あべこべ道! 乙女が強き世界にて   作:マロンex

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第53話 ノンナの休暇と代役と

車が走り出してしばらく経った頃

 

「ノンナ」

 

「はい」

 

「...負けたわ」

 

ノンナが、少し間を置いた。

 

「何にですか」

 

「全部よ。愛里寿にも、千代美にも」

 

「...なぜそうお考えを」

 

「あの男が研究室以外で見せる笑顔、一度も引き出せなかった。私の前のあいつは本物じゃない」

 

「それは...そうですね」

 

カチューシャは窓の外を見たまま、続けた。

 

「...最初はむかついてたのよ」

 

「はい」

 

「認めさせてやるって、それだけだったわ。プライドの問題」

 

「...そうでしたね」

 

「でも」

 

カチューシャが、少し黙った。

 

「...なんか、違うのよ」

 

「違う、とは」

 

「あいつと戦車道の話をしてた時」

 

「はい」

 

「気づいたら、楽しかったのよ」

 

ノンナが、静かに聞いていた。

 

「むかつくのは変わらないわよ。いけ好かないのも。でも...話してると、なんか、楽しいのよ。なんでかしら」

 

「...」

 

「あいつ、ちゃんと話を聞くのよ。私のことをK様として見るんじゃなくて、ただの話し相手として」

 

「...はい」

 

「なんでかしら、こんな気持ち久しぶりというか」

 

カチューシャが、窓の外を見たまま言葉を止めた。

 

「...新鮮なのかしら。そういう人間が周りにいなかったから」

 

「...そうですね」

 

「もっと知りたいのよ」

 

「河野さんを、ですか」

 

「そうよ。何が好きで、何が嫌いで、どういう時に笑って、どういう時に本気になるのか」

 

「...」

 

「でも研究室じゃ、あいつは絶対に緩まない。私がいる限り」

 

「...おっしゃる通りですね」

 

「二人きりで、もっと時間が取れればいいんだけど」

 

カチューシャが、少しため息をついた。

 

「でも理由がないと、さすがにあの男も不審がるでしょうし...どうしたものかしら」

 

しばらく沈黙が続いた。

ノンナが、静かに口を開いた。

 

「...カチューシャ様」

 

「なに」

 

「そういえば私、最近旅行に行きたいと思っていて」

 

「...急にどうしたのよ」

 

「北欧の方に、少し」

 

「里帰り? 別にいいけど」

 

「ありがとうございます。ただ、私が不在の間、女優業のマネージャーを誰かに代わってもらわないといけなくて」

 

「...そうね、じゃあその代役を...」

 

カチューシャが、ノンナを見た。

 

「...ノンナ、あんたまさか」

 

「...河野さんあたりはいかがでしょうか。フットワークが軽そうですし、信頼もできそうですし」

 

「...」

 

「撮影現場への同行、スケジュール管理、移動の手配。覚えることは多いですが、傍についていれば自然と距離も縮まるかと」

 

「...なるほど」

 

「二人きりの時間も、必然的に増えますね」

 

カチューシャは、しばらく黙っていた。

 

「ノンナ」

 

「はい」

 

「旅行、いつ行くの」

 

「明後日から二週間ほど」

 

「急ね」

 

「はい」

 

「...本当に旅行に行くつもりなの」

 

ノンナが、少し間を置いた。

 

「...北欧は寒いですから、準備が必要で」

 

「答えになってないわよ」

 

「...よい旅になりそうです」

 

カチューシャが、窓の外に視線を戻した。

少し間があった。

 

「...その提案、乗るわ」

 

「かしこまりました」

 

「ただし」

 

「はい」

 

「絶対に旅行なんて行ってないわよね、あなた」

 

「...北欧は寒いですから」

 

「答えなさい」

 

「...よい旅になりそうです」

 

「...ふん、あんたも賢くなったわね」

 

カチューシャは、深くため息をついた。

でも、口元が緩んでいた。

 

「...まあ、いいわ」

 

しばらく、車内に沈黙が流れた。

 

「私、あの男のことが気になってるのかしら」

 

ノンナが、静かに前を向いたまま答えた。

 

「...どう思われますか」

 

「わからないわ、正直、今でもむかつく奴って印象は変わらないわ」

「はい」

「...でも話してると楽しいし、もっと知りたいとも思う、これも変わらない」

 

「はい」

 

「これって、なんなのかしら」

 

ノンナが、少し間を置いた。

 

「...カチューシャ様」

 

「なに」

 

「今まで、誰かのことをもっと知りたいと思ったことは?」

 

カチューシャが、少し考えた。

 

「...ないわよ、私以外興味ないもの」

 

「誰かと話して、楽しいと思ったことは」

 

「...異性は...ないかも」

 

「そうですか」

 

「...なんなのよ、急に」

 

「いえ」

 

ノンナが、静かに微笑んだ。

 

「...でも少し安心しました」

 

「どういう意味よ」

 

「ようやくカチューシャ様を動かすほどの人に出会えましたね」

 

「動かすって...別に動かされてないわよ。ただ、気になってるだけで」

 

「はい」

 

「知りたいだけで」

 

「はい」

 

「楽しいと思ってるだけで」

 

「そうですね」

 

「...それだけよ、なに笑ってるのよ」

 

「...いえ、失礼しました」

 

ノンナは、それ以上何も言わなかった。

ただ、静かに微笑んでいた。

カチューシャは、また窓の外に視線を戻した。

 

(...なんなのかしら、本当に)

 

夜の街が、流れていった。

その答えに、カチューシャはまだ気づいていなかった。





このキャラ出して欲しい、この子はこう言う設定がいい等があれば気軽にください。
参考にさせていただきます。
基本的にガルパンのキャラは全部okです!

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