ある朝。
プラウダ大学の自室で、カチューシャはスマホを手に持っていた。
「...ノンナ」
「はい」
「河野に電話するわ」
「...直接ですか」
「そうよ。何か問題でも」
「いえ」
「じゃあかけるわよ」
カチューシャが、河野の番号を呼び出した。
呼び出し音が鳴る。
「はい、河野です」
「河野、私よ。カチューシャ」
「あ、カチューシャ様。どうしたんですか」
「ちょっと頼みたいことがあって」
「はい、なんでしょう」
「実はノンナが旅行に行くことになって──」
『河野、カチューシャだな』
「あ、まほさん、あ、ちょっ!」
「っ!!」
『カチューシャ。何の用だ』
「まほに話してるんじゃないわよ!!」
『河野に用があるなら私を通せ』
「何? ちょっと仲良くなったからってマネージャー気取り?」
『違う、この時間は河野を守るのも責務だ』
「あら、ごめんなさい! 正義のヒーロー気取りだったわね、ほんと昔からあんたって...」
『...河野、電話を切れ』
「ちょっ、まほさん!──」
「ま、まちなさっ...」
ブツッ。
カチューシャが、スマホを投げつけそうになるのをノンナが静かに受け止めた。
「...カチューシャ様」
「なによ!!」
「落ち着いてください」
「これが落ち着いてられる!? なんで電話口にあいつがいるのよ!!」
「...この時間は研究室にお二人以上でおられますので、自然かと」
「だからってなんで電話口に出てくるのよ!!」
「...みほさんがいなかっただけましかと」
「うるさいわよ!!」
カチューシャが、スマホを握り直した。
「そ、そうよ!LINEにするわ。直接河野に送れば、さすがにまほも割り込めないでしょ」
「...少し時間を空けた方がよろしいのでは」
「なんであいつなんかのために私の用事を待たないといけないわけ!」
「...おっしゃる通りです」
カチューシャが、河野のLINEを開いた。
『頼みがあるの。少し時間ある?』
送信。
既読がついた。
返信が来た。
『さっきはすみません!』
『もちろんです! どうしました?』
(...よし)
(今度はうまくいったわ)
続けて打った。
『実はノンナが旅行に行くことになって、その間マネージャーを代わりにやってほしいのよ。詳しく話したいから明日時間作れない?』
送信。既読がつき返信が来た。
『承知しました。明日の午後2時から3時の1時間でお願いします。こちらも暇ではないので』
(この返信の文体...)
カチューシャが、スマホを見つめた。
「...ノンナ」
「はい」
「私、この癇に障る文章、昔読んだことがあるわ」
「...ええ、私も見覚えがあります」
「よね」
もう一度、メッセージを見た。
カチューシャが、震える手でスタンプを送った。
ピロン。
返信が来た。スタンプではなかった。
『場所はどこにするつもりだ』
「...この女!!!」
ノンナが、静かに目を閉じた。
「...まほさん、流石にそれは...」
「あいつ大学に入ってからよりおかしくなってない!?」
『なっていない。この件は河野から承諾済だ』
「...なるほど、安心しました」
「なんで会話できてんのよ!!」
カチューシャが、返信を打った。
「河野に返せ」
ピロン。
『河野は今、資料を取りに行っている。伝言があれば聞く』
「親切なふりしてんじゃないわよ!!」
ピロン。
『場所と時間を言え』
ピロン。
『河野に伝える』
ピロン。
『内容も言え』
「まとめて送ってきなさいよ!!」
「カチューシャ様、落ち着いてください」
「落ち着いてられるか!!」
カチューシャが、髪をかき乱した。
「...もういいわ、疲れた。用件だけ伝えて寝るわ」
カチューシャが、深く息を吸った。
そして返信を打った。
『明日の午後2時、駅前のカフェ。内容は直接河野に話す。以上』
しばらくして返信が来た。
『わかった。私が行こう、河野にも一応声はかけておく』
「あんたは呼んでないわよ!」
ノンナが、静かに言った。
「...カチューシャ様」
「なに」
「既読がついてから返信まで、今回も十秒かかっていませんでした」
「...」
「まほさん、河野さんのスマホをずっと握っていたようですね」
カチューシャは、しばらく黙っていた。
「...西住家って怖いわね」
「...そうですね」
「河野も河野よ。なんで公認してるのよ」
「...お優しい方なのですね」
「だから鈍いって言ってるのよ!!」
ノンナが、静かに微笑んだ。
「なんで笑うのよ」
「笑っておりません」
「...まったく」
ー翌日
待ち合わせより10分早く着いたカチューシャが指定のカフェの扉を開けると。
まほが、すでに窓際の席に座っていた。
コーヒーを飲んでいた...落ち着き払った顔で。
「...まほ」
「カチューシャ」
「...何時から来てるの」
「1時間ほど前から」
「い、1時間!? なんで!?」
「...少し迷ってしまってな」
「嘘をつきなさい!! 駅前のカフェよ!? 迷う要素がどこにあるの!?」
「...細かいぞ、そういうことにしておけ」
まほが、コーヒーを一口飲んだ。
「...まあ、座れ」
「あなたは呼ばれてないけどね」
「無論だ。私もお前は呼んでない」
「こいつ!!」
「...カチューシャ様、ここは穏便に」
ノンナが、静かにカチューシャの袖を引いた。
カチューシャが、ぐっと息を飲んで、まほの向かいに座った。
ノンナが、静かに目を閉じた。
ーーーー
しばらくして、息を切らした河野がカフェの入り口に立った。
「す、すみません! 少し遅れて...って、まほさんもういるんですか!?」
「ああ」
「い、いつからいるんですか」
「気にするな、今来たところだ」
「...コーヒー3杯目ですよね。いやなんかその...すみません」
河野が、疲れたような顔で席に着いた。
まほが、静かに口を開いた。
「...それで、主役が来たところで用件を聞こうか」
「すみません、お願いします」
「...じゃあ聞きなさい。ノンナが急遽旅行に行くことになってね。その間マネージャーを代わりにやってほしいのよ」
河野が、少し間を置いた。
「...ま、マネージャーって、K様のってことですか」
「そうよ」
「他にいくらでもいるんじゃないですか」
「いるけど、あなたがいいのよ」
「...その前にききたいことがある」
「...なによ」
まほが、静かに口を挟んだ。
「期間は」
「二週間ね、これ以上は伸びないわ」
「その間の大学は」
「すでに大学と交渉済みよ、半休学として特別に認められることは確認済」
「勤務内容は」
「撮影現場への同行、スケジュール管理、移動の手配、マニュアルはノンナが作ってるわ」
「報酬は」
「当然払うわよ、きっちりね」
「勤務時間外の業務連絡は」
「...しないわよ、そんな非常識なことは、あったとしてもそれは私が対応するわ」
まほが、少し間を置いた。
河野を、一瞬だけ見た。
それから、カチューシャに視線を戻した。
「...わかった」
「...どう、満足かしら」
「ああ、話をさえぎってすまなかった。私はこれ以上は口を出さん」
まほが、河野に向き直った。
「河野」
「はい」
「もし私の研究のことを心配してくれているなら問題ない。これはあくまで私の研究だ」
「...まほさん」
「お前がやってみたいと思うなら私はそれを尊重したい」
さらっと言った。
それだけだった。
河野が、少し目を見開いた。
それから、静かに笑った。
「...わかりました」
カチューシャは、その短いやり取りを黙って見ていた。
(...)
「...河野、どうするの」
河野が、カチューシャをまっすぐ見た。
「カチューシャ様のこと、少し興味がわいていたところです。ぜひ協力させてください」
あっさりした返事だった。
(...嘘、こんな簡単に)
(もう少し手こずると思ってたのに)
「わ、私から言っておいてなんだけど...本当にいいの?」
「はい。ただ、まほさんの研究に支障が出る時は優先させてもらいます」
「わかったわよ」
「あと」
河野が、少し真剣な顔で言った。
「K様が無理してる時は、ちゃんと言ってください」
「...!」
「あ、あれ? マネージャーってこういう仕事ですよね...? あれれ」
カチューシャは、何も言えなかった。
まほが、コーヒーを一口飲んだ。
静かに、ゆっくりと。
カップを置いて、窓の外を一瞬だけ見た。
それから、何も言わなかった。
「じゃあ、明日から来なさい。場所はノンナが送るわ」
「わかりました」
「遅刻は許さないわよ」
「早起きは得意です」
カチューシャが、踵を返しかけて、少し止まった。
「...河野」
「はい」
「...よろしくね」
ぼそっと、小さな声だった。
河野が、少し驚いた顔をした。
それから、ふわっと笑った。
「はい。よろしくお願いします、K様」
カチューシャが踵を返した。
足早に、カフェを出た。
帰り道、まほから呼び出された。
「カチューシャ、すまないな急に呼び出して」
まほは駅前の公園で一人座っていた。
「...まあ座れ」
「...なに」
「少しいいか。河野のことだ」
まほは、少し目を閉じ、穏やかな口調で話し始めた。
だが、それとは反対に目は静かで鋭かった。
「あの男は、自分が思っている以上に人のために動きすぎる」
「...そのようね」
「無理をしていても、顔に出ない」
「...」
「だから、周りが気をつけてやらないといけない」
「...それを、私に言うの?」
「今後しばらくはお前が一番近くにいることになるからだ」
カチューシャは、まほの目を見た。
静かで、鋭くて。
それだけじゃない、何か。
(...)
「...わかったわよ」
「本当にわかったか」
「わかったって言ったわよ!!」
「...ならいい」
まほが短くため息をついた。
少しだけ、視線がずれた。
「...脅したり、条件つけたりしないの?」
「必要ない」
「...信用してるってこと?」
「...信頼はしている。何年も前からな」
静かな声だった。
それだけ言って、まほはコーヒーに視線を落とした。
カチューシャは、しばらくその横顔を見ていた。
「...ふーん」
今度は、からかいではなかった。
ーーーー。
ノンナが、静かについてくる。
外の空気を吸った。
胸の奥に、まほの言葉が残っていた。
(...まほも)
その瞬間、別の顔がフラッシュバックした。
廊下で、腕を組んで立っていた千代美の顔。
『河野の周りをうろつく女は、私がちゃんと見てるから』
(...千代美も)
二人とも、同じ顔をしていた。
怒りでも、脅しでもない。
ただ本気で、真剣に。
あの男のことを、心配している顔。
「ノンナ」
「はい」
「どうしてあの男の周りには、面倒な番犬がこうも多いのかしら」
ノンナが、少し間を置いた。
「...それだけ、河野さんが」
「わかってるわよ。わかってるから、むかつくのよ」
カチューシャは、夕日に向かって歩き出した。
「ノンナ」
「はい」
「明日から気をつけるわ。河野が無理してないか、預かりものだしね」
ノンナが、静かに微笑んだ。
「...かしこまりました」
「なんで笑うのよ」
「笑っておりません」
「...まったく」
夕日が、二人の影を長く伸ばしていた。
(...面倒な番犬ばかりね)
でも。
(...悪くない男ね、やっぱり)
その先は、また心の中にしまっておいた。
※
このキャラ出して欲しい、この子はこう言う設定がいい等があれば気軽にください。
参考にさせていただきます。
基本的にガルパンのキャラは全部okです!
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