ほむら「美樹さやーー「私がガンダムだ」はぁ?」   作:わんたんめん

22 / 107
うーん、やっぱり話をぶっつけ本番に書くやつに次回予告なんて無理でしたわ!!(タイトル詐欺)


第22話  私なんかより、よっぽど正義の味方だわ

「まず、ソウルジェムとは一体どういうものなのか、説明していきましょう。」

 

ほむらのその語り始めを言うとともに、キュゥべえから聞かされなかったソウルジェムの真実などを明かし始める。

 

魔法少女となるためにキュゥべえと契約をした際に産み出されるソウルジェムは己の魂が原材料とされていること。

 

そのソウルジェムが砕かれたりすれば、たとえどのように健康であったとしても体はただの抜け殻となり死亡すること。

 

魔法を使用するたびにソウルジェムの中に発生する穢れは魔女の生み出す呪いと同意義であり、その穢れに染まった時、ソウルジェムはグリーフシードに変貌する。

 

 

 

「つまるところ、魔女と魔法少女は表裏一体の存在。しかもタチが悪いことに、私が知っている限り、一方通行の不可逆性のものよ。一度、魔女になった魔法少女は死んだも同然、って思ってもらった方がいいでしょうね。」

 

ここまでソウルジェムの真実を語ったほむら。その時点でマミやまどかの表情は顔面蒼白と憔悴しきっている有り様だった。

現実に考えてみれば無理もない。まだ高校生にもなっていない少女達に自身が人ならざるモノに成り果てる可能性がある、など言われてしまえば、冷静を保っていられるのは余程の人間だろう。

 

「…………美樹さんは、この事実を知っていて、契約したの?」

 

不意にマミの目線がさやかに向けられる。今にも泣き出しそうな目で向けられたソレにさやかは一瞬、悩むような素振りを見せる。

 

「…………ああ。その時のキュゥべえからは驚かれているような感想をもらった。」

 

そうさやかが答えるとマミは悲痛な表情………どことなく気まずさを孕んだようなものを浮かべる。

 

「………貴方は、本当に強い人なのね………こんな………ひどいことを聞かされても、友達のために戦うことができるなんて…………。」

「…………それは過言だ。あくまでキュゥべえとの契約は最終手段のつもりだった。だが、あの時はそれしか手段が残されていなかった。」

「それでも、よ。貴方は聞いているでしょ?私が契約した状況…………。」

 

マミの憔悴しきった顔と言葉使いにさやかは言われたように脳裏にマミが契約した状況であろう事故の光景を浮かび上げる。

 

「…………貴方だって、生きるためには、()()しかなかったからではないのか?」

「例え…………家族を見捨てていたとしても?」

「ッ…………それは…………!!」

 

マミの冷えた言葉、そしてわずかにだが見えた彼女の淀んだ目にさやかは思わず表情を強張らせ、言葉を詰まらせる。

 

「貴方は、願いを叶える奇跡を求めたんじゃなくて、他人を守るために、魔法少女の力を求めた。」

「で、でもマミさん……さやかちゃんは………!!」

「鹿目さん、それは分かっているわ…………いえ、分かっているからなのかもしれない。」

 

さやかを擁護するようなことをまどかが言うより先に、その内容を察したマミは、ちゃんと理解している旨を伝える。その直後、儚そうな笑みを浮かべたが、彼女は踵を返すとさやか達に背を向けて歩き始める。

 

「マミ先輩、貴方はーーーー」

「ごめんなさい。どうであれ………少し、時間をちょうだい。私は、貴方みたいに図太くないの。」

 

遠くなるマミの背に向けて、さやかは呼び止める声をかけようとする。しかし、震えた声でそれを拒否する彼女の声に伸ばした腕はおくべき場所を見失ってしまう。

 

「…………貴方のほうが私なんかより、よっぽど正義の味方だわ。」

 

(………………これ以上は無理ね。いえ、巴マミが発狂しなかっただけ、儲け物ね。)

 

どんどん遠くなるマミの背中を見つめるさやかの顔はやるせない思いを表に出しているような表情を浮かべていた。

そんな中、ほむらから念話が送られてくる。

 

(だが…………このままではマミ先輩は抱えた絶望から魔女化してしまう可能性も…………)

(…………彼女には、私がつくわ。せっかく貴方が繋げた彼女の命だけど、仲がこじれた貴方に、今の巴マミは無理よ。)

(…………心底からお前には言われたくないのだが。)

(……………ともかく、今はまどかをお願い。これ以上外にいると、まどかや貴方の両親に怪しまれるわ。)

 

ほむらの言葉にそう返すと、少し間が空いたのちにまどかを頼む旨の念話が飛んでくる。

さやかは一瞬だけ、姿が遠くなったマミの背中をもう一度見つめるとほむらの言う通り、一度帰ることにした。

まどかは困惑し、取り乱している様子を隠せないでいたが、さやかがとりあえず帰るか、と彼女を誘うとおずおずとした様子だが、さやかの後をついてきた。

 

 

(……………気まずい。)

 

日が沈み、ビルなどの建造物がさやか達を照らす中、しばらく徒歩で帰路についていた。しかし、さやかとまどかの二人の間にこれという会話はなかった。さやかの心中ではまどかが聞いてきて、自身がそれに答えるというのがベストな形だと思っていたのだが、肝心のまどかが明かされた真実のことで精一杯なのか、心痛な面持ちで俯いたまま無言を貫いてしまった。

 

僅かにため息を吐き、この居た堪れない空気をどうにかしたいとさやかが頭を悩ませていると、ふと視界に映り込んだ建物に目が向いた。

 

(………あれは、いつも恭介の見舞い用の買い物をしているショッピングモール…………。)

 

「まどか、せっかくだし夕飯でも食べていくか?」

 

思い立ったら即行動。少しでも早くこの気まずい空間から脱出したかったさやかは後ろにいるまどかに目線を向けると、ハンドシグナルでショッピングモールを指差しながらそう催促してみる。

 

「ううん…………今はいい、かな…………。」

 

しかし、まどかは微妙な表情を浮かべながらもさやかの催促を拒否する。無理強いするつもりはサラサラないため、さやかはそうか、と一言入れながらも空気を変えることに失敗したことに2回目の僅かなため息をつく。

 

「ねぇ…………さやかちゃん。」

「ん……………どうした?」

 

またしばらく家への帰り道を歩いていた時、不意にまどかがさやかの名前を呼ぶ。

唐突なまどかの呼びかけだったが、別に思考で脳内を満杯にしていたわけでもなかったさやかは即座にその声に反応する。

 

「…………途中でマミさんが帰っちゃったから聞けず終いだったんだけど、結局ほむらちゃんは、どうしてわたしとさやかちゃんを契約させたくなかったの?」

 

そのことにさやかは思い出したかのような表情を見せるが、すぐにその表情は思案中のものへと切り替わる。

顎に指を乗せ、さながら探偵のように考えるさやかだったが、程なくして意を決した様子でまどかに向き直る。

 

「……………まず、まどかを危険な目に遭わせたくないのが第一なのは、アイツのまどか第一主義は筋金入りのもの故だ。それこそ、魔女に囚われているまどかを見つけた瞬間に私を投げ飛ばすほどな。それはこれまでの私からの説明でわかってくれているか?」

「うん…………。」

 

さやかの言葉にまどかは重苦しい表情ながらも首を縦に振り肯定の意志を示す。

 

「まぁ、本人がいない上に推察の域を超えることができないから、本当の理由ではないことを承知で語るとすれば、大方ろくな結果にならなかったから、というのが妥当なところだろうな。」

「ろくな結果にならなかった…………?」

「ほむらの中で一番の失敗に値するのはまどかの生死だ。おそらく、時間遡行を繰り返してきたほむらは何度か目の当たりにしてしまったのだろう。魔法少女となったまどかが死ぬところを。」

「それは…………もしかしてわたしが魔女になっちゃったってこと、なの?」

「定かではない。別の可能性も存在する。だが、十二分に理由としてはあり得るだろう。」

 

そう言い切ったさやかに、まどかは顔を俯かせ、いかにも落ち込んでいますと言うような様子を見せ始める。

 

「…………まぁ、私にも言えないことではないが。」

 

さやかがそう溢すように言った瞬間、下を向いていたまどかの顔が急に上がり、一転して心底驚いた様子でさやかの顔を見つめ始める。そのさやかを見つめる瞳はどことなく涙を浮かばせているようにも見えた。

 

「ま、待ってよ、それってほむらちゃんが繰り返してきた時間の中でさやかちゃんも魔法少女になったら死んだってことがあったんだよね!?」

「ま、まどか?」

 

急に様子が変わったまどかにさやかが狼狽した様子を見せると、詰め寄り始め、そのさやかの両肩を掴む。

 

「やだ…………やだよぉ…………!!マミさんやほむらちゃん、それにさやかちゃんまでいなくなったら………わたし…………!!!」

 

そう嗚咽を溢し、目から溢れんばかりの涙を流しながらさやかの肩にかけた手に力をかける。

さながら離れて欲しくないと懇願するようなまどかの様子にさやかは最初こそ困惑した様子を見せていたが、程なくして落ち着けの意味合いを込めて、彼女の腕を揺らす。

 

「……………まどか、一旦落ち着いてほしい。」

「で、でもぉ…………!!」

「『美樹さやか』が魔法少女になると死ぬ、というのはあくまでほむらがこれまで渡ってきた時間軸の『美樹さやか』が悉く亡くなってきたからだ。」

 

さやかの言葉にまどかは始めは疑問符を見せる。しかし、言葉の意味を考えてみると、まるで今、目の前にいる美樹さやかはほむらがこれまで見てきた『美樹さやか』とは異なるとでも言うようなものだった。

 

「…………今のさやかちゃんは違うの?」

「そうらしい。ほむら曰く、どうやらこの時間軸の私は今まで彼女が見てきた『美樹さやか』とはだいぶ異なる性格の持ち主、とのことだ。」

 

さやかにそう言われて、まどかはふと思い出した。ある日何気なく学校に登校した時、さやかの姿がノイズがかったようにブレ、目の前のさやかとは似ているようで似ていない風貌を持った人間が見えてしまったことを。

 

(………あれ、見間違いじゃなかったんだ…………。)

 

まどかはそのさやかと被って見えた人物こそ、ほむらが見てきた『美樹さやか』なのだとあたりをつける。では今目の前にいるさやかは一体何が原因で今のような人物になったのか、と必然的に疑問も湧いてくる訳だが…………。 

 

「つまり、魔法少女になったとはいえ、私自身の死が確定した訳でもないし、その逆もまた然り……………要するに先の未来はわからない、と言うことだ。」

 

と、そこでさやかが結論付けたところで、二人の耳が空腹を告げる音を聞き取った。まどかがその音源を辿ろうとするも聞こえてきたのは自身の目の前ーーー自然とさやかに目がいった。

 

「…………流石に夕飯もなしに行動を続けるのは無理があったか…………。」

 

と苦い表情を浮かべながら乾いた笑みを浮かべるさやか。その様子と、先ほどまでの雰囲気のぶち壊しにまどかは思わず吹き出した。

 

「じゃあ行こっか。ショッピングモール。」

「いいのか?一度断っていなかったか?」

「それはわたしの気分の問題だもん。それに、ほむらちゃんが見てきたさやかちゃんが違う性格の持ち主だったとしても、『今の』わたしにとっては今目の前にいる人がさやかちゃんだもん。」

「……………そう言ってもらえると、私個人としても心に余裕が生まれる。ありがとう。」

「そんなことないよ、こればかりはお互い様みたいなものだし、それに友達でしょ?」

 

まどかの言葉にさやかは一瞬目を見開いたかと思うと、柔らかな笑みと目で小さくそうだな、と呟き、まどかと足並みを揃えた足取りでショッピングモールへと向かう。

一応家族に帰るのが遅れる旨を伝えるために携帯にメッセージを打ち込みながらーーー

 

 

 

次の日、さやか達が学校へ登校すると、仁美の姿が目に入った。何か思い出そうとして思い出せないでいるのか、自身の座席で唸り声を上げていた。

 

「仁美、どうかしたか?」

 

大方、昨日の魔女絡みだろうとあたりはつけていた二人だが、このまま声をかけないというのも彼女で後から怪しまれる可能性もなきにしもあらずなため、少々苦い顔を浮かべながら仁美に話しかける。

 

「あぁ………美樹さんに鹿目さん………実は昨日なぜか廃工場の方で寝てしまいまして、警察のお世話になってしまったのですが…………そこに至るまでの経緯をまるで覚えていないのです。」

(まぁ、そうだろうな。)

 

何せ魔法が絡んでいるのだ。人畜無害とはいえ人智を超えている力の干渉であれば、そう簡単に化けの皮が剥がれることはないだろう。

仁美とは軽くやりとりを済ませると、そのタイミングでほむらの姿が教室に現れる。

 

(…………マミ先輩は大丈夫なのか?)

 

彼女に視線を移すや否や、若干気を張り詰めたような香りをしながらほむらに念話を送る。

 

(今のところ、ね。自身のマンションに引きこもって意気消沈はしているけど、魔女化するところまでは来ていないわ。何が彼女の精神的な支柱になっているのかわからない以上、もう少し見ておく必要があるけれど。)

(…………わかった。彼女を頼む。)

(ええ、ここまできて彼女に死なれても、困るもの。)

 

ほむらの言い草にわずかにムッとした表情を浮かべるさやかだったが、繰り返してきた中にマミの死も含まれていた可能性を鑑みるとそういう言い方になるのも致し方ないと結論付け、自身の席に着く。

 

そして、念話を切り上げたほむらもまた、何やら難しい表情を浮かべていた。

 

(…………いつものパターンだと、この時期にそろそろ()()が見滝原を訪れる頃…………でも巴マミも生存している以上、彼女もテリトリーを侵してまで足を運ぶ必要もない。)

 

(だけど彼女も実力のある魔法少女。戦力に組み込んでおきたいところだけど…………ここは私が風見野に赴くしか無さそうね。この時間軸のさやかとなら、不和もそうそう起こりはしないだろうし………。)

 

ほむらが思案に耽っていると朝のHRを告げるチャイムが学校中に響き渡る。そこでほむらの思考は一度中断され、また何気ない時間が過ぎ去っていく。

 

 

 

そして放課後、昇降口の出入り口付近でさやかは悩んでいるような表情を浮かべ、唸り声のようなものを挙げていた。

 

「さ、さやかちゃん…………?」

 

さやかの行動にまどかは怪訝な顔をしながら見守っていた。しかし、さやかは相変わらず唸り声を挙げるばかりで答えようとはしなかった。

 

「……………なにをしているの?」

「あ、ほむらちゃん。なんだがさやかちゃんが突然悩んでいるような顔をし出して………。」

 

そこにたまたまほむらが姿を現した。第三者の出現にまどかはほむらに救世主でも目の当たりにしたかのような表情を見せると簡単な説明をする。

それを受けたほむらはしばらくさやかの様子を見つめているとーーーー

 

「……………まさか、巴マミの代わりに魔女の見回りをする、とかで悩んでいる訳じゃないでしょうね?」

 

不意にほむらがそう尋ねると唸り声を挙げていたさやかはピタッとその出していた唸り声を響かせるのをやめた。

 

「……………なぜわかった?」

「はぁ…………。」

 

口を呆然と開き、心底から驚いたような様子を見せるさやかにほむらは呆れたようなため息を吐いた。

 

「もうあなたが契約したことに関してとやかく言うつもりはないわ。だからと言ってやたら無闇に魔力を浪費するようなことはやめておいた方が無難よ。」

「だが………使い魔程度であればーーーー」

「それこそ魔力の無駄よ。使い魔からグリーフシードが落ちることはない。」

 

ほむらから強い口調で言われてしまい、思わずさやかも口を噤んでしまう。少しの間気難しい顔を浮かべるさやかだったが、自身の中で結論付けたのか、表情は柔らかなものに変わる。

 

「…………わかった。責任感の強いマミ先輩の気を少しでも和らげるつもりだったが…………それこそ本末転倒か。」

「賢明ね。それと一応貴方にも言っておくことがあるのだけど、私はこれから風見野にいる魔法少女に会いにいくわ。その間に変な行動は起こさないことね。」

「…………ワルプルギスの夜のためか?」

「…………やっぱり覚えてはいるのね。」

「あそこまで錯乱に近い状態を見せつけられれば嫌でも残る。それで、その勧誘する魔法少女はどんな奴なんだ?」

「……………そうね、巴マミを理想的な魔法少女とするなら、()()は現実的な魔法少女、ね。」

 

 

 

 

「魔法なのに現実……………ずいぶんと矛盾した単語だ…………。」

 

下校の道すがら、さやかはほむらが言っていた会いにいくという魔法少女の為人について疑問気に呟く。

途中で分かれたため、既に隣にまどかの姿はなく、呟いた言葉も誰の耳に届くこともなく町の喧騒に吸い込まれていく。

最初こそマミのかわりに見滝原の町をパトロールでもするつもりのさやかだったが、魔力の無駄だとほむらに咎められてからは一応素直に帰るつもりであった。

 

しかしーーーー

 

「妙に視界に光が入り込む。一体なんーーーー」

 

ふと視界にチラチラと映り込む光に鬱陶しさを覚えたさやかはその光源を探す。すると自身の指に嵌め込んだ指輪に目線が集中する。白銀のリングに水色の宝石から光を発しているのは、形こそ変われど、さやかのソウルジェムに違いなかった。

 

(ソウルジェムが光っているーーーーーしかもこれは魔女、いや、にしては反応が弱い。なら使い魔と考えるのが妥当なところか。)

 

以前、マミに見せてもらったソウルジェムの魔女探査能力。その時の反応の輝きの時より光量が低いことを見抜いたさやかはその反応が使い魔であると判断する。

 

(ほむらから使い魔を倒すのは魔力を浪費するだけと言われた。しかし、使い魔も人を襲う。もしそこで死人が出れば、その人間の死を悲しむ家族が生まれ、また新たな犠牲者を産み出すことになる。)

 

一度はほむらに止められた使い魔の打倒。確かに魔女という大元を潰さない限り、際限なく生み出される使い魔をいちいち潰していくのは無駄だと言えることだろう。

 

「だが、だからと言って見過ごせるほど、私は……………利口な人間ではない。」

 

そういうとさやかはソウルジェムが示す輝きに従って町を駆け抜ける。それなりに距離が離れていなかったのか、数分ほどでソウルジェムは町の一角の路地にさやかを導いた。

 

「ここか……………」

 

さやかの眼下には路地の左右の壁面がクレヨンのような緑色で塗りつぶされ、所々に子供の落書きのような絵が書かれている空間が広がっていた。

 

『ーーーーーーー!!!!』

 

そして路地の奥から聞こえて来る声。さやかが目と耳を凝らすと、さながら車のおもちゃで遊んでいるような楽しそうな声と共に周りと同じ落書きのようなデザインの人形が複葉機のような飛行機に跨って、その空間を飛び回っている様子が目に映る。

 

「あのような造形でも、人を襲う…………。」

 

そう呟くとさやかは指輪を取り外し、元の形である楕円形のアクセサリーにソウルジェムを戻し、魔法少女としての姿である白いマントをはためかせた騎士甲冑を身に纏う。

 

「……………突入する。」

 

踏み込んだ足に一気に力を込め、結界内に突入するさやか。急な乱入者に使い魔は慌てたように体を震わすと一目散に逃走を図る。

 

「逃すかッ!!」

 

それを見たさやかは足元に魔法陣を展開、それを足場、および加速を得るブースターとして活用し、一気に使い魔との距離を詰め、手にしたサーベルを使い魔に向けて振り下ろす。

 

『ーーーーーー!?!!?』

 

しかし使い魔の咄嗟の動きでサーベルは空を切ってしまう。サイズからしてすばしっこいことは察せていたさやかはさほど慌てたような表情は見せない。

 

(…………まずは足を止める。)

 

地面に降り立ったさやかは手にしていたサーベルとは別の一本を作ると、飛び回る使い魔に向けて右手の一本を、タイミングをずらして左手のもう一本を投擲する。

 

投げられた二本のサーベルは動き回る使い魔に一直線に向かっていく。

 

『ーーーーー!?!!!?』

 

先に投げられた一本は使い魔の進行ルート上に突き刺さり、思わず使い魔も動きが止まる。そして遅れて飛んできた二本目が使い魔に寸分の狂いなく突き立てられ、使い魔の体は壁に縫い付けられる。

あとは突き刺さったサーベルを掴み取って使い魔の体を両断するだけ。そのためにさやかは使い魔に向かって飛びかかる。

 

(ッーーーー!?!)

 

 

サーベルに手を伸ばしている最中、さやかは突然体を貫くように走った感覚に目を見開く。突然のものだったが、さやかにはそれがなんなのかを理解できた。

 

今にも自身に害をなそうとせん、純然な敵意だった。

 

「クッ……………」

 

苦い顔を浮かばせながらも、咄嗟にさやかは魔力で作ったサーベルをその敵意を感じた方向である上空へ投げつける。体を捻りながら放ったサーベルの軌道をさやかは見届けることは出来なかったが、弾いたような金属音と耳に入った舌打ちにひとまずの牽制ができたと判断したさやかは勢いそのまま使い魔に刺さったサーベルの持ち手を掴み、両断した。

 

使い魔を倒したことで結界は崩れ始め、元の光景である路地に戻っていく。しかし、さやかの表情は晴れやかなものではなく、むしろ警戒感に満ち溢れていた。

 

「誰だ!!!」

 

魔女とは違う敵意にさやかは思わず声を荒げる。戦いの終わったはずの路地に緊迫感が張り詰める中ーーーー

 

「ーーーーーーアンタが美樹さやかだな。」

 

不意にさやかの名前を呼ぶ声がする。それはさやかが咄嗟に感じた敵意からサーベルを投擲した上空からだった。

そして路地に降り立った人影が現れる。差し込んでくる夕日に照らされ、ようやくその人影の全貌が明かされる。

そこにいたのは身長以上に丈のある槍を手にし、可動域を広げるためか、前側が大きく開いたノースリーブの真紅のドレスを身に纏ったさやかより若干身長が低い少女であった。

風貌や立ち振る舞いから魔法少女であることは察せられる。

 

「何者だ。何故私の名前を知っている。」

「はん、別にあたしの口から話すまででもないんじゃねぇの?」

「……………キュゥべえか。」

 

相対する少女の言葉でさやかは舌打ちにも近い口調でキュゥべえの名前を出す。

 

「改めて聞くが、何の用だ。」

「ーーーーあのさ、お前卵産む前の鶏の首を絞めてどうすんの?グリーフシードも落とさない使い魔倒してもなんの利益もないじゃねぇかよ。」

「……………知っている。聞きたいことはそれだけか?用が済んだので有ればさっさと家路につきたいのだが。」

 

そう言いながらさやかは目の前の人物に背を向け路地から出て行こうとする。もっとも先ほどの敵意があの少女からのものであれば、何をされるか分かったものではないため背後からの襲撃に気を張り巡らす。

 

「つれないねぇ。アタシの目的はアンタだっていうのにさ。」

「ッ…………!?」

 

少女の言葉にさやかが振り向いた瞬間、地面から赤い鎖のようなものが張り巡らされ、高い壁となってさやかが出て行こうとした路地の出口を塞いだ。

 

「なんの真似だ?」

「言った筈だぜ?アタシはアンタが目的だってなぁ。」

 

表情を険しいものにしながら先ほど横槍を入れようとしたのだろう少女に問い詰めると、彼女はどこか怒りを孕んだような、獰猛な笑みを浮かべる。

 

「私とお前は初対面のはずだ。そのような敵意を向けられる覚えも言われもない。」

「アンタにはなくてもアタシにはあるんだよ。それくらい察しろよ愚図が。」

 

先ほど浮かべていた獰猛な笑みから一転、冷え切ったように無表情と声色をまるで感じられない冷たい声にさやかは困惑の色を隠せないでいた。

 

「それともなんだ?魔女はぶった斬れても人間相手じゃ使えませんってか?」

「…………そのつもりだ。元よりこの力は友人を守るために手にしたものだ。」

 

少女の言葉にさやかは表情を困惑の色にしながらも瞳だけは強い意志を持ち、はっきりとした口調で少女の問いに答える。

 

「ハッ、気に入らないねぇ……………。」

「なに……………?」

 

その言い草にさやかは眉を潜め、その発言の真意を問い質すも、少女は懐からコンビニでも売っているような菓子を取り出す。その箱の中から一本出すとまるで抱えた苛立ちを晴らすが如く乱雑に噛み砕いた。

咀嚼音が響く中、さやかが様子を伺っていると、少女は突然菓子の箱を握りつぶした。

 

「気にいらねぇっつってんだよ!!!!テメェの何もかもなぁッ!!!!」

 

突然周囲の空気がふるえ上がるほどの怒声を出した少女は側にあった槍を掴むとさやかに襲いかかった。そのスピードはかなりのもの、十分あったはずのさやかと少女との間の距離は一瞬で詰められ、振りかぶった槍の威力もまともに食らえば致命傷だろう。

 

「くっ……………!!!」

 

突然の攻撃に苦渋の表情を浮かべるさやかだったが警戒していなかった訳ではないため、体は動いた。咄嗟に背後に聳え立つ鎖で編まれた壁を蹴り上げると、足元に魔法陣を展開し、少女の頭上を飛び越える形で攻撃を回避する。

獲物を見失った少女の攻撃は空を斬る結果となったが、先ほどまでさやかがいた場所の床はその少女の苛烈を際立たせるように粉々に砕け散った。

 

(あの威力に今のスピード…………彼女はベテランの魔法少女か………それもマミ先輩と遜色ないレベルの…………!!初撃を避けれたのは幸運だったか………!!)

 

前転しながら体勢を整えたさやかはひとまずサーベルを構える。どうであれ、ここで逃走を図ったとしても逃げ切れる自信がさやかにはなかった。

ある種の覚悟を決めたさやかは少女と向き直る。

 

「わからない…………一体何が、お前をそこまで駆り立てる………!!」

「いちいち言わねえとわかんねぇみたいだな!!この際だから教えてやるよ!!魔法ってのは徹頭徹尾、自分のためだけに使うもんなんだよ!!やれ他人のためだなんだってテメェみたいにほざく野郎は先輩のあたしが責任もって修正してやんよ!!」

 

瞬間、再び少女とさやかの距離が詰められ、ギラつく槍の刃がさやかに振り下ろされる。さやかはサーベルを構えると互いの獲物がぶつかりあい、薄暗かった路地を火花で照らした。

 

「答えてくれ……………アンタの目的は…………なんなんだ…………!!」

 

衝撃と圧力に苦悶に染まりながら呟かれた言葉は目の前の少女に届くことはなかった。

 




さて、なんで赤い子はこんなにブチギレなんですかね?

一つだけ言っておくと別に戦争狂がインプットされているわけではないです^_^

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。