ーある日のプラウダ大学
「...ノンナ」
「はい、カチューシャ様」
「あの男、まだ連絡してこないわ」
「...そうですね」
「おかしいでしょ。私が連絡先渡したのよ? この私がよ?」
「...おかしいですね」
「でしょ!?」
私はソファにどかりと座った。
あの日からしばらく経っていた。
大洗大学の正門前で会った、あの男。
名前は河野。
それだけならどうということはない。
問題は──
「私を見ても、顔色一つ変えなかったのよ」
「そうでしたね」
「普通ありえないでしょ。どんな有名俳優だって、私に会った時は顔真っ赤にするの。これは常識的で当然の反応、違う?」
「いえ、異論ございません」
「でしょ!! なのにあの男...『興味ないんで』ってよくもまあ平然と」
「そうでしたね」
「ノンナ、返事がワンパターンよ」
「失礼しました」
ノンナが静かにお茶を差し出した。
私はそれを受け取りながら、考えた。
(むかつく、むかつくわ。こんなにこけにされたの、西住まほ以来だわ...)
カチューシャ様、ひいてはK様を認めさせていない人間を、そのままにしておくわけにはいかない。これはプライドの問題だ。
「ノンナ、西住まほが確か今、大学院でなんかしてたわよね」
「....そうですね。データですと、現在は大学院で戦車道の戦術研究をされていると」
「ふん。その大学院、プラウダと交流があったはずよ」
「はい...視察という形で、来月うかがう予定ですが」
「前倒しにしなさい」
「...いつにしますか」
「今週」
「無茶です」
「私が行きたいと言ったら行くのよ!」
ノンナが深くため息をついた。
「...善処します」
「よろしい」
私はお茶を飲んだ。
(待ってなさい、河野とかいう男)
(このカチューシャ様を認めさせてあげるわ)
ー翌週
大学院に到着した日。
黒塗りの車が正門前に止まった。
ノンナが先に降りて、ドアを開ける。
私は颯爽と降り立った。
周囲がざわめいた。
「え、K様!?」
「うわ、本物だ!!」
「なんでここに...?」
(ふん、これよ。私が求めている反応、羨望、あこがれ...うーんきもちい♪)
いつも通りの反応だ。当然よ。
「案内しなさい、ノンナ」
「こちらです」
受付で手続きを済ませ、研究棟に入った。
視察という名目だが、目的は一つだ。
「西住まほの研究室はどこ?」
「よ、四階ですが...部外者の方は...」
「私の世界に部外者はいないわ、さっさと通しなさい」
「し、しかし...」
「...急な訪問申し訳ありません。もしよければ、こちらK様の直筆のサイン色紙になるのですが、お近づきのしるしに」
「えっ!!...どうぞ! お通りください。K様ご一行♪」
「ふん、行くわよ」
ノンナがペコリと頭を下げる。
嬉しそうに色紙を抱えた警備員に快く通してもらえた。
廊下を歩きながら、私は考えた。
作戦は単純だ。
あの男の前に現れて、改めてK様の魅力を見せつける。
それだけよ。
「カチューシャ様、あの部屋のようです」
「そう」
私は扉をバタンとあけた。
「...カチューシャ様、ノックはした方がよろしいかと」
「うるさいわね。その時間がもったいないでしょ!」
「...随分騒がしい客だな。何の用だ」
低い、落ち着いた声がした。
扉を開けた。
部屋の中には、三人いた。
資料を広げている男が一人。
その向かいに座っている女が二人。
男が顔を上げた。
「げっ...」
私も、男を見た。
「...あら、お久ぶり」
思ったより早く、見つかった。
あからさまに嫌そうな顔をしているのは腑に落ちないが順調だ。
「えっと...カチューシャさんでしたっけ」
「K様と呼びなさい」
「あ、はい、そうでしたね、えっとなんでここに」
「視察よ」
「はあ」
河野が首を傾げた。
相変わらず、顔色一つ変えていない。
それどころか心底迷惑そうで腹が立つ。
(この男...! 私がくるだけで泣いて喜ぶやつが山ほどいるってのに...)
その横で、まほが静かに立ち上がった。
「...カチューシャ。世間ではK様だったか」
「あら、まほじゃない。あなたも久しぶりね」
「ああ。しかし、アポなしとは」
「K様にアポは必要ないのよ」
「...そうか」
まほが少し間を置いた。
表情は変わらないが、目が私と河野の間を一度だけ動いた。
「研究の視察が目的なら私が案内する。ただし...」
まほが、静かに言った。
「邪魔はしないでもらいたい」
「...わかってるわよ。私は見に来ただけ」
私は部屋の中に入った。
河野の向かいの椅子を、わざと引いた。
ぴったり正面に座る。
「研究の話、聞かせてもらいに来たわ」
「え、俺ですか? 俺はまほさんの手伝いをしているだけで...」
「あんたがいいの、まほ、もとい西住家の戦術なんて高校で聞き飽きてるわ。...K様が直々に興味を持ってあげたんだから、光栄に思いなさい」
「ええ...えっと」
「おい、案内は私が...」
「邪魔するなって言ったのはあんたでしょ。男のお手伝いなんて雇っていいご身分ね。少しくらい貸しなさいよ」
「...河野、嫌ならすぐ代わる。すまんが、少しこのわがままお嬢様の相手をしてやれ」
「え、ええまぁ...まほさんの頼みなら」
苦笑いをしながら、河野が資料を広げた。
光栄そうな顔は、全くしていなかった。
(この男ほんとに...!!)
ひとしきり説明をきいた。
まあ、当然西住まほのお手伝いだ、それ以上の情報はなかったが、思いのほか理解度は高かった。
説明の順序もうまい。
(ふーん...こいつ案外使えるかもね)
私は河野に向き直った。
「ねえ、河野」
「...はい?」
「あんた、気に入ったわ。プラウダの戦術研究に協力しなさい」
「え、また急ですね...」
「いいじゃない。光栄に思いなさい。私の研究室なんてノンナ以外ほとんど入ったことないんだから」
(...まあ、お昼寝か癇癪を起して引きこもっているときしか使わないですし」
「ノンナ! 途中から聞こえてるわよ!」
「...失礼しました」
「いや、でも俺はまほさんの研究で」
「ちょっとくらいいいでしょ」
「それは...」
「...断れ」
河野が困っている様子をみて少し優越感に浸っていると、横からバンっと机をたたく音が聞こえた。
静かな声だった。
「え」
「河野に先に声をかけたのは私だ。他所に貸し出すつもりはない」
カチューシャがまほを見た。
「あら、まほ。河野に聞いてるんだけど。それに手伝ってるだけであんたのものじゃないでしょ」
「所有権の問題ではない、お前は信用できない」
「はっ...それは河野本人が判断すればいいわ」
「個人の問題ではない、私の研究室の一員の話だ。...長である私が決める」
「あらあら、ずいぶん必死ね」
「...必死ではない」
「そう見えるけど」
「個人的感情など...」
「...ない」
そういってチラリと河野に目配せするまほはすこし言いよどんだ後、河野を守るように前にたった。
カチューシャが、少し口角を上げた。
「まほって、昔からそうよね」
「...何がだ」
「素直じゃないところ」
「...何のことだ」
「別にぃ?」
まほが、目を細めた。
「いいか、視察の目的は戦術研究の見学のはずだ。河野の引き抜きは目的に含まれていない」
「引き抜きだなんて人聞きが悪いわね。ちょっとお願いしただけよ」
「だから断ると」
「まほが断るの? 河野じゃなくて?」
「そうだ」
「...ふーん」
カチューシャが、河野を見た。
河野が、困った顔をしていた。
「河野はどう、私はあんたの意思を尊重するわ」
「お誘いは光栄です、しかし...俺はまほさんの研究を優先したいので、ごめんなさい」
まほが、わずかに目を瞬いた。
カチューシャが、小さくため息をついた。
「...そう」
「すみません」
「謝らなくていいわよ、誘ってみただけよ」
カチューシャが、まほを見た。
「...こいつの面白い反応も見れたし、ね、まほ」
まほが、無言になった。
カチューシャが、くすりと笑った。
「...まあ、いいわ」
「ねえ、河野」
「はい」
「あんた、私のファンクラブ入ってるくせに、よくそんな平然としてられるわね」
「だから、それは弟のやつで!」
「はいはい...もうわかったってそのネタ。いつまで擦るのよ」
「本当に違うんですって!」
「ふん、顔が赤いわよ。恥ずかしがるなんてかわいいじゃ...」
その瞬間。
バキッ
乾いた鈍い音がした。
全員が、音の方を見た。
みほが、湯呑の破片を手の中に持っていた。
静かな顔だった。
「...あ」
みほが、砕けた湯呑を見つめていた。
「すみません、急に割れちゃいました」
カチューシャが、みほを見た。
それから、破片を見た。
それから、またみほを見た。
「え? ミホーシャあんた」
「はい」
「今、素手で割った?」
「...わかりません、割れていました」
「割ったのよね?」
「わかりません」
「それ陶器よね、え、陶器って...握力で割れるの...?」
「西住流なら当然です」
(え、何言ってるの...怖)
「み、みほさん大丈夫ですか!」
河野が立ち上がった。
「あはは、大丈夫だよ、ありがとう。あー...布巾布巾」
「あ、よかった」
(なんでこの男も平然としてるの)
「...カチューシャ様」
「なに」
「顔が引きつっています」
「引きつってない」
「西住みほは敵に回さない方が得策かと...」
「そ、そうね...」
ノンナと作戦会議をしているとみほが静かに口を開いた。
「そんなことより河野さん」
「は、はい。なんですか」
「河野さんって、こういうキラキラした人がタイプなんですか?」
「え?」
「顔ですか? やっぱり、顔とルックスと見た目ですか」
「それ全部同じ意味じゃ...」
みほが、穏やかな顔で聞いていた。
穏やかな顔だったが、目が笑っていなかった。
河野が固まった。
「い、いや、だから誤解で」
「でも動揺してますよね」
「それはカチューシャさんがからかうから」
「顔が赤いのは?」
「単に恥ずかしくて」
「顔がいいから?」
「だから、違います!」
みほが、お茶を一口飲んだ。
静かだった。
「そう、ならいいよ」
それだけ言って、またお茶を飲んだ。
カチューシャは、みほを見た。
(...さっき湯呑割ったばかりなのに、もう新しいの持ってる)
(怖)
まほが、こめかみに手を当てていた。
「...河野、研究を続けろ」
「いや、続けたいんですけど、話しかけてくるのそっちで」
「うるさい、続けろ」
「はい……」
何事もなかったかのようにまほが資料に視線を戻した。
だが、彼女の耳は赤かった。
「カチューシャ様、そろそろお時間です」
「あら、もうそんな時間?」
「はい」
私は立ち上がった。
河野を見下ろした。
「今日はこの辺にしといてあげる」
「え、今日はって...」
「続きはまた来て聞くわ」
「ええ...」
私は踵を返した。
扉に手をかけて、振り返った。
「じゃーねー、ピロシキー♪」
まほが目を細めた。
みほが小さく手を振った。
河野が困った顔をしていた。
私は廊下に出た。
ー帰り道
「ノンナ」
「はい」
「まほは予想の範疇として、ミホーシャ...なかなかやるわね」
「...そうですね」
「湯呑を割った時のあの顔すごい怖かったわ」
「穏やかでしたが」
「だから怖いのよ」
少し間があった。
「この戦い、思ったより複雑になってきたわ」
「そうですね」
「でも」
「はい」
「その方が、断然面白いわ」
ノンナが、静かに微笑んだ。
「...流石です」
(次は、もっと本気でいくわよ)
車が走り出した。
大学院の建物が、遠ざかる中カチューシャは次なる作戦を考えていた。
※
このキャラ出して欲しい、この子はこう言う設定がいい等があれば気軽にください。
参考にさせていただきます。
基本的にガルパンのキャラは全部okです!
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