってください。泣いてたの見られたくない」
(か、かわいすぎる...)
「河野さん!!」
沙織さんが走ってきた。
みほは一歩、河野さんの前に出た。
「沙織さん、お疲れ様」
「みぽりん! 河野君は大丈夫?」
「ええ、大丈夫です。でも、ちょっと待ってね」
「え、なんで?」
「風が強くて目に埃が入ったって」
「埃!? 今、風ないけど!?」
「あーえーっと」
「むぎゅっ...ちょ、ちょっと麻子! なにすんのよ!」
「...お前ほんとデリカシーないな。だからモテないんだぞ」
「沙織さん...」
「ちょっ! 急に何? あと華、その憐れむような眼やめて! そっちの方が傷つく!」
「...すみません、皆さん」
後ろで、河野さんがもう一度袖で目元を拭う気配がした。
小さく、息を整えているのが聞こえた。
華が、静かに歩いてきた。
そうしている間に、優花里さんが、息を切らして走ってきた。
「河野くん!! 昨日は大丈夫でしたかっ...ってあれ?」
みほの後ろから、少し間があった。
「...あっ」
優花里さんが、はっした様子で顔でみほを見た。
みほが、小さく微笑んだ。
優花里さんは、それ以上聞かなかった。
六人が、練習場の前に集まっていた。
河野さんが、みほの後ろからゆっくり出てきた。
目が、まだ潤んでいた。
泣いた後の、透き通った目だった。
縁が赤くて、睫毛が少し湿っていた。
「...みなさん」
声が、上ずった。
全員を、潤んだ目でゆっくり見渡した。
「...昨日は、ありがとうございました」
それだけだった。
でも、それだけで十分だった。
(かわいい!可愛すぎる! 写真とりたい...)
(あらぁ...これはこれは...)
(小動物みたいだ...)
(ぐっ...収まれ...ここは淑女になれ優花里...)
沙織が携帯を取り出そうとしている。
華が、静かに目を逸らした。
麻子さんはまるで飼い猫を見ているような顔だった。
優花里ちゃんが、口を押さえた。
(...全員やられてる)
誰も、しばらく何も言えなかった。
「あ、当たり前だぞ!!」
最初に口を開いたのは沙織だった。
声が、少し裏返っていた。
「当然だ」
麻子さんが言った。
どこか遠くを向いたまま。
「みほさんが呼んでくれたので」
華が言った。
耳が、うっすら赤かった。
「くそっ...どうして私は...こうタイミングが...」
優花里ちゃんが言った。
目が、少し潤んでいた。
みほが、みんなを見た。
「河野さん」
「今度、試合見に来てください。メンバー増えたので、ねっ」
河野さんが、きょとんとした。
潤んだ目がぱちりと瞬いた。
「えっ...? それって」
「はい」
みほが、四人を見た。
四人が、また同時にそっぽを向いた。
でも、誰も否定しなかった。
「わぁ...楽しみにしてます」
河野さんが、ふわっと笑った。
潤んだ目のまま、笑った。
その笑顔が、また反則だった。
四人が、また、やられた。
みほだけが、遠い目のまま言った。
「...知ってました」
---------------
???「はっ...相変わらずパッとしないわね、ここは。...案内しなさい、ノンナ」
「こちらです」
受付で手続きを済ませ、研究棟に入った。
視察という名目だが、目的は一つ
(あの男...ぎゃふんといわせてやるわ)
小さな暴君が、河野に接近していた。
※
このキャラ出して欲しい、この子はこう言う設定がいい等があれば気軽にください。
参考にさせていただきます。
基本的にガルパンのキャラは全部okです!
感想、意見お待ちしています!励みになります。