ほむら「美樹さやーー「私がガンダムだ」はぁ?」   作:わんたんめん

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いやー………難産だったなぁ…………


第18話  結局のところ、お前の心持ち一つだ

「求めてなどいない………!!お前も、私も!!まどかが犠牲になる世界など求めていない!!そうなんじゃないのか!?」

 

インキュベーターが立ち去ったのち、残されたさやかとほむら。さやかはインキュベーターのやり口に嫌悪感を隠しきれないが、今はそれを置いておく。

それよりも隣で意気消沈、顔面蒼白、といった様子のほむらのことが気がかりだった。

 

さやかは力なく座り込んでいるほむらの側にしゃがみ、両手で彼女の肩を揺らすも、彼女は抵抗するような様子を見せず、ただその艶やかな黒髪が無抵抗に揺られるだけであった。

 

「私は………私は…………ただまどかを救いたい………一人だった私に声をかけてくれたあの子を、あの笑顔を守りたかっただけなのに…………。」

 

ほむらは震えている声を上げながら独白とも取れる言葉を溢す。そのほむらの表情は彼女の黒髪がカーテンとなってしまい、さやかの目線から直接伺うことはできないが、彼女の足元に零れ落ちる涙とすすり声で泣いているのは明白であった。

 

「私は、あの子の側にいたいだけなのに………!!どうして………!!」

 

そこにいたのは魔法少女としての暁美ほむらではなく、ただの純粋に親友と共にいたいと願う、か弱い少女であった。

そのことに困惑色を隠せないさやかだったが、その間にもほむらの嘆きは続く。

 

「私が時間を巻き戻せば巻き戻すほど、あの子の因果は高まっていく………!!これじゃあ変わらない………!!あの子はまたインキュベーターに狙われ続ける………!!最終的にはワルプルギスの夜の後………あの子は………!!」

 

ほむらの言葉に悲壮感を感じたさやかは一度、彼女と同じように表情に暗い陰を落とし、俯いた。ワルプルギスの夜という聞き慣れない単語が聞こえたが、それを今ほむらに問うたところで何かが聞ける訳じゃない。それ故に沈黙を保つしかなかった。

 

「未来は、変えられないの………!!?」

「……………違う。」

 

しかし、そのほむらの嘆きに、さやかは沈黙を挟んでいたが、先ほどまでの荒げていた声から一転、抑えた声で彼女の嘆きを否定する。

 

「未来は、切り拓くものだ。他でもない、お前自身の意志で。」

「私自身の、意志で…………?」

 

ほむらの鸚鵡返しのような言葉にさやかは無言で頷く。しかし、その表情はインキュベーターへの怒りのようなものは心のどこかに置いて行ったのか、温和なものであった。

 

「インキュベーターの言っていたことが事実だとすれば、お前の知るまどかと私の知るまどかは限りなく同一人物に近い別人なのかもしれない。だが、それでもお前は『鹿目まどか』という一人の人間を、親友を救うために幾たびもの時間遡行を繰り返してきた。」

 

「常人で有れば、必ずどこかで心が保たなくなってくる。それだけのことをやってのけている。」

「だから、大丈夫だとでも言うの………!?何度やっても………いくら準備を重ねてきたとしても、あの夜を、ワルプルギスの夜を越えられなかった………!!」

 

(またワルプルギスの夜か…………初耳だが、今は流しておいて、好きなように感情を吐露させておくのが最善か。)

 

再び大粒の涙を溢し始めたほむらを視界に収めながらも、またもや彼女の口から飛び出たワルプルギスの夜という単語に眉を潜めながらも最優先事項であろうほむらのメンタルケアに意識を戻す。

今の彼女はまさに薄氷の上に伝っているような状態だ。ほむらがまどかを救うために未来から時間遡行をすることでやってきた存在、いわば鹿目まどかという存在が彼女の精神的支柱を担っているのは自明の理だ。

そのまどかが限りなく同一人物に近い別人と言われ、なおかつ仇敵であるインキュベーターの手伝いをしていたと事実を突きつけられてしまえば、かなり危うい状態になってしまうのは火を見るより明らかだった。

 

(というより、まさか私の存在自体がインキュベーターの言う平行世界の渡航説を立証してしまうというのは、なんとも皮肉なものだ………。)

 

言われてみて、考えてみれば自ずと答えは出た。ほむらが仮に時間を巻き戻しているので有れば、起こる出来事は全て隅から隅まで同じでなくてはならない。何か少しでも差異が生じている時点で、時間を巻き戻しているとは、言えなくなる。

さやかが入院していたころにほむらが言っていた、これまでの美樹さやかと今ここにいる自分はまるで別人のようだと、この時点でほむらは別に時間を巻き戻している訳ではないと気づくべきだった。

 

(…………おそらく彼女も心のどこかではわかっていたのだろう。わかっていたからこそ、いざそれを指摘されると心が保たない。だから無意識のうちに目を逸らしていた。)

 

さやかは悲しそうな表情を浮かべ、彼女の制服のポケットからこぼれ落ちたのか、部屋の床に転げ落ちたソウルジェムに視線を向ける。

その紫色に輝いているアメジストを彷彿とさせたアクセサリーはまるで彼女の今の心情、絶望を表しているように澱んだ黒に浸食されかけていた。

このままでは、以前ほむらがさやかに口にしたソウルジェムのことが真実なのであれば、彼女のソウルジェムはグリーフシードへ変化し、魔女を産み出すだろう。

 

しかし、ソウルジェムが人の感情に左右されるのであればーーー

 

「結局のところお前の心持ち一つだ。」

「えっ…………?」

「インキュベーターはこの世界のまどかとお前が時間遡行を始めた時間軸のまどかは違うと言った。確かに理に適っている。並行世界の人間が厳密に同一人物である確証はない。もっとも今ここにその同一人物ではないという証拠になっている人間がいる訳だが。」

「だから………なんだっていうのよ…………!!」

「そう、それだ。お前のその感情が重要なんだ。」

 

淡々とした様子のさやかに苛立ちを感じたのか、ほむらは涙混じった、震えた声でさやかに言葉を荒げるが、その直後に飛び出た言葉にほむらは困惑した様子で口を詰まらせる。

 

「要は、お前の認識次第だ。例えインキュベーターにまどかはお前が元いた時間軸のまどかとはよく似た別人だと言われても、それはあくまで奴自身の合理性を極めた思考で弾き出された、ただの理屈でしかない。」

 

「そして私達人間は、そんな理屈で物事全てが動くように、できあがってはいない。言うなれば不完全な生き物だ。だから自分の都合のいいように解釈することができる。」

 

「例えインキュベーターから何を言われようが、お前が助けたいと真に願っている、『鹿目まどか』に変わりはない。」

「でも、まどかは…………私のせいで…………!!」

「この際、それは棚に上げた方がいい。知る由もなかった真実に打ちひしがれていても、何かが変わる訳ではない。むしろ、何も変わらない。」

 

ほむらの懺悔のような口ぶりの言葉にさやかは首を横に振りながらそう伝える。

 

「だからお前が持つべき覚悟は一つだ。この時間軸で全てのことにケリをつける。まどかのことも、そして、お前が口々に漏らしている、ワルプルギスの夜とやらのこともな。例えそれが、最終的にどのような結果になったとしてもだ。」

「そ、それは……………!!」

 

さやかの言葉にほむらは苦々しい表情を浮かべる。さやかの言葉はつまるところ、仮にまどかがいなくなる、もしくは死亡する結果となったとしてもそれを受け入れろという内容であった。まどかを救うことを絶対にしていたほむらにとってはそれはなかなか受け入れづらいことであるのは明白だった。

 

「あ、あなたには、あるというの?その覚悟が………!!」

 

ほむらのかろうじて飛び出たような質問にさやかは呆れるように肩を竦める素振りをとった。そしてーーー

 

「あるわけないだろう。そのようなもの。そもそも始めに私はまどかがいなくなる世界など望んでいないと言ったばかりだ。」

 

さも当然というように、自身にそんな覚悟はさらさらないことをぶっちゃけた。

 

「え………ちょ、は?」

 

さやかのカミングアウトに今度は目を白黒させるように見開きながら見つめるほむら。

 

「言うだけ言っておいて、そのような気が自分にはないなど、都合がいいと思うか?」

 

そう聞かれたほむらは俯いた状態からあげた顔を上下に振った。さやか自身がそう言ったように都合がいいと思っているようだ。

 

「…………そうだろうな。だが、始めにも言ったが、まどかを死なせない未来を掴み取るためにお前は時間を巻き戻してまで、これまで戦ってきたのだろう?」

 

さやかの確認とも取れる質問にほむらは弱々しくも再び首を縦に振った。

 

「だったらその未来をこの時間軸で掴み取ればいいだけのことだ。それだけのことをやってきた心意気やこれまでの経験を駆使すれば、できるはずだ。」

「…………そんな簡単に言わないでほしいわ。私一人じゃあ……できていないから、今の私はここにいる………!!」

「お前一人で無理なら、別の人間の力も借りることだ。」

「……………貴方を頼ればいいと言うの?」

「……………私を頭数に入れようとするのはやめてくれないか?そうではなくマミ先輩だ。腕のたつ彼女なら十二分にお前の力になってくれるだろう。そのためにはどうしてもお前の素性と魔法少女の真実を話すことになるだろうが。」

 

ほむらの言葉にさやかは困り果てた表情をしながら、自身ではなくマミのことを頼れと促す。その際にさやかは確認ついでに視界の端でほむらのソウルジェムの様子を確認する。視界に収まったソウルジェムの中の黒い燻りはそれ自体はまだ漂ってはいたが、浸食自体は止まっているように思えた。

 

(…………一応、目先の絶望から視線を逸させることはできたか。)

 

そう思ったのも束の間、突然静謐だった静かな空間を引き裂くように電子音が部屋中に響いた。

 

「ん………誰からだ………?」

 

電子音の音源はさやかの携帯から鳴り響く呼び出し音だった。何気なく携帯を手に取ったさやかは呼び出してきた人物を知るために画面を見る。

 

「まどか?」

 

そこにはまどかの名前が表示されていた。すぐさま携帯を通話状態にし、耳にあたる。

 

「もしもーー」

『さ、さやかちゃん!!?よかった!!マミさんには繋がらなくて………!!』

 

さやかが出るや否や耳をつんざくような勢いのまどかに思わずさやかは反射的に耳を遠ざける。

 

「…………どうしたんだ?」

『ひ、仁美ちゃんが………!!』

 

まどかはどう言うわけか震え、泣きそうな声で仁美の名前をあげる。その瞬間、さやかの脳内に仁美に何かあったのだと直感的に察する。そしてよく耳を凝らして聴いて見ると、何か鉄製の扉のようなものをガンガンと力一杯叩いているような音も聞こえた。

 

「まどか、落ち着け。状況と今いる場所を教えてほしい。」

『ひ、仁美ちゃんに………魔女の口づけが………!!様子のおかしくなった仁美ちゃんを止めようとしたけど、他にもおんなじような人が、街中の廃工場にーーー」

 

その瞬間、ガタンと言う物音と共にまどかの声が一度途切れる。さやかは思わず息を詰まらせ、目を見開く。

 

「まどか!!逃げろ!!」

 

反射的にそう叫ぶ。その声とまどかに危機が迫っていることを察したのか、ほむらがかなり焦ったような表情を浮かべながら、さやかの通話を見守る。

 

『やだ………なにこれ………!!?』

「まどかッ!!!」

『さやかちゃん………!!たすけーーー』

 

その言葉が続くことなく、ブツンと切れた音を最後にまどかとの通話が切れ、一定の間隔で出される無機質な機械音が繰り返し流れるだけとなった。

 

「ほむらッ!!まどかが魔女に襲われて危険だ!!この見滝原で廃工場はどこだ!?」

「…………あるにはあるわ。でも、貴方が行ってどうするの?」

「人手はあったほうがいい。お前もまどかを庇いながら戦うのは厳しい筈だ。」

「……………わかったわ。」

 

さやかの言い分に納得の形を示したのか、ほむらは落としたソウルジェムを手にし、魔法少女の姿へと変身する。まだ黒い燻りは残ってはいたが、それを気にする余裕はさやかにもほむらにもなかった。

 

「手を出しなさい。私の魔法で一気に飛ぶわ。」

 

ほむらはそう言ってさやかに手を差し伸べる。その差し伸べられた手をさやかはなんら戸惑うことなく、それでいてしっかりと握り返した。

 

「頼む。今は、お前の魔法だけが頼りだ。」

「……………ええ。」

 

さやかの言葉に答えるようにほむらが頷くと左腕に装着された盾のようなものを回転させる。その瞬間、世界が白黒の世界に彩られる。

 

「これが、停止した時間というやつか。色まで失われるのか。」

「ボヤッとしている暇はないわ。私の出せる最高の速度で行くから振り落とされないようにね。」

 

さやかが周囲を見回そうとした瞬間、ほむらは停止された時間の中を猛スピードで駆け抜ける。その風圧にさやかは圧倒されるが、ほむらと交わしたその手だけは離さないようにしっかりと握る。

その風圧に晒され続け、思わず目を食いしばっていること数分ーーーほむらが時間をとめているため現実世界では1秒も進んでいないのだが、突然先ほどまで感じていた風圧を感じなくなった。

 

「見滝原で、廃工場と言えば、ここね。」

「…………魔女の気配は?」

「あるわ。まどかに危機が迫っているのなら、さっさとカタをつける………!!」

 

それぞれの掛け替えのない友達(まどかと仁美)を救うべく、二人は廃工場の中に足を踏み入れる。中では虚な表情を浮かべた人々がまるでゾンビのように彷徨っていた。その中には仁美の姿もあった。

 

「仁美………!!」

「………今は魔女を倒すのが最優先よ。そうすれば彼女も正気を取り戻すわ。」

「……………わかった。」

 

居た堪れなくなったさやかが仁美の元へ駆け寄ろうとするが、それを静止する声をほむらがあげ、彼女を引き止める。

そして、妙に人が群がっていた部屋の扉をほむらが時間停止させている間に魔法少女になったことで上がった力で無理やりこじ開けると、そこには魔女の結界へと続く紋章が浮かび上がっていた。

ほむらとさやかがその紋章の前に立つと、ほむらは手に埋め込まれたソウルジェムの宝石を掲げると結界への道が開ける。

 

「………美樹さやか。貴方、引き金を引いたことは?」

 

魔女の結界への入り口が開き、あとは内部に突入するだけとなった時、ほむらが不意にそんなことを聞いてくる。

 

「……ある、と言ったら?」

 

一瞬の沈黙ののち、さやかはそう答える。それを聞いたほむらは自身の右手を盾の中に突っ込むと、次の瞬間、その右手には淡く光に反射する拳銃が握られていた。

 

「貴方の言う通り、まどかを抱えて戦うのは魔法少女の中でも比較的非力な私じゃ、難しい。すぐに勝負を決められなければ、その分、まどかに危険が及ぶことになる。だからーーー」

 

ほむらはそこで一度言葉を区切ると、右手のその拳銃のグリップをさやかの方に向けて突きつける。

 

「貴方にその間、まどかを頼むわ。」

 

さやかに向けて差し出された拳銃。それを彼女はソレとほむらの顔を一往復だけ目線を行き来させると、表情を引き締める。

 

「…………一度引き金を引いたとはいえ、それは友達を護りたい一心でやったことだ。」

 

そういうとさやかはほむらの手から拳銃をもらい受ける。

 

「その心意気は、変わらない。」

「そう。それなら重畳ね。セーフティは外してあるから変なところで撃つのはやめてほしいわね。」

「ふぅ…………ところでこの拳銃、どこで手に入れた?明らかに警察の使っているニューナンブとかではないのだが。」

「……………企業秘密よ。」

 

ほむらのセーフティは外してあるとの言葉にため息をついたさやかは渡された拳銃の出所を尋ねた。ほむらの回答は秘密とのことだったが、明らかに非合法的な入手をしたのはさやかの目には明らかだった。

 

「まぁ、追求はしない。状況が状況だからな。」

 

そのことに渋い表情を浮かべるも拳銃を構えたさやか。

 

「………行くわよ、ちなみに美樹さやか。まどかが傷つくようなことがあったら、承知しないから。」

「……………善処はする。」

 

相変わらずのまどか一筋のほむらにもはや呆れた顔を隠さないさやかだったが、ふと何か思い立ったような表情を浮かべるとほむらに視線を向ける。

 

「私がお前のことをほむらと呼んでいいと言ったようにお前も私のことをさやかと呼んでも構わない。いちいちフルネームで呼ぶのも億劫にならないか?」

「……………そうね、お互い生きていたら、考えておくわ。」

 

ほむらの言い草に少しばかり顔をしかめるさやかだったが、それもそうかと、自身を納得させながら揃った足並みで魔女の結界に突入を始める。

 

 

 




ちなみにですが、現状のほむらちゃん。某無貌の神がいるTRPG的に言えばSAN値が5減って起こした一時的発狂をさやかちゃんが精神分析することでかろうじて正気を保っているような不安定な感じです。
つまり…………まだ不定の狂気があります^_^

そして相手の魔女は…………人のトラウマを刺激してくる相手…………。

あとはお察しかな…………。

それはさておき、今回の話はだいぶグレーな部分があるなぁ…………

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