蜘蛛の対魔忍は働きたくない   作:小狗丸

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文章を一部変更しました。


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 その後、俺達は簡単な自己紹介をしてから妙神山へと向かった。しかし俺達……正確にはさくらと銀華という異分子がいるせいか、途中で横島が原作以上に美神やさくらにセクハラを行なってきたので、修行場に到着するまで時間がかかってしまった。

 

 え? 銀華はどうしたって? 可愛い後輩の貞操は勿論死守しましたよ。

 

 銀華にセクハラをしようとする横島にクロスボウを突きつけて追い返していると、何故か不機嫌な表情となったさくらが「私は助けてくれないの?」と聞いてきた。いやだって貴方、横島のセクハラを余裕でかわしているじゃないですか? 一回でも手酷く断れば横島も諦めるかも知れないのに、やんわり断るから「まだチャンスがあるかも?」と思うんですって。

 

 そう答えると、さくらは「なるほどー」と呟き、横島は血の涙を流して「余計なことを言うなよ!」と叫んできた。

 

 そうしてようやく修行場に辿り着いたと思っていたら、そこには俺の知る原作から離れた出来事が起こっていた。

 

「やっと来ましたね。初めまして。私はこの修行場の管理者、小竜姫と申します」

 

 なんと修行場の管理者である小竜姫が門の前に立って俺達を出迎えて来たのだ。いやいやちょっと待って? 貴女の出番、もうちょっと後でしょう? 美神と修行場の門を守る二体の鬼門とのやり取りの後でしょう? これも俺達という異分子が紛れ込んだせいなのか?

 

「全く……。連絡してくれた時間よりだいぶ遅いですよ、さくら?」

 

「あはは……。も、申し訳ありません、小竜姫様」

 

 どうやらさくらと小竜姫は知り合いのようで、小竜姫が腰に手を当てて呆れたように言うと、さくらが苦笑いを浮かべて謝罪する。小竜姫が最初からいたのはさくらが連絡をしたからか。これは原作改変はそんなに大した事はないのかな?

 

「それで? 今日修行するのはそちらにいる美神令子さん、五月女頼人さん、獅子神自斎さんの三人でいいですか?」

 

「はい。それでよろしくお願いします」

 

 さくらが小竜姫に答えると、小竜姫はそれに一つ頷いてから俺と銀華の方を見てきた。美神ではなく俺達の方をだ。え? 何事?

 

「分かりました。……では先ず、私はそこの五月女さんと獅子神さんを『師匠』の所へ案内しますから、他の皆さんはしばらくここで待っていてきださい」

 

 ………!? し、師匠!? 今、小竜姫ってば師匠って言ったか? 確か小竜姫の師匠っていったらあの……。

 

 小竜姫の言葉に思わず驚いた俺だが、驚いたのはさくらも同様だったようで、彼女は慌てて小竜姫に話しかける。

 

「ちょ、ちょっと待って!? 小竜姫様が三人の修行を見てくれるんじゃなかったの? それに小竜姫様の師匠が五月女君と獅子神ちゃんを?」

 

「……ええ。私も最初は三人とも修行をつけるつもりだったのですが、五月女さんと獅子神さんの資料を見た師匠が、二人の修行は自分がつけると言い出しまして……。こんな事は私も初めてですよ」

 

 さくらに小竜姫も困惑した表情で答える。どうやらこれは彼女にとっても予期せぬ出来事だったみたいだ。

 

「とにかく師匠はすでにお待ちです。五月女さん、獅子神さん、早速ですが行きますよ」

 

「は、はい」

 

「分かりました」

 

 そうして俺達は本来の修行を行う建物とは少し離れた建物に案内され、そこには俺の予想通り、中華風の服を着てくわえ煙草をしている眼鏡をかけた一匹の猿がいた。

 

「お猿さん……?」

 

猿神(ハヌマン)ですよ。私の師匠であり上司、斉天大聖孫悟空です」

 

「えっ!? あ、あの有名な……!?」

 

 猿……ではなく悟空を見た銀華の言葉を小竜姫が訂正すると、銀華は驚いた表情となって再度悟空を見る。まあ、普通はそうだよな。

 

 そして当の悟空はしばらくの間、俺と銀華をしばらく品定めするように見てから口を開いた。

 

「ふむ……。小竜姫よ。そちらのお嬢ちゃんを更衣室に案内して修行着に着替えさせてやれ。儂はこの坊主と少し話してからすぐに向かう」

 

「はい。分かりました。それじゃあ獅子神さん、行きましょう」

 

 小竜姫は悟空に一礼してから銀華を連れて部屋から出て行った。そして部屋に俺と悟空だけになると、伝説の猿神(ハヌマン)は俺の目を真っ直ぐに見てきた。

 

「さて……。坊主、修行の前にお前さんに一つ聞きたいことがある」

 

「俺に? 何でしょうか?」

 

「単刀直入に聞こう。坊主、お主『異世界からの転生者』じゃな?」

 

 …………………………ッ!?

 

 突然悟空の言葉に、俺は呼吸を忘れるくらい驚いた。

 

「い、異世界からの転生者? 一体何の事を……?」

 

「隠さんでいいわい。儂は以前、お主と同じ異世界からの転生者と会ったことがあってな、雰囲気というか気配が同じなんじゃよ」

 

 思わず誤魔化そうとした俺の言葉を、悟空はあっさりと否定した。というか今、とんでもない事言わなかった? 俺以外にも異世界からの転生者がいたのか?

 

「その、以前会った異世界からの転生者って、一体何者なんですか?」

 

「うむ。儂の師匠じゃよ」

 

 悟空の師匠ってことは……三蔵法師!? 三蔵法師が転生者ってマジかよ!?


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