ほむら「美樹さやーー「私がガンダムだ」はぁ?」   作:わんたんめん

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時間かかった………申し訳ぬ……………


第19話 覚悟は決めた。後で謝罪する勇気も。

ソウルジェムを用いて、魔女の結界内に突入したほむらとさやか。視界を覆っていた眩い光が収まると、彼女らの視界には水色の、さながら水のなかにいるような色合いと、その円柱型の空間を示すようにメリーゴーランドの意匠が、輪っかの形となって貼り付けられていた。

よく見てみるとそのメリーゴーランドの木馬はドット状になっていて、ときたま木馬ではなくテレビになっている箇所もあった。

 

「……………落下、している割には浮遊感が凄まじいな………。」

 

さやかが口を溢しながら指摘したのは現状についてだ。

ほむらとさやかは今、魔女の結界内に入ってから落下をしていた。しかし、そのスピードは緩やかでさらには浮遊感を感じさせるほどであった。

二人は徐々にその魔女の結界の奥深くへと落下していく。さながら浅瀬から沖合へ、沖合から深海へと沈んでいくかのようにーー

 

「どんどん奥深くへと落下していく…………ここの魔女はさながら引きこもりのようだな…………。」

「引きこもり…………ね。」

 

さやかの言葉にほむらが頷くような仕草を浮かべている間にも二人の体はどんどん深部へと潜り込んでいく。

 

「そういえば、この魔女との交戦経験はあるのか?」

「…………あるわね。その時は、巴マミや契約してしまった貴方と共に倒したわ。」

「…………そうか。だが、気を付けた方がいい。人数が前回より少ないのであれば、なおのことだ。」

「…………貴方に言われるまでもないわ。」

 

さやかの忠告だったが、それを余計なお節介だと言うようにほむらは結界の奥深くを見据える。さやかも自身の実力を過小評価されているような言い方をされて気を悪くするほむらの心情がわからない訳ではなかったため、それ以上なにも言うことはなかった。

 

「……………魔女の反応も近いわね。構えるなら構えておきなさい。」

「……………わかった。」

 

険しい顔つきのほむらに続く形で、さやかは彼女から借り受けた拳銃を構える。そして、その魔女の結界の奥底と思しき床がさやかの視界にも映り込んでくる。

そこにはパソコンのようなモニターの箱から黒い髪のような色合いをしたナニカがさながら女性のツインテールのように突き出ている魔女の姿、そしてーーー

 

「あれは…………!!」

「まどか!!!!」

 

 

さやかが息を呑むように、ほむらは悲痛なものが入り混じった声を上げる。そこにはまどかの姿があった。あったのだが、その姿は極めて異質なものとなっていた。

体の輪郭線が消え失せ、その彼女の四肢は背中に羽の生えた、いうのであれば天使のような容貌の使い魔に、それぞれ引っ張られ、さながらスライムのように伸びていた。

あのままあの天使のような使い魔にまどかの体が好き勝手されれば、とても五体満足で済むとは思えなかったのは、誰の目にも明らかだった。

 

「先に行くわ!!まどかのことは頼んだわよ!!」

 

そういうとほむらはさやかと繋いでいた手を振り回すとさやかをまどかに向けて投げ飛ばした。

 

「ッ……………本当にまどかのことになると見境がなくなる………!!」

 

投げ飛ばされるというあまりに雑な扱いに、驚いた表情と共にほむらに文句の一つは言いたくなり、目線をほむらの方に向けるさやかだったが、投げ飛ばした彼女の方角には、既にほむらの姿はなく、かわりに拳銃を発砲したような乾いた音と下から響く魔女の絶叫の音がさやかの耳をつんざく。

 

反射的に目線を上から下に移すと、先ほどまで体の輪郭線が無くなっていたまどかの体が元に戻り、彼女の四肢を引きちぎろうとしていた使い魔の姿もなくなっていた。おそらく、先ほどの発砲音はほむらが時間停止している間に使い魔に撃ち込んだ銃弾だったのだろう。

 

「愚痴は心の中にしまっておく………今は…………!!」

 

まどかの身の安全が最優先。そう判断したさやかは緩やかな落下を始めているまどかに向け、手を伸ばす。

拳銃を握っていない方の手でまどかの体を引き寄せると、水中を泳ぐように体を進ませ、魔女の結界の最奥に降り立つ。

 

「まどか…………!!」

 

ひとまず救出したにも関わらず、目を開かないまどかにさやかは一抹の不安を抱くが、脈そのものはしっかりしていたので気絶しているのだと認識する。

 

「意識はしっかりしている………ならあとは目立たないように結界の端でおとなしくしているか。」

 

気絶しているまどかを肩で背負い、結界の端っこまで移動する。ほむらの邪魔にならないように、彼女が自分たちに意識を裂かれないようにするために。

さやか自身、あまり鍛えている方ではないため、人一人を運ぶのも一苦労だったが、足を引きずるような形でなんとか結界の端っこまで移動する。

 

「ほむらはーーーー」

 

背負っていたまどかを優しく下ろし、仰向けに寝かせると、一息つくついでにほむらに目線を送る。

 

直後、爆発音が魔女の結界一帯の空気を強烈に震わした。

 

「くっ…………い、今のは………!?」

 

突然の爆発音と衝撃に思わず顔を背けるさやか。強烈なそれに煽られるがそれも一瞬のもので、すぐに爆発音が飛んできた方角を向けるようになる。

まず目に飛び込んでくるのは結界を漂っている煙の塊。そこから魔女が耳を塞ぎたくなるような甲高い悲鳴をあげ、逃れるように墜落していく。

その魔女の体には所々、炎がこびりついていた。

 

先ほどの爆発音と煙、そして魔女にこびりついた炎。それらが連想させるものはーー

 

「まさか、爆弾か!?そんなものまで持っているのか、彼女は!?」

 

明らかに日本では手に入らなそう、仮に手に入ったとしてもかなり危険なルートから調達しているとしか思えない代物にさやかは驚きを隠せない。

しかし、同時にその非合法的な代物を取り扱っているほむらにより今のところの安全は保たれており、その彼女から自衛のための拳銃を渡されたのも相まって、さやかはそれ以上、ほむらに対して突っかかるようなことはしなかった。

 

(…………ところで、この結界に入ってきた時、まどかの様子はかなりおかしかった。)

 

 

思考は切り替わり、入ってきたまどかの様子のおかしさに焦点を向ける。入ってきた時のまどかは体の輪郭線がなくなり、ゴムのように伸び縮みしてしまうまでのある種の柔らかしさを有していた。

おそらく、人をそのように変化させてしまうのがあの魔女の能力なのだろうか?

 

しかし、今の魔女の現状を見てもそのような、何か仕掛けてきたようには見えなかった。

 

ほむらの猛攻によって人体を柔らかくする特殊能力のようなものを行使する暇がないのか、ただ使っていないだけなのかーーー

 

(多分だが、ほむらはこの魔女の詳細をよくは知らない。相対したことこそあるが、その時はマミ先輩や契約した私自身と、戦力にも余裕があった。それだけの戦力があったのであれば、魔女にほとんどなにもさせずに倒せたのかもしれない。)

 

しかし、今のほむらは一人だ。しかもまどかが危険な目に遭っていたこと、そしてインキュベーターから知らされた、自身の行いがまどかの魔法少女としての才能の高さの要因の一つになっていたこと。

真実を聞かされた時の狼狽は、さやかがひとまず目線を逸らさせたことで一時的に事なきを得た。

 

だが、所詮は一時的なものだ。今のほむらは自分が今までやってきたことの報いに目線を向ける暇がないだけ。もし、ほむらの精神を、その根本から揺るがすようなことがもう一度有れば、二度と立ち直れないかもしれない。

 

「ッ……………!?」

 

そんな今のほむらに対する危うさを感じ取っていたさやかは不意に視界に映り込んだ異物に対して目を見開き、驚きを露わにする。

それはこの魔女の結界に貼り付けられたメリーゴーランドのようなデザインをそのまま縮小させたようなものであった。

視界が水中のようにゆらゆらと蠢き、よく目を凝らさねば見えないほど小さく、そして物理的に距離が遠かったのも相まって、視界の端に映り込み、そしてそれを認識できたのは半ば奇跡に近かった。

 

「あ、あれは…………!?」

 

さやかがその異物に驚いていると、その輪っかは急降下を始める。その挙動に釣られるように目線を下にさげると、その先にはボロボロの魔女にとどめを刺すつもりなのか、拳銃を構えたほむらの姿があった。

 

「ほむら!!避けーーーー」

 

咄嗟にほむらに声を送るが、もともと距離が離れていたのが災いし、声が彼女の耳に届くより先に輪っかがほむらの周りを取り囲んだ。魔女の攻撃は基本的に初見は予想がつかないものがほとんどだ。どういった攻撃を行うのか想像ができないため、思わず息を呑んださやかだったが、ほむらを取り囲んだ縮小されたメリーゴーランドは彼女に別段、遠目からでは何かしているようには見受けられなかった。

 

「何もしてこない…………?」

 

ほむらを取り囲んでいるメリーゴーランドの輪っかが彼女の周囲をくるくると回っているだけにさやかは不可思議なものを見ているような表情を浮かべる。

 

「いや、違う!!!」

 

不思議そうな表情から一転、険しい表情を浮かべ、苦渋な顔をする。その理由は取り囲んでいるメリーゴーランドではなく、ほむら自身にあった。

 

(あのメリーゴーランドのようなものに取り囲まれてから、ほむらは何一つ行動を起こしていない…………!!)

 

そう、あのメリーゴーランドに取り囲まれてからピクリとも動かないのだ。ほむらは時間操作という、半ばチート臭い魔法を保有している。そんな彼女が時間操作すらせずに呆然、というのは何か異常が起こったに違いない。だがーーーー

 

(だが、厳密には何が起きているんだ………?)

 

さやかは苦虫を噛み潰すような表情を浮かべながらも完全に二の足を踏んでしまう。一度、ほむらから渡された拳銃に目線を移すもーーーー

 

(ダメだ…………情報が少なすぎる上にマミ先輩の時とは状況が違いすぎる………!!動いてもいいかもしれないが、あの時はまだ眼球という明白な急所があったからなんとか体が動いた………!!)

 

力なく拳銃を持った腕を下ろすと、視線をボロボロの魔女に向ける。今回の魔女の風貌はパソコンと完全に無機質なものだ。液晶にあたる画面のなかで黒い人形が何やらピコピコと明滅を繰り返しているのはわかる。

だからとてそれが急所である確証はどこにもない。前回のマミを殺しかけた魔女とは文字通り状況が違いすぎるのだ。現状、ほむらの攻撃のせいで動き出す様子が見られないだけが救いか。

 

(どうする………ひとまず彼女の元へ駆け寄るか?)

 

時間的猶予はまだあると認識したさやかは現状からの打開策を練り始める。始めに考えたのはほむらのもとへ駆け寄ること。だが、自分が離れたことで完全に無防備となったまどかに使い魔が送られたら詰みだ。思考で即座に却下された。

 

(ならば拳銃で気を逸らさせるか…………ダメだ、ただの時間稼ぎにしかならない上にその間に彼女が正気を取り戻してくれるとは限らない。そして銃弾が無くなれば、その時点で本当に何もできなくなる。)

 

「クッ……………せめてマミ先輩が来てくれれば…………!!」

「マミはまだ来れないよ。」

「ッ!?」

 

突然の第三者の声に思わずさやかは体を強張らさせ、声のしてきた方角に振り向く。その表情は驚き、というよりあまり見たくないものを見てしまったかのような険しいものであった。

 

「インキュベーター……………!!!」

「やれやれ、すっかり嫌われてしまったようだね。ま、元々君はボクに対してあまりいい顔はしていなかったけど。」

「…………何故マミ先輩が来れないと断言できる?」

「マミは今、他の魔女の討伐に向かっているよ。それが済むまでこっちには来れないと思っていた方がいいだろうね。」

「……………タイミングの悪い………いや、お前の差し金か?」

「ボクはただマミに魔女の出現を伝えただけだ。」

 

その答えにさやかはこの問答に意味はないと断じ、インキュベーターを意識から外した。インキュベーターからほむらに目線を戻した今でも彼女はその場から一歩も動かないでいた。

 

「聞きたいことがある。ほむらは何故動かない?」

「魔女からの干渉を受けているね。彼女を囲っている輪っかが原因だ。具体的に何をされているかはわからないけどね。」

「手の施し様がないということか?」

 

キュゥべえの言葉にさやかがわずかに語尾を強めながら詰め寄る。何か手段はないのか、と暗に聞き出そうとするさやかの言葉であったが、キュゥべえがそれに何かたじろぐ様子はなく、ただ首を横に振るだけだった。

 

「ボクだって魔女のことが詳細にわかっている訳じゃない。しかもそれが初めて見たものだとすれば尚更のことだ。それよりも君は今決断を迫られていることに気づいているかい?」

「何…………!?」

 

キュゥべえの言い草に嫌な予感を感じたさやかは険しい顔つきをしながらその嫌な予感を感じたほむらに目線を向ける。その瞬間、さやかの目は見開かれた。

 

「ッ…………体がゲルのように原型を…………!!あれは、まどかがなっていたのと同じ状態………!!」

 

ほむらの体の輪郭線がなくなり、体が不定形のゲル状になりかけていた。それはこの結界に入った時、まどかが陥っていた窮地と全く同じであった。

 

「あのままでは使い魔に体を…………まさか、決断というのは………!!」

「そうだよ。暁美ほむらを救いたいのであれば、君は選ぶしかない。今そこで気絶している鹿目まどかを起こすことを。彼女ならばこの状況を確実に脱することはできるだろうね。」

「それは、まどかを魔法少女にしろということか………!?」

「それ以外に、何があるんだい?」

 

さやかが驚愕というような表情を挙げていることにキュゥべえは不思議そうに首をかしげる。さながらさやかの反応を疑問に思っているようだ。

 

「どうしてそんな表情をするんだい?鹿目まどかを契約させれば、この魔女を打倒できるどころか、この先現れる魔女にだって危険な目に遭うことはなくなる。そう、鹿目まどかの近くにいればね。」

「ッ……………!!」

 

キュゥべえの言う通り、まどかを魔法少女として契約させれば、この状況から脱するどころか、この先に現れる魔女にだって危害を加えられる可能性は低くなるかもしれない。だが、それは同時にまどかを、友達をいつ死ぬかわからない戦場に放り込んでおいて、自分だけのうのうと比較的安全地帯にいるということに他ならない。

 

「そんな拳銃では魔女に有効打にはならないよ。使い魔程度だったらまだいいかもしれないけど。」

「……………ソウルジェムの真実を知っている私が契約させると思うか?」

 

さやかが手にしている拳銃に対して、魔女への対抗策にならないことを指摘するキュゥべえに対して、さやかは苦い表情をしながらもそう尋ねた。

それを見たキュウべぇはまるで肩を竦めているかのような反応を見せる。どうやら呆れのようなものが含まれているようだ。

 

「まどかを契約をさせるつもりはない。例え彼女の才能がいかに高いものだったとしても、その意志は変わらない。」

「訳がわからないね。強い力があるのなら、それにすがった方が君の安心にも繋がるんじゃないのかい?」

「…………これは私の推測だ。信じる信じないはお前の勝手に任せる。」

 

そういうとさやかは徐に気絶して横になっているまどかの側に着くと、膝をつき、彼女の桃色の髪をそっと撫でた。

 

「何故ほむらがそこまでまどかに契約をさせたくなかったか。その理由は単にロクでもない結果を招いてしまったからなのではないのか、私はそう思っている。」

 

用は済んだのか、さやかは再び立ち上がる。その表情には先ほどまであった苦々しいものはなく、晴れやかな、それでいてどこか覚悟を感じさせる顔つきであった。

立ち上がったさやかはキュウべぇの横を通り過ぎ、魔女がいる方角へと歩き出す。

 

「あとは、まどか自身から頼まれたのではないかと思っている。例えば、お前と契約する前の自分を救ってくれ、だとかな。」

 

その瞬間、さやかは拳銃を構えると即座に引き金を弾いた。乾いた音が何発が結界の空間に響くと、放たれた銃弾は不定形な形になりかけているほむらの周囲を飛んでいた使い魔に命中し、その体を四散させる。

 

「覚悟は決めた。後で謝罪する勇気も。例え泣かれても、私は二人を救う道を取る。」

 

さやかはそういうとあごをあげ、空を見上げたその顔を背を向けているキュウべぇにそのまま倒すように向け、さながら挑発的にしているような様子を見せる。

 

「インキュベーター、私を魔法少女にしてくれ。」

「……………ソウルジェムのことを知っているのに、契約しようとする人間は、君が初めてだよ。」

「そうか。」

 

キュウべぇの言葉にさやかは興味が無さそうに答える。

 

「それじゃあ美樹さやか、その魂を代価にして、君は何を願う?」

 

キュウべぇからかけられる契約の言葉、それをさやかは少しばかり考える素振りを見せるとーーーーー

 

 

「ない」

 

 

そうきっぱりと言い切った。




視点の都合上、まどかがぐにょった経緯までは書けなかったけど、マミさんがちゃんと生存してしまっているので、その想起された記憶も違います。

原作:マミさん死亡のシーン

本作:マミさんが危機に陥った時、動けたさやかと動かなかったまどか自身の姿
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