あべこべ道! 乙女が強き世界にて   作:マロンex

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第9話 託された想い

「さて...どこから話そうか...。昨日の飲み会ではみほから戦車道に関して何か聞いたか?」

 

「戦車道に関してですか?...うーん、高校からやってた... とか大学のチームに所属している...くらいは聞いた気がします。あ、後、お姉さんもそうですが西住流っていう戦車道の家系だとか...くらいですかね」

 

「そうか...。実はな、みほはああ見えて高校時代は戦車道全国大会で優勝しているんだ。その影響で大学の選抜チームからの推薦が来てな。大学のチームに現在は所属しているんだ」

 

「そ、そうだったんですか!? すごいじゃないですか!?...あれ、でも『みほは』ってことは...お姉さんは違う高校だったんですね?」

 

「ああ、初めは同じだったのだが...色々あってな。妹は大洗女子高校という戦車道には無縁の高校に転校したんだが...」

 

そこから聞いた話はまるで絵に書いたような夢物語だった。転校した高校で素人の集団を集めて戦車道大会に挑んだこと。優勝することで廃校を防ごうとしていたこと、そして転校の原因になった戦車道を自分の形で昇華し、自身の西住流でお姉さんを打ち負かし優勝したこと...。

どれもにわかには信じがたいほど出来すぎた話だった。

 

「そ、そんなすごい人だったんですね...。全然知りませんでした」

 

「ああ、確かにみほは強い。素人集団の中での奇抜な作戦、的確な指示。大会を見ているものを皆熱狂の渦に飲み込むほどだった。周りの戦車道関連者もこぞってみほに注目し、大学での活躍を期待されていた。...だが、みほは大学チームに所属してから半年間、全くと言っていいほど戦績を上げることができなかった」

 

「そんな...それは周りからのプレッシャーに耐えられなかった...とかですか...?」

 

「...もちろんそれもあるかもしれない。大学のチームでみほは所属後いきなり分隊長を任せられていたからな。きっとチームメイトも高校の活躍を見て期待をしていたのは間違いない。しかしそれ以上にみほには根本的な問題があった」

 

「根本的な問題...」

 

「チームに所属してから約半年後、入学式からちょうど1ヶ月ほど前だったか。みほから電話が来てな。『戦車道を続けている理由が見つからない』...そんなことを私に相談してきた。思うような成績をあげられないのもそうだが、どうして自分は高校の仲間との生活を捨ててまで、戦車道に打ち込んでいるのか...とな。...君はどうしてだと思う?」

 

みほさんが、大学で活躍できない原因...。高校との違いは...。

唐突に投げかけらた質問に戸惑いつつも、頭の中でもし自分だったらと考えた。そうしているうちに自然と口から言葉が漏れた。

 

「...目的がないから...でしょうか。先ほどまでの話を聞いている限り、みほさんは他人に対して強い思いやりを持てる人間です。黒森峰の事件、高校での優勝も『仲間のため』という目的が常にみほさんを突き動かしていた気がします。...しかし大学ではそれがない...。だからみほさんの本来の力を出せていないのでは...」

 

夢中で話し終わった後、ふと我に帰って、お姉さんを見つめる。「ほう... 」と小さく感嘆をもらしたお姉さんの目は驚いたように目を丸くしていた。

 

「す、すみません、ペラペラと..。間違ってましたかね..」

 

「...い、いやすまない。驚いただけだ。...なるほど、みほが気にいるわけだ。大した考察力だ」

 

「あ、ありがとうございます...え、えっと...でもわかりません...それと自分の昨日の行動と何の関係が..?」

 

「...昨日みほが何度も話していたよ『今日、河野さんという人のおかげで戦車道を続ける理由を思い出した』とな。

 

「思い出した... ?」

 

「君が必死に自分を守っている姿を見て、高校時代を思い出したんだろう。みほは過去に友達を守ったように、大学の同じチームメイトを守りたい。そのためにもっと強くなりたい。そう言っていた。...守る仲間は過去の友達だけじゃない、そう思うきっかけを君が作ったんだ...だから、これからもみほを支えてやってくれ。...あの子昔っから危なっかしくてな」

 

「はい!こちらこそよろしくお願いします!」

 

ぎゅっと自分の両手を握ったお姉さんは、先ほどの話始めのぎこちない笑顔とは違い、自然な笑みをこぼしながら自分をじっと見つめていた。手から伝わる温もりにはとても暖かく、そして心からの感謝の気持ちが伝わるようで、自分も自然と言葉が漏れた。

 

「お姉ちゃん!何してるの!?」

 

静寂を破ったのは身支度が終わったであろう、みほさんだった。

その姿を見て気恥ずかしそうにぱっと手を離したお姉さんは少し焦ったような早口で話し始めた。

 

「ちょっと皿洗いを手伝ってもらっていてな...手が染みるというから少しあっためていたんだ...べ、別に他意はないぞ!?」

 

「ふーん...そうなんだ... 」

 

(いやそれ無理ありすぎるでしょ、逆に怪しいよ!浮気の言い訳かよ!)

 

(すまん..とっさにこれしか浮かばなかった)

 

(心の声にナチュラルに入ってこないでくださいよ!)

 

明らかに不信感をつのらせている様子のみほさんだったが、何事もなかったかのように自分に話を始めた。

 

「そうだ、河野さん。戦車道興味あるんだよね!」

 

「え、ええ。ありますが...どうしまし...」

 

「じゃあ、今日暇なら私の試合見にきてよ!会場まで案内するから!さ、いこ!」

 

「い、今からですか!? まだ6時半じゃ...」

 

「練習風景から見て欲しいの! 意外と面白いから!ね!」

 

先ほどの光景の再現のようにぎゅっと自分の手を握ったみほさんは、そのまま自分を引っ張るように玄関まで連れていった。

 

「じゃあ、いってきます! お姉ちゃん!...私負けないから、戦車道も...恋もね!」

 

「ふふっ...いってらっしゃい...安齋によろしく頼むぞ」

 

ーーーー

 

「ふっ...やれやれ、西住流も安泰だな...。しかし河野...か。不思議な魅力を持った男だ」

 

あの時にぎった手の温もりがまだわずかに残っている。

 

無意識に鼓動が昂っている。西住まほは河野に対する新しい感情が芽生え始めていた。

 

----------

 

???「えっと...今日の練習試合は大洗大学とか...会場はええと...」

 

「...ここから大学までは歩いて15分くらいなんだ! 着いたら寒いだろうから部室に案内するね!」

 

「いやいや! 悪いですよ!部外者ですし...」

 

「いーよいーよ! 河野さんには特等席用意してあげるね!」

 

???「ちっ...カップルが朝からイチャイチャして...。朝玄関から一緒に登校とか少女漫画かっての...ってお前っ! か、河野か!?」

 

思わず大声を出してしまい、驚いて二人が振り向く。

 

「...もしかして...ちーちゃん?」

 

安齋千代美は中学の幼馴染と再会を果たすのであった




バンバン他校出していくスタイル。

この先出して欲しいキャラ

  • 元大洗
  • 元他校

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