蜘蛛の対魔忍は働きたくない   作:小狗丸

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『『………』』

 

 小太郎君と鬼族の戦士がそれぞれ拳と武器を構えて睨み合う。他では対魔忍見習いの学生達とオーク達が怒号と悲鳴を上げながら殺し合いをしているが、二人の間だけは一瞬の隙も見逃さないという静かでいて張り詰めた空気が漂っていた。

 

「はっ!」

 

 最初に動いたのは小太郎君だった。小太郎君は一瞬で間合いを詰めると、目にも止まらない速度で拳と蹴りを鬼族の戦士に叩き込もうとする。

 

 しかし鬼族の戦士は両手に持つ槍を使い、小太郎君の攻撃を全て防いでみせた。

 

 確かに小太郎君はこの短い期間で驚くくらい強くなった。しかし鬼族の戦士にはまだ通用しないか。

 

 そう思ったのは俺だけでなく鬼族の戦士も同じようで、鬼族の戦士は小太郎君の攻撃を防ぎながら彼に嘲笑を向けた。

 

「人間にしてはかなり鍛えているみたいだが、俺には通用しないようだな!」

 

「そんなことは分かっている……よっ!」

 

「っ!?」

 

 小太郎君がそう言って右腕を振るった瞬間、鬼族の戦士が持つ槍が二つに断ち切られ、それと同時に鬼族の戦士の胸の辺りが小さく切り裂かれてそこから血が吹き出した。一体何事かと小太郎君の方を見ると、彼の右腕の籠手から一本の刀が飛び出していた。

 

「し、仕込み刀だと? ふざけた真似を……っ!?」

 

 初めて攻撃を受けた鬼族の戦士は槍を投げ捨てて小太郎君に掴みかかろうとしたが、それより先に小太郎君が投げた数本の手裏剣が鬼族の戦士の体に突き刺さる。

 

「今度は手裏剣か……!」

 

「ああ、それもただの手裏剣じゃないぜ?」

 

「何だ……ゴハァッ!?」

 

 小太郎君が左手に持っていた小さな機械を操作する。すると鬼族の戦士に突き刺さっていた数本の手裏剣が爆発し、爆発の衝撃で鬼族の戦士は悲鳴を上げて身をのけぞらせた。

 

「装備科に作ってもらった爆裂手裏剣だ。そして……そこだ!」

 

「っ! ガハァッ!」

 

 悪戯が成功したような顔で言うと小太郎君は鬼族の戦士に向かって跳躍して、鬼族の戦士の今の手裏剣の爆発で負傷した箇所に回し蹴りを叩き込み、負傷している箇所に強烈な追撃を受けては流石に耐えきれず鬼族の戦士は後ろに倒れてしまう。

 

「……! こ、この人間め! よくもやってくれたな」

 

 普通の人間ならば既に死んでいる武器と武術のコンビネーション攻撃。それを受けてもまだ鬼族の戦士は死んでおらず、怒りを露にして立ち上がってきた。

 

「………」

 

 だが小太郎君は立ち上がる鬼族の戦士に攻撃を仕掛けないどころか、まるでもう勝負がついたかのように構えを解いたのだ。一体どういうつもりだ、小太郎君?

 

「? 何だ? 何故構えを解く? まさか降参のつもり……がはっ!?」

 

 構えを解いた小太郎君を見て怪訝な表情を浮かべていた鬼族の戦士は、言葉の途中で突然口から大量の血を吐き、その場で膝をついた。

 

「な、何だ……これは……?」

 

「どうやら効果が出てきたようだな」

 

 小太郎君は自分の身に何が起こったのか疑問を抱く鬼族の戦士に声をかけると、先程蹴りを放った右足を上げてそこに履いている金属製のブーツを見せる。

 

「俺のブーツには対魔族用の毒針が仕込んであるんだよ。それをさっきの爆裂手裏剣で負傷した所に叩き込んで、毒をお前の体内に送り込んだってわけだ」

 

「っ!? さっきの仕込み刀も手裏剣も、その毒針の為に……!?」

 

 驚愕の表情を浮かべる鬼族の戦士に、小太郎君は獰猛な笑みを見せる。

 

「今の俺の力がお前に通じないのは承知の上だ。だけどな。そんな力の差を道具や工夫で補うのが人間なんだよ」

 

「これが人間の……対魔忍の戦い方……? 対魔忍、恐る、べし……」

 

 そこまで言って鬼族の戦士は地面に倒れて事切れてしまう。

 

 ……いやいやいや? ちょっと待って?

 

 もう何度言ったか分からないけど、小太郎君ってば強くなりすぎてない? というかハイテクな武器を使いこなして、この中で誰より「現代の忍者」やってない?

 

 なんていうか今の小太郎君の戦いを見ていたら、名前だけが「忍法」の超能力が使えるだけで対魔「忍」を名乗っている自分が恥ずかしくなってくるんだけど!?


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