ほむら「美樹さやーー「私がガンダムだ」はぁ?」   作:わんたんめん

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あけましておめでとうございます!!

新年早々、これでいいのか?みたいな感じの話が続きますが、今年もよろしくお願いします!!!


第17話  ありがとう、暁美ほむら

「………………。」

 

学校の屋上で昼下がりの時間に吹く風に心地よさを感じる。

その屋上のベンチに座っているさやかは肩まで伸ばした青い髪をたなびかせていたが、その心地よい風を感じている割には表情がどこか遠いところを見ているようなものを浮かべていた。

決して彼女自身何か思うものがあるからそのような顔をしているわけではない。

ただ、彼女の隣に座っている人間の面持ちからそうせざるを得ないのだ。

 

その隣にいる人物とは暁美ほむらだった。

 

 

 

少し時間を巻き戻し、さやかが退院して学校に通い始めた当日の朝、クラスメートから退院祝いの言葉などが送られ、午前中の授業合間にその対応に追われていた。

その熱りも治り始めた頃合い、ちょうど昼休みになったところで彼女から声がかけられた。

 

たまたま周囲にまどかや仁美がいなかったさやかに彼女からの声がけに答えないはずがなく、二つ返事でこの屋上に向かった。ベンチに座った二人はしばらくお互い無言だったがーーー

 

「…………退院、おめでとう。」

 

不意にほむらがさやかに視線すら向けずに言い放った退院を祝う言葉にさやかは目を丸くする。

 

「暁美ほむら…………!?」

「…………ほむらで構わないわ。それで、人を見るや否や、何かしらその鳩が豆鉄砲でも撃たれたような顔。まさか、私がそこまで社交性のない人間だと思っているのかしら?」

「…………少なくとも初対面の人間に敵意を向けるようでは、な。」

 

さやかが微妙な表情を浮かべながらそういうとほむらはどことなく不機嫌そうな表情をする。

 

「まぁ、お前にはお前の事情があった。彼女を、まどかを護りたいという気持ちはな。それをちゃんと話してくれたから、こうしてお前の隣で気軽に話せる。」

「…………そういえば、まどかは貴方が退院した日、どこにいたのかしら?学校が終わるや否や、巴マミと一緒にどこかへ向かったようだけど。」

「ん………?それならわざわざ私が入院している病院まで来てくれたが?そのあとに彼女らと食事を共にするおまけつきでだ。」

 

ほむらがまどかの所在を聞き出したがそれをさやかは彼女への心配から来ているものと判断すると、何気ない口調で先日、まどか達と夕食を共にしたことを伝える。

 

しかし、その瞬間、今度はほむらが目を見開いた。

 

「…………な、なんだ?そんな顔をして………。」

 

思わずさやかは彼女に質問してしまうが、ほむらはそれに答えるような言葉を口にはせず、かわりに何かボソボソと漏らすように言葉をしていた。

さやかがその言葉を聞くために耳を凝らしてみるとこんな単語が聞こえた。

 

「まどかと食事まどかと食事まどかと食事まどかと食事まどかと食事まどかと食事まどかと食事まどかと食事まど(」

 

 

ほむらのその言葉の羅列を聞いてしまったさやかは遠い目をすると、肩を竦ませ、同時に深いため息をついた。

 

「……………別に、彼女に対して普通に接していれば食事を共にするぐらいは苦ではないと思うのだが…………。」

 

肩を落として明らかに残念がっていると思えるほむらの様子にさやかはそう言い放つとほむらがその黒く淀んだ目をさやかに向ける。まるで、それができたら苦労しないとでも言うように。

 

「……………本来であれば、彼女への初対面を完全に間違えたお前の自業自得だと切り捨てたいところだが、私が間に入って、今度まどかとそのような機会を設けようか?」

「……………………お願い………するわ………!!」

(すごい迫真といった顔つきをしている………。それほどまでまどかのことが大事なのか…………)

 

今にも自身に掴みかかって来そうな勢いで言葉を強めている様子に改めてほむらのまどかに対する思いを再認識するさやかだった。その後昼休みも残りわずかとなったため、ほむらと共に教室に戻る。

 

入ってきた時にさやかが目についたのは、どこか思い悩んでいるような顔をしている仁美の姿だった。

友人が悩んでいるような表情を浮かべていることにいてもたってもいられない性格をしているさやかはほむらを置いて仁美の机の側に駆け寄った。

 

「仁美、何か思い詰めているようだが、何かあったか?」

「あっ…………美樹さん…………。」

 

さやかから声をかけられたことに仁美は彼女へ顔を向けながら表情に明るいものを浮かべるが、一瞬はっとしたような反応を見せると、再び顔を逸らし、複雑そうな表情に変えてしまう。

 

「これは…………その………他人に相談するようなことではないので。」

「…………そうか。仁美がそういうのであれば、私から詮索をするつもりはない。」

 

仁美の言葉にさやかはとやかく詰め寄るようなことはせずにすぐに引き下がり、彼女の席を後にする。

 

「だが、本当にどうしようもなくなったら、私かまどかを頼って欲しい。相談程度ならいくらでも請け負おう。」

「…………わかりました。その時はよろしくお願いしますわ。」

「あまり抱え込まないようにな。」

 

幾分良さげな表情を浮かべた仁美にそれだけ伝えると、さやかは自身の席に戻ろうとする。

その時にほむらとすれ違いになるがーーー

 

「…………ねぇ、貴方には上条恭介に対する思いはないのよね?」

「………腐れ縁がいいところだとだけ言っておく。なぜそれをそこで聞く?」

「そう、ならいいのだけど。」

 

ほむらからの言葉にさやかは疑問気に返したが、その言葉にほむらが答えることはなく、彼女もさやかと同じように席に戻ろうとする。

 

「賢しいところは賢しいのに、変に鈍いところもあるのね、貴方。」

 

その時すれ違った時のほむらの言った言葉に首をかしげるしかないさやかであった。

そのほむらもさやかの様子を見ると呆れたように肩を竦める。

 

「まぁ、いいわ。今日は私と共に下校しなさい。話してあげるわ、キュウべえのこと、奴らの正体を。」

「ッ…………わかった。」

 

ほむらの言葉に張り詰めた表情をしながら重々しく頷くさやか。そしてそのまま時間は流れ、気づけば放課後、空は夕日により既に橙色に染め上げられていた。

 

「まどか。」

「あ、さやかちゃん。どうしたの?」

 

早乙女先生によるホームルームが終わったあと、さやかはまどかの元を訪れていた。

 

「すまないが、今日はほむらと用事がある。いつもの帰りとは方角が違うし、仁美と共に下校してくれ。」

「それは……………魔女と関係があることなの?」

 

ほむらの家に向かうため、いつも共に帰っているまどかにその旨を伝える。すると、彼女はどこかしょんぼりとしたような様子でさやかに問いかける。

 

「いや…………そういう訳ではない。だが、私はまどかに隠し事をしたい訳ではないから、これだけは言っておく。」

 

さやかはまどかの問いかけに首を横に振りながら、硬い意志のこもった瞳でまどかを見据える。

 

「いずれ話す。これはまどかにも全く関わりがないことではないからな。」

「だったら、わたしも付いていった方が………?」

「…………正直に言うと今は仁美のことが気がかりなんだ。だから、できれば彼女についてあげてほしい。何か悩み事を抱えているのは確実なようだからな。」

「…………わかった。さやかちゃんがそういうならわたしも無理についていったりはしない。」

「…………ありがとう。」

 

仁美の相談相手になってほしいというさやかの頼みをまどかは笑みを浮かべながら頷く仕草をする。そのことにお礼の言葉を述べるとさやかは教室から駆け出して行った。

階段を降り、昇降口にて靴を履き替えると、出入り口近くでほむらが待ち構えていた。

 

「まどかは?」

「一応、いずれ彼女にも話すことを条件に仁美と共に帰らせた。」

「そう、ならいいわ。仮に話すことになってもそれでまどかが契約しなくなるのならそれでいいわ。」

 

まどかが来ないことをさやかから確認を取ったほむらは歩き始める。さやかもその彼女の後ろ姿を追い、隣に並んで歩き始める。

しばらくはお互い話すことはないのか、無言の空間が広がっていたが、ふとさやかが気になったことを彼女に聞くことにした。

 

「そういえば、今日私が来ることはお前の親は了承済みなのか?何か土産でも持っていった方がいいのだろうが………。」

 

それはまだ親を頼るような年齢である中学生にとっては何気ない質問であった。突然の訪問はほむらの両親には申し訳ないという気分から聞いたものであったが…………。

 

「気にしなくていいわ。私の家に親はいないから。」

「は………?」

 

ほむらの答えに思わずさやかは呆けたような声をあげる。

 

(……………まさか、彼女もマミ先輩と同じようにすでに両親を………?ならばやたら無闇に聞き出すのは彼女に失礼か………。)

 

さやかの脳内では以前マミの両親が既に他界していることを言い当ててしまった時のことが流れていた。それで一度彼女の機嫌を損ねてしまったことから、さやかは家族関係に過度に踏み込むと余計な不和を産むことを学んだ。

 

「そうか…………すまない。」

(……………どうして謝るのかしら………?)

 

自身の経験からさやかは掘り出すようなことはせずに、彼女に謝罪の言葉を述べるが、別に両親が亡くなっている訳ではなく、ただ別居しているだけのほむらは不思議そうな表情を浮かべたのだった。

 

そんなすれ違いがあったが、ほむらの案内でさやかは彼女が使っているアパートの一室にたどり着く。

そこの表札には彼女の両親と思しき名前はなく、ただ『暁美ほむら』の名前が書かれているだけだった。

 

(やはり………彼女の両親はいないのだな………)

 

すれ違っているのを引きずっているさやかはそのことに一瞬表情を悲しげなものに変えるが、ほむらから部屋へ入るのを促され、すぐさま表情を戻して彼女の自室に入っていった。

そして、部屋に入り込んださやかを無機質で白く、清潔感より平衡感覚を狂わせてくるような壁?と椅子なのか机なのかよくわからないオブジェクト。

そして、天井に吊り下げられている妙な歯車が出迎えた。

 

「……………んー……………?」

 

思っていたのと違く、そしてあまりにも珍妙な、現実離れしているほむらの部屋の内装に思わずさやかは訝しげな唸り声をあげながら首をかしげる。

 

「何しているの?長話になるのだから早く座りなさい。」

 

そう言ってほむらは椅子と見られる薄紫色のかっこの形をしたベンチのようなものに座るようにさやかを促した。

 

「………………ああ。」

 

長い沈黙ののちにさやかは気にしてはいけないのだと自分に言い聞かせながら促されたとおりに椅子と思しき薄紫色のオブジェクトに腰掛けた。ほむらもさやかの対面にある薄紫色のオブジェクトに腰掛けると、外の街の喧騒すら届かない部屋で沈黙の空気が広がる。

 

「ふぅ……………単刀直入に聞こうか。キュウべえとは一体どういう存在だ?」

 

一度息を吐くことでほむらの部屋の奇抜なオブジェクトから意識を外したさやかは本題を最初に聞き出すことにした。

 

「キュウべえって言うのはあくまで親しみ易くするための別称みたいなものよ。奴らの本当の名前はインキュベーター。」

「インキュベーター…………孵卵器か。ところで、お前はキュウべえ………インキュベーターのことを複数詞で呼んでいるが、他にも似たような奴がいるのか?」

「…………そうね。奴らは全にして個、個にして全の奴らだから。」

「?…………どういうことなんだ?」

 

さやかが疑問符を浮かべるとほむらはインキュベーターのことに関して話し始める。

まず始めにそれらは地球固有の生き物という訳ではなく、地球に飛来してきた宇宙人ということだった。

 

「宇宙人………か。あまり聴き慣れない単語だ。だが………それと先ほどの全にして一などというまるで元々集合体のような言い方となんの関係が?」

「…………答えは今貴方の口から出たようなものよ。」

 

ほむらが若干ため息をつきながらの言葉にさやかは先ほどの自身の言葉を反芻する。そして目を見開いた。

 

「まさか、インキュベーターは個体こそあるが、それぞれに個別の自意識のようなものは存在しない、群体という一括りで一つの生命体なのか?」

「そうよ。奴らは集団でありながらもその実態は機械のように一つの目的のために動く感情を持たない合理性の塊よ。奴らはそのためとなれば手段をまるで選ばない。」

「その目的というのは?」

「……………宇宙の延命よ。」

「想像以上にスケールの大きい目的だな。その壮大な目的を持った宇宙人がまだろくに宇宙への進出をしていない地球に何の用だ?」

「その宇宙の延命にはエントロピーが必要なの。」

 

エントロピー………一言で言えば物事がごちゃごちゃであればあるほどその力を増大させる熱のようなものである。

 

「エントロピーなど言われてもよくわからないのだが…………。」

「そうね、言い換えれば奴らは人間の感情エネルギーを利用しているのよ。」

「感情エネルギーか……………感情がない奴らでは取り寄せ様がないエネルギーということなのか。」

「そうよ。それと、奴らが契約を持ちかける人間は総じて第二次性徴期の少女に限られているわ。」

「……………時期的に思春期と呼ばれる年頃の人間ばかりなのか。」

「ええ、一般的に思春期は多感の時期と呼ばれるわ。つまり、その分感情の揺れ幅も大きくなり、奴らの求める感情エネルギーも増大する。」

「となると奴らが合理性を突き詰めた生き物なのであれば、必ずその感情エネルギーがもっとも大きくなった時を狙う筈だ。そういうのはわかっているのか?」

 

さやかの質問にほむらは重々しい表情をし、一度さやかから視線を外したのちに再び視線をさやかに戻すと、その重々しさを如実に表すように頷いた。

 

「それは………ソウルジェムが濁りきり、グリーフシードに変貌するときよ。その瞬間、奴らの言う感情エネルギーは最大限に高まる。」

 

ほむらが言う感情エネルギーの数値がもっとも高まる時、それは魔法少女が魔女へと変わり果ててしまうまさにその瞬間であった。元々ほむらから予めキュウべえのマッチポンプの度合いを聞いていたさやかでさえ、苦い表情を禁じ得なかった。

 

「だが………それであれば魔力を過度に使用しない限り、大丈夫…………と言いたいがその様子だと何かあるようだな。よくよく考えてみれば魔法少女のソウルジェムは魔女ありきのものだ。魔女が絶滅すれば、魔法少女は穢れを取る手段がなくなり、いずれは魔女に成り果てる運命、か。」

 

さやかは魔力を過分に使わなければ、ソウルジェムの穢れは限界には達しないと思ったが、ほむらの苦しげな表情に何か別の要因があることを察する。

 

「…………ソウルジェムは人の感情にも左右されるの。情緒不安定になればなるほど、ソウルジェムの中に穢れは生まれてくる。言い換えてしまえば、人が絶望しきった時、ソウルジェムはグリーフシードに変貌し、魔女は生まれる。」

「…………それが、キュウべえに関することの全てか。要するに奴らの契約、その真意は私達に宇宙のために化け物に成り果てて死ね、ということか。」

 

そこまで言ったところでさやかは不意にほむらから視線を外し、部屋のある一角を鋭い目つきで見据える。ほむらはそのことに怪訝な顔を浮かべるがーーー

 

「お前たちの認識はそういう解釈でいいのか?インキュベーター。」

「ッーーーー!?」

 

インキュベーター、ほむらにとって害敵でしかない存在がこの部屋にいるということに心底から驚いたような表情を浮かべ、さやかが見据える目線の先を追う。

そのタイミングでオブジェクトの陰からキュウベェ、否、インキュベーターが姿を現した。

 

「そういうことになるね。」

「貴方………ッ!!つけてきていたのね!!」

 

自身のパーソナルスペースを侵されたからか、はたまた聞かれたくないことを聞かれたからかはわからないが、ほむらはインキュベーターに向けて嫌悪感をあらわにすると、瞬時に魔法少女の姿となり、その左腕に装着された盾から拳銃を取り出した。

 

そして、その銃口をインキュベーターに向け、トリガーを引こうとするが、それより先にほむらを制すようにさやかが構えた拳銃の銃身に手を添え、首を横に振った。

 

「やめておけ。引き鉄を引いたところで何かが変わるわけじゃない。予測でしかないが、お前の話を鑑みる限り、奴を潰したとしても代わりはいくらでも用意できるだろう。弾丸の無駄にしかならない。」

「ッ……………。」

 

さやかの諭す言葉にほむらは忌々しげな表情をしながらも銃を持つ手を下ろした。

 

「暁美ほむらに対して、君は結構冷静なんだね、美樹さやか?」

「……………その口ぶりだと先ほどまでの会話は聞いていたようだな。その前提で聞かせてもらうが、何故お前たちの目的やソウルジェムの真実を契約する前に言わなかった?」

「聞かれなかったからさ。」

「やり口が悪徳セールスマンのソレだな。魔女に関してもタチが悪いと思っていたが、お前たちも大概だな。」

 

そういうさやかの目にインキュベーターに対する不信感が如実に出ていた。しかし、インキュベーターはさやかのその目線を歯牙にもかけず、その鮮血の瞳をほむらに向けていた。

 

「しかし、暁美ほむら。見ていれば見ているほど君は謎の人間だ。どうしてボクたちの目的やソウルジェムの真実を知っているんだろうね。」

「…………さっさとここから消えなさい。貴方が知る必要はないわ。」

 

インキュベーターの言葉にほむらはその忌々しげな表情を一切変えることなく、侮蔑の視線を向け続ける。

 

「どうやら望まれない客のようだね。まぁ、僕も矢鱈無闇に体をダメにされるのは困るから聞きたいことだけを聞こうか。」

 

人間でいう肩を竦めるような様子を浮かべたインキュベーターは話し始める。

 

「前々から疑問には思っていたんだ。僕自身、君と契約した覚えはないのにどういう訳か君はソウルジェムを有している。」

 

「基本的に契約したかどうかの認識くらいは各個体間で共有されているさ。でもイレギュラーというのは起こり得るものだからね。もしかしたら精神疾患を抱えた個体と契約を結んだ可能性もあるにはあるだろうけど、ここ最近そのような報告は挙げられていない。」

 

なら一番あり得る可能性は、とインキュベーターが話を続ける。その時にさやかは目線だけをほむらに向けると表情こそ変わらないにしても汗のようなものが彼女の顔を伝っているのが見えた。彼女なりに焦っているのだろう。

 

「暁美ほむら、君はもしかすると時間遡行をしているのかい?」

「…………だとすれば何?貴方が真実を話さなかったように、私もそれが真実かどうかを答えるつもりはないわ。」

「君ならそういうだろうね。まぁ、今回はそれに関して追及はしないよ。本題があるからね。」

「…………どういうこと………?」

 

インキュベーターの言葉にほむらは訝しげな表情を向けるもそれに何か反応を示す訳でもなく、インキュベーターは話しを続ける。

 

「君が心底から大事に思っている鹿目まどか。実は彼女の素質は先天的なものじゃないんだ。」

「………どういうことだ?まどかには類稀な魔法少女としての才能があるとお前自身が言っていただろう。」

「それは紛れもない事実だ。」

 

さやかの言葉にインキュベーターはまぶたを下ろしながらうなずくような素振りを見せる。

 

「だけど、そのまどかの類稀な魔法少女としての才能は突発的に現れたものなんだ。時期としてはおおよそ一週間ほど前、ちょうど君が現れ始めた時だよ、暁美ほむら。」

 

インキュベーターの目線はほむらに注がれているが、肝心のほむらは言っていることがわからないのか、細めた目線を送り返すだけだった。

 

「そこで僕はある一つの仮説を立てた。結論から言ってしまえば、鹿目まどかをあそこまでの原石に育てたのは、彼女を護りたいと思っている暁美ほむら、君自身ではないのか、って。」

「どういうこと…………?」

 

ほむらはその言葉に疑問符を浮かべるとインキュベーターに訳がわからないというような目線を向ける。その声はどこか震えているようにもさやかには感じられた。

 

「君が時間遡行していると思っているんだろうけど、実のところ、君がしてきたことは時間を巻き戻してきたんじゃなくて、並行世界を渡っていたということさ。」

「仮にほむらがその並行世界を渡っていたとしてだが、その証明がお前にできるのか?」

「できるとも、もっともその証拠は目の前にいるけどね。」

 

さやかがそう問い詰めるとインキュベーターはさやかに視線を移した。先ほどの言論から鑑みるに、インキュベーターのいう証拠というのがなんのことを言っているのか、いやがおうにも察せられる。

 

「まさか、私か?」

「そう。まさに君だよ、美樹さやか。君の存在そのものが、暁美ほむらが並行世界を渡ってきたことの証明になる。」

「暁美ほむらは君と初めて二人っきりっで話した時、何があっても君は上条恭介を要因にして魔法少女になると言っていた。」

「ッ………聞いていたのね………!!」

「………お前には話が拗れるのは目に見えていたから来るなと言っていたのだがな………。」

「もちろん、僕は来ていないよ。代わりに別の個体を向かわせて小耳を立たせてもらったけど。」

 

呆れた様子で肩を竦めるさやかに対し、ほむらの様子はなんだかおかしかった。表情に覇気はなくなり、打って変わって弱々しい目線でインキュベーターを睨んでいた。

 

「つまり、君はどうであれ、暁美ほむらの経験則、必ずと言っていいほど上条恭介をきっかけとして、魔法少女になるはずだった。だから僕は過度に魔法少女に誘ったりはしなかったんだけど、蓋を開けてみれば君はそれらしい様子は微塵も感じられなかった。この前病院で上条恭介の自殺を引き留めていた時も、全く僕のことを呼ぶ兆しすら見られなかった。」

 

「つまり、君は暁美ほむらの知る美樹さやかとは違う、という訳さ。そしてそれは鹿目まどかにも当てはまることだ。」

 

インキュベーターがまどかの名前を出した瞬間、ほむらは息を呑むような表情をする。まるでその先を言うなとでも思っているように。

 

「君が魔法少女になった世界線の鹿目まどかとこの世界線の鹿目まどかは違うということだ。そして君が世界線を渡ってしまったことにより、本来交わるはずのなかった世界線が重なってしまった結果。この世界の鹿目まどかは僕たちでは計ることができないほどの魔力係数を有する、逸材となってくれた訳だ。」

 

「だから君には感謝を言わなければならない。暁美ほむら、鹿目まどかを育ててくれてありがとう。彼女からエントロピーを得ることができれば僕たちの悲願は達成される。」

「ッ……………歪んでいる………!!そんなもの、礼であるものか………!!」

 

インキュベーターの言葉にさやかは苦虫を噛み潰したような顔を浮かべる。その言葉はお礼などではなく、絶望を突きつける現実でしかなかったからだ。

しかし、さやかの言葉にインキュベーターは首を傾げた。まるで理解が及ばないと言うように。

 

「どうしてだい?僕たちにとって有益なことをしてくれた人物には礼を言う。君たち人類だってやっていることじゃないか。」

「それはお礼と呼べるものか!!お前のやっていることは彼女のこれまでを、暁美ほむらという一人の人間の全てを否定する、絶望でしかない!!」

「おかしいな………僕は本当にお礼を言っているだけなんだけどな………。まぁ、聞きたいことは済んだから僕はここら辺で退散させてもらうよ。」

 

そう言ってインキュベーターはほむらの部屋から出て行こうとする。その様子をさやかは険しい表情で睨みつけるが、追うようなことはしなかった。

 

「それじゃあね、もし彼女がグリーフシードを産んだら、また呼ぶといい。僕にしかグリーフシードの処理はできないからね。」

 

それだけ言い残すとインキュベーターはほむらの部屋から出て行った。出て行ったことを確認したさやかは隣で呆然としているほむらに駆け寄った。

顔を俯かせ、陰がかかった表情を目で伺うことはできないが、さやかはなんとなく感じ取っていた。

 

ほむらから滲み出る、黒いモヤのような、言い換えれば絶望を。

 

「嘘よ…………嘘…………私がアイツの手助けをしていた…………!?嘘よ、嘘………私が、私の行動があの子を余計に死に追いやっていた…………!!!?」

 

見るからに憔悴しきっているほむら。さやかの知るまどかはほむら自身の知るまどかではないこと。仇であるインキュベーターの手助けをしていたこと。そして何より自分自身の行動がまどかを死に追いやっていたこと。

 

それらがことごとく絶望となってほむらにのしかかる。そのままにしておけば自責のあまり彼女のソウルジェムは濁りからグリーフシードへと変貌してしまうだろう。

 

(不味い…………今の彼女は自分自身のアイデンティティの支柱が完全に破壊されたも同義だ………!!)

 

苦しげな表情でさやかはほむらを見つめる。力なく床にへたり込み、その瞳は真っ黒に濁っていた。その濁りをあらわすようにポケットからこぼれ落ちたソウルジェムも連動して黒いモヤを生み出し始めていた。

 

「ッ…………求めていない!!お前も、私も!!まどかが犠牲になる世界など求めていない!!そうなんじゃないのか!!」

 




こんなん聞いて魔法少女になる奴おらんやろwwww

でも、原作だとなぁ…………引き篭り魔女がいるんだよなぁ…………

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