蜘蛛の対魔忍は働きたくない   作:小狗丸

35 / 45
034

 悟空が言う異世界からの転生者とは、特別な魂を持っていた為に元の世界の輪廻の輪から外れ、強力な異能や才能……所謂チート能力と前世の記憶の一部を持って異世界に転生したという、正に俺と同じ存在であった。

 

 ちなみにこの世界にやって来た異世界からの転生者は、俺と三蔵法師を含めて三人だけ。そして三蔵法師が持っていたチート能力は「全属性異能無効化」、「全種族言語翻訳」、「自動完全蘇生(十回)」らしい。

 

 ……中々いいチート能力持ってたんじゃないか、三蔵法師。特に「自動完全蘇生(十回)」。

 

 観念した俺は悟空に自分が異世界からの転生者であること、この世界が俺が前世で見聞きした二つの物語の歴史や特徴を併せ持っている事を説明した。

 

 すると悟空は俺に「儂もお前が転生者だと秘密にしておくから、お前もバレないように気をつけろ。そして未来に大きな事件や危機があるのなら、対抗する準備だけをしておいて、他者との相談は控えろ」とアドバイスをくれた。それが最も危険が少ないやり方だと言って。

 

 何でも世界には、予め決まっている歴史を歪めようとする存在が現れると、それを排除して歪んだ歴史を正そうとする「修正力」という力があるらしい。その力の影響で未来を知る者が多い程未来は不確かなものになり、歴史を歪めようとする存在の力が大きい程歴史を正そうとする力と反動が大きいそうで、悟空はこれによって三蔵法師が天竺へと向かう旅で散々苦労したのだとか。

 

 前世で「西遊記」を読んでいた三蔵法師は、自分が天竺へと向かう旅に出ると、西遊記の原作知識を使って楽に旅をしようとした。しかし世界の修正力はそれを許さなかった。

 

 三蔵法師が原作知識を使って上手く旅の危険を避けようとすると、必ず様々な怪物やら災難が次々とやって来て、その度に三蔵法師は「こんなのは原作にない!」と叫んでいたらしい。

 

 つまり、俺が「対魔忍RPG」や「GS美神」の知識を元に将来の危険を排除しようとすると、予期せぬ敵や困難がやって来るかもしれないので、ここは大人しく悟空のアドバイスを聞くことにした。

 

 話が終わると俺は修行着に着替えて銀華と合流して悟空との修行を開始する。悟空の修行は原作と同じく、魂を加速させるために悟空が作り出した仮想空間で二ヶ月生活するところから始まった。

 

 そして修行が始まって一ヶ月の時が過ぎた。

 

「ここでの生活にもだいぶ慣れてきたみたいだな」

 

「ええ、最初はただのんびり暮らすのが修行と聞いて驚きましたけど」

 

 悟空の仮想空間で俺が銀華に話しかけると、彼女は笑みを浮かべて頷いた。

 

 この仮想空間での生活は非常に快適であった。

 

 平和だし、危険な仕事を出してくる対魔忍はいないし、ゆっくりできるし、仕事で暴走する対魔忍はいないし、可愛い後輩が話し相手になってくれるし、周りの二倍の報告書を求めてくる対魔忍はいないし、本当に快適である。この後、悟空とのガチバトルがあるのは知っているが、そんな事気にならないくらいの快適さである。

 

 ああ、もうずっとここにいたいな……。対魔忍の仕事なんか忘れて永住したい。周りは俺の事を蜘蛛の対魔忍とか呼んで尊敬してくれているみたいだけど知ったこっちゃない、蜘蛛の対魔忍は働きたくないんですよ。

 

「……でもまあ、この光景だけには未だ慣れないんだけどな」

 

「……ええ、そうですね」

 

 俺が目の前の光景を見ながら言うと、銀華も苦笑して頷く。何故なら今、俺達の前では……。

 

「キイッ! ウキキーッ!」

 

「ヌオオッ! 負ケマセンゾォ!」

 

「………!」

 

 完全な猿モードになった悟空と、俺の右目から作り出される八つ目のロボット、そして銀華の忍法で現れる忌神が仲良く◯ンバーマンの四人対戦で激戦を繰り広げているからだ。

 

 いつ見てもシュールすぎる光景である。


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。