蜘蛛の対魔忍は働きたくない   作:小狗丸

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「ふぅ……。やっと帰ってこれたな……」

 

 獅子神と一緒に行った三度目の任務。それを無事に達成して五車学園へ帰還した俺と獅子神だったが、任務が思ったより長引いてしまったせいで、五車学園に帰還した頃には昼を過ぎていた。

 

 五車学園ではすでに午後の授業が始まっているが、対魔忍の任務に従事している生徒はその間の授業を免除されているので、俺と獅子神は教室で授業をしている生徒達を横目に、教官であり上官の対魔忍達がいる職員室へと向かう。

 

「獅子神、大丈夫か?」

 

「ええ、はい。少し眠いですけど大丈夫です」

 

 任務は徹夜となりここに来るまで一睡もしていない為、流石に獅子神も疲れているみたいだが、それでも返事を返してきた。

 

 俺? 俺は勿論余裕さ。何せ任務では同じ任務に参加している頭対魔忍の先輩が勝手に行動したらその尻拭いで一徹二徹は確実で、事後処理でも作文レベルの報告書しか書けない対魔忍が多すぎるせいで俺だけ報告書を書く量が二倍になっているのでこちらも一徹二徹は確実。そのお陰で長時間寝ていなくてもクオリティの高い仕事が出来るという社畜スキルを中学生のうちから修得しているさ。凄いだろう? ハハハッ! ハハ……ハァ……(ため息)。

 

「どうしたんですか、五月女先輩? 泣いているのですか?」

 

「えっ!? い、いや、泣いていないから!? ちょっと欠伸をして目から水が出てきただけさ!」

 

 自分の言葉に傷ついた俺は気づかないうちに泣いてしまっていて、獅子神の言葉に慌てて涙を拭ってごまかす事にした。

 

「? そうなんですか?」

 

「そうなんです。いくら俺でも自分の職場のブラックぶりに改めて絶望して泣いたりなんか……ん?」

 

 なんとか話を逸らす話題はないかと視線を横に向けると、校庭で中等部の生徒達が対魔忍スーツを着て格闘技の訓練をしており、俺はその格闘技の訓練をしている中等部の生徒達の一団に気になるものを見つけて足を止めた。

 

 対魔忍を育成する五車学園では体育の授業の半分が体力作りのトレーニングで、残り半分は今俺が見ている格闘技の訓練、つまりは生徒同士の模擬戦である。そして格闘技の訓練は模擬戦でもあるので、模造品の武器や忍法の使用が認められている。

 

 中学生の一団がぴっちりとしたスーツを身にまとい武器やら超能力を使って模擬戦をしている光景は、日曜日の特撮番組みたいで実際に目の当たりにすると異様な光景だが、俺が気になっているのはそこではない。

 

 俺の視線の先では一人の対魔忍見習いの男子生徒が、次々と自分と同じ対魔忍見習いの生徒を倒しているのだ。……しかも忍法も武器も使わず素手だけで。

 

「ま、まさか……。彼は……」

 

 素手だけで対魔忍見習いの生徒を倒していく男子生徒には非常に見覚えがあり、俺は思わず彼の顔を凝視しながら呟いた。

 

 そしてその男子生徒……ふうま小太郎は、俺の見ている先で相手が忍法で放った炎を素早い動きで回避し、その直後に華麗なまでの上段後ろ回し蹴りを相手の首に叩き込んで勝利したのだった。


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