ほむら「美樹さやーー「私がガンダムだ」はぁ?」 作:わんたんめん
「…………………」
深い闇の中、一寸先の光も見えない黒の中でやちよは目を開く。
辺りを見渡しても何も見えないはずだが、なぜか自分の姿だけははっきりと見えている。
その不思議な空間だが、やちよは気にしない。いや、気にすることができなかった。
その空間全体から発せられているような後ろめたさに近い感覚に襲われていたからだ。
そして─────
『────────』
『────────』
「うっ……………」
ドロっとした泥のようなナニカが闇の中から現れる。
数は二つ。その不定形なナニカは蠢きながらにじりよってくる。
湧き上がる本能的な恐怖。ここから逃げ出したい気持ちに苛まれるが、直前のさやかの言葉が脳裏をよぎり、動き出しそうになる体を必死に抑えた。
『──────!!』
『───────』
声にならないような音にやちよはスッと一度目を伏せた。
何を言っているのかはわからない。だが、その声の強さから自分を罵っているのは確かなようだ。
(……………本当に、そうなの?)
フェントホープに乗り込む前、事前確認としてさやかとのコネクトをした際にも同じような声が聞こえ、それに対する恐怖から暴走直前まで精神状態が危うくなった。
しかし、さやかは確かに言った。その時の彼女自身に悪い気配が取り憑いているようには感じ取れなかったと。
さやかが霊感、もしくは何かを察知する力のようなものが強いというのはマミを初めとする見滝原の魔法少女から聞いている。魔法少女になる前から魔女の気配を感じ取れたり、十七夜の読心を察知したりと、いわば創作におけるエスパーに近い。
そのさやかが自分を恐怖に陥れた存在を感じ取れないとは思えなかった。
(そうじゃないとしたら、一体……………)
やちよはとじていた瞳を再び開いた。
その瞬間、彼女は息を呑んだ。直前まで不定形の形をしていた泥が人の形となってそこにいた。
その泥の人形には顔がついていた。崩れかけていたからわかりづらかったが、それはやちよの顔をしていた。
『声をわからなくしているのは、自分自身かも知れない』
「じゃあ…………貴方たちは一体誰!?」
『────────』
『────────』
思わず問いかけたが、目の前の泥から帰ってくるのは言葉にならないような聞き取れないものだ。
だが怨嗟の声のようなものであるのは確かなようだ。そうとしか、彼女には聞き取れなかった。
しかし、怖気付きそうな体を奮い立たせ、やちよは自身を模した泥と対峙する。
本当の声を聞こえなくさせているのが自分自身なのだとしたら、その形が自分をかたどって出てくるのは納得できるからだ。
(ッ!?まさか………!?)
やちよは目を開いて目の前の泥人形を見つめる。
彼女には目の前の2人という存在に心当たりがあった。
それはかつての仲間であり、自身の
「かなえ…………それにメルなの…………!!?」
彼女たちの名を呼んだその瞬間、二つの泥人形が光り輝いた。
突然の現象に目が眩んだやちよだったが、光が収まり、再び目を開くとそこに広がっていたのはあの真っ暗な闇の空間ではなかった。
「ここは───神浜市を走る電車の────」
電車の座席に座っている誰かを見つけた。
座席の背もたれに隠れて全身を見ることはできないが、やちよには見間違えるはずがなかった。
生い茂るような深緑と燻んだ中にも確かに煌めいていた金。その2人の髪色、紛れもなくかつてやちよの目の前で散って行った仲間たちのものだ。
「やっと気づいてくれたんですね!」
「頭が堅いのはわかってたけど、まさかここまでとは思わなかった。」
座席から立ち上がり、やちよにそれぞれにこやかなものと小さく笑みを向ける2人。
彼女らの名前は『安名メル』と『雪野かなえ』
やちよと同じく神浜の魔法少女であり、かつての彼女とグループを組んだ魔法少女であり、そして既に故人のはずの2人だ。
「あなたたち…………なんで…………!?」
「あの時に言ったよ。あたしを未来に連れてってさ。」
「それは………ただの言葉だったでしょう!?」
「いいえ!!それは違いますやちよさん!!断じて否です!!」
かなえの言葉を否定しかけたやちよの言葉にメルがさらに否定を重ねた。
「確かにただの言葉だったかもしれないです。でもやちよさん、あなたの魔法がその言葉を掬いあげてくれたんです!!」
「私の………?でも─────」
メルの言葉にやちよは気まずそうに視線を逸らした。
やちよ自身の魔法。魔法少女になると必ず一つは得られる固有のもの。
彼女は断定こそしてはいないものの、視線の先にいる2人との出来事からどういうものであるか、ある程度の予測は立てていた。
それは他人を犠牲にして自分が生存すること。
いわば他者にとっての死神にも等しいその能力にやちよは一度は他の魔法少女との距離を取った。
「いえ、もしそうじゃないとしたら、2人はそれを知っているというのね?」
「はい………先にお話ししますと、今やちよさんの目の前にいるボクとかなえさんはあの時に死んだわたしたちじゃありません。」
「…………ええ、そうでしょうね。だって2人は出会っていないはずだもの。」
かなえとメルの2人は確かにやちよの仲間だった魔法少女だ。
ただ、その時期に差があり、メルはちょうどかなえが亡くなったあとにグループに加入してきた。
やちよの記憶の限り、2人がお互いに知り合っていることはあり得ないのだ。
「あたしたちという魔法少女はお互いあの時確かに死んだ………やちよには酷かもしれないけど。」
「………………」
かなえから言われた言葉に僅かに後悔を含んだ表情で顔を背ける。
やちよにとって彼女たちの死は今なお心に深い傷跡を残している。
いろはたちとの出会いで多少それが治りつつあるのかもしれないが、それもあくまでマイナスだったものがゼロへと戻っているだけ。
「その2人が最期に残した魔力、それがやちよに受け継がれている。こうしてやちよの心の中に出て来れるのもそのおかげ。」
「それが…………わたしの本当の魔法だって言うのね。」
「まぁ、ボクが出て来れるようになったのはつい最近なんですけど。いやいや、あのさやかさんという方の魔力………魔力?は凄まじいですね。残り香でしかなかったはずのボクの意識をここまで復活させるとはです。」
「美樹さんが?まさかコネクトで?」
話を詳しく聞いてみるとどうやらメルの魔力は元々残りかすもいいところの状態だったのだが、コネクトによって流れ込んださやかの魔力で自意識が急速に覚醒し、今に至るようだ。
「あの子が………いえ、彼女にそんなつもりなんてサラサラないのでしょうけど。」
だが、さやかが確実にかなえとメルの2人を感じ取っていたのは事実だろう。
そのことに呆れのようなため息を吐いていると不意に視界が白けていっていることに気づく。
その現象にやちよはなんとなく時間切れのようなものを感じ取った。
「……そう、もう時間なのね。長居をするつもりもなかったけど」
「周りがどうなっているかはわかってる。やちよの可愛い後輩を助けてやって。」
「あの子は今とんでもない心の闇に囚われています。それを晴らすことができるのは生きているやちよさんたちにしかできないことです。」
そう言ってメルはどこからかカードの束を取り出した。
細長く、絵に数字と人が描かれた20枚ほどのカードの束。
それらをメルは上空へ放り投げた。
最初はそれがなんなのかわからなかったが、カードの束がある類のものだと気づくとやちよは慌てた表情を浮かべた。
「タロットカード…………!?待ちなさいメル、あなたの占いは──」
「大丈夫です。今のボクにはそんな未来を確定させることができるほどの魔力は残っていません。できて少し先の未来が見れるかどうか…………だからこれは願掛けなんです。」
そのやちよの心中を察したのか苦笑いを浮かべながらメルは一旦放り投げたタロットカードを再び自身の掌の上に束として集めた。
そして集めたカードを切り、その山札の一番上のカードをめくり、やちよに見せた。
そこに出されたのは暖かな光とともに人々を今なお照らし続けている『太陽』のカードだった。
「太陽のカード、それも正位置です。やっぱり、悪い意味は出ないと思っていました。」
タロットカードにおける『太陽』の意味。それは希望。
「太陽から降り注ぐ陽光は厚い雲を切り開いて、未来への道となるでしょう。」
「まったく、あの子ったら……最後の最後に期待させるようなことを…………!!」
「よぉ、お目覚めか?」
意識が現実に戻り、メルが残した最後の占いに言葉にだけ怒りを乗せていると自身の背後から声をかけられる。
それと同時に後ろから響く戦闘音。空を切り裂くような飛翔音と光が瞬くような軽い発射音、そして視界の端から見える真っ赤な粒子光。どうやら話している間に誰かに守ってもらっていたようだ。
「ああ、こっちは向かなくていい。アンタが見るべき相手は一つだけだ。そうだろ?」
振り向こうとしたところ、後ろを守ってくれていた彼女に言葉で阻まれてしまう。
しかしながらまったくもって彼女の言う通りだ。
今のやちよにはやらなければならないことがある。
「そうね、ごめんなさい……………他のみんなのことも頼むわ。いろは!一緒に外へ出るわよ!」
「はい!!」
そう言い残してやちよはいろはの手を取り、さやかとレグナントとの戦闘で空けられた穴から外へ出る。
さやかや背後にいた誰かのものとは違うスラスター音。手にした槍は流麗なハルバートに近かった形状から馬上槍を彷彿とさせる無骨極まる太いものへと変貌していた。
「行ったか。そんじゃまぁ、こっちもおっぱじめるとするかぁ!」
やちよが出たことを確認すると、杏子は右腕に装着していたライフルの砲身が隠れるように変形し、一本の細身の大剣になったGNバスターソードを携え、真紅の粒子光を纏うように飛翔する。
その先にはまだ動ける魔法少女たちと激しい戦闘を行う一体の巨大なウワサ。
大木のような図体に、生い茂る枝葉にはフェントホープ内を警備していたウワサが実っていた。
「さぁ、やってやろうじゃん!」
これ以上の長期戦はいらぬ損害を生む。それにマギウスの所在がわからなくなった以上どのみち先が見えない危険な状況であることに変わりはない。
杏子は大きく旋回するように見せながら全身を回転させる不規則な軌道でウワサの懐に入り込む。
「ちょいさァー!!」
全身を回転させるように身を捩りながらGNバスターソードで斬りかかる。
振るわれた細身の大剣はウワサの太い枝をまるで抵抗を感じさせないようになめらかに剪定する。
しかし、切り落とされた枝についていたウワサの手下が完成しきっていないながらに杏子に襲いかかる。
「チッ!」
舌打ちをしながらも杏子は一旦後退。腰部のスカートからGNミサイルとGNファングを射出し、現れた手下にそれらを雨霰のように浴びせる。
それでも彼我との間にある体躯の差か生み出された手下の進行は止まらない。
「食い破れ!ファング!!」
杏子の声に呼応するように手下に刺さったファングがビームを撃つ。
防御を抜いてきたところからの内部に対する直接攻撃に手下は身を悶えるような反応をしたのちに爆散する。
「佐倉さん!勝機は!?」
そこに杏子に近くにいた手下を倒しながらななかがそう聞いてきた。
ところどころダメージを受けてはいるようだが、まだ大事に至るほどではない。
杏子は獰猛な笑みを浮かべると背中に懸架されているもう一振りのGNバスターソードを構えた。
「周りを頼む!あいつを膾斬りにしてやる!」
「心得ました!ご武運を!!」
ななかの指示で女王グマのウワサ本体と戦闘をしていた仲間たちが一旦離脱し、杏子は集中できるように手下の掃討に移っていく。
「派手にドンパチかましてやらぁ!!」
道がひらけたことを確認すると杏子は右肩のGNランチャーを女王グマのウワサに撃ち放ちながら急接近。
大木の女王に権天使の刃が牙を向く。
「─────来たか!!」
やちよの接近に気づいたさやかはGNマイクロミサイルをレグナントに向けて掃射。
ミサイルは展開したGNフィールドに阻まれてしまうが、目眩しにはなる。
「「ハァァァァァァ!!!」」
合流してきたやちよの手にしていたランス、その穂先が猛烈な勢いで回転を始める。
それに合わせるためにさやかはやちよより前に出てまだ晴れない煙幕に向かってGNソードⅢを振るう。
まだあの禍々しい気配は煙幕の向こうから消えていない。さやかの予測通り、剣を振ったことで切り裂いた先にはフィールドを展開したままのレグナントの姿があった。
そしてGNソードⅢが実体剣である所以、GNフィールドに対する特攻により、レグナントのフィールドは紙切れのように霧散する。
そして間髪入れずにやちよのもつドリルランスが無防備となったレグナントの胸部装甲を抉り取った。
「ようやく顔を拝ませてもらったわよ………鶴乃!!」
抉り取られた装甲の先、光を失った瞳と怒りに塗れた表情を浮かべる鶴乃。
やちよは決意したようにドリルランスの切先を彼女に向けた。
感想とかくれるととっても励みになります
しっちゃかめっちゃかになりそうなこの小説を楽しんでいってくれると幸いです。
マギレコ世界にさっさんを武力介入させるのは……………
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ガンダムだ
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ガンダムではない