ほむら「美樹さやーー「私がガンダムだ」はぁ?」 作:わんたんめん
全く持って
これからもよろしくお願いしますm(__)m
ほむらから魔法少女の真実を聞かされた夜から数日、さやかはベッドの上でボーッとする日々を過ごしていた。
しかし、その四肢についてしまったあざも経過は良好であり、医師から明日には退院ができるとのお達しが来ていた。
「医師から明日には退院できると告げられた。」
「本当ッ!?よかったぁ・・・・・・。」
さやかからそのことが伝えられたことに見舞いに来ていたまどかは安心しきったように胸を撫で下ろし、同じようにさやかのもとを訪れていたマミもにこやかな笑みを浮かべていた。
「…………元々軽症で済んでいるのだからそこまで喜ぶことではないのではないか?」
「そ、それは結果でしかないよ!!さやかちゃん………もしかしたらあそこで死んじゃっていたかもしれないんだよ!?」
「もう過ぎたことだから、あまり気にするな…………と言ったところで気が休めるわけではないのがまどかだからな………。」
まどかの様子にさやかは困ったような笑みを浮かべながらも彼女の不安そうな顔を見つめる。
「まどか。心配してくれるのはありがたいが、度が過ぎるとそれはただの傲慢だ。」
「ご…………傲慢…………!?わ、私、そんなつもりじゃーーー」
「それは百も承知だ。私もまどかがそんな他人に対して嘲笑的な態度を取れる性格をしていないことはわかっているからな。こういうのは程々にするのが一番最善なのではないのか?」
「ほ、程々……………?」
「……………そう、程々だ。それは決して相手を気にかけない、ということではない。心配こそはしていても、引き止めるのではなく、ただ納得してやる。そういう信頼の形というのもある。だから言い方を極めて悪く言えば、今のお前は私のことを信頼していないのか?」
「そ、そんなことないよ!!」
まぁ…………ずるいとは思うが、と言いながらさやかは微妙な顔をし、少しばかり頰を指でかく仕草をすることでそれが本意ではないことを伝える。
「多少はこちらの言うことも鵜呑みにしてくれ。何も信頼というのは相手を心配するだけではない。信じて待ってやるのも、一つの信頼の形だ。」
「その中には当然、背中を預ける信頼、って言うのもあるのよね?」
「……………マミ先輩、契約していない私を魔法少女の頭数に含めるのはやめてくれないか?」
まどかに優しげな笑みを浮かべていたさやかだったが、明らかに自分を魔法少女としての頭数に含んだものを前提としているマミの横槍の言葉には笑みを浮かべたままだが、わずかに引いたようなものを向ける。
「あら、残念………貴方がいてくれたら、凄く背中の預け甲斐のある人になってくれそうなのに………。」
「貴方が戦っている状況では今の私は荷物以外の何者でもない。なったところで貴方レベルで戦えるかどうかは甚だ疑問だが。」
「もちろん、それは私が手取り足取り教えてあげるわ。」
完全に目をつけられてしまったさやか。そのことにまどかと揃って苦笑いを浮かべるが、さやかには別のことが気がかりになっていた。それは以前、ほむらの口から聞かされた魔法少女の真実。
ソウルジェムは魔女の卵、グリーフシードと表裏一体の存在であること。そしてもう一つはーーーー
「魔法少女のソウルジェムの正体は、契約した人間自身の魂……………?」
時間軸はさやかがほむらから彼女自身の正体を聞いたころに巻き戻る。
ソウルジェムが契約者自身の魂で構成されていることにピンときていないのか、疑問気な口調で繰り返す。
その言葉をもう一度聞かせるようにほむらは無言でうなずいた。
「魂………か。しかし、そんなあるかどうかすらわかっていないものを素材にしているのか?」
「ええ、そうよ。事実、このソウルジェムが砕かれた魔法少女はその直前までいくら健康体だったとしても、一瞬で死体に成り果てたわ。」
ほむらの言葉にさやかは少しばかり考え込むような様子を浮かべたのちに再びほむらに視線を戻した。
「一度お前を信じると言った身だ。二言はない。だが、にわかには信じがたいな。」
「………ごめんなさい。試せる策がないのではないけれど、それをやるにはどうしても人手が足りないわ。」
そういうとほむらは申し訳なさそうに顔を俯かせた。そんな彼女の様子を見たさやかは、わずかに納得したような顔をする。
「いや、その反応だけでも十分だ。だが、こう考えるとキュゥべえの目的が不明瞭だ。魔女を絶滅させる、とはじめは思っていたが、そうするのであれば奴のやっていることはマッチポンプに他ならない。別の思惑があるのだな?」
「……………それを話すには長い時間がいる。貴方が健康体ならともかく、こんな夜の病院だと、時間に限りがあるわ。」
この時の時刻は既に真夜中だ。とっくに病院の定める面会時間は過ぎているため、ほむらは法律上、不法侵入で訴えられてもおかしくない状況に身を置いている。
そんな最中、変に長話でもして巡回する看護師に見つかれば、かなり面倒な状況になりかねない。
最悪警察沙汰となってしまうだろう。
「………わかった。それはまた落ち着いた時に、だな。」
さやかがそう話を打ち切るとほむらは扉に向かって歩き始める。そしてその扉に手をかけると同時に、顔だけをさやかに向けた。
「……………そういえば、貴方はこれまでの美樹さやかとはまるで違う、初めてのタイプだって言ったわよね?」
「………そうだな。」
「………貴方とちゃんと面と向かって話したのも、今回が初めてよ。もし、私がまた時間を巻き戻すことになっても、また貴方と話せるかしら?」
「…………どうだかな。その話を聞く限り、その可能性は極めて低いと思うが。だが、このまま順当にお前が時を過ごすのであれば、話せるさ。この世界に、希望と未来へと続く明日がある限り。」
「希望と、未来へと続く明日、ね。」
「だから私はお前にこう言うさ。」
また明日、会おう。
そういうさやかだったが当のほむらから心底から微妙な顔をされてしまい、若干肩透かしを喰らった気分になってしまい、残念そうに窓の方に視線を向ける。
そしてほむらはそのまま病室から出て行こうとする。そんな時ーーーー
「…………また明日。」
「ん………?」
不意にそんな声がほむらの方から聞こえた瞬間、さやかは再び病室の扉に視線を戻すが、時間停止を使ったのか、そこに既にほむらの姿はなく、わずかに扉が閉まった音が響き渡るのみだった。
(…………そのソウルジェムに関して真実を聞かされた時、ほむらはマミ先輩が発狂した前科があると言っていた。)
ほむらの口から語られたが、マミがどのように発狂し、何が理由でそうなってしまったのかは、詳細は聞かされていない。だが、正義の味方を気取っている彼女に自身が倒してきた魔女へと変わり果ててしまう運命を知った時、彼女の精神は正気を保っていられなかったことはほむらの雰囲気から如実に感じられた。
(やはり、いずれ話さなければならない。だが、もう少しほむらから色々聞いておきたいな。)
「美樹さん、何かボーッとしているようだけど、大丈夫?」
「…………考え事をしていた。気にしないでくれ。」
「そう?ならいいのだけど…………。」
さやかの様子が気になったのか、声をかけるマミ。その彼女の問いかけにさやかは悟られないように、それでいて、嘘は言っていない事実を織り交ぜながらそれ以上話を続けられないようにする。
そのあたりでまどかとマミは元々学校帰りなのもあったのか、病室から退室して行った。
やることがなくなったさやかは、ベッドの布団を被り、睡眠を取り始める。もっとも夜に寝られなくなるのは目に見えていたが、本当にやることがなくなれば寝るしかなくなることにさやかは自虐的な笑みを浮かべながら寝るのだった。
「…………目が冴え過ぎて寝られない。」
そしてその夜、案の定寝られらなくなった。いくら布団にこもって寝ようとしても眠気など一向に訪れないのだ。おまけに
(全く………ここまで寒気がするとは………まだ季節は暖かいはずだが…………!?)
とそこまで考えて、さやかは布団から飛び起きた。理由はただ一つ、風邪をひいた訳でもないのに、鳥肌が立つほどの寒気、それは彼女が魔女と相対した時の感覚と何ら変わりがないからだ。
(そんな………!?魔女がいるのか………!?まだ前回の魔女が出てきてからそう日数が経っていないぞ………!!)
魔女は病院など弱った人間が大量にいるところを優先的に出現するとはマミから聞かされていたものの、そう日数が経っていないにも関わらず、新たな魔女が現れたことに険しい表情を禁じ得ない。
そして、かすかにだが、さやかの耳がある音を聞き取った。それは、どこかの病室のドアが開いた音だ。
(今のは、病室のドアが開いた音か………!?)
病室のドアが空いただけなら、患者がトイレなどで出歩いているだけかもしれない。しかし、今この状況ーー特に魔女が近くにいるかもしれないという感覚がさやかをどうしようもなく、不安にさせる。しかも、どういう訳か、その病室のドアが開いてから、焦燥感のようなものがさやかの中で渦巻いていた。まるで自分の知っている人物に危険が訪れていることを警鐘しているかのようにーー
「ッ…………恭介……!!」
真夜中でこの病院に今いる知り合いなど、恭介以外に他ならない。さやかは悪態を吐きながらベッドから飛び降りると携帯を握り締めながら慌てた様子で病室を飛び出した。
病室を飛び出るとすぐに目につく人影が一つ。
その人影はすぐさま廊下の角を曲がってしまい、視界から消えてしまうが、その覚束ない、フラフラとした足取りはどう見ても正常な人間とは思えなかった。
さやかがその人影の後を追うと、エレベーターホールで立ちすくんでいる恭介の姿が目に映る。
「やはり………恭介か!!」
さやかが恭介に向かって声をかけるも、恭介はその声に振り向くことはなく、到着したエレベーターに乗り込もうとする。
「恭介、待てッ!!!」
さやかはエレベーターに乗り込もうとする恭介に向けて声を荒げながら手を伸ばし、止めようとする。しかし、すんでのところでエレベーターの扉が閉まってしまい、さやかは手を引っ込めざるを得なくなる。
その閉まる扉の直前まで見えていた恭介の表情は死人のように光が見えず、まるで暗い闇の底でも見ているかのように虚なものであった。
「クッ……………!!!!」
間に合わなかったことへの苛立ちを表すようにエレベーターのタッチパネルに拳を叩きつけながらさやかはエレベーターの状況を確認する。
恭介が乗ったエレベーターはその機能を果たすようにどんどん上の階層へと上昇していく。おそらく向かった先は屋上。そこで飛び降りでも図るつもりなのだろう。しかし、他のエレベーターは今現在さやかがいる階層からことごとく遠く、待っている間にエレベーターは屋上についてしまうのは明白だった。
「なら、階段で…………!!!」
エレベーターは使えない。そう判断したさやかは非常用の階段を駆け上がりはじめる。肉体的疲労はとんでもないが、まだこちらの方が可能性はあったからだ。
その階段を駆け上る最中、さやかは携帯を通話状態にすると、耳にあてる。
数度のコール音が耳朶を打った後、繋がったことを示しているのか、周囲の環境音がさやかの耳に入る。
『美樹さん?突然電話なんて、どうかしたのかしら?』
さやかが電話した相手はマミだった。前回のことで念話にも限界があることが明らかになったことでまどかとさやかはマミとの連絡先交換を行ったのだ。
「病院に魔女が現れた!!それと病院の屋上に来てくれ!!死人が出る!!」
『ッ…………わかったわ!!美樹さんは無理しちゃダメよ!!絶対よ!?』
マミが息を呑むような声をすると、さやかに忠告をしたのちに通話が切れる。
さやかはなおも階段を駆け上がりながら携帯をしまう。
「なんとかして恭介を止めなければ…………!!アイツはこんなところで終わっていい人間ではないはずだ!!」
マミの忠告を聞こえなかったことにした訳ではないさやかだが、一切階段を駆け上がるスピードを落とさずにどんどん階層を駆け上がっていく。
延々と繰り返される階段の踊り場に否応がなく不安に苛まれるさやか。しかし、その永遠と続くと思われた階段も突然巨大な鉄扉が視界に映ることで終わりを迎える。
だが、その前に立ち塞がるように階段を駆け上るさやかを見下ろす、小さく白いナマモノがいた。
「美樹さやか、上条恭介を助けたーー「悪いが!!」ギュプィッ!?」
その真紅の瞳を輝かせるキュウベェはさやかに何か語りかけようとしたが、それより先にさやかが踏みしめた左足を軸にして、いつぞやかの魔女の使い魔を蹴り飛ばしたごとく、キュゥべえの顔面に右足をめり込ませ、吹っ飛ばした。
蹴り飛ばされたキュウベェは屋上へと続く鉄扉にビタンッといい音を立てながら叩きつけられる。
「お前の言葉に耳を傾けている暇はない!!」
そう言いながらキュゥべえを一瞥したさやかは鉄扉を押し開け、屋上へと駆け込んでいった。
「わ…………訳がわからないよ…………。」
さやかに物理的に凹まされた顔面をポンっと元に戻すとキュゥべえは突然蹴られたことに不服そうに唸るのだった。
「着いたっ!!恭介!!」
屋上へ突入したさやかはすぐさま辺りを見廻し、恭介の姿を探す。
「いた…………!!」
すぐさま恭介の姿を見つけるさやか。しかし、彼の姿はすでに安全用に作られた柵の向こう側にあり、今にも飛び降りを計ろうとしているのは明白だった。
「させるものか……………!!!」
恭介の姿を確認するや否や、さやかは彼の元に向かって駆け出した。しかし、病院の外縁に立てられたフェンスはさやかの身長を優に越しており、さらに足をかけるスペースもほとんどなく乗り越えることはできないだろう。業者用の通り口はあるにはあるもそこから入って恭介の元へ駆けつけるのは時間的に無理がある。
(ならば……………!!)
さやかは視界に映った一際高く設立されたヘリポートに進路を変える。そのヘリポートの高さはフェンスよりあるため、病院の外縁に降り立つのは可能だ。
「恭介!!自分をしっかり保て!!馬鹿な真似はやめろ!!」
「…………さや…………か……………?」
さやかの声がようやく届いたのか、恭介はさやかにその虚な瞳を向ける。その恭介の首には不自然に光る怪しいマークが付いていた。
十中八九、魔女の口付けだろう。
恭介がかろうじて自意識が存在することを確認したさやかはヘリポートへと続く階段を一気に駆け上ると勢いそのままヘリポートから飛び立った。
「ッ……………!!!」
空に飛んだことによる浮遊感を感じたのも束の間、さやかの体は徐々に重力に従って落下を始める。
完全に目測すら測っていない跳躍、直感で行ったソレはもはや後戻りはできない。
さやかの眼下には夜の闇に沈んだ見滝原市が広がっており、そこから落ちてしまえば命はない。
「うおおおおおおッ!!!!」
その命の危機に対する恐怖にさやかは声を張り上げることで紛らわす。そして、空を翔んださやかの体がフェンスの上を通過ーーーー
「ッ………!!」
した瞬間、さやかはフェンスに手を伸ばし、掴むことで無理やり体を病院の外縁に留まらせる。直感的にフェンスを越えた瞬間、飛距離が余って、落下してしまうと察したからだ。
フェンスがかけられた力により、大きく横に揺れ、ガシャンガシャンとけたたましい騒音を撒き散らすが、さやかは無事に恭介の元にたどり着く。
「恭介…………もう一度言う。馬鹿な真似はやめるんだ………!!」
「僕はもう生きるのに疲れたんだ……………。」
さやかは恭介に向けて手を差し伸べるが、恭介はそれに応じるようなことはせず、どこか上の空のような様子でさやかにその虚な瞳を向ける。
「いくら、いくら動かそうとしてもあの時から指は少したりとも動いてくれない。」
恭介はそう言いながら自身の指をさやかに見せつけるように持ってくる。その指は力なく垂れているだけで、たしかにぴくりとも動いているように見えなかった。
「昨日、先生に言われたんだ。もう演奏は諦めろ。今の医学じゃ、僕の指を治すのは無理だって。」
「絶望したよ。もう二度と………動くことはないんだ。僕の全てだったバイオリン………それを弾くことすら、もう叶うことはないんだ。」
「そんな人生………バイオリンが弾けない人生なんか、生きている意味はないんだ。」
「恭介…………お前という人間はーーーー」
「だから、ここから飛び降りることで、この苦しみから解放される。」
さやかが何か言おうとするより先に、恭介は病院の外縁から暗い夜の闇へと身を躍らせた。
そのまま恭介の体はさやかがヘリポートから跳躍したときと同じように、重力に従って落下ーーー
「お前は…………どこまで世話を焼かせるつもりだ…………!!!!」
することはなかった。落下した恭介の手をさやかが両手でガッチリと握っていたからだ。
「ッ…………流石に人間一人支えるのは無理があるか…………!!」
さやかは腕だけでは到底支えられないと判断し、外縁から上半身を乗り出した状態から片足だけを伸ばすとフェンスの間に引っ掛けることで体を固定し、落下を防止する。
「さやか、離してよ…………。」
「離すものか。」
「死なせてよ…………!!もう僕に生きる意味なんて………。」
「そうやってお前は逃げるのか!!医者から、他者から言われた程度で諦められる夢なのか!!お前のバイオリンへの熱意はその程度だったのか!!」
「さ、さやかは僕の気持ちをわからないからそんなことが言えるんだ!!」
「そうだ!!他人の気持ちを隅から隅まで知るのは不可能だ!!自分の気持ちさえ、知り尽くすことはできないのだからな!!戦うんだ!!自分自身の意志と!!」
「た、戦う…………!?」
さやかの自分自身の意志と戦うと言う言葉に困惑を隠しきれない恭介。
「自分の意志を、貫き通せ!!お前は本当はバイオリンを弾き続けたいのだろう!?」
「弾き続けたいさ!!でも、僕の指はもう動かない!!さっきからそう言っているだろ!?」
「確かに今の医学では不可能かもしれない!!だが、私達にはまだ先の長い未来がある!!その未来に賭けようとは、思わないのか!?」
「み、未来………!?」
「もっと未来へ視線を向けろ!!お前がバイオリンを弾ける未来が完全に潰えているわけではないんだ!!」
さやかは恭介を支える腕を震わせながらも、虚勢を張っているのか、引きつった笑みを浮かべる。
「だから、死ぬな。生きて………生きるための、戦いをしろ。」
そう言ったさやかの言葉はどこまでも柔らかく、優しげなものであった。
ふへ、ふへへ………クロスレイズ楽しすぎるんじゃあ…………(脳内麻薬)
ガンダム「行くぞ、ゼロ…………ウイングゼロ!!」
自爆野郎「お前も『ゼロ』ならば、俺を導いてみろ。」
ァ゛(FATAL KO)