ほむら「美樹さやーー「私がガンダムだ」はぁ?」   作:わんたんめん

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……………………なんかみんなが公式変態さんのことについて言及するからつい筆が乗っちゃったじゃないか。


第26話 ハムはスケート靴を履き、さやかはガンダムになる

雲一つない青く澄み切った空。太陽が見当たらないにもかかわらず明るさを感じさせるこの空間にさやかは思わずある種の清涼感を感じとる。そしてその青い空を彩るが如く、無数もの紐が空を横切り、はためく小さな布きれはさながらお祭りのような気分に誘われる。

 

「……………景色は悪くない。」

「美樹さん?お願いだから気を引き締めてちょうだい。ここはもうふざけていられる場ではないのよ?」

「風景なんか楽しんでいる暇があるのだったら、さっさと目の前のアレを倒してきなさい。」

「が、頑張ってさやかちゃん!!」

 

周りにいたマミ達にそう言われてしまい、さやかは視界に収めながらもまるで見ていないと言わんばかりに認知していなかった存在に自身の焦点を当てた。

青い空とは対照的な黒いセーラー服を身に纏った人の形をした存在。一見するとただの女子学生だが、首から上がまるで虚空のようになく、本来であればスカートから覗かせている足も、どういうわけか代わりに腕がのぞかせていた。さらには両腕も左右合わせて四本もあるおぞましさ。

何よりその体躯も常人の十倍近くの巨体を誇っていた。

 

ここまでくればお分かりだろうが、今現在、さやか達がいるのは魔女の結界、その最深部である魔女の根城である。

 

「……………ほむら。まどかをここにいさせて大丈夫なのか?何より彼女の身の安全を重んじるお前が連れてくるとは思わなかったのだが。」

「彼女にまどかを連れ回すのはやめてほしいと言ったことはあるけど、それはあくまで私の目の届かないところで、まどかを危険な目に遭わせたくなかったからよ。」

「そこは安心してもらって構わないわ。私、結界魔法にもそれなりの自信があるもの。」

 

マミがそういうと胸元から取り出したリボンをたなびかせるといつぞやかにさやかとまどかを囲ったようにまどかの周囲を橙色に発光するリボンの結界が取り囲む。

 

「基本、私と彼女も貴方を援護するつもりではいるわ。できる限り不干渉を貫くつもりだけど。もっともベテランの佐倉杏子の攻撃を防戦一方だったとはいえ凌ぎ切った貴方ならあまりいらないと思うのだけど。」

「…………高く買われたものだ。」

 

ほむらの言葉にさやかは肩を竦めながら前へと進み出る。

 

「まずは、この銃装備から使うか。」

 

表情を引き締めたさやかは右肩の三角コーンのような形状をしたユニットに懸架されてある銃を右手と前腕部で固定するように構える。そのまま息を潜め、標準をフヨフヨと滞空している魔女に狙いを定める。

 

「………………狙い撃つッ!!」

 

決まり文句のような言葉と共に、銃のトリガーを引くとその長い銃身の先にある銃口からピンク色のビームが迸る。その閃光は銃口から途切れることなく魔女へと一直線に向かっていくと、スカートから飛び出ている腕の一本が切断され、眼下に広がる底の見えない青い澄んだ空へ消えていった。

 

「ビーム…………なのか?」

「そのようね。ほら、魔女が気づいたわよ。」

 

ビームというSFチックな代物に思わず驚愕といった表情を見せるさやかにほむらは急かすように声をかける。

さやかが魔女に目線を戻すと、攻撃されたことに怒っているのか身を悶えさせるような様子を見せていた。

その様子を見たさやかは瞬時に銃を右肩に戻し、腰に吊り下げられてあったそれぞれ刀身の長さが違う剣、長い方を右手に、短い方を左手に持った。

 

「接近して、私が牽制をする。」

「ええ、くれぐれも足場には気をつけるようにね。」

「善処はする!!」

 

さやかはそう意気込みながら、細い紐の上を足場にしながら魔女に向かって駆け出した。狙うは本丸である魔女本体。だが、魔女本体も接近するさやかを近づけさせまいとして動き出す。

魔女が着込んでいるスカートがモゾモゾと蠢き出すと、内側から吐き出すようにさやかに向けてナニカが射出される。

射出された物体はなかなかのスピードが出ていたが、さやかはしっかりとソレの外観を認識することができた。魔女本体を下半身だけ切り取り、それをそのままダウンスケールさせたような下半身だけの、使い魔だったのだ。

その使い魔の足にはスケート靴が付けられており、光を反射し、まともに直撃を受けたらただでは済まないと暗示するように足底のブレードを輝かせていた。

 

「ッ……………!!!」

 

その飛んでくる使い魔をさやかは長剣を持った右手を袈裟斬りの軌道で振った。振るわれたさやかの剣は使い魔がつけていたスケート靴のブレードより強度、切れ味がともに上回っていたのか、ブレードごと使い魔を両断した。

 

しかし射出された使い魔は一体にあらず、次々から次へと魔女の本体から無数に射出される。

 

「ぶ…………物量が………押し切られるッ!?」

 

飛んでくる使い魔を両手の剣で斬り伏せるさやかだったが、しだいに捌き切れなくなり、反射的に足場にしている紐を思い切り弾ませ、別の紐へと跳躍をし、仕切り直す。

 

しかし、その跳躍した先の紐でも、使い魔がその上をスケート靴で滑りながらさやかへと迫りくる。

 

>カンニンブクロノオガキレタ‼︎

>ハジメマシテダナ、マホウショウジョ‼︎

>イマノワタシハアシュラスラリョウガスルソンザイダ‼︎

>ソノタオヤカサ、マサシクプリマドンナ‼︎エスコートサセテモラオウ‼︎

 

「私に…………触れるなッ!!」

 

迫りくる使い魔にさやかは嫌悪感を示すように剣を振り下ろした。

彼女が珍しく嫌悪感を示したのも、迫りくる使い魔がいつもとは違って気持ち悪かったからだ。

 

 

「ねぇ、ほむらちゃん。さやかちゃん、大丈夫だよね…………?」

「今のところ、と言ったところね。もっとも彼女の身に危険が迫っても手助けはするつもりでいるから、安心して。」

 

マミが展開した結界の中で魔女に向かって突貫していくさやかを心配そうな目線を向けるまどか。そのまどかにほむらはさやかを助けるつもりではあることを示すように左腕の円盤形の盾を構える。

 

「ところで、貴方は何をやっているの?そんな訝し気な顔で顎に手を乗せる様子を見せて。」

 

一転してほむらは隣に立っていたマミに声をかけた。その時のマミの様子は呆けたものだったが、ほむらに声をかけられる直前には疑問気に首を傾げながら顎を手に当て、いかにも何か考えていたという素振りを見せていた。

 

「あら…………顔に出てた?」

「そうね。見え見えだったわ。」

 

ほむらの指摘にマミは少し恥ずかしかったのか、顔を背けるもすぐさまほむらに向き直った。

 

「美樹さん、自分の力に関して全く見当がつかないって言っていたから、彼女の戦いぶりを見て、何か助言ができることとかないか探していたのだけど……………」

 

そこまで言ったところでマミは先ほどと同じような疑問気な表情を見せながら目線だけをさやかに向ける。

 

「…………あの子の足にも剣が付けられているでしょう?」

 

マミはさやかの膝付近に付けられている刃の幅が広い武装について言及する。

 

「ダガー状の?」

「あれはカタールって言うのよ。ジャマダハル、なんていう別称もあるけど、それは置いておいて、あの子の持っている武装、ほとんどが手持ちで使用する武器なのよね。それを足につけるって…………何か意味があるのかしら?」

「……………蹴ると同時にあのカタールを突き刺す、なんていうのも考えられるわ。」

「そうね。そういう使い方も想定できるけど、やっぱり目を引くのはあの左肩の大剣ね。」

 

マミがさやかの左肩に背負っている大剣に目を向けているのを見て、ほむらの目線も自然とその大剣に向けられる。

 

「美樹さんの身の丈ほどもある巨大な剣。今は足場が紐だから特に問題なく動けているようだけど………仮にこれが普通の地面だったら、確実に剣先が擦ったりして、動きが阻害されることがあるでしょうね。」

「言われてみれば…………重そうだよね、さやかちゃんが持ってる武器って…………。」

 

紐の上を疾走しながら魔女に向かっているさやかだが、マミの言う通り、左肩に装着されている大剣はその状態でもさやかの身の丈近くに達しており、何かの拍子で先端が紐に触れ、切れてしまってもおかしくはない。細い紐の上に立っている時点でそのように危なっかしいと感じてしまうのだから、普通の地面が存在する空間では大剣が干渉して満足に動けない時もあるだろう。

 

「……………あのね、こればっかりは私の推論なんだけど。もしかしたら、美樹さんって空を自在に飛べるんじゃないかって思ってるんだけど………。」

「そ、空を、ですか?」

 

マミの言葉にまどかは驚いたようにさやかを見つめる。反面ほむらは有り得ないものを見るかのような目でさやかを見つめていた。

 

「あの薄い緑色と水色の光にそんな効果でもあるって言いたいの?」

「そうだったら………いいかなぁって…………ほら、魔法って言ったら、やっぱり誰しも一回は考えない?ほうきとかに跨って、空を自由自在に飛び回るとか?鹿目さんもそう思わない?」

 

ほむらにいたいものを見るかのような目線を向けられたマミはしどろもどろになりながらも同意を求めるかのような口調でまどかの方に目線を逸らした。

 

「ウェッ!?わ、私は…………空を飛べるって言うのは、たしかに夢があるかなぁ………鳥みたいに空を飛べるってやっぱり気持ちが良さそうですし………。」

「…………空を自由自在に飛ぶ、ね。」

 

まどかの微妙な表情からの言葉にほむらは呆れた様子を見せながらも今なお前進を続けるさやかに目線を戻す。

 

(空を飛ぶ……………ある意味魔法少女の本懐ね。)

 

そうは思いながら現実的な思考がそれはないと可能性を断ち切ろうとする。

だが、もし、本当にあのさやかが産み出す緑色と水色の光にそんな力があったとすればーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

「クッ、やはり捌き切るには…………!!」

 

使い魔を両手に握った2振りの剣だが、人の身に限界があるように捌き切れる量にも限度が生じる。使い魔を絶え間なく射出し続ける魔女にさやかは思わず悪態をつかざるを得ない。

 

(せめて、右肩のこの武装より使い回しのいい遠距離武装が有れば………!!)

 

歯噛みするような表情を見せながら、右肩の銃を見つめる。威力、射程ともに申し分はない武装だが、なにぶん放出されたビームが途切れるまで数秒かかる。

使い魔が絶え間なく飛んでくるこの状況では、その数秒は命運を分ける、かなり致命的な隙になってしまう。

着々とすすめているだけマシだが、それでも不安と焦りが徐々にさやかの心中を染め上げていく。

 

そんな時だった。さやかの不安と焦りに応えるが如く、手にしていた2振りの剣に変化が起こる。

 

右手の長剣は刀身が半回転し、新たに飛び出たグリップ部分から剣から片手持ちの銃に変形したのを想起させ、左手に持った短剣は先端部分が分離し、その分離した箇所からワイヤーを覗かせる。

 

「これは…………!!!」

 

両手の剣が突然変形したことに驚きを隠せないさやかだったが、すぐさま思考を切り替えると新たに飛び出たグリップに持ち替え、飛んでくる使い魔に向け、トリガーを引いた。

 

「貫くッ!!」

 

瞬間、変形させた銃から縦に大きく広がった三日月状のビームが発射され、飛んでくる使い魔を殲滅する。続け様にさやかは足元の紐を踏み込むと、反動を利用して真上へ大きく飛び上がる。

飛び上がった勢いそのままに、さやかは剣先が刀身から外れた短剣を横薙ぎに振るとワイヤーが伸び、剣先が別の紐に巻き付いた。

 

「ターザンの真似事とまでは言わないが……………!!」

 

うまく引っ掛かったことを確認するより早くさやかはターザンのように移動し、また同じ紐に着地する。立ち上がりながらワイヤーの伸びた短剣を振り抜き、元の長さに戻したさやかは再び魔女へと接近を始める。

 

(接近して、一気に叩く!!)

 

スピードをどんどんあげて魔女に接近するさやか。魔女も接近させまいとして、さらに使い魔を射出する。

しかし、さやかも取り回しのいい射撃武装に変わった右手の長剣でそれらを一気になぎ払う。

 

「この距離なら…………!!」

 

視界に映る魔女が見上げるほどまでの近さまでなると、さやかは2振りの剣を腰に戻し、大剣を取り出す。

 

「上昇する!!」

 

紐を力強く踏みつけることで大きく跳躍し、魔女が使い魔を射出する射角から大きく逃れ、魔女の真上を取った。

魔女を見据える高度まで飛び上がったさやかは手にした大剣を上段に構え、大きく振り上げる。

 

「一刀両断ッ!!」

 

その掛け声と共に振り上げた大剣を振り下ろしながら真下へ降下する。高度から振り下ろした大剣が位置エネルギーの力も加わり、避けることができなかった魔女を大きく弾き飛ばし、その巨体に上から下に伸びる斬撃の切り傷を残す。

しかし、魔女の巨体さ故にさやかの身の丈ほどの大剣すら、致命傷にはならなかったようだ。

その証拠に、魔女は声にならないような声を轟かせながらも再びさやかに向けて使い魔を射出する。

さらには使い魔の他に、学校に置かれている机や椅子も混じって射出されるようになっていた。

 

「机に椅子…………!!」

 

使い魔より質量の高い攻撃にさやかは険しい表情を見せながらも大剣から長剣に持ち替え、同じように三日月状のビームを発射し、障害物を消し飛ばしながら接近を始める。

だが、魔女は今度は上半身の四本の腕を伸ばし、手のひらをさやかに向けると、そこから紐のような糸を射出する。

 

「何ッ………!?」

 

突然の魔女自身からの攻撃に思わず反射的にその場の紐から飛び退き、空中に身を投げ出してしまう。

 

(しまっーー他の紐に移動をーーーーーー)

 

周囲を見渡しても、運悪く手近な距離に別の紐はなく、短剣のワイヤーを伸ばしても物理的に距離がありすぎる。

何か手はないかと逡巡している間にもさやかの体は徐々に重力に従って落下を始める。

 

その姿を見たまどかが息を呑み、マミがリボンを取り出し、ほむらが左腕の円盤に手をかける。誰もがさやかの救出に動こうとしたときーーーーーーさやかの視界に緑色のヒカリが映る。

 

『ガンダムーーーーーー』

(ーーーーーーえ?)

 

突然脳内に響く声。思わず素っ頓狂な声を上げる。

 

『お前が手にした力はガンダムだ。』

(ガン………………ダム…………?)

 

まるで聞き覚えのない単語にさやかの脳内は困惑の一途を辿る。しかし、頭に響く声はどこか優しさを感じる口調でさやかに語りかける。

 

『戦争を………争いを止めるための力、それがガンダムだ。お前は…………ガンダムになったんだ。』

 

『ダブルオーならば、この状況から脱することが可能だ。GN粒子を産み出すGNドライヴがお前を空へと飛び立たせることができる。』

 

『すまない。今の俺にできるのはこれが精一杯だ。傍観者の立場でしかいられない。だが、イノベイターへと変革を始めているお前なら、使いこなせるはずだ。未来を、その手で切り開け。』

 

それだけ言うと頭の中に響いていた声は鳴りを潜めた。まるで意味がわからない会話にさやかは困惑の表情を禁じ得ない。

 

(な、なんなんだ、今の…………!!戦争!?争いを止める力ッ!?イノベイター!?話が突拍子すぎて何もわからなかった!!それでもーーーーーー)

 

それでも、さやかにはわかることがあった。自身が纏っているものが『ガンダム』であり、その力で空へと飛翔することが出来ること。

 

(それがわかれば今は十分だ!!あの男の言葉の意味はまた後で考えればいい!!もし、あの男の言葉が全て真実であるのならばーーーー)

 

 

「私に力を貸せーーーーーー」

 

 

 

ガンダム!!!

 




次回、本格的空中戦(土下座)_○/|_ ゴメンナサイ

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