ほむら「美樹さやーー「私がガンダムだ」はぁ?」   作:わんたんめん

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ついに、さっさんが魔法少女に…………なっちゃった。


第20話 ここは、私の距離だ!!

「……………ない?君は叶えたい願いを持っていないというのかい?」

 

さやかの叶えたい願いはないという発言。そのことにキュゥべえは表情こそ動かなかったが、珍しく困惑しているような声色でさやかに確認する。

 

「ないな。辛うじてあったものも、それが余計なお世話であることを察した。だが、今は戦うための力が必要だ。それはお前から渡される魔法少女としての力でどうにかなる。」

「……………君は、奇跡にも等しい機会を棒に振るって言うんだね?」

「…………仮にこの場で何か叶えたところで、それは私の本心からのものじゃない。だったら私はなにも、無理に何かを叶えてもらう必要性はない。」

 

キュゥべえからの言葉にさやかは前とは打って変わり悩むような素振りを見せず、淡々と答える。

 

「だから、私には叶えたい願いはない。それに奇跡をやるにあたっての労力が掛からずに魔法少女を増やせるのだから、お前にとっても別に悪い条件ではないと思うが?」

 

さやかはキュゥべえに条件と言って、急かすような口ぶりを見せる。

 

「…………わかった。君がそこまで言うのだったら、ボクからはこれ以上、何も言わないよ。」

「早くしてくれ。お前だってここでまどかを失う腹積りではあるまい。」

「それもそうだね。まどかの魔法少女としての才能はあらゆる因果が一つに集合していて、ボク達インキュベーターの目線から見てもその計数を計り切れないほどだ。」

「もっとも私とてまどかを契約させるつもりはないが。」

 

キュウべぇの言葉に被せるように自分のまどかを契約させるつもりはない意志を伝える。

 

「……………じゃあ、行くよ。」

 

そういうとキュウべぇが何か念じるような行動を見せる。次の瞬間ーーー

 

「ッ…………!?」

 

さやかの胸に激痛が走る。突然の痛みに思わずさやかは苦悶の表情を浮かべ、激痛の走る胸を抑えた。

 

「うぅ……………ッア……………!!!」

 

想像以上の胸の痛みに声にならない声を溢すさやか。すると彼女の胸から水色の光に輝く球体が引き出される。

 

「アアアアアアアアアアッ!!!!!」

 

痛みをかき消すかのように叫び声を上げながら、目を見開く。目をかっ開き、自身の胸元で輝く光球を見定めると、その直後、その光球を毟り取るように素手で鷲掴みにする。

 

「応えてくれ…………ソウルジェム!!ここには、ほむらと、まどかと…………」

 

さやかは声を張り上げる。気弱で、それでいて誰にでも優しく、手を差し伸べてやれる友達(まどか)とそのかけがえのないともを救うため、途方もない時間をかけ、同じ刻を繰り返してきた少女(ほむら)、二人の未来を切り開くため。

 

「私がいるッ!!!」

 

そして、さやかの身体は光球と同じ水色の光に包まれ、自身も同じ光の塊へと変貌する。

光球は丸い造形から徐々に引き絞られ、人の造形を取り戻していく。おおよその人としての形を取り戻すと背中からヒラヒラとはためくマントが生み出される。

 

そのヒトガタ、が駆け出すような姿勢を取ると足元に魔法陣が展開される。

その瞬間、その魔法陣を一種のブーストとして活用しているのか、そのヒトガタは爆発的な加速を生み出しながら一瞬で移動する。その最中、ヒトガタを包んでいた水色の光は徐々に剥がれていき、そこから魔法少女としてのさやかが現れる。

 

彼女の姿はいつもの見滝原中学の制服ではなく、白く、純白のマントをはためかせ、青を基調とした肩出しのドレススカートのような衣装となっていた。

肘あたりまでの長さの手袋で包まれ、手首には白い腕輪のようなものがつけられた右手には西洋風のサーベルが握られ、まさに守ることを領分としている騎士のような風貌であった。

 

 

「使い魔を一気に殲滅するッ!!!」

 

手にしたサーベルを握り直すと勢いそのまま、ほむらの周囲に現れていた新たな使い魔の集団をまとめて一閃、真っ二つに切断する。

 

『!?!!!?!??』

 

突然の新手に動揺しているのか、画面の中の黒い人形を忙しなく動かす魔女。その間にさやかは再び魔法陣を展開させ、今度は魔女との距離を詰める。

 

「ハァァァァァァ!!!!」

 

突進とも取れる速度で魔女との距離を詰めたさやかは右手のサーベルと左手にもう一振りのサーベルを新たに展開する。

 

「ここは、私の距離だッ!!!」

 

そして右のサーベルで袈裟斬り、流れた体を戻しつつ、逆袈裟斬りでもう一度魔女に攻撃を加える。さらにさやかは左手のサーベルを魔女に突き刺すとサーベルの柄についていたトリガーを引く。

するとサーベルの刀身と柄が分離し、突き刺さった刀身(一本目)だけが魔女に残される。

それを確認したさやかは足捌きと体を半回転という僅かな体重移動のみで魔女の背後をとり、残った左手のサーベルから再び刀身を復活させる。

 

『!!!!!!!』

 

サーベルの刀身が突き刺さっている痛みからか、魔女は不気味な叫び声をあげながらパソコンのような身の両側面に伸びている二本の黒い触手を反撃と言わんばかりに背後にいるさやかに伸ばす。

 

「私に……………触れるなッ!!!」

 

その伸ばされた黒い触手を両手に握ったサーベルで切断しながら再度距離を詰める。

そして、目の前に迫った魔女の巨体に、さやかは右手のサーベルを突き刺し、同じようにトリガーを起動させ、刀身(二本目)を取り外した。その直後、右手のサーベルの刀身を生成させながら今度は左手のサーベルを魔女に突き刺す。

 

「皆をやらせるわけにはいかない!!!」

 

同じように刀身(三本目)を左手のサーベルの柄から外したさやかは間髪入れずに右手のサーベルを魔女に突き刺し、トリガーを起動、刀身(四本目)を取り外す。そのまま流れるように魔女の正面に躍り出ると、両方のサーベルの刀身を再度生成させる。

四本の刀身が体に残され、身を悶えさせている魔女に向けて、その両方のサーベルを思い切り突き刺した。

 

「すまない…………アンタも元は人間だった………!!だが、だからと言って目の前の友人を見捨てられるほど、私はできた人間ではない!!」

 

深く突き刺した両方のサーベル(五本目、六本目)の柄から手を離すと、もう一度サーベルを展開する。その時のさやかはまるで迷いを振り切ろうとしているようであった。

さやかは展開したサーベルの切っ先を、既に身動ぎすらあまり見えない魔女に向ける。

 

「私にできるのは、アンタを魔女から解放する。それだけだ。」

 

魔女に向けたサーベルの切っ先を大きく振り上げると、そのサーベル(七本目)を振り下ろす。

振り下ろされたサーベル(七本目)は魔女の体に深々と食い込み、その中にいたのであろう本体の球体関節の人形ごと斬り裂いた。

斬り裂いた後、残心のように一瞬間が空くとさやかは倒れた魔女から離れるように後退する。

さやかが離れた直後、魔女に突き刺さった六本の刀身が一瞬、光り輝くと構成された魔力が膨張を起こし、決して小さくない爆発を生み、魔女を包み込む。

その爆発が止んだころには魔女の体はかけらもなく、主が斃されたことにより維持ができなくなったのか、結界も蜃気楼のようにユラユラと揺らめき、崩壊していった。

 

「初陣にしては、万々歳、と言ったところか。」

 

日が沈み、真っ暗となった工場の中で高い窓から見える夜空を見上げながらそうさやかは口を溢すのだった。

 

「さてと、ひとまずこの惨状をどうにかしなければ…………。」

 

やり切った風の表情から一転、悩ましげな表情を浮かべるさやか。その理由は眼下に広がる、まどかとほむらが横たわっている姿。そして、魔女の口づけにやられたのか仁美をはじめとした一般の人々が気絶している光景であった。

 

「どうしたものか…………私一人で全員運ぶには物理的に無理がある…………。」

 

廃工場で倒れている大勢の人に関して、さやかはうまく怪しまれずに穏便に事を済ます手はないだろうかと模索を始める。その途中、いつのまにかインキュベーターが姿を消していることに気付いたさやかはわずかにこめかみに怒りのマークを浮かび上がらせるが、なんとか気持ちを押し留め、今は考えないようにした。

 

「美樹さん…………って、鹿目さんに暁美さん!?」

 

そんな最中、廃工場に現れる新しい人影。魔法少女姿のマミだ。倒れているまどかとほむらに驚いている表情を浮かべるが、頼れる人物の登場にさやかは若干安堵した表情を浮かべる。

 

「マミ先輩…………助かった。すまないがこの状況から穏便に脱するために手を貸してほしい。」

「わ、わかったわ…………でも美樹さん、貴方のその姿…………。」

 

さやかの頼みを承諾したマミは自然と魔法少女の姿をしているさやかに目線が集中する。その視線を察したのか、さやかは若干気まずそうに顔を逸らした。

 

「まぁ…………その、なんだ。一種の心変わりのようなものだ。」

「そう……………でも嬉しいわ。貴方が魔法少女になってくれたのなら、心強いわ。」

 

そう嬉しそうな笑みを浮かべるマミにさやかは彼女から見えないように渋い表情を浮かべる。魔法少女の真実、ましてやソウルジェムの真実を知らないマミだからこそ言えてしまうその言葉にさやかは微妙な表情を挙げざるを得なかった。

 

「美樹さん?どうかしたの?」

「……………いや、少し考え事をしていた。しかし、心強いとはいえ、貴方の方が歴は長いだろう?半人前がいいところの私が心強いとは到底思えないのだが。」

「魔女を倒せたのならもう一人前よ。でも、暁美さんが倒せなかった魔女を一人で倒せたのは本当に凄いと思うわ。」

 

マミが倒れているほむらに目線を向けながらそういうとさやかはほむらに駆け寄り、彼女の腕を自身の腕に回し、肩で担ぐ。

 

「彼女には相性とタイミングがたまたま悪い方向に噛み合っただけだ。いつも通りの彼女なら危なげなく倒せただろう。」

「そう、なの?ともかく鹿目さんと暁美さんは別の部屋に寝かせてあげましょう。他の人たちは私が魔法で誤魔化しておくわ。」

「わかった。警察には連絡した方がいいのか?この人数なら公共機関に任せた方がいいと思うのだが………。」

「うーん…………美樹さんの言う通りかしら。いくら魔法があるとはいえこの人数は骨が折れるものね…………。」

 

マミとさやかはひとまずほむらとまどかを別室で寝かせるとマミを主導として倒れている大人たちにここ一時間近くの記憶を忘れさせる魔法をかけ、後は警察の人間に任せることにした。

 

 

 

「ん………あ、あれ?ここは…………わ、わたしは…………?」

 

人知れず戦場となった廃工場からそれほど離れていない公園。わずかに遠くから警察のパトカーのサイレンが聞こえる中、先に目を覚ましたのはまどかだった。

 

「大事ないか?」

 

目を覚ましたまどかが最初に視界に収めたのは自身を心配そうに見つめているさやかの顔であった。そこでまどかは先ほどまで、自身の身に何が起こっていたのかを思い出した。

 

「そ、そうだ!!ね、ねぇさやかちゃん、仁美ちゃんは………!!」

「まずは落ち着け。まどかが落ち着いてくれなければ、こちらもちゃんと説明することができない。」

「そうよ、鹿目さん。何事も焦っていたら進まないもの。」

「あ………マミさん………ごめんなさい。」

 

狼狽した様子で仁美の安否を問い詰めるまどかに、さやかはマミと共に彼女を諭す。ひとまず彼女の様子から大事はないと判断したさやかは息を一息入れ、胸を撫で下ろした。

 

「結論から言えば、仁美は無事だ。身柄自体は警察の人間に任せたが、彼女にはここ一時間の記憶はないから困惑一色になっていると思うが。」

「そ、そうなんだ………よかったぁ………。」

 

さやかから仁美の無事を告げられたまどかは肩の荷が降りたように深い安堵の息をついた。

 

「じゃあ、マミさんが魔女を倒してくれたんですね…………。ありがとうございます。」

 

そう言ってまどかは魔女を倒してくれたのであろう、マミに対してお礼の言葉を述べる。しかし、その肝心のマミが微妙な表情を浮かべていることにまどかは引っかかりを覚えた。

 

「実は、私はかなり遅れて美樹さんと合流したのよ。それこそ、魔女が倒された後に、ね。」

「え、それじゃあ誰が…………。」

「そこでもう一人横たわっているだろう?」

 

さやかからの言葉に従うままにまどかは振り向いた。そこにはまどかと同じように寝かされているほむらの姿があった。

 

「え…………ほむら、ちゃん…………!?」

「…………ただ気絶しているだけだ。問題はない。」

 

ほむらの存在に驚きのあまり目を白黒させているまどかにさやかが彼女にも大事がないことを伝える。

 

「…………おそらく魔女との相性が致命的に悪かったのだろう。魔女からの干渉を受けて、途中で倒されてしまった。」

「……………まさか…………!!」

 

ほむらが途中で倒れたことを聞かされると、まどかは目を見開きながらさやかを見つめる。さながらそうであって欲しくないと願うように。

 

「………………まぁ、そういうことだ。」

 

まどかから強烈な目線を受けたさやかは観念した様子で懐から青い宝石が埋め込まれたアクセサリーのようなものを取り出した。

それはまさしく、キュゥべえと契約したことを示すソウルジェムであった。

 

「さやかちゃん…………契約、したんだ…………。」

「状況的に、そうしなければみんな死んでいた。マミ先輩はその時に別の魔女の結界に向かっていたらしいからな。」

 

さやかが契約したことにすごく悲しそうな表情を浮かべるまどかにさやかは淡々とした様子でそう現実を突き付けた。

 

「…………やっぱり、叶えた願いは上条君の指を?」

「まぁ……………それはほむらが起きてからでもいいだろう。彼女から詰め寄られるのも読めていることだからな。」

「そう、なの?」

「ああ。こればかりは彼女もいても立ってもいられないだろう。」

 

そう言ってどこか遠い目をしだしたさやかにまどかは不思議そうに首をかしげる。

 

「…………先に言うとすれば………まどか、君に魔法少女としての類稀な才能があったとしても、それを理由にあまり気に病む必要はない。」

「え…………?」

「気にするな。と言うことだ、いくらまどかが魔法少女としての高い才能を持っていたとしても、それを絶対に使わなければならないということはないからな。」

「で、でも私は…………」

 

まどかの言いかけた口をさやかは首を横に振ることでそれ以上言わせないようにする。

 

「無力感に苛まれるのもわからないわけではない。だが、それでは武力を以てまでお前の契約を阻止しているほむらが浮かばれない。少しは彼女の挫折を察してやってほしい。」

「挫折…………?」

「どういうこと…………?」

「…………これ以上は彼女自身の口から聞いてほしい。私から言えることではない。」

 

さやかの言葉にまどかはおろかマミも不思議そうな表情を浮かべるが、さやかがほむらの素性については一切口を開かなかった。

 




今回もかっこいいさっさん、書けたかな……………。

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