ほむら「美樹さやーー「私がガンダムだ」はぁ?」   作:わんたんめん

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いつもより字数が少ねえぞチクショーメ
あと蛇足っぽい描写もあるが、きちんとした理由があるよ!!

あ、それと多分(ここ重要)これが年内最後の投稿かと思われます!!

それでは皆さん、良いお年を!!!


第16話 だったら、また来ればいい

「………………。」

 

魔女の口づけによる恭介の自殺未遂から数日。さやかは病室を抜け出して病院の廊下を歩いていた。目的はもちろん、恭介の容態をこの目で確かめるためだ。

一応、恭介の容態を確かめるために行動自体は何日か起こしていたが、自殺未遂ということをやらかしたのも相まって別の部屋に移送されたのか、これまで彼がいた病室には姿形もなかった。

 

そのため、さやかがこうして看護師の目を盗んで病院内をほっつき歩く日々が続いていたが、ようやく彼が移送された部屋にたどり着いた。

 

「ここか…………。」

 

病室の標札に恭介の名前が書かれていることを確認したさやかはその部屋の扉を開け放つ。

 

「………………さ、さやかっ!?どうしてここに………!?」

 

扉が開く音に恭介は疲れたような目線を向けるが、入ってきた人物がさやかだとわかると目を見開いて彼女が訪れた理由を尋ねてくる。

そのことにさやかは呆れたようなため息を吐くと、目を細め、ジトッとした目線を恭介に送り返す。

 

「どこぞの大馬鹿者がまた妙な気を起こしていないのか、心配になったからな。」

 

そのさやかの言葉と目線に恭介は身体を強張らせると視線を下に下ろし、暗い雰囲気を醸し出す。

さやかはその恭介の様子を目の当たりにしても、特に態度を変えることなく、彼の寝ているベッドの側の椅子に腰掛けた。

 

「…………先日の詳細は医師からもう聞かされたのか?」

 

さやかがそう尋ねると恭介は無言で、それでいて重々しく頷いた。

 

「そうか。で、今のお前の心中ではどうなんだ?」

「…………はっきり言って、どうだろうって言うのが正直。確かに、医者から言われた時は本当に目の前が真っ暗になった気分だった。それは今だって完全に僕の心の中で晴れた訳じゃない。というか、そもそも僕が自殺しようとした時の記憶が霧がかったみたいに朧げなんだ。」

「それはそれでよかったんじゃないのか?自殺しようとした時の記憶など持っていたところで心を病むだけだと思うが。」

「そうかもしれない。でも、そんな朧げな記憶でもはっきりとわかっているものがあるんだ。」

 

恭介の言葉にさやかが首をかしげると、彼は自身にとって、忌々しくも思えるはずの左手を見せる。

 

「…………僕が飛び降りようとした時、君が掴みとって、握り締めてくれたこの手から温かみを感じたんだ。」

「そ、それは本当なのか!?」

 

恭介の言葉に椅子から飛び上がりそうになる勢いで驚きを露わにするさやか。手が他人の温もりを感じたということは彼の手の神経は完全に死んでいないということだ。つまり、まだ希望は、未来は完全に閉ざされてはいないということに他ならない。

 

「うん。どんなに動かそうとしてもピクリともしなかった僕の手だけど、君の手の温かみはしっかりと感じ取ってくれていたんだ。」

 

「それに、君の言っていたことも、その通りだったしね…………。」

「…………どこまで覚えているんだ?」

 

魔女の口づけにより意識が混濁していたはずの恭介が自身の言葉を覚えているという発言に一種の危機感を覚えながらそう尋ねた。もし、彼の記憶の中にほむらかマミの姿があるのであれば、魔法少女のことに関しても話さなければならなくなるからだ。

 

「ほんの少しだよ。君が命を張ってまで僕を助けてくれようとしたことと、僕の悩みはチンケなものだったことくらい。」

 

前者はともかく、後者のことに関して、さやかはあまりピンと来なかったのか、疑問気な様子で首をわずかに傾ける。

 

「…………少し調べてみればわかることだったんだ。かのベートーベンは弱冠20歳で難聴を患ったにも拘らず、音楽家にとってまさに致命傷ともいえる聴覚を失っても、彼は音楽に関わり続けた。関わり続けられたんだ。」

 

「彼に比べたら、僕の、自分の手が動かないことなんて、些細なものなんだなって。そう思えるようになった。」

 

その時に恭介が自身の動かない手を見つめる目は恨みがましいものではなく、希望に、言い換えれば、可能性に満ち溢れたような晴れやかなものだった。

 

「だから、もう少し、君のいう僕自身の未来に賭けてみようと思う。」

 

「さやか。遅くなったけど、助けてくれてありがとう。君が駆けつけてくれなかったら、僕はこんな簡単なことに気付かずに人生を終えるところだった。」

 

恭介の言葉にさやかは少しばかり噛み締めるように笑みを浮かべると、椅子から立ち上がり、病室の扉に向かう。

 

「礼を言える余裕がある、ということはしばらくは馬鹿な真似はしないだろう。私は看護師に見つからない内に病室に戻っている。」

「あ、さやか!!」

 

そう言って病室を出ようとしたさやかを恭介が呼び止める。何事かと思って振り向くさやかに恭介は少しばかり気後れしているような表情を浮かべていた。

 

「…………いつになるかわからないけど、僕の演奏、また聴いてくれるかな?」

「…………ああ、もちろんだ。私はいつまでも待ち続けるさ。」

 

そのさやかの返答に満足が行ったのか、恭介がにこやかな笑みを浮かべるのを見届けたのを最後にさやかは病室を後にした。

 

 

 

 

そこからさらに1日を跨ぎ、表向き……時折病院内をほっつき歩いて恭介の病室に忍び込んでいた時以外、看護師に基本的に従っていたさやかは快方に向かい、医師から退院のお告げが出されるほどになっていた。

 

 

「と、いう訳だ。私はそろそろ退院することになる。」

「まぁ………そうなるよね。さやかは車に轢かれたとはいえ、ほとんど外傷はなかったし。僕より退院が早いのは当然だよね。」

 

自身が退院することを恭介に報告するために彼の病室に足を運んでいたさやか。そのことに恭介はさも当然というように頷きながらさやかの言葉に納得の意志を示す。

 

「自分より先に退院されることは不愉快か?」

「まさか。幼なじみが退院することになって、嬉しいと思わない人がどうかしてる。というか、なんだか嫌味みたいな言い方だね。」

「………冗談だ。気を悪くしたなら、すまない。」

 

恭介に自身の発言が嫌味くさいと指摘されたさやかはわずかに表情を気まずそうなものに変えると顔をそっぽに向ける。

 

「まぁ、指は時間がかかるだろうけど、足はそれなりに動くようになってきた。」

「………吹っ切れたのか?」

「それこそまさかだよ。未だに未練たらたらさ。でも今は退院して、元の生活に戻れることを念頭に置いている。そして退院してからも指が動いてくれるようにリハビリを続けるつもりだ。」

「遠回りになりそうな道を行くのだな。」

「………そうだね。でも、いくら辛くてもこれが僕にできる戦いってものなんだろうね。それにこういうのは経験しておいた方が後々音楽活動にいい味を出すかもしれないからね。」

「…………お前は相変わらず音楽一筋なのだな。」

 

そういいながら温和な笑みを浮かべながらの恭介の言葉にさやかは一瞬だけ目を見開くと、彼の笑みにつられるように柔らかな表情に変えるとーーー

 

「…………そうか。」

 

と一言だけ溢すように呟くのだった。

 

 

 

そして、訪れた退院の日、世話になった看護師や医師に礼を述べながら病院の自動扉を潜ると、予め退院の時期を医師から連絡を受けていたのであろうさやかの両親である慎一郎と理多奈が出迎えをしていた。

 

ーーーーーー何故かまどかとマミと共に。

 

「…………何故二人がいる?」

 

率直に浮かんだ疑問を口に出すとまどかとマミがショックを受けたような表情を浮かべる。そのことに何か対応を間違えてしまったのか、動揺を隠さずオロオロとしてしまうさやか。

 

「おいおい、お前自身のダチにんなこと言う馬鹿がいるかよ。せっかく来てくれたのによぉ。」

「二人とも、学校が終わったばかりなのに来てくれたのよ?」

 

そのさやかの様子に呆れた口ぶりで慎一郎が、注意するような口ぶりで理多奈がそれぞれさやかの反応を咎める。

 

「そ、そうなのか…………。」

「ったくよ、鈍いったらありゃあしねえな。俺だったらこんな美人さんが来てくれたらだいぶ舞い上がるのによぉ。」

「あら、妻が見ている目の前で浮気なんていい度胸をしているのね?」

「…………待ってくれ。俺はんなつもりで言った訳じゃねぇんだよ………!!雰囲気作りだよ、雰囲気。」

 

未だ戸惑いのような顔を浮かべているさやかに慎一郎がまどかとマミの可憐さを褒ると、理多奈の言葉に青ざめた表情を浮かべ、ひたすら平謝りをし始める。

その慎一郎の姿にさやかを含めた三人は苦笑いを向けていた。

 

「…………プ、プレイボーイなんだね、さやかちゃんのお父さん………。」

「まぁ、そうだな。だが、父さんの中では母さんが一番だ。それだけは絶対に言える。それも母さんがわかっているからああいうことを言えるのだろう。」

「………いいご両親なのね。」

 

三人の視線には夫が謝り続ける中、そっぽを向きながら、その様子を面白がっているように僅かに笑みを浮かべている理多奈の顔が写っていた。

 

 

「じゃあ、冗談はさて置いて今日はさやかの退院祝いというわけで、外食でもしましょうか。まどかちゃんとマミちゃんの二人もどうかしら?」

「えっ!?そ、それは流石に…………。」

「お金の面でもお二人にも申し訳ありませんし…………。」

 

突然の理多奈の発案に戸惑いながらも遠慮するような反応をする二人。その返答も予想済みだったのか、理多奈は頭を下げている慎一郎に目線を向ける。

 

「あら、と言っているけど、実際どうなの?」

 

理多奈が慎一郎に目線を向けたままそういうと「冗談とはいえタチ悪いぜ………」とぼやきながら慎一郎が頭を上げるとまどかとマミに目線を向ける。

 

「金なら心配なさんな。これでも伊達にスポーツで稼いじゃいねえからな。」

「そういうこと。遠慮しなくてもいいわよ。まぁ、無理にとは言わないけど………。」

「……………こういう祝い事は人数は多い方が楽しい。私個人の意志としては二人にも来てもらいたい。」

 

そう言葉を濁らせると理多奈はさやかに目線を向け、アイコンタクトを行う。その意図をなんとかなくだが察したさやかは悩んでいる素振りを見せる二人に来て欲しい意志を伝える。

今回の外食はさやかの退院祝いが目的、つまりこの外食の主役はさやかなのだ。その主役からの招待の意向を二人も断る訳にはいかないと思ったのかーーー

 

「うーん………お父さんがいいって言ったら………」

「流石に貴方からのお願いじゃ無碍にはできないものね………。」

 

と首を縦に振り、承諾してくれる意向を示してくれた。この後、まどかが自身の父親に電話し、彼からの了承を得たことを確認すると、さやかの両親の車で外食へ向かおうとする。

 

車に乗り込む直前、さやかは病院に視線を向ける。

 

 

(……………恭介。お前の意志、確かに見届けた。私は契約でお前の指を治すことはやめにする。それは何よりお前の願いを阻害してしまうことだからな。)

 

吹っ切れたような表情を恭介がいるであろう病室に向けるさやか。その後車の中から自身を呼ぶ声が聞こえると、急いで車に乗り込み、まどかとマミを含めた五人で外食へと向かった。

 

 

 

 

 

「いやー食った食った。やっぱ日本のファミレスは安い上にうまい!」

「あら?遠征先で食べたりしないの?」

「うまいとこはうまいんだが、落差が結構あったりする、ってとこだな。」

「あの………いいんですか?送ってもらっても。」

「ん?当たり前さ。それが責任ってもんだからな。」

 

外食先にしたファミレスから出ると前を行く慎一郎と理多奈、そしてまどかの後ろを歩いているとふとどこか思いつめているような表情を浮かべているマミの姿が目についた。

 

「……………どうかしたのか?」

「あ、美樹さん…………。」

 

さやかに声をかけられたマミは一瞬、何か言いかけそうになったが、寸前で口を噤むと、再び思いつめた顔を浮かべる。

 

「…………久しぶりだったか?こういう、家族の団欒というのは。」

「…………そう、ね。」

 

マミの隣に立ち、そういうさやかにマミは一瞬、驚いたような表情を浮かべるとすぐに敵わないと言っているような顔へと変える。

 

「…………ずっと一人だったから。」

「今は私とまどかがいる。」

「…………そうね。私と友達でいてくれるって言ってくれた時は、嬉しかった。でも、私に家族はもういないもの。」

 

そう言って険しい表情を浮かべるマミ。まるで自分はこの家族の温もりを感じてはいけないというように。

 

「…………だったら、また来ればいいさ。」

「え………?」

 

そのマミの様子に軽く笑みを浮かべながら放たれた言葉にマミは呆けたような顔をする。

 

「その温もりはまだ私たちには必要なものだ。以前にも言っただろう?私たちはどうしようもなく子供だと。だから親がいなければ私達は何もできはしない。それにーーー」

 

 

「寂しがり屋のアンタの胸に空いた空白(両親)を私やまどかで埋めることは絶対にできない。」

 

さやかの言葉にマミは動揺を隠せない様子でその揺れた瞳を隠すように俯いた。

 

「だから、また来るといい。別に私は構わないし、両親も別にとやかく言わないだろう。」

「…………貴方、結構滅茶苦茶な人なのね。貴方に助けてもらった時もそうだったけど。」

「…………そうなのか?あまり自覚がないのだが。」

 

キョトンとした表情を浮かべるさやかにマミは呆れたようにため息をつくのだった。

 

 

 





養子縁組…………具体的な血縁関係とは無関係に人為的に親子関係を発生させること。(Wikipediaより抜粋)

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