ほむら「美樹さやーー「私がガンダムだ」はぁ?」 作:わんたんめん
しかもなに『蒼髪姫と黄金色の騎士』って。めっちゃかっこいいじゃん。
まぁ、うちだと思いっきり反対になりそうですが…………(白目)
「なんなんだよ……………!!」
姿が変わり、身体の至るところに新たな装飾が施されたさやか。その彼女の双肩のコーン型の突起物から発せられている色の薄い緑色と水色が薄暗い路地を照らす中、襲撃者である少女は表情を困惑に染めながら槍を構え直す。
「一体なんなんだよ………テメェは!?」
少女の怒声は聞く者が聞けば、威圧として震えさせるには十分なほど迫力のあるものだった。しかし、その威圧にさやかは戦闘経験のまるでない一般人であるにも拘らず、臆した雰囲気を微塵も感じさせない鋭い目線をしながら、無言で睨み返す。
「……………私はこれ以上の戦闘行為を望まない。頼むから退いてくれないか?」
「は……………?」
そんなさやかからかけられたのは撤退を勧告する文言だった。さやかは張り詰めた表情から一転して目線を落とし、本意では無さそうな表情を浮かべる。
さやかの姿が変わり、第二ラウンドが始まろうとしたタイミングでのさやかの戦闘行為の放棄に少女は拍子抜けしたような顔をする。
「これ以上戦闘を続けたとして、互いに魔力を浪費するだけだ。それこそ、お前のいう無駄ではないのか?私が言えたことではないが。」
「テメェ……………なめてんのか。」
そう言いながら目線を正面に向け直したさやかに対して、少女は憤怒に塗れた表情をしながら、威嚇と言わんばかりに犬歯を剥き出しにする。その威嚇にもさやかは全く臆したような素振りを見せることなく、一瞬だけ視線を少女から外し、再び戻した。
そのことに少女の意識は目の前のさやかに対する怒りに染め上がる。
「私達が本当に戦わなければならない相手は他にいる。それはーーーーーーーーーーーーーーー」
「るっせぇんだよ!!!!」
さやかの言葉を突然の罵声で遮りながら、少女は強襲と言わんばかりに足を踏み出し、さやかとの距離を詰める。怒りに塗れた槍はただでさえ凄烈だった勢いをさらに増し、穂先は殺意となってさやかに襲い掛かる。
「ッ……………!!」
自身を殺さんとする少女の攻撃。話を切られた突然性も否めなかったが、苦虫を噛み潰したような表情を浮かべながらも反応したさやかは初撃と同じように手にした大剣の刀身を前面で構え、盾として活用する。
「本当に戦うべき敵だぁ!?関係ねぇよ!!」
槍と大剣がぶつかり合い、路地を彩る光に火花が追加される。その火花の輝きの如く、さやかの苦しげな表情と少女の苛烈な怒りを露わにした表情を照らす。
「アタシはな!!テメェみてえな誰かのためにだとか抜かす、正義の味方面した奴がいっちばん嫌いなんだよ!!」
「他人の…………知り合いのために力を奮うことに、なんの憂いがある!?お前がそうだったからか!?」
槍の穂先と大剣の峰がぶつかり合う鍔迫り合いの状況の中、さやかは目の前の少女へ問いかける。
「ッ…………!!」
「……………テェァアッ!!」
出任せにも等しいような勢いで飛び出たさやかの言葉だったが、それを聞いた少女は目を見開き、わずかながらに槍にかかっていた力を緩ませる。
大剣にかかっていた重圧が緩んだのを見逃さなかったさやかはそのまま大剣を押し出し、少女を無理やり退かせる。
弾き飛ばされた少女は土煙を挙げながら踏みとどまり、敵意で塗り固められた顔をさやかに向け続ける。
それに対しさやかも大剣の切っ先を少女に向けるが、はっきり言ってさやかは少女との戦いには気が進まなかった。切っ先を向けたのも攻撃を仕掛けられた際にある程度の抵抗ができるようにするための不承不承な理由であった。
「お前はーーーーーーーーーーーーーーーー」
「美樹さん!!!」
切っ先を向けたさやかが少女をさらに問い詰めようとしたとき、第三者の介入に遭う。さやかが驚いた顔をしながら声のした方角を向くと、路地の入り口にマミの姿があるのが目についた。
「なっ…………マミ先輩!?」
思わず驚いた声を上げる。はたからすれば明らかな、それでいて決定的な隙を晒したことになる。中々絡め手を使ってくる相手なのだから、さやかはすぐさま少女に向き直し、奇襲を警戒する。しかし、マミの来訪に驚いたのはさやかだけではなかったようだ。
「チッ………マミの奴…………!!流石に二対一は厳しいよな…………!!」
少女は悪態をつくように吐き捨てると地面に突き立てた槍の柄を伸ばし、その勢いを利用しながら壁を蹴り上げ、その場から撤退していった。さやかが少女を呼び止めようとしたが、すでに遅く、呼び止めるために腕を伸ばした時には、少女の身体は壁の向こう側へと消えていっていた。
「逃げたか…………これで良かったのか…………それともーーーーーーーー」
独白とも取れる言葉をさやかが溢すと、次の瞬間、力尽きたように膝から崩れて落ち、思わず大剣を突き立て、それを支えとする。
「美樹さん、大丈夫!?」
さやかが倒れかけたことに、マミは悲鳴のような声を挙げながら駆け寄ると、座り込んだ彼女の肩に手を当てる。
「なぜ………ここに…………?」
緊張から脱したことにより疲れ果てたのか訝しげな表情を浮かべながらマミにそう尋ねる。
「美樹さん…………あなた、私の代わりにパトロールをしてくれていたのよね?」
マミがそう聞くとさやかは荒い息を吐きながらも小っ恥ずかしそうに目線を逸らしながら頰を掻いた。
「……………ほむらから魔力の無駄だからやめておけと念を押されたのだが、見つけてしまった以上、無視は出来なかった。」
「ごめんなさい……………私が暁美さんから語られた真実を呑み込むのに時間がかかってしまったばっかりに…………。」
マミはさやかに謝罪の言葉を述べながら目線を暗く下に落とし、額をさやかの背中に乗せるように押し付け、さやかの肩に当てた手に力を入れる。さながら何も出来なかった自分に歯痒い思いを抱き、無力感に苛まれているように。
その肩に感じる力にさやかは軽く鼻を鳴らすと、同じように自身の手を肩に回し、マミの手に重ね、包み込む。
「大丈夫。貴方のその反応は至極当然のものだ。ソウルジェムの真実が思い込んでいたものと違うと知ったりすれば、困惑や自身の在り方に不安を持ってしまうだろう。それに命が関わっているのであれば尚更のことだ。もしそれを聞かされて、何も感じない人間がいるとしたら、ただの能天気か異常者だけだろう。」
「だが、なってしまったのならどうすることもできない。受け入れるほか、道はないものだが、そうするのは人それぞれだ。だから貴方は貴方なりのスピードで受け入れてほしい。それを考えるだけの時間はいくらでも、とは言わないが必要以上にあるのだからな。」
「間違っても変に抱え込んで自殺なんて手法は取らないで欲しい。貴方が死んだら悲しむ人が少し前より、いるのだからな。」
そう諭しながら背後にいるマミに顔だけ向けると、そういった表情を浮かべることに慣れていないのか、ぎこちない笑顔を見せる。
さやかの言う少し前、というのはマミが魔法少女として一人で戦い、周りに誰もいなかった時期を指し、今、というのは魔法少女として周りにさやか、場合によってはほむら、そしてそうではないが、まどかがいることを指している。
そのさやかの言葉にマミは一瞬、面をくらったような顔を浮かべるもすぐに朗らかなものに戻した。
(もう……………ホントに強い人なんだから…………。本来だったら、先輩の私がちゃんとしないといけないのに……………)
『なんかあったら、ウチのさやかでも頼ってくれ。相談にはもってこいの相手だろうよ。』
表情自体に疲れたものが残っているにもかかわらず、自身のことを気遣うさやかの姿勢にマミは慎一郎の言葉を思い出す。なるほど、確かに話し相手としては持ってこいの相手なのかもしれない。基本的に話を最後まで聴いてくれる上に若干の言葉足らずはあるかもしれないが、なんらかの道を指し示してくれる。
マミの目にさやかはそんな風に見えるようになった。
(でも、流石に頼りきりは不味いわよね。人としても、先輩としても。)
でもーーーーーーーーーーーーーー少しくらいならいいでしょう?
「ねぇ、美樹さん。手を握ってくれない?」
「…………どういうことだ?握っているはずだが…………?」
マミのお願いにさやかは呆けた顔を浮かべながら首を傾げる。どうやら手と手を重ねている今の状態をさやかは握っていると思っているようだ。
「もう、察しの悪い人ね。」
そのことにマミは軽く頬を膨らますと、重ねられたさやかの手を握り直し、お互いの指と指が絡み合うように握る。そのマミの取った行為にイマイチ理解が及ばないのか、さやかは再度首を傾げるような仕草を浮かべる。しばらく考えたが結局その手の握り方の訳に辿り着くことはなく、さやかは他に気になったことをマミに尋ねることにした。
「…………そういえば、さっきの魔法少女。マミ先輩の知り合いか?何やら貴方を知っていそうな口ぶりと雰囲気だったのだが……………。」
さやかは先ほどまで戦っていた魔法少女について尋ねた。マミがこの路地に現れてから、少女の撤退は迅速だった。マミの実力がそれとなりに知れ渡っているのか、少女は襲い掛かることはせずに状況を不利と判断して即座に行動に移した。
そのあまりの引き際の良さと少女の態度に彼女の関係者なのでないかと勘ぐったのだ。
そのさやかの質問にマミは気まずそうな表情を浮かべ、さやかと顔が合っている訳でもないにも関わらず顔を横に逸らした。
「………………ええ、よく知っているわ。彼女の名前は
「弟子……………?貴方の?」
さやかの確認とも取れる鸚鵡返しにマミは無言のまま静かに首を縦に振る。視界に入っていた訳ではなかったが、服の擦れ具合的に彼女が頷いたのだと判断したさやかはそのまま話を続ける。
「正確に言えば、コンビに近かったわ。でもあの子は、昔はあんな過激な子じゃなかったの。もっと、他人に目を向けてやれる人だった。でもーーーーーーーーーーーーーーーー」
そこまで言ったところでマミは表情暗く落とし、視線を下に向ける。明らかに何かあった。彼女に背を向けているさやかもそれを察知し、結んだ手から感じられた強張りからもそれは易々と感じ取ることができた。
「……………ある日を境にあの子は変わってしまったわ。」
「その、ある日というのは?」
そう尋ねるさやかだったが、脳内では何となく読めていた。事故で両親を亡くしたマミ。理由は聞いていないが両親が既に他界していると思われるほむら(さやかの勘違い)。
心の中ではそうであって欲しくないと思いながらも経験から来る結論が脳内で駆け巡っていた。
「彼女の父親が、自殺したの。それも、彼女自身を除いた家族を巻き込んで…………。」
「無理心中か……………しかも佐倉杏子自身を遺して、か。」
嫌な予想が当たってしまったとばかりにさやかは舌打ちのような悪態を吐く。
「元々、家族間の関係がうまく行っていない家庭だったのか?」
「それはわからないけど…………昔のあの子からはそんな家庭環境にあるとは、見えなかったわ。でも、私の元から去る時、彼女は言っていたわ。」
『全部自分の魔法が引き起こしたことだ』って
「………………自分の魔法、か。」
「あの子の魔法は主だったものは幻惑魔法で自分の分身を生み出してひたすら戦局をかき乱す撹乱戦法だったわ。」
「それが今は、槍一本で敵を徹底的に潰す殲滅戦法か。魔力のような反応が見られなかったのは、彼女がそれを唾棄するものとしているから、使わなかったのか。」
「大方、そうでしょうね。それでも、容赦がなくなったあの子は強かった。私じゃ、あの子を引き止めることは出来なかった。」
「貴方が後れを取らされるほどの実力の持ち主…………そんな奴がなぜ新米の私などにあれほどの怒りに満ち溢れた顔を見せる…………。」
さやかは何気なく空を見上げる。思い馳せるのは先ほどまで死闘を繰り広げた佐倉杏子の姿だ。他人のために力を奮いたいと思う自身に対して、対極のように利己的な言葉を語っていたあの姿。
マミの言葉で彼女が昔からそういう人間ではなかったと聞かされた上に、幻惑、家族、そして無理心中。キーワードは並べられたが、それを組み合わせて確信に至れるほど、さやかは佐倉杏子の人となりを熟知している訳ではない。
むしろ変に推論を浮かべ、それありきで行動することこそが、偏見を持ち余計な歪みを産んでしまうように感じられた。
「………………マミ先輩。今日のところはもう帰ろう。翌日、ほむらに聞いてみるのも手の一つだ。」
「…………そうね。同じ時間を繰り返している彼女なら、もしかしたら詳細を知っているかもしれないわね。ところで肝心の暁美さんは?」
「彼女ならワルプルギスの夜とやらのために腕のある魔法少女をスカウトしに行くと言っていた。場所はーーーーーーーーーーーーーーーー」
風見野。そう言おうとしたところでさやかはあることに気づいた。ほむらが向かったのは風見野市だ。そして佐倉杏子が拠点としているのも風見野市。さらにはさやかが一体どんな人物だと尋ねた時、ほむらはなんと返した?
『彼女は、現実的な魔法少女ね。』
ここでほむらが言った『現実的』とは?おそらく魔法少女の力を手にしていても変に舞い上がったりせずに、冷静な判断を下し、
『この際だから言っておくけどさ!!使い魔なんて言うのは本当は戦うに値しねぇんだよ!!無駄以外の何物でもねぇ!!』
「美樹さん!!!!」
「な、なんだ…………!?」
「なんだ、じゃないわよ!!突然顔を青くしたと思ったら…………!!」
どうやら考え事に更け込みすぎてマミが自身の体を揺らしていることに気づかなかったようだ。
「ワルプルギスの夜ってどういうことなの!?」
さやかが口にしたワルプルギスの夜についてマミはものすごい剣幕で問い詰めてくるが、今のさやかにはそんなことより重大で、それでいて思い詰めなければならないことがあった。さやかはマミに目線を合わせると、無表情でありながら顔色が真っ青という奇妙な顔つきでこう答える。
「……………私は、非常に不味いタイミングで彼女と険悪な関係を持ってしまったかもしれない。」
マミの詰問にさやかは答えるわけでもなく、淡々と、そして細々とした口調で言葉をこぼした。
求めていた答えとはまるで関係がなさそうな言葉が返ってきたことにマミは怪訝な表情を禁じ得ない。
そしてそのタイミングでーーーーーーーーーーーーーーーー
「……………こんなところにいたのね。それにしても、こんな陰気な路地裏でイチャつくなんて、何様のつもり?」
噂をすれば影、とはまさにこのことか。
先ほどまでさやかとマミ以外、誰もいなかった路地裏に唐突にほむらの姿が現れる。現れ方にして、時間停止を使っていたのは明白だろう。
「……………貴方、その大剣、何?それにこの薄い緑色と水色の光は?」
かなり急いできたのか、わずかに上気した息をしながらさやかにそう尋ねる。その質問にさやかはどう答えたら良いのか最適解を導き出すことができずにしどろもどろな様子を見せる。
「まさかとは思うけどーーーーーーーーーーーーーーーー」
「赤い槍を持った魔法少女と戦った。なんてことはないでしょうね?」
ほむらの質問は要約すると佐倉杏子と戦ったか否か、だ。
その細められた目線から放たれる眼光に思わずさやかは強張った表情を見せながらたまらず視線を横に逸らした。しかし、これでは答えを言っているのと同義だ。
「………………すまない。」
元はといえば、彼女の忠告をちゃんと聞かなかった自身が悪い。そう結論付けたさやかは謝罪の言葉を一つだけ述べた。その瞬間、路地裏に沈黙が走った。ほむらの目線から顔を背けてしまったさやかはいつのまにか自分から離れたマミの姿が写っている代わりに彼女の表情を窺えない。しかし、空気が冷えた上に張り詰めているように感じられている時点で、かなりご立腹なのは察せた。
ただ一秒でも早く、この空間から抜け出したいのが正直なところだった。だが、その一秒がとんでもなく長く感じられた。
「ーーーーーーーーーーーーーーーーハァ、やっぱりこうなるのね。」
ほむらの口から出たのは呆れの入り混じったため息だった。確実に余計なことをして怒られると思っていたさやかは思わず目線をほむらに向ける。
「……………何も言わないのか?佐倉杏子と戦ってしまったことを。」
「…………そう。巴マミから聞いたのね。でも勘違いしないで。あくまで貴方と佐倉杏子が衝突するのは前例がないわけじゃなかったから。その大剣のことや、この漂っている光の粒みたいのに関しては説明を要求するわ。」
「……………わかった。だがーーーーーーーーーーーーーーーー」
「ええ、今日はもう遅いわ。それに免じて明日にしてあげる。」
「すまない。これに関しては私にもよくわかっていないのが正直なところだ。」
さやかが支えにしている大剣を指差しながら言った言葉にほむらは怪訝な表情を見せる。
「自分の力なのに、よくわからないの?」
「あまりおおっぴらに言えることではないが、その通りだ。」
気まずい表情をしながらそう弁護を立てるさやかにほむらは眉を潜めるが、程なくしてその眉間に寄ったシワが消え失せる。
「わかったわ。イレギュラーの塊みたいなこの時間軸の貴方のことね。時間がいるでしょうから明日の放課後、また一緒に下校しなさい。」
「すまない、恩に着る。」
「ねぇ、暁美さん。それ、私も加わってもいいかしら?少し聞きたいことがあるのだけど………。」
時間を作ってくれるほむらに感謝を述べるさやかを尻目にマミがほむらに自身もその説明会に混ざってもいいかと確認する。
「…………別に構わないわ。それで、その内容は?」
「ワルプルギスの夜に関して、よ。あの子をスカウトしようとしたのも、そのためなんでしょ?」
「………………貴方なら話をわかってくれると思って後回しにしていたけど、それを話すのもいい機会ね。わかったわ。」
こうして翌日にさやかの不可思議な力と、ワルプルギスの夜に関しての話し合いの場が設けられることが確定した。
今回の戦闘ではGNバスターソードⅡしか、しかもごく一部の機能しか使えなかった…………。
次話からはもっと機能をふんだんに使えるようにしなきゃ…………早く前格特格派生ぶち込むんだよ!!