蜘蛛の対魔忍は働きたくない   作:小狗丸

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 ……俺は、一体どこで人生を間違えたのだろうか?

 

 転生した世界が対魔忍の世界で、俺も対魔忍になった時は軽く絶望した。対魔忍の任務は常に様々な危険がつきまとうので、俺は対魔忍として働きたくなんかなかったのだが、一度対魔忍になったら最後、任務の拒否は絶対に許されないし、任務をまともにこなせなかったら居場所がなくなってしまう。

 

 幸い俺が目覚めた忍法、電磁蜘蛛は遠距離からの偵察に特化していたので、最低限の仕事だけをして危険な事には近づかないでおこうと思っていたのだが、その考えが甘いものだとすぐさま思い知らされる事になった。

 

 任務を達成する為に仲間と協力をしながら様々な手段を考えて行動をして、任務を達成できたら上司への報告を確実に行う。それが最低限の仕事……いや、仕事をする者として当たり前の事だと思っていたのだが、対魔忍の世界では当たり前ではなかったようだ。

 

 上からの評価欲しさ、あるいは古くから続く対魔忍の家系に生まれたプライドの高さ故にスタンドプレーが当たり前で、

 

 自分が身につけた忍法に自信を持つあまり、作戦の「さ」の文字もない真正面からの戦い方しか頭に無く、

 

 小学生(しかも低学年)の作文みたいな報告書しか書けない対魔忍ばかりの中で、俺のやり方はひどく変わっていたみたいだった。

 

 その結果、最低限の仕事しかしていなかったつもりの俺は上から評価されて、気がつけば「蜘蛛の対魔忍」という異名で呼ばれるようになり、敵対する魔族からは多額の懸賞金をかけられてしまうはめに。

 

 それで修行によってパワーアップして少しは自分の身を守れるかなと思ったら、パワーアップが理由で小隊の隊長に任命された。小隊の隊長になったということは、部下の命も守らないといけない責任ができたと同時に、今まで以上に危険で重要な任務を任されるという事。

 

 俺は対魔忍として働きたくない。この気持ちは今でも変わらない。

 

 だが、それ以上に死にたくなかったし、僅かにいる対魔忍の知り合いにも死んでほしくなかった。……それに自分の仕事ぶりを認められて嬉しくないわけじゃない。

 

 だから死なない程度に最低限の仕事だけをするつもりだったのに、どうしてこんな事になってしまったのだろう? この世界は俺の事が嫌いなのだろうか?

 

 

 

 ……と、そんな事をぼんやりと考えてしまうくらい今の俺は疲れ果てていた。

 

 高校に進学するのと同時に小隊の隊長に任命されてから早半年。小隊の隊員として俺と銀華の所へ加わったきららと翡翠、そして佐那ともいくつもの任務を共に達成する事でだいぶ打ちとけることができたのだが、俺がここまで疲れているのは彼女達が関係していた。

 

 きららは霜の鬼神と対魔忍のハーフで、対魔忍の父親に母親を殺された挙句自分も殺されそうになった経験から大の男嫌いとなり、最初は俺の指示も聞かずスタンドプレーに走っていた。しかし辛抱強く彼女の話を聞いて、何回か任務で彼女のピンチを助ける事で徐々にきららは俺に心を開いてくれるようになり、今では教室でもよく話すし昼食を一緒に食べるくらい打ちとけた。

 

 しかしきららと俺が仲良くなると、今度は逆に彼女と銀華との仲が悪くなってしまった。きららと銀華は事あるごとに言い争いになり、その度に俺が仲裁をして、この間も危うく鬼神の力を使おうとするきららと忌神を呼ぼうとする銀華を必死の思いで止めた。

 

 翡翠は口数が少なく、任務以外ではボーッとしているため、最初はどんな人間かよく分からなかった。しかししばらくすると、ただ口下手なだけで仲間意識の強い人間だと分かり、すぐに仲良くなれた。

 

 しかし翡翠はどこかズレた所があるようで、仲良くなれたと思った時期からよく俺の布団に潜り込んできて、気がつけば一緒に眠るようになった。ちなみに俺は誓って翡翠に変な事はしていないのだが、以前部屋まで起こしにきた銀華に翡翠と一緒に寝ている場面を目撃されて、忌神に殴り飛ばされた事がある。

 

 佐那は小隊で唯一の成人している卒業生で、俺は最初佐那の方が小隊長として相応しいのではないかと思っていたのだが、彼女は自分はそんな柄じゃないと言った。そして堅苦しいのは嫌いだから呼び捨てでいいと言ってくれて、事務仕事なども苦手なりに手伝ってくれる、根は真面目で頼りになる人だった。

 

 しかし佐那は使う忍法が酒に関係している影響か、常に酒浸りの生活を送っており、何故か俺もそれに付き合わされている。この間も酔っ払った佐那に酒場を何件も連れ回され、朝になって帰ると怒り心頭の銀華に正座で丸三時間説教をされた。ちなみにこの時、佐那は俺の隣で一升瓶を抱えて眠っていた。

 

 ……おかしいな? 仲間が増えて任務の負担は少しは減った筈なのに、疲労は以前の数倍になっているんだけど?

 

「このままじゃ……任務で殉職するより先に過労で死んでしまうかもしれないな。過労で死んでも殉職扱いになるのかな。……ん?」

 

 半分くらい幽体離脱をしながら呟いた時、携帯にメールが入ってきた。そのメールはアサギからの新しい任務の依頼だった。

 

「……ウソやん? こんなのトラブルが起こるに決まってるやん?」

 

 メールに記された任務は、とある場所へ俺の小隊と五車学園が選んだ数名の対魔忍見習いの学生達、そして特別に雇った民間のゴーストスイーパーの合同で調査に行くというもの。そこまではいいのだが、俺は五車学園が選んだという対魔忍見習いの学生達と民間のゴーストスイーパーの名前を見て、思わずエセ関西弁で呟いた。

 

 ……どうやらこの世界はとことん俺のことが嫌いらしい。


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