蜘蛛の対魔忍は働きたくない   作:小狗丸

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 俺がこの世界に転生する前に出会った光の玉。

 

 それによって俺の転生特典……電磁蜘蛛の強化ボーナスを与えられたのはいいのだが、その際に両目に強烈な痛みが走って俺は気絶してしまった。気がつけば俺は五車学園の近くにある対魔忍専用の病院のベッドで眠っていて、医者が言うには丸三日眠っていたそうだ。そして……。

 

「俺に、邪眼が……?」

 

 医者からの報告を聞いて鏡を見ると、鏡に映る俺の左目が毒々しい紫色に変色していた。つまりこの紫色の左目、邪眼があの光の玉が言っていた強化ボーナスなのだろう。

 

 邪眼とは視線そのものに「魔」を宿す眼であり、邪眼が宿す力はその所有者によってそれぞれ異なるが、そのどれもが他の対魔忍の忍法よりも特異で強力なものである。そして邪眼の使い手を数多く輩出してきたのが、小太郎君のふうま家であった。

 

 勿論ふうま家以外でも邪眼に目覚める対魔忍は少数だが存在している。しかしだからと言って、何で俺が邪眼に目覚めないといけないんだよ? 転生特典の強化ボーナスと言っても、もっと別の強化手段だってあるだろう?

 

 邪眼みたいなレア能力に目覚めたら更に周りから注目されるじゃないか。「レア能力を持っている=対魔忍として実力者」みたいな単純思考の上層部にまた任務の回数を増やされたり、厄介な任務を回されたりするんじゃないだろうな?

 

 鏡を見ながら俺が内心で頭を抱えていると、医者は何故俺が急に邪眼に目覚めたかについて仮説を話してきた。

 

 俺達対魔忍は、人間と魔族の混血児の末裔で、その身に「魔」の力を宿している。そしてその魔の力を対魔粒子で活性化させることで、身体能力を上昇させたり超能力……つまり忍法を使用するのだ。

 

 その為、対魔忍の中には自分に宿る魔の力を完全に目覚めさせて、体が人間から魔族に変化するパターンも、理論上は存在するらしい。というか、アサギが正にソレだろう。

 

 そして俺の場合、このところ任務の連続で忍術を使用しすぎたせいで、左目が変化を起こし邪眼と化した、というのが医者の言う俺が邪眼に目覚めた仮説なのだとか。

 

 医者の仮説を聞いて俺は正直「随分と穴だらけの仮説だな」と思ったが、それでも「自分は実は転生者で、忍法に目覚めたのは転生特典のお陰で、邪眼に目覚めたのも転生特典の強化ボーナスのお蔭」という事実に比べれば、まだ現実的な気がした。

 

「あの……? 俺が邪眼に目覚めたのって何かの間違いじゃないですか? 瞳の色もただ変色しただけだったり……」

 

「いえ、それはありません。貴方の左目は確かに邪眼となっています。それでどうです? 左目から何か特別な力とか感じませんか?」

 

「と、言われてもな……ん?」

 

 一縷の望みをかけて医者に聞いてみたが即座に否定されて、俺は思わず天井を見上げて呟く。しかしその時、俺の視界に奇妙なものが映った。

 

 俺の視線の先にあるのは天井に設置されている蛍光灯。その蛍光灯は白い光を放っていたが、俺の左の目にはそれとは別の光……いや、何かの「力」が見えた気がした。

 

「……………『集まれ』」

 

 バチィッ!

 

 俺は蛍光灯に見えた謎の力を見つめていると、自分でも気づかないうちに思わずそう呟いた。すると突然俺が見ていた蛍光灯の光が消えて、その直後……。

 

『………』

 

 光の消えた蛍光灯からまるで幽霊の様に、全身から青白い光を放つ半透明の蜘蛛が這い出てきて、その蜘蛛は無言でベッドの上にいる俺を見下ろしてきた。

 

 な、何だ、あの蜘蛛は? 俺の電磁蜘蛛にどこか似ているけど……まさかあの幽霊みたいな半透明の蜘蛛が俺の邪眼の能力なのか?


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