ほむら「美樹さやーー「私がガンダムだ」はぁ?」   作:わんたんめん

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今回、キリが良かったのでかなり短目です。五千字ちょいしか行ってないってどゆこと…………?

べ、別にクロスレイズのやりすぎだなんて………思ってないんだからね!!(さーせん)


第15話 貴様よりは情はあるつもりだ

上条恭介という少年は幼い頃からバイオリンに対して、天性とも取れる才能を発揮していた。

その才能の高さは既に幾度かコンサートのような催し物が開かれる、まさに将来を約束されたような秀才であった。

しかし、その天性の音を奏でる指は不慮の事故によりその輝きを失った。

 

彼はその指の輝きをもう一度復活させるために病院のリハビリに懸命に励んだ。だが、その恭介の頑張りを嘲笑うかのように、その指が再び動くことはなく、ただ時間だけが過ぎていく。

 

そして、医師から告げられた指は二度と動かないという、最終通告。その無慈悲な言葉は秀才とはいえ、まだ中学生である少年の心をへし折るには十分すぎるものであった。

 

バイオリンという自分の人生そのもののようなものを奪われた恭介は自身の人生に意義を見出すことが出来ずに病院の屋上から自殺を図ろうとした。

事実、彼はそこで自分自身の人生を終えることも吝かではなかった。

 

「死ぬな。生きて………生きるための、戦いをしろ。」

 

しかし、その愚か者に救いの手を差し伸べる人間がいた。他でもない、彼の幼馴染みである美樹さやかだ。

彼女は自殺を計った彼の手を両手で掴むことで、なんとか彼を踏みとどまらせていた。

 

そして、彼女の口から出される言葉。未来に目を向けろ、という発破。

 

「僕は…………。」

 

あれほど死なせてほしいと叫び、自殺を計った自分に手を差し伸べてくれるさやかに恭介は何か言葉を返そうとする。

 

だが、次の瞬間、さやかの身体が突然ガクンッとまえのめりになると、引きずられるように落下を始める。さながら、恭介の身体の重さを支えきれなくなったかのようにーーー

 

 

「なっ…………!?」

 

突然の状況にさやかも目を見開く。しかし、瞬時に足にかかっていたはずの力が行き場を失ったように抜けたことを察すると、反射的に引っ掛けていたフェンスの方を振り向く。

そこにはフェンスに引っ掛けていたさやかの足を包み込んだ、気色悪い色合いをした青い泡のような物体があった。

 

(魔女の使い魔か………!?)

 

その気色悪い色合いをした物体の正体にさやかがそう判断するも既に何か手を打つには遅過ぎた。

二人の身体は空へと放り出されてしまう。

 

(しまっ………このままではーーーー)

 

恭介の姿の先に見滝原市の夜景が視界に入ると、さやかの脳裏に死の一文字が浮かび上がる。病院の高さから落下してしまえば、その通り死は避けられないだろう。

さやかは必死にこの状況からの打開策を考えるが、どうあがいても目の前の死から避ける策が浮かぶことはない。万事休すかと思われたその時ーーー

 

「そのまま上条恭介の手を握っていなさい。」

「っ!?」

 

その声が聞こえた瞬間、さやかと恭介の身体は病院の屋上に引き戻されていた。

突然の出来事に呆けたような顔を浮かべるさやかだったが、先ほどの声の持ち主と明らかに認識を超えたーーーそれこそ時間を止めなければ病院といったビルから落下する人間二人を屋上に連れ戻す芸当ができる人物などさやかが思い当たるのは一人しかいなかった。

 

「時間停止………暁美ほむらかっ!?」

「…………ええ、そうよ。」

 

さやかが振り向いた先にはその特徴的な黒髪を左手で払っている暁美ほむらの姿があった。

 

「なぜ、お前がここに………?」

 

「…………また明日って言っていたのはどこの誰だったのよ。」

 

「…………何か言ったか?すまないが、よく聞き取れなかったのだが………。」

「貴方が気にすることじゃないわ。たまたま病院を通りがかったら、貴方と上条恭介が危険な状態になっていたからついでに助けただけよ。」

「………そうか。ところでなのだが、恭介が先ほどから微動だにしていないようだが、何かしたか?」

 

そういうさやかの視線の先には先ほどから動く気配のない恭介の姿があった。

 

「ええ。と言っても、簡単な魔法をかけて寝てもらったわ。この姿を見られる訳にはいかないもの。色々と説明が面倒よ。」

 

ほむらの言うこの姿というのは盾のような円盤を持った魔法少女としての姿のことだろう。確かに彼女の言う通り、恭介に説明しなければならなくなるだろう。

 

「それもそうか。礼が遅れたがありがとう。もう少しで地上に真っ逆さまだった。だが…………」

 

さやかはほむらにそういうと気まずそうに視線を逸らすが、すぐさま自身に言い聞かせるように、いや、大丈夫だろうという言葉を口にしながらほむらの方を向き直る。

 

「…………何かしら?そんな微妙な顔をして。」

「…………実は、少し前にマミ先輩を電話で呼んでしまっているんだ。」

「美樹さん!!」

 

さやかの言葉にほむらが僅かに身体を強張らせたような反応を見せた瞬間、病院の屋上にマミが魔法少女としての姿で現れる。

 

「ッ…………貴方は…………!!」

「…………魔女ならもう逃げたわ。おそらく魔法少女が二人もやってきたからでしょうね。」

「………そう。ところで美樹さんに危害は加えていないのでしょうね?」

 

そう言ってマミはほむらに鋭い視線を向ける。対するほむらは至って表情を表に出すようなことはしないが、目線は彼女とかち合わせていた。

行先によっては、互いの銃火器の撃鉄が下されそうな状況だが、そんな二人の間に立ち塞がるように割り込んだ人影が一つ。

 

他でもないさやかだ。

 

「マミ先輩。私に特段、これといった危害などは加えられていない。むしろ、今回は彼女に助けられた。さっき電話で話していた死人になりかけた奴も、この通り、無事だ。」

 

さやかはそう言って横たわっている恭介に視線を向け、ほむらの身の潔白を証明する。

 

「それにこの前貴方は言っていたはずだ。彼女と、暁美ほむらと出来る限りであれば話をしたいと。」

「………………そうね。確かにそう言ったものね。」

 

さやかの言葉にマミは思い出したのか、警戒した雰囲気を解いた。

 

「…………前回は貴方の忠告に耳を傾けなくて、ごめんなさい。確かに、あの魔女は貴方の言う通り、一味違ったわ。中に別の存在………多分、本体を隠していたなんて、想像もつかなかった。美樹さんが助けてくれなかったら、私は死んでいたでしょうね。」

 

「でも、だからこそ、貴方に対して、どうしようもなく浮かんでくる疑問もあるのよ。率直に聞くわね。どうして貴方は普通の魔法少女じゃ知らないような魔女の詳細を知っているの?」

 

(まぁ…………そう聞いてくるだろうな。)

 

マミの質問をさやかは予想していないわけではなかった。自分ですら思い立った疑問なのだ。魔法少女である彼女ならなおのこと思い浮かんでしまうほむらへの疑念だろう。

 

(だが、どのみちほむらの口から語られなければならない事情である以上、ここで私が口を挟んだところで、何かが変わるわけではない。)

 

さやかがそう思いながらマミに気取られないようにほむらの方に視線を向けると、どこか思い詰めているようなほむらの表情が目についた。

彼女自身、話した方が良いのか、判断がついていないだろう。

何しろ、彼女がやったことがやったことだ。さやかでさえ、ほむらの言うことに信憑性を見つけ出すのに、彼女の話す姿勢という猫をかぶられてしまえばそれまでの不確定要素を使っている。

ほむらと敵対一歩手前まで行っているマミならなおさら不信感を強めてしまうだろう。

 

時間操作の魔法を使用して、何回も同じ時間を繰り返しているなどという、神にも等しい所業をやっているなど、魔法少女であっても鵜呑みにすることは難しいだろう。

 

 

「貴方の疑念ももっともよ、巴マミ。でも…………ごめんなさい。キュゥべぇの近くにいる貴方に話すわけにはいかない。知られる訳にはいかないのよ。」

「……………………。」

 

そういうほむらにマミはしばらく鋭い目線を向けていた。それこそ、すぐさまマスケット銃が引き抜かれ、その撃鉄が撃ちおろされてもおかしくはない佇まいであった。

 

「……………はぁ、貴方も何かキュゥべぇを怪しんでいるの?」

 

しかし、不意にマミはその視線をどこか不安そうなものに変え、右頬に手を当て、頬杖をついた。

さながらその様子は疎外感のようなものを感じているようであった。

 

「言えないのなら、別に私も無理に聞く気はないわ。人間誰しも言えない秘密を一つや二つ抱えてもしょうがないもの。それも女の子なら尚更ね。」

 

「まぁ…………もっともその秘密にヅケヅケと踏み込んでくる失礼な人もいるのだけど。」

 

そう言ってマミはさやかに向けてジトっとした視線を向ける。それが以前、彼女の両親が既に亡くなっていることを推察の上で彼女の真ん前で暴露してしまったことなのだと察したさやかは逃げるように視線を逸らすと、横になっている恭介を肩で担ぎ、屋上を後にしようとする。

 

「…………美樹さん?」

 

そんなさやかの様子を不思議に思ったのか、そのさやかの背中にマミが声をかける。

 

「…………病院には、夜間でもそれなりの看護師と医師が常駐している。それは患者にもしもの時が起こった時に迅速に対応をするためだ。」

「ええ、そうね。患者にもしものことがあったら大変だもの…………あ。」

 

さやかの言葉にマミが納得した様子で頷いていると、突然素っ頓狂な声を上げた。

そのさやかが次に言わんとしていることを察してしまったからだ。ほむらも察したのか、少しばかり張り詰めた表情を浮かべる。

 

「そう、今まさに、もしもの状況が起こっている。病人が夜分に病室を抜け出し、一人で屋上に出てくるなど、否が応にも考えられるシチュエーションは一つ。自殺だろう。」

 

「早くここから離れた方がいい。程なく看護師と医師が押し寄せてくる。その時、一般人の視線から見て、変な格好をしている二人がいれば、いらない嫌疑をかけられる。普通は夜の病院など、関係者以外が立ち入れる空間ではないのだからな。」

 

「ここは私が誤魔化す。魔法は秘匿されてこそ、だろう?だから二人は早く行け。」

 

そう言いながらさやかはわずかに口角を上げて笑みを作る。その瞬間、ほむらは時間停止を用いてこの場を瞬時に離れ、マミもリボンを使って転落防止用のフェンスを悠々と乗り越え、病院から飛び降りることでこの場から離脱していった。

 

その様子をさやかが見届けた直後、屋上への扉を開け放ちながら恭介の担当医師を筆頭とした医師や看護師たちがかなり焦った様子で雪崩れ込んできた。

 

どうやら時間的にもかなりギリギリだったようだ。

 

その後、恭介を医師に預けたさやかは今回のことに関して、看護師からいろいろ尋ねられた後に自身の病室に戻っていった。

 

病室に戻ると、先ほどまでの緊張感から解放された反動なのか、わずかにあくびをしてしまう。

その時に溢れた涙のようなものを拭うと、ベッドの上に鎮座してしている白いナマモノが目についた。

その真紅の瞳をジッとさやかに向けているキュウべぇであった。

 

「…………なんだ?蹴り飛ばしたことなら謝るが…………。」

「それはボクとして気にするに値しないから別に構わないよ。だけど、どうして君は彼の元に一目散に向かったんだい?彼の指は治らない。だけど、君が願えばその苦しみからも本当の意味でも解放された筈だ。どうして君はボクの話に応じなかったんだい?」

「…………まぁ、時間がなかったというのもあるな。」

「じゃあ、今ここで契約するかい?ちなみに伝えておくけど、他人に関連することでも叶えることは不可能ではないよ。」

 

キュウべぇの言葉にさやかはその丸い、真紅の瞳を見つめるが、不意に視線を逸らすと、フルフルと首を横に振った。

 

「遠慮しておく。私は恭介の恩人になりたいわけではないのだからな。すまないが、そこをどいてもらえるか?」

 

さやかがそういうとキュゥべぇはベッドから降りた。空いたベッドにさやかが潜り込むと布団をかぶり、横になる。

 

「ボクとしては君が契約しないことにはとやかくは言わないよ。でも上条恭介の方はどうだろうね。また今回のようなことにならないとは限らないのは君だってわかっているんじゃないのかい?」

「………もちろん、その可能性も考えていないわけではない。だが、そのために医者や看護師が夜分も常駐している。おそらく、アイツの周辺の警備は今回の一件で強化されるだろう。」

 

だから、私のやれることはこれまでだ。

 

そう言ってさやかはキュウべぇを視界から外し、寝を決め込むことにした。

キュウべぇはさやかをしばらく見つめていたがーーーー

 

「君はボクが思っていたより薄情なんだね。」

 

そう言って病室から出て行った。

 

「……………契約するのに不都合な真実をひた隠し、白々しい様子を出している貴様よりは、情はあるつもりだ。」

 

そのキュゥべぇの言葉を聞いていたさやかはムッとした表情を浮かべながらも布団を被りなおすのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




ダブルオーのステージ10のミッションステージむずい………難しくない?

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