武人な狼奴隷とむっつりな聖女さま   作:エルフスキー三世

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うん、またふたなりなんだ(


狼獣人奴隷爆誕

 その男は剣士であった。

 切って切られて切って、そんな死合いを幾度となく繰り返してきた武芸者であった。

 いくさ場で育った男はそれ以外のことを知らず、できなかった。

 ある者は彼のことを人の皮をかぶった獣と称した。

 ある者は彼のことを武神に愛されし修羅と皮肉った。

 そんな徳も格も品もない男は、いつしか剣豪と呼ばれるようになった。

 

 しかし、無敗だった男も、今まさに死を迎えようとしている。

 

 血潮が滾る、熱い剣戟の末にではない。

 常勝不敗の男は流行病によって、その命を散らそうとしていたのだ。

 

「理不尽なり……」

 

 男は死の間際に呟く。

 ここは人里離れた山奥。

 男以外には誰もいないみすぼらしい掘っ建て小屋。

 

「理不尽なり……」

 

 声は悲嘆に満ちていた。

 男はしけった布団に体を横たえたまま涙を流す。

 

「理不尽なり……それがしは……どのような形でも、まだ、生きていたい……」

 

 死合いの最中で死ねないことが悔しいのではない。

 誰にもみとられず逝くことが悲しいのではない。

 男には、まだ果たしてない望みがあったのだ。

 

「それがし、可愛らしい理想のおなごで童貞を卒業したかったでござるよ‼」

 

 男はシャイで阿呆で高望みするやつであった。

 無念、ああ、無念……。

 そんな心残りを抱えたままゲハっと吐血し、男は童貞のままこの世を去った。

 

 ……で、気がついたら女の体になっていた。

 

 驚愕をする男。

 悪臭がした……そして全裸であった。

 おっぱいがあり、おまけに頭の上に……けもの耳がついていた?

 動揺をしながらも周りを見渡す。

 牢屋……いや、檻だろうか?

 まるで打ち捨てられるように閉じ込められていた。

 男はいつもの習慣で、目覚めと同時に肉体が万全に動くか確認をおこなう。

 

 そして酷いありさまだと溜息をつきそうになる……この体は、あまりにも損傷が激しかったのだ。

 

 右腕がなく、足の健を切られ、尻の部分も何かが足りない。

 切り傷に酷い打撲。

 体で痛くない部位を探すほうが難しく、特に股座がじくじくと痛んだ。

 壁板に寄り掛かりながら体を起こすと重い頭痛がした。

 

 唐突に、この体の記憶が、人生が、流れるように蘇る。

 

 彼女は、狼獣人の父と人の母の間で産まれた半獣人であった。

 獣人と人との間に子が出来るのは本当に稀で……父にとってはほんの遊びだった。

 望まれぬ生とその黒髪ゆえに、一族に、家族に、血の繋がった実の父にすら疎まれた。

 唯一守ってくれた母は亡くなっており、幼いころから疎外され、虐めを受けていた。

 剣だけを友として、父に振り向いてもらうためだけに必死に修練に明け暮れた。

 いつしか彼女は一族有数の剣の使い手として名をはせるようになった。

 ところがある日、兄弟たちに騙され、傭兵奴隷として売られてしまう。

 その時の彼女の思い、理不尽さ、男は我がことのように深く同情した。

 戦場での初陣と、その活躍。

 彼女は凄まじい剣士だった。

 男の目から見て剣技はまだまだ未熟で粗削りな部分が多い。

 しかし鍛えあげられた肉体の強靭さはそれを補ってあまりあり、驚くほどのものであった。

 

 彼女の記憶がさらに流れていく。

 

 ある敗戦で本隊が逃げるための捨て駒にされ、自決する前に捕虜となり……男としても目を逸らしたくなるような暴行を受けた。

 彼女は、その苦痛と屈辱の過程で、魂の死と救済を望んだ。

 そして生を望む己の魂が、残された彼女の体に宿ったと、男は納得した。

 男は一滴の涙を流し、彼女――キリカの代わりに生きていくことを誓った。

 

 だがしかし、と、男は考える。

 

 確かに、どのような形でも生きていたいと願った。

 童貞を卒業したいと望んだのに、それより先に処女を喪失したようだ。

 そこで男は、童貞を卒業するためのチ〇コがないことにようやく気づいた。

 

「ひゃああああああああああぁぁぁ⁉」

 

 悲鳴をあげた。

 いかなる戦いでも眉一つ動かさなかった冷徹な男が情けない悲鳴をあげた。

 武人であったこの男にとって手足の不自由さなど、チ〇コの有り無しに比べれば些細な問題であった。

 

「チ〇コ! それがしのチ〇コ! チ〇コがっ⁉ り、理不尽なりよ――!!」

 

 狼獣人の少女に憑依し、生まれ変わった男は、狭い檻の中で絶叫をしたのだ。

 

 

 そのあとキリカは、奴隷市というものにだされ競売にかけられた。

 台上で体をいじられ、畜生のような扱いを受ける苦渋を味わったが、かつてキリカ(・・・)が受けた苦しみに比べれば安いものだと黙って従った。

 騒がしい人波の中をさりげなく見まわし、どうやって逃げ出そうかと算段していた最中に、潤んだ瞳でこちらを見つめる金髪碧眼の美女が……まるで高貴な姫のように可愛らしい理想のおなごを見つけた。

 

 おっぱいがめっちゃ大きかった。

 

 そしてキリカとなった男は彼女に買われたのだ。

 ただ……その美女がまさか、男が失ったチ〇コをもっていたとは夢にも思わなかったが……。


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